- 新潮社 (2017年11月30日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (432ページ) / ISBN・EAN: 9784105901424
作品紹介・あらすじ
夫に先立たれた専業主婦の三年間。「平凡な人生」のおどろくべき輝き――。夫を突然亡くしたアイルランドの専業主婦、ノーラ、四十六歳。子供たちを抱え、二十年ぶりに元の職場に再就職したノーラが、同僚の嫌がらせにもめげず、娘たち息子たちとぶつかりながらも、ゆっくりと自己を立て直し、生きる歓びを発見していくさまを丹念に描く。アイルランドを代表する作家が自身の母を投影した自伝的小説。
みんなの感想まとめ
自分を見失った主人公が、夫の死を乗り越えて再生していく姿を描いた物語は、静かな感動を呼び起こします。1960年代後半のアイルランドを舞台に、夫を亡くしたノーラは、子供たちとの関係や職場での試練を通じて...
感想・レビュー・書評
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舞台は1960年代後半のアイルランドの保守的な町エニスコーシー。夫を亡くし空虚な日々をおくる40代半ばの主人公ノーラの心の変化が静かにゆっくりと内省的に綴られる。「秋から冬にかけての数ヶ月間、彼女の目標は、息子たちのために、そしておそらくは自分自身のためにも、涙をこらえることだった。」"Her aim in those months, autumn leading to winter, was to manage for the boys’ sake and maybe her own sake too to hold back tears."
モーリスの生前、ノーラは自分の役割を理解し果たしていたが、夫の死とともに自分のアイデンティティが消えかけていることに気付く。それでも以前働いていた会社に再就職し、髪を染め、ローリーに歌のレッスンを受けグラモフォン友の会に入ったりしている内に空虚な心は新しい生活の彩りに満たされて行く。ドラマチックな展開もないまま物語は淡々と進み終わる。小津安二郎の映画を観ているように喪失感の中の微かな喜びが心に沁み入って行くのを感じながら本を閉じた。
「これがひとりぼっちか、とようやくわかった。モーリスの死の衝撃がときおり、自動車事故のように全身を襲うことがあったが、それとは別種の孤独。今ここにあるのは、人混みの海原を錨を下ろさずに漂流するような孤独だ。心が奇妙に空っぽになって途方に暮れた。」"It was not the solitude she had been going through, nor the moments when she felt his death like a shock to her system, as though she had been in a car accident, it was this wandering in a sea of people with the anchor lifted, and all of it oddly pointless and confusing."詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
孤独というのが自分で導いた結果なのか周囲の無関心に馴染んだのか、それともそれ以外かわからないけれど、ノーラへの共感は物語の読後感を素敵なものにしてくれた。良かった…
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コルム・トビーン。アイルランドを代表する作家だそうだ。ノーベル賞の下馬評にも名前が挙がっているとか。はじめて読んだのだが、こういう作家さんがノーベル賞をとってくれたら嬉しいなあと思う。
『ノーラ・ウェブスター』は自伝的小説だそうである。主人公は作家の母と同じく46歳で夫に死に別れ、父の死後、吃音症になった息子は作家本人に重ねられる。
それまでは世の煩いごと…お金を稼ぐということから、小さい村での人づきあいまで…を人望の厚い教師だった夫にたのみ、それを「自由な生活」だと居心地よくおさまっていたノーラ。夫の死からすべてが現実的に彼女の双肩に乗ってきた。
頭の切れそうな妹には「言いたいことが何もない人間だ」と思われている、と自覚していたノーラだが、本当はそんなことない。次第にその深い洞察力と観察眼が表に出てくる。
夫の死後、上の娘たちは社会への一歩を踏み出し、息子たちは思春期という難しい時期にはいっていく。目も手もかけねばならないこの子たちを、ノーラの妹たち、おば、亡夫の兄姉が気持ちよく手助けする様子がよい(ときに『違うんじゃないか』とノーラは思っちゃうところも)。ノーラの周囲の人たちの個性が良くも悪くも、丁寧に書き込まれている。ここにはいない夫ですら、その人となりが伝わる。
夫の死からの数年、少しずつノーラにあらわれる変化をつぶさにとらえた、ただそれだけといえばそれだけの物語なのに、胸の奥深くに残る、忘れがたい作品だった。 -
専業主婦のノーラ・ウェブスターは夫を病で失う。上の娘ふたりはそろそろ独立するが、下の男の子ふたりはまだまだ手のかかる年頃で、彼女は生活のため、古巣の会社に再就職する。地味な話かと思いきや、深くて広く開かれた物語だった。最初は歳の近いノーラに自分を重ねて読みはじめたが、次第に同じような境遇で子どもふたりを育てたかつての母に思いを馳せずにいられなかった。家庭と目の前の生活に縛り付けられ、どこにも行けないように見えるノーラだが、その実、心の内側には果てしない自由が広がっていることに驚かされる。4人の子どもたち(とりわけ男の子ふたりがなんとも愛しい。ノーラが母でありわたしであるならば、ドナルは息子で、コナーはかつてのわたしのようにも思えた)の個性を巧みに描き分けることで、いくら愛情を注ごうとも、自分とは別個の人間であり、避けがたく自分から離れていく子どもたちへのどこか投げやりな諦めにも似た複雑な心情があぶり出される。そのあたり、恐ろしく巧い。コルム・トビーンはアイルランドの作家。『ブルックリン』や『マリアが語り遺したこと』も読んでみたいと思った。
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【北海道大学蔵書目録へのリンク先】
https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2001722843 -
星5じゃ足りない
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南アイルランドのある町の未亡人の物語。
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なんか、こう、女の強さと弱さとしたたかさと脆さがいい塩梅で描かれていて、なにも取り繕ってない感じが素敵でした。
女の嫌なところ、素敵なところ、だめなところ、良いところが、所狭しと詰まってました。 -
地味な物語である。夫を失った46歳女性が4人の子と一緒に生活を立て直す話なのだが、これといってドラマチックなことは起こらない。全てがちゃんと時間をかけて少しずつ変化していく。関係が消失するということは、守るべき義理やしがらみのような制限もなくなり、自由になることでもある。また、主人公がわりと人を突っ放したような性格で容易には共感できないのもすごい。音楽に出会ってからの活きいきした描写は読んでいて楽しい。
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40半ばの女性が、夫の死によって自分が何者でもないことに気づき、自分を見出していく話、として共感して読んだ。これが自伝的作品とは、作家とは何者にでもなれる人なのだな。新しく得た仕事や趣味で突出して成功するわけではない、恋のドラマが花咲くわけでもない。ささやかな一歩を踏み出す普通の人生だが、ノーラの矜持が心地よい。特別な母親ではない、頑固でとっつきにくい、でも周囲の人にはなんとなく一目置かれている彼女のキャラクターがさりげなく描写されている。
音楽への言及も興味深かった。ベートーヴェンの大公、ノーラの愛聴版を聞いてみたい。 -
夫を亡くしたノーラの3年間。
お金のこと、仕事への復帰、子どもたちのこと、親戚のこと、政治、音楽。考えなきゃいけないこと、やらなくてはいけないことがたくさんあった。
3年なんてあっという間だということが驚くべき筆致で描かれている。(ヨーロッパ的な節目に疎いせいもあるのだろうけど、一回忌などもしないし、そんな感傷にひたるひまもノーラにはないので、恐るべきスピードで年月がすすむ。読み終えた時、はじめてこれで3年も経ってしまったの?と感じるのだ。) -
四十代半ばにして夫を喪ったノーラ。4人の子を育てながら自分の新しい居場所を探し始める。
夫の死とともに永久に消えてしまった何か。
その喪失感は、仕事や新しい人間関係や趣味などで埋まるものではなく、心の空白を抱えたままノーラは人生の後半生に果敢に踏み出していく。素晴らしい勇気をもった強く賢い一人の女性の物語。
大きな事件は起こらず日常の小さな浮き沈みが語られるだけだけれども、そのささやかな出来事はノーラが踏みしめていくべき道に敷かれた石のひとつひとつだ。 -
この人も、ハズレのない作家だなあ。
ノーベル文学賞に近い1人。
手に入りにくくなっているものもあるのが惜しまれる。
人生には大なり小なり避けることの出来ない荒波があるわけだけれど、静かに骨太に揺られる。
著者プロフィール
コルム・トビーンの作品
