ふたつの海のあいだで (新潮クレスト・ブックス)

制作 : Carmine Abate  関口 英子 
  • 新潮社 (2017年2月28日発売)
3.57
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  • レビュー :4
  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901356

作品紹介・あらすじ

喪われた伝説の宿と、一族の記憶。その再生に人生を賭けた、ひとりの男。ティレニア海とイオニア海を見下ろす場所に、かつて存在した《いちじくの館》。焼失したこの宿の再建を目指す祖父と孫を中心とする数世代にわたる旅は、時に交差し、時に分かれて、荒々しくも美しい軌跡を描いてゆく――。豊饒なイメージと響き渡るポリフォニー。イタリアの注目作家による、土地に深く根差した強靱な物語。

ふたつの海のあいだで (新潮クレスト・ブックス)の感想・レビュー・書評

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  • 「詰め物をしたナス、辛味のペペロナータ(パプリカの炒め煮)、土鍋で煮込んだインゲン豆にソラ豆にヒヨコ豆、ラザーニャか、ヤギや仔ヒツジのミートソースで味付けした手打ちパスタ、シーラ山地特産のアニスで風味をつけたリコッタチーズ入りラヴィオリ。そして、お祖母ちゃんの自慢料理もあった。ポテトとズッキーニを添えたムール貝、カボチャの花のフライ、そしてカブの芽のオレッキエッテ(耳たぶの形をした小さなパスタ)」

    イタリアを描いた小説らしく、料理の名前がこれでもか、というくらい次々出てくるので参った。こういうのをフード・テロというのか。特に大好きなトリッパ(牛の胃)まで登場すると俄然食べたくなって困った。いつでも食べられるというものではないのだ。主な舞台になっているのはカラブリア。長靴にたとえられることの多い半島の爪先にあたる部分である。

    「イオニア海とティレニア海、二つの海に挟まれた丘のうえに、蹄鉄のような形でちょこんと乗ってい」るロッカルバという村に、その昔アレクサンドル・デュマも訪れたことのある《いちじくの館》という旅館があった。火事に遭って、今では恐竜の門歯が虫歯になったような壁が残っているだけだが、館の主と同じ名前をもつジョルジョ・ベッルーシは、いつかは旅館を再建するという強い意志を持っていた。

    物語の中心人物は、燃え盛るように気性の激しいことから炎のベッルと綽名されるジョルジョ・ベッルーシ。語り手であるフロリアンというハンブルク生まれの少年の祖父にあたる。少年の母ロザンナは若い頃、父の旧友で有名な写真家ハンス・ホイマンに会うため、ハンブルクを訪れ、息子のクラウスに出会う。クラウスは、何年も経ってから映画『ゴッドファーザー』を見て、アル・パチーノが結ばれる褐色の肌の娘にかつてのロザンナを思い出し、二千五百八十一キロの道をひたすら飛ばして、結婚を申し込みに来る。ロマンティックな話だ。

    今はハンブルクに住むフロリアンたちは、長い夏休みを過ごすため南イタリアにある母の故郷を訪れる。はじめは、蠅の多さや熱風にうんざりするフロリアンだが、女友だちも出来て次第になじむ。そんな時、祖父が逮捕されるという事件が起きる。肉屋を営んでいた祖父のところに、みかじめ料を要求する男が現れたのだ。きっぱり拒否すると、その後家の戸に火をつけられたり、羊や犬が殺されたりという嫌がらせが続いた。祖父は再度訪れた男を犬や羊がされたのと同じように殺して鉤にぶら下げたのだった。

    祖父が監獄にいることは少年の耳には入っていなかったが、薄々は感じていた。写真家の祖父は弟が生まれたときに一度立ち寄ったきりで世界中を飛び回るのに忙しかった。殺人者と薄情者の血を受け継いだことを憎んでいたフロリアンだったが、ある年のクリスマス、ロッカルバの教会の前の篝火に照らされた髭面の男に祖父の帰還を知る。帰ってきた祖父は、早速《いちじくの館》再建に取り組むが、旅館が姿を現し始めた矢先、ダイナマイトによって爆破されてしまう。

    工事資金は、自分の店や祖母の土地まで抵当に入れて作ったものだった。もう一度初めからやり直すための資金はどこにもなかった。ギムナジウムを卒業し、進学か就職かを決める前に一年の留保を得たフロリアンは、祖父の夢を実現するために旅館建築の手伝いを始める。祖父の家には、デュマが《いちじくの館》を訪れた時に忘れていった書巻が大事にしまわれていた。その書巻を携えてフロリアンはスイスに飛ぶ。父方の祖父に借金の相談に出向いたのだ。

    フロリアンの貢献もあって、見事に完成した《新・いちじくの館》。完成披露パーティの後、祖父は旅館の鍵束を孫に手渡すとその足で旅に出る。行く先々から孫に送られる絵葉書には祖父たちの笑顔が見えるようだ。輝く太陽と紺碧の海。相好を崩した二人の祖父がかつてともに旅した思い出の地を巡る旅程の背後には、しかし、影のようにつき纏う者の姿が。『ゴッドファーザー』についての言及は、周到な作者の目配せだった。

    一つの家系の核となる建築が、諸国を往来する人々の憩いの場となり、盗賊の集会場となる。それが原因で火事に遭い、長く放置された末にやっと再建されるかと思ったら爆破される。《いちじくの館》にまつわる逸話と家族の物語が、時を超えて結び合わされる。季節が変わるたびに咲く花、祖母の作る料理の数々、性を知りはじめた少年の悶々とした思い、熱風がよどむ南イタリアの夏の炎暑の日々。精緻で華麗な自然描写のなかに、傲慢と思えるほど、自分の意思を貫こうとする男たちの気概に満ちた生き方が点綴され、何とも言えない詩情を漂わせる。美しい自然と人間の過酷な生の相剋に圧倒された。

  • イタリア南部カラブリア。
    ふたつの海に接する村にはかつていちじくの宿という宿があった。その再建を目指す祖父といつの間にかそれに引き込まれていく主人公。

    章ごとに「~の旅」と区切られているけれど、それは旅路の果てに根ざした土地ー故郷がある、そういうことかもしれない。

    土地に根ざした家族の物語。

  • ジローラモさんの奥さん、パンツェッタ貴久子さんの著者「ちょっとオタクなイタリア料理」を買って、イタリア全州の料理とレシピについてわくわくしながら読んでいたところだったので、「カラブリア」っていう文字にピクリと反応して、この本も読んでみました。

    うーん、でも、この本の料理についての記述は特においしそうにも思えず、ちょっぴり期待外れでした。

    そもそも、私はいわゆる「Tall Story」と言われるような大げさ系、ホラ話系がすごーく苦手。加えて、南米文学に多い「数世代にわたる家族と土地の因縁の物語」もやや苦手なので、その両方をミックスしたようなこの物語は、あんまりハマれませんでした。あくまでも私の好みの問題で。

    登場人物たちも、あんまり好きになれなかったな。

  • 昔デュマが立ち寄り手稿を置いて行ったイタリア南部の旅館、いちじくの館。消失してしまった館の再建を試みるジョルジュ・ベッルーシは、いがみあう一族に復讐し逮捕されてします。年を取り釈放されたジョルジュ・ベッルーシは再び館の再建に乗り出す。
    イオニア海とティレニア海から吹きあがる風のように熱烈な人生を、孫のフロリアンの眼を通して描いていく。

    北の民族と南の民族。そんな違いが実感できない日本人にとって、こだわりが不思議な気持ちさえする。
    後半の老いた男たちの友情がカッコいい!!

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