未成年 (新潮クレスト・ブックス)

制作 : Ian McEwan  村松 潔 
  • 新潮社
3.89
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本棚登録 : 336
レビュー : 37
  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901226

感想・レビュー・書評

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  • 家ですべき仕事がたまりながらも、図書館に返本に行くついでに棚を見たら、出会ってしまい、連れ帰ってしまった。本好きの友人が熱烈なレビューを書いていたし、とある勉強会でも大絶賛する人の声を耳にしていたからである。
    とはいえ、電車の中でさえ仕事の資料を読むべきで、読書する隙間はない…のに、食事をした友人にもまた「面白いよ」と勧められた。これはもう、読むしかない…と読み始めたら…ああ、もう離れられなくなってしまった。
    子どもはないものの、大勢の甥や姪に囲まれ、親族とも密な関係を保っている初老(一歩手前)の夫婦には寂しさというものはあまりなく、よい関係を保っていた、はず、なのに…夫からの爆弾発言で足元が崩れるような思いをしている女性裁判官。
    そこに、宗教的な理由から輸血を拒む少年と両親を相手取り、病院が強制的に輸血を進めようとする案件が持ち込まれる。
    物語の筋はこれ以上は詳しくは書かないが、マキューアン初心者の私は、その心理描写の巧みさに舌を巻き、あっという間にとりこになった。
    この主人公に自己投影するには、私はまだもう少し年齢が足りないのだが、それでも手に取るように共感してしまう。
    仕事にプライドを持ち、仕事を愛し、仕事によってアイデンティティを保つ賢い女性の心の内を覗いてみると、私ともあなたとも変わらない、言葉で説明しきれない不安、不満、焦り、その他のすべてを持ち合わせている。
    特に、熟練のピアノ愛好家でもある彼女の、最後の演奏シーンは圧倒的である。物語の結末については賛否両論出てきそうだが、私は好きだ。

  • CL2016.6.4-2016.6.11

  • 人間が人間を裁くということ。人間の弱さと可能性はあらかじめ定められた宗教や法律を超える時がある。裁く人間と全知の神に翻弄される人間。

  • 今興味のある作家のひとりであるイアン・マキューアン。
    普段だと購入派のわたしは出費を抑えるために文庫を待って購入するのだが、マキューアンの作品の多くが文庫化されていないようで、文庫化された「贖罪」は何故か現在入手が出来ない。そこで今回は奮発して、文庫を待たずに購入してみた。
    すごいわたし。贅沢本読みさん。

    女性裁判官フィオーナは、裁判官として様々な問題に向き合うと共に夫との夫婦関係の問題も抱えている。
    そんなフィオーナの元に、信仰のために輸血拒否をする少年アダムについての審理が持ち込まれる。成年に僅かに月数の足りないアダムは、知的で思慮にも満ちている。この審理のためにアダムと会うことにしたフィオーナは、アダムと話し自分の考えをまとめる。

    この作品に興味を持ったのは、やはり信仰と生死の問題という内容に惹かれてだった。
    わたしはこの少年の信仰である‘ エホバの証人’ について個人的には知識はない。以前別の書籍の感想の際に述べたように、キリスト教とエホバの証人とを混同されたかたに気持ち悪がられて辟易したという程度で、だからといってエホバの証人について知ろうと思ったこともない。
    ただ、信仰とは生きる支えでありより良く生きるための拠り所と考えるわたしにとって、信仰のために命を失っては本末転倒ではないだろうかと思ってしまう。勿論、個人の信仰に他人が軽々に口を出すべきではないので、こういう考えを家族以外に伝えることは基本ないのだが。
    実際に日本でも‘ エホバの証人’ の患者が子供への輸血を拒否するという事件はあったように記憶している。その結果どうなったのかなど記憶にはないのだけれど。
    こういう問題は医療や法曹の世界に関わるひとにとっては、非常に大きな問題となってくるだろう。信仰は個人的な問題であるため、一概にこれが正解と言えるものではないだけに大変難しいことだろう。
    この作品でフィオーナが出した答えは一体どういうものだったのか、興味のあるかたは是非ご自分で読まれるといいと思う。

    本作では他にシャム双生児の結合部離断術に関する問題もフィオーナは扱っている。
    このことも以前、ベトちゃんドクちゃんという腰の部分で結合された少年のどちらかの機能が低下したかで離断するしないという報道があったと記憶している。
    ベトちゃんドクちゃんの映像に衝撃を受けたと共に、ひとりの命のためにひとりの命が失われるということの是非に速やかに答えを出さなくてはならないという難しい決断に自分なりに頭を悩ませ考えたりした。
    この問題も考え方は様々で、元々はひとりとして考えるというものもあるだろうし、心臓など一部臓器は共有しているものの頭部が別れていることからふたりは別の個性を持つひとつの身体という考えもあるだろう。
    わたしとしては、明らかにどちらか一方の機能が低下し、それを補うためにもう一方がより負担をし結果命をも失うというのは余りにも惨いとも思える。だからといって、さっさと離断してしまえと言い切れる程後悔なく自信を持って言えるかというとそうでもなく。
    この問題でもフィオーナの出した答えに興味があるかたはご自分の目で確認をされると良いだろう。

    ひとつだけ言えること、裁判官って大変だ。
    裁判官だってひとりの人間であって、神ではない。法律に基づいて決めるだろうけれど、信仰や命についてこうするべきだなどと言い切れるものではないだろう。
    わたしには務まらない仕事だなと、敬意をこめて思う。

    フィオーナの家庭での私人としての顔と裁判官としての公人の顔、このふたつの側面からフィオーナの心情を描いていく。
    夫との問題だけでなく、裁判で関わったアダムとの問題も抱えて悩み惑うフィオーナ。
    フィオーナがどういった結論を出していたのなら良かったのか。
    いつものように無駄のない美しいマキューアンの文章で、生きるとは何か、信仰とは何か、また、人間の成長や成熟が描かれ最初から最後まで読者ひとりひとりに考えさせる深い一冊。

  • 宗教上の理由から輸血を拒否する少年と、生活上の危機にある女性裁判官。二つの物語が平行して進行してゆく。すっきりした文章で裁判のシーンもわかりやすい。未来を手にしたはずの少年、ラストが胸にしみる。

  • 仕事と家庭での葛藤が人間らしさを感じさせる。ただ、少年が関わるところは興味深く、結末も考えさせるところがあったが、家庭のいざこざは少しどうでもいい感じもした。特に夫関連の話はなくてもいいような気がする。主人公と少年だけでもっと盛り上げて欲しかった。

  • 夫婦げんかに左右された少年の命。

    って書くと身も蓋もないね。

  • 2016 2.16

  • 日本経済新聞社


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    未成年 イアン・マキューアン著 人生の機微映す小説の醍醐味
    2016/1/17付日本経済新聞 朝刊

     人生にとって、フィクションとは何か。イアン・マキューアンという熟練の小説家による『未成年』において、その問いは新しい息吹を与えられた。引き締まった文体による法廷劇と家庭のドラマを通じて、ひとりの女性の心の揺れを取り上げつつも、巧みな比喩や、音楽の描写を織り交ぜて人生の機微を描き出す優雅な筆致は、小説の醍醐味を存分に堪能させてくれる。







     高等法院家事部で勤務する裁判官フィオーナ・メイは、六十歳を前にしたある日、夫から年下の愛人を作りたいと打ち明けられる。夫の性生活を受け入れてともに暮らしていくべきか、彼と別れるべきか。人生の岐路は思いがけなく訪れる。


     物語のもうひとつの中心となるのは、白血病を発症しながらも宗教的な理由から輸血を拒む十七歳の少年という法廷の事案である。一方で、自己決定を行える年齢の十八歳にはわずかに満たず、他方で成熟した知的能力を見せる少年は、成人とみなすべきなのか、そうでないのか。法的にも曖昧な状況の中で、少年の容体は刻一刻と悪化していき、フィオーナはここでも決断を迫られる。


     本作で描かれる裁判官の世界は、法廷とその周囲で完結している。意見の応酬も判決も、法廷の外に持ち出されることはなく、判決文は裁判官仲間での論評の的となる。法曹界とその外には、明確な境界線が引かれている。


     しかし、白血病の少年に関しては、決断を下すためにフィオーナは病院に出向いて少年と面会する。こうして境界線を越えたことで、彼女は自らの裁定が生んだ現実の結果を突きつけられることになる。私生活での選択と、法廷での裁定は、こうして彼女の目の前で交錯する。


     現実はしばしば多様であり、両義的である。そこに、生命の価値や、個人の尊厳といった基準を用い、法廷は裁定を下す。決定という行為は現実に対する介入であり、ときには真実を裏切る。少年をめぐる法廷劇は、法の世界が必然的に含み込むフィクションの要素を明らかにする。


     一方で、小説というフィクションは、何らかの決定を下すことはない。決断を迫られ、苦悩し、そして前進していくひとりの女性に対し、小説は価値判断を下すのではなく、そのドラマを包み込むようにして見つめている。ひとりの人間を裁くのではなく、共感をもって見守るという、物語の持つ強さを、『未成年』という小説は改めて教えてくれる。




    原題=THE CHILDREN ACT


    (村松潔訳、新潮社・1900円)


    ▼著者は48年生まれの英国の作家。著書に『贖罪』(全米批評家協会賞)、『甘美なる作戦』など。11年エルサレム賞。




    《評》同志社大学准教授


    藤井 光


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  • 主人公の女性裁判官。
    もう一度ときめきたいと言い出した老夫とのプライベートな面倒に巻き込まれたタイミングで、エホバの証人信者の輸血ケースで信仰と生命の問題に直面させられる。

    そう、人生に於いて、コトは常に順序良くやって来てくれる訳ではない。だから日々の些事を疎かにする事なく、一つずつとちゃんと向き合って、丁寧に対処しなくちゃいけないんだ。

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