すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

制作 : Anthony Doerr  藤井 光 
  • 新潮社
4.29
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本棚登録 : 731
レビュー : 88
  • Amazon.co.jp ・本 (526ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901295

作品紹介・あらすじ

ラジオから聞こえる懐かしい声が、若いドイツ兵と盲目の少女の心をつなぐ。ピュリツァー賞受賞作。孤児院で幼い日を過ごし、ナチスドイツの技術兵となった少年。パリの博物館に勤める父のもとで育った、目の見えない少女。戦時下のフランス、サン・マロでの、二人の短い邂逅。そして彼らの運命を動かす伝説のダイヤモンド――。時代に翻弄される人々の苦闘を、彼らを包む自然の荘厳さとともに、温かな筆致で繊細に描く感動巨篇。

感想・レビュー・書評

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  • Twitterなどで流れてくる本書の感想に、ときどき「読み終わるのが惜しい」という言葉を見たが、たしかに読み終えるのが惜しい、けれど読み進められずにはいられない本だった。
    「物語の力」という言葉はよく聞くけれど、これこそがその力なのだろう。
     父親や周囲の大人たちに深く愛され、盲目ながら世の中というものを信頼しているフランス人の少女。両親に先立たたれ貧しい孤児院に身を寄せながら、同じく院の先生と妹からの愛をよりどころに、厳しい軍事訓練を耐えて前線に出るドイツの少年。
     彼らにはどうしようもないところで誰かが始めた戦争が、じりじりとそれぞれの生活を侵食していく。
     接点などないはずの二人が、いつどうやって出会うことになるのか、そこまでの道のりを、私たちは時に息をのみ、小さな喜びにほほえみ、そして涙しながら一緒にたどる。
     ページをめくるだけの私の指先にも、盲目のマリー・ロールが感知するにおいを、感触を、空気の動きを察知させるその文章の見事さよ。
     彼女を疎開先で受け入れるマダムが素敵だ。物資の少ない戦時下で手に入るもので美味しい何かをこしらえては、近所の弱った人たちに配り歩く。不安に震えるマリー・ロールの顔を温かな両手ではさみこむ。想像の中で、昔むかし私が下宿していたリスボンの大家さんが彼女の姿に重なる。
     戦場ゆえのつらくむごい場面も容赦ない描写で私たちに見せるし、決して大団円のストーリーでもない。それでも温かなものが胸に深く残るのは、人の善意のうつくしさと尊さをゆるぎなく伝えているからに違いない。

  • 短編小説が積み重なったように綴られる、静かな物語である。
    物語の主な舞台は第二次大戦下のフランスの港町、サン・マロ。
    戦火で壊滅状態になった街にわずかに残った建物の屋根裏で、盲目の少女が息を潜めている。パリから逃れてきた彼女は、今、ひとりぼっちだった。階下に侵入者がやってくる音がする。見つかったら命はない。
    一方、別の建物、<蜂のホテル>の地下室には、生き埋めになった若いドイツ軍兵士がいた。年若いが利発な彼は、機械を扱う能力を買われ、国家政治教育学校から軍に送られていた。孤児としては異例の「出世」だった。爆撃のために仲間と閉じ込められ、出口は見つからない。このまま飢え死にするのを待つしかないのか。
    およそ異なる境遇の2人の間に、無線の音声が行き交う。その発信器は、奇しくも、遥か以前から、少女と兵士をつないでいたものだった。

    物語をつなぐもう1つのものは、「炎の海」と呼ばれるダイヤモンドである。海のように鮮やかな青だが、中心がわずかに赤味を帯び、しずくに炎を宿したように見える。その宝石には不思議な伝説があった。宝石を手にする者は永遠に生きるが、それを持っている限り、持ち主の身近な人々の身には禍が訪れる。博物館に静かに眠る貴石は、戦禍を逃れることが出来るのか。

    少女と兵士の過去・現在と物語は行きつ戻りつし、あるいはパリに、あるいはドイツの炭坑地に、あるいはまたサン・マロにと飛ぶ。ときには彼女の、ときには彼の小さなエピソードは、それ自体が短編小説のようでもあり、詩のようでもある。
    優しい父、生真面目な妹、博物館の職員、孤児院の先生、先の大戦で心を病んだ大叔父、癌に体を蝕まれ宝石を追う将校、レジスタンス活動に身を捧げる市民、鳥を愛する心優しい少年、脂ぎった香料商、ラジオから流れる謎の「先生」の声。
    少女と兵士に関わるさまざまな登場人物が物語を紡いでいく。
    大半が現在形で書かれた物語は、戦争の破壊をさえ静謐に描き、深い郷愁を誘い、悲しみを湛える。

    少女と兵士はサン・マロで出会うことができるのか。

    すべてが過ぎ去り、記憶を持つ者もいずれ消える。
    けれどどこかに、その気配は残る。
    美しい、静かな強い物語である。

  • 見えなくとも私たちが見ようとすれば、光は遍在しているのだ…。

    すべての登場人物に注がれるその光はあまりに優しく、そしてはかなくもろい。が、確かにそこにある。

  • ストーリーとしてはありふれた域を出ていない気がするし、果たして宝石は必要だったのかと思わないでもない。
    ではあるが、科学に深い興味を抱くドイツの孤児の少年ヴェルナーとフランスの盲目の少女マリー=ロールが、戦争の苛酷な潮流に翻弄される境遇を断片を積み重ねるかのような手法で追い、やがてドイツ占領下のフランス、サン・マロの町でのほんの束の間の交感に収斂させる展開には脱帽。
    対象と距離を置いた叙述は気安い共感や同情を抑制させるが、それでもヴェルナーとユッタの兄妹には視界が滲んだし、静かに胸に打ち寄せてくる。
    細部への行き届いた描写、鳥や貝、小さな生き物達への眼差し、草花、風や光、海辺の町やドイツの寒々しい鉱山町、その空気感が素晴らしい。
    何というか、映像的、映画的な小説に感じられた。

  • 第2次世界大戦前後を背景に孤児院で育ち
    ドイツの技術兵となった少年と
    フランスの博物館で働く父のもとで
    育った盲目の少女。
    2人の話が交互に語られ、
    焦土と化したフランスで出会い、
    ひとときではあるが魂が触れ合い、
    別れ、そして未来を迎える。
    悲惨な戦争が描かれる中で
    登場人物たちは詩情にあふれ、
    哀しみを持ちつつも豊かな心持ちになる。
    手に取り何度でも読み返したくなる本に
    久しぶりに出会えた。
    他の作品も読んでみよう。

  • 戦争の話を読むと本当にいっつもベタだけど、戦争なんてしちゃいけないな…何も得るものはないな。
    例え何か得るものがあったとしても、代償があまりの大きすぎる…好きな食べ物がすぐに手に入って
    お腹いっぱい食べれて、フカフカのベッドで眠れて…なんて毎日が幸せなのだろうと感じる。
    きっとこのベタな気持ちを感じられなくなったら自分は人として終わった時なのだと思う。

    詩的な文章で淡々と進んで行くお話。
    映写機で覗いているようなとても静かな映画を観ているようで、戦争の最中でなければマリーもヴェルナーもあんなにも刹那的な恋の時間ではなくゆっくりと2人の時間を過ごして将来夫婦として添い遂げられたかもしれないのに…
    あっけなくヴェルナーが死んでしまったのが信じられずきっと、きっと生きてるよね!?と、最後まで願わずにはいられなかった。
    凄く凄く短い時間だったけれども、二人の過ごした一緒の時は普段の時間とは比べものにならないくらい濃密で、缶の中に入った甘い桃の味のように甘い一時だったのだろうと思う。

  • 何から書けばいいだろうか、再現不能な色んな感情が押し寄せてきて、とにかく慎重に言葉を選びたい。
    一様では言い表せない種類の、深度の、色彩のものがたり。
    味でいったら五味の全てと、その名前のついたカテゴリーに至る隣同士のグレーゾーンの全て、といった感じの、全五感に働きかけてくる言葉の数々。情景。

    ドイツ人少年とフランス人の少女と、関わる全ての人が物語の中できちんと生きていて、短い段落の集積があのような壮大なうねりとなり、時間も場所も超えて集約を遂げる。これは真に文章だから成せるワザなのでは、こういうのを小説と呼びたい、とまったくの素人ながら唸ってしまう本だった。
    容易に映像化してもらいたくない物語。
    単行本は厚みがあって、ポッケには俄然入らないが、ぜひ読んでもらいたいオススメの本。

    (翻訳ものが苦手なのだが、詩情ある文章が、それ特有のまどろっこしさを緩和して、読みやすく、どんどんページ捲らせる。この本、訳者が素晴らしいな、と思ってプロフィールを見たら、ほぼ同世代で!
    思わず仰け反った!
    あ=、なんて仕事をしている同世代がいるんだろう!)

  • 今年のベスト本が見つかった。先を早く読みたい、続きが気になる、でも読み進むのが惜しい、読み終わりたくない。そんな気にさせる作品に出会ったのは久しぶりのこと。
    盲目の少女と孤児の少年の見る(見えない)世界のなんと豊饒なことか。現実のなんと苛酷なことか。
    読み終えて、快い静かな興奮を楽しんでいる。

  • こんなに胸が締め付けられる本を読んだのは久しぶりだ。盲目のフランス人の少女マリー=ロールと、ドイツ人で両親を亡くし、妹と孤児院で暮らすヴェルナー。二人がどんな運命をたどるのか。先が気になってどんどん読みたいけど、短く繊細な文体は何度も味わいたくて先に進めない。読んでいる間、至福の一時だった。

  • なんて深く、静謐で、美しい物語か。過去と現在、フランスとドイツ、少女と少年の運命が詩的に淡々と交錯していく中で全編を通じて戦争の重苦しさがのしかかる。大きな感動で溢れてるのに言葉にできない。読んでよかった。

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