タイガーズ・ワイフ (新潮クレスト・ブックス)

  • 新潮社 (2012年8月24日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (384ページ) / ISBN・EAN: 9784105900960

感想・レビュー・書評

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  • バルカン半島に根を持つ、深い森のような物語

    紛争が繰り返される南東欧の地。
    子どもたちに予防接種を受けさせるため、僻地へと向かう若き女医のもとに、祖父が死んだと知らせが入る。
    女医である孫以外には自らの死病を隠したまま、辺境の小さな町で祖父は人生を終えたという。なぜ、何のために祖父はそこへ向かったのか。
    祖父の死の謎を探る彼女は、祖父がかつて話してくれた「不死身の男」の話と「トラの嫁」の話を手掛かりに、祖父の人生の「物語」の中へ分け入っていく。

    冒頭は、祖父と孫娘の話として始まる。孫娘が子どもの頃、動物園でトラを眺めるのが2人の習慣だった。祖父はいつもコートのポケットに『ジャングル・ブック』を忍ばせていた。祖父にとって、トラは特別な存在だった。かつていた、「もう少しでトラになるところだった」ろうあの少女「トラの嫁」もまた。

    冒頭の印象を裏切り、この物語は祖父と孫娘だけの物語には留まらない。
    まるで、迷宮の中をあちらこちらの部屋の扉を開けていくように、めまぐるしく視点が移り変わり、祖父や「トラの嫁」を取り巻く人々が背負う人生やその内面も描き出していく。

    祖父が幼少時を過ごした僻村には数多くの「迷信」が根付いていた。
    合理的であるということと、世界をすべて自分の枠組で理解できると過信することとは違うのだ、と思う。
    未知なるものへの畏れは「迷信」を呼ぶ。「迷信」は「伝説」を形作り、「伝説」は「物語」を産む。
    物語とともに生きていく人々。その生き様は、何と豊かであることか。

    全編に紛争の影は漂っているが、しかし、この物語は紛争に囚われてはいない。それとは逆に、紛争をも取り込み、呑み込んでしまうような物語だ。

    ちりばめられる東欧の風物が印象的だ。
    カトリックの祭である公現祭。
    蒸留酒であるラキヤ。
    「不死身の男」と祖父が楽しむ晩餐のデザート、トゥルンバやバクラヴァ、トゥファヒヤ、カダイフ。

    美しく、しみじみと哀しい。
    誰しも、自分の胸にしまっておくべき物語を持っているのだ。


    *トラの逃避行の描写がすばらしくて涙した。

    *戦火のストレスで自傷したり、仔を傷つけたりしてしまう動物たちが出てくるのだが、これは実話かな。なかなか想像で思いつくことではないと思う。痛ましいことだ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「バルカン半島に根を持つ、深い森のような物語」
      土着と言って良いのかどうか判りませんが、嗅いだコトない匂い、聞き覚えの無いリズムやメロディ、...
      「バルカン半島に根を持つ、深い森のような物語」
      土着と言って良いのかどうか判りませんが、嗅いだコトない匂い、聞き覚えの無いリズムやメロディ、ひょっとすれば光の波長すら違うのかも知れません。そう言った新しい刺激が見知らぬ土地の話を読む楽しみだと思っている。
      人間については、基本何所に居ようと人間だとは思うけど、、、
      積読になってる一冊。3連休中に読めるかな?
      2013/01/11
    • ぽんきちさん
      nyancomaruさん

      この物語の森に惹かれ、キプリングの『ジャングルブック』も読んでみました。
      物語の力を感じさせてくれる、非常に魅力...
      nyancomaruさん

      この物語の森に惹かれ、キプリングの『ジャングルブック』も読んでみました。
      物語の力を感じさせてくれる、非常に魅力のある作品だと思います。

      この森に入られることがありましたら、どうぞよい旅を(^^)。
      2013/01/11
  • 丁寧に描かれたマジックリアリズムな雰囲気の過去のストーリーは、
    アメリカで暮らす著者の生まれた土地への強い欣慕を示しているのだろうな。
    デビュー作にしてこのクオリティー、素晴らしすぎます。
    2011 年 オレンジ賞受賞作品。

  • 医師であった祖父は、石のようなはげ頭をしていて、胸ポケットにはつねに『ジャングル・ブック』を持ち歩き、動物園にトラを見に行くのを習慣にしていた。その祖父の生涯を織りなす、豊潤な物語の連なりから成る小説である。
     一人の男、一丁の銃、一匹のトラの背後には、さらにそれぞれの物語があって、戦争と死の濃い影に縁どられながら、互いの物語や現実と共鳴しあって、幻想的で豊かな世界をつくりだしている。旅先で、なんてことのないように見える小さな通りを歩きはじめると、その両側に奥へ奥へと心を誘う魅惑的な小路がいくつものびているのを発見することがある、そんな感覚を思い出す。
     いくつもの忘れがたく魅惑的なシーンがある。祖父が初めて語り手の孫娘ナタリアに「不死身の男」の話をしてくれる夜。起きている者はほかに誰もいない暗い街、「長い刃のようなすべすべの線路が輝いている」通りの向こうにうかびあがる、ゆっくりと動くゾウの影。そこで祖父は、誰にも話さずに胸にしまっておくべき物語があることを教えてくれたのだ。
     トラの嫁になった少女、死神を伯父にもつ不死身の男。彼らはおとぎ話の登場人物のようでいながら、戦争と死の匂う現実の中に立ち現われてくる。包囲され、明日には殺戮の現場となる美しいサロボルの街、ほかには誰もいない暗いホテルのレストランのテラス席で砲撃の音を聞きながら、誇り高き給仕が出すこの街最後の食事を、不死身の男ガヴラン・ガイレとともにする場面。それはあまりに美しく非現実的だが、実際に戦争では、あまりにも非現実的なことが現実になったのだった。
    祖父の幼い頃から絶えなかった戦火は、孫のナタリアの人生にも影を落とし続けているが、祖父が胸にしまってきた物語もまた、引き継がれていくのだ。親しみ深い死者たちの声とともに。何度もくりかえし味わいたい、胸しめつけられるほどに魅惑的で豊かな物語。

  • 旧ユーゴ等のバルカン地域の作家って、ストレートには表現出来ないのでしょうね。

    尾崎さんのレビューで気になっていた一冊
    http://booklog.jp/users/ozakio/archives/1/0753827409

    Welcome
    http://www.teaobreht.com/home.html

    新潮社のPR
    「「不死身の男」と「トラの嫁」。二つの謎めいた物語が、祖父の人生を浮き彫りにする。
    自分は死なないと嘯き、賭けを挑む男。爆撃された動物園から逃げ出したトラと心を通わせた少女。紛争地帯で奮闘する若き女医は、二つの物語から亡き祖父の人生を辿っていく。戦争に打ちひしがれた人々の思いを綴る確かな筆致と、鮮やかな幻想性。弱冠25歳でオレンジ賞を受賞したセルビア系作家による、驚異のデビュー長篇。」

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「タイガーズ・ワイフ」書評 勇猛な想像力で普遍性もつ異郷|好書好日
      https://book.asahi.com/article/11639...
      「タイガーズ・ワイフ」書評 勇猛な想像力で普遍性もつ異郷|好書好日
      https://book.asahi.com/article/11639464

      そろそろ次の翻訳が、、、
      2022/03/02
  • 読んでいて心地よい物語だった。
    ただ原典なのか翻訳なのか、どこかひっかかる感じがして読み進めにくく時間がかかってしまった。
    もっと入り込める気がするのに、となんだかモヤモヤした。

  • んー。なんだろねー。一応女性が主人公という設定。祖父が亡くなった。とても仲が良く、同じ仕事につき(医療関係)、爺ちゃん子でもあり、お互いに理解しあっていた。本人の話もあるが、ほとんどが爺の生きてきた時の話の語りで、んー。正直おもんない。世界観はしっかりしている。ベオグラード生まれで10代からアメリカに住んでて執筆も英語のようだが、多分この人はこの一冊でおしまいな気がする。溜まりに溜まった物を吐き出して、それが結構、テイストとしては珍しい感じになったけども、文章を書いて発表するには、とても難しい物がある。

  • 本屋大賞(翻訳小説部門)2013年1位。どういったジャンルなのか良くわからないが少しファンタジーっぽい亡くなった祖父の秘密をたどるお話。現代と祖父が若かったとき、少年の頃の話がいったり来たりする。場面が切り替わるたびにその場面の風景描写や状況の描写がはいるのだけど、これがやたら長いんだけど、自分にはほぼ理解できなくて読み進めるのが苦痛だった。この物語の舞台に関する予備知識がないのでほんときつい。通勤してるときだと必ず電車乗ってるときは本を読む時間を作るのだけど、在宅勤務のときは面白い本だと手に取る回数は増えるけど、面白くないと全く手に取らなくなってしまい、こりゃ次の本に行けなくてやばいと感じて最後は無理やり読み終わった。ほとんど頭に入ってきませんでした。結局何が言いたかったんでしょうか。

  • 文学

  • 不死身の男の話とトラの嫁の話が織りなす、祖父の人生。
    際物かと疑いながら手に取ったこの作品は、まぎれもなく素晴らしい小説だった。

    主人公ナタリアは医師。
    物資が窮乏する中、隣の国の子どもたちにワクチンを接種するというボランティア活動を行っているときに、祖父の死を知らされる。
    隣の国と言っても、内戦で国境線はしょっちゅう変更されるが、もともとは同じひとつの国なのである。

    不死身の男というは、だから逆説的に死を意味することになる。
    ではトラの嫁というのは何か。

    同じ国だったのに、人種や宗教や生活レベルの違いでどんどん分裂していった祖国の中で、排他的に暮らす田舎の人々。
    聾唖でイスラム教徒でよその町から嫁に来た少女は、その村では徹底的に異分子だった。
    彼女が夫から相当ひどい暴力を受けていることを村の人たちは見て見ぬふりをし続けた。
    だって自分達とは関係ないのだから。
    ただ、少年だった主人公の祖父だけが、彼女の食事や生活の手助けをするのみだった。

    町にトラが現れた時、村の人々は誰かが助けに来てくれることを待ちながら、じっと息を殺して待っていた。
    そして、夫をトラに殺されても変わらぬ生活を続け、なおかつ妊娠が明らかになったその少女を『トラの嫁』と読んで、忌み嫌っていた。
    少女とトラの関係を理解していたのは、ただ、主人公の祖父だけだった。

    保守的で排他的な村の中の異物。
    わかりあおうとする努力もない、「違うもの」は見えないところに排除して、なかったことにすれば安心する心理。
    「トラの嫁」の話はそういうことかと思って読んでいたが、問題はそれだけではなかった。

    “でも、村人たちは不安な悲しみを彼女に押しつけて、何が起きようとしているのか見なくても済むようにしてしまった。”

    無視はしたかもしれない。
    しかし彼女に対する攻撃は、不安の裏返しでもあったのだ。
    なぜならば、戦争がすぐそばまで来ていることを、大人はみんな気づいていたからだ。
    だからその不安の根源を彼女の存在に押しつけることで、戦争について考えずにすませていたのだ。

    “停戦がもたらしたのは平時という幻想であって、平和ではなかったことは明らかだった”

    だからこそ死が身近であり、医者である主人公と祖父の存在が浮かび上がってくる。

    “大人は恐怖の中で死ぬ。彼らは必要なものはすべて医者から奪っていくし、医者としての務めはそれを与え、彼らを慰め、手を握ってやることだ。だが、子どもたちは生きているときと同じように死んでいくー希望を持ったまま死ぬんだ。何が起こっているのか知らないから、子どもたちは何も期待しないし、手を握ってほしいとも言わない。だが、今度は医者のほうが、子どもたちに手を握っていてほしいと思うようになってしまう。子ども相手だと、独りぼっちになるんだ。”

    祖父は生涯家族を愛し、そして決して勝つことのできない死との戦いを、最後は納得して受け入れることができたのだろうことが、謎と思えた祖父の行動から見えてくる。

    “結局大事なのは、土に還るときに寂しく思ってくれる人がいることだ”

    想像だけでは思い至れないことがたくさんある。
    次々と視点が移り変わり、中欧に根付く文化や風習と、「不死身の男」と「トラの嫁」。
    マジックリアリズムの手法で書かれた文章は、理解するのに時間がかかり、噛み砕くように文章を読んだ。

    “恐怖と苦痛は直接的なものなのよ、と母はいつも言う。恐怖と苦痛が消えると、わたしたちの手元に残るのは概念であって、本当の記憶じゃないのよ、と。そうでなかったら、どうして二人目の子どもを産もうという人がいるの?”

    似たようなことを、母に言われたことを思い出す。

  • “虎の嫁”と“不死身の男”。
    祖父が孫に語った不思議な不思議な物語は、戦火を経た今も孫のなかに息づくいている。

    でもちょっと肩透かしを食らった感じも。

  • 感想を書くのを忘れているうちに本屋大賞翻訳小説部門で1位になった!おめでとう!
    複数の物語が並行して語られ、次第にパズルのピースのようにはまっていくカタルシス。語り口のうまさも光る。虎の嫁と呼ばれた聾唖のムスリムの少女、不死身の男と祖父との邂逅、幻想的な物語と、戦火のバルカン半島を思わせるシビアな現実が重なる。虎の柔らかい足が、爆撃による瓦礫を踏む違和感、祖父と孫娘が夜中の無人の街路で象が歩くのを見る場面での静寂など、場面の空気が伝わってくるようだった。
    ここまでの優れた小説の著者が驚くほど若く(ついでに美人!)、翻訳者の藤井さんも若い。彼らがこの先差し出してくれる物語を思うと、楽しくなる。

  • 幻想的な雰囲気の濃い、ファンタジックなお話でした。
    私はその雰囲気の濃さが気に入りました。

    この本が高評価を得ている「歴史と土地を描く」ということに関しては、確かにそうだし、すごかったと思います。
    ひとりひとりの物語が丁寧に書いてあって、ストーリーに奥行きが感じられました。
    しかし・・・私はあまり・・・。
    ひとりひとりの歴史物語が唐突に始まり、ただの説明文のように感じられ、おまけにだらだらと長く、リズムよく読めませんでした。
    退屈しながらその人の歴史を読んで、やっと物語が進んで面白くなってきたぞー!と思ったら、また歴史のコーナーに入って読む速度が下がる・・・ということを繰り返してました。
    物語自体の終わり方もまとまりがなく、物語自体の面白さを十分に活かせているとは思えず。
    読後は、なんのお話だったっけ?ってなるような、そんな本でした。

    幻想的な気分を味わうには秋の夜長のお供にするのがいちばんかと思います。

  • 評判になっていなければ読み終ってないだろう。架空の国が舞台なのだということが、わかったのが、本半ば。それからは、わりとスラスラと。

  • 民話のような幻想的な雰囲気をまとった小説。
    3つの時代を相互に描いている。

  • テアオブレヒト「タイガーズワイフ」読んだ。すばらしい http://www.shinchosha.co.jp/book/590096/ 土地(セルビア)やエピソードは特異だけれどテーマが普遍なので読んでいて本当につらい。同じ固有名詞がなければ短編集としても読めるほど各章が独立完結している。(つづく


    戦争に生活を破壊され続ける市井の人々と当然何も理解しないまま犠牲になる動物たち。山火事から家を守るために熱の中で水をかけつづけるシーンが圧巻。その町の最後となる夜に不死身の男と食事を共にする場面が映像的で画が浮かんでしまい胸が苦しくなる。この本を読みながら何度泣いたことか(おわり


    #「タイガーズワイフ」http://www.shinchosha.co.jp/book/590096/ を読み終えたんだけど、まだ何度か読み返したい部分もあるし読むと泣いちゃうし思い出すだけでぐったり疲れるので、読み終わり記録を書くのは少し先にすることにする。今年の一冊決まりかなー。。。

  • 現代の描写にやや入りにくい点があったものの、祖父にまつわる「トラ」の歴史、「不死身の男」の物語の深さや豊かさに気付けば夢中になっていた。不死身の男もトラの嫁も胸が高鳴るほど魅力的。
    トラは物語そのものだったと思う。
    でもそう考えると、ラストは少し悲しい。

  • バルカン半島にある戦争が終わったばかりのとある国で、医者として隣国に向かう女性と、その祖父の話。現代も過去もとにかく骨太。少女は本当に虎の妻だったのか。それは最後まで謎のままで、それがまた想像力をかき立てる。

  • セルビアの厳しい現実を肌で感じてきた著者ならではの幻想的な世界がありました。これがデビュー作とは。

  • 第3回(2013年度)受賞作 海外編 第9位

  • バルカン半島の旧ユーゴスラビア、セルビア共和国を(多分)舞台にした小説です。

    未だ地雷の恐怖もあったり、人々の暮らしにも戦争の傷跡がそこここに見え隠れしています。

    主人公ナタリアは女医。彼女が、旅先で亡くなってしまった大好きな祖父(彼も医者)の思い出を紡ぎだしながら、過去と現在を行き来するファンタジーのような物語です。祖父がかわいい孫娘に語った「不死身の男」と「トラの嫁」の物語を、このバルカンの地が生んだ様々な登場人物の来歴を織り交ぜながら、主人公が回想します。

    シリアスでありながら、幻想的であり、眩惑的でもあり、ユーモアもあり、きめの細かい表現が、しっとりと私の心に沁みこんでいきます。物語は時空を超えて飛び交いますが、最後には静かにその翼を休めるといった感じで終わります。
    悪漢みたいなやつでも、登場人物の一人一人がとてつもなく魅力的に描きこまれています。
    しかし、やはりこの主人公のナタリアとその祖父が一番魅力的です。

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