最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)

制作 : Miranda July  岸本 佐知子 
  • 新潮社
3.84
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本棚登録 : 523
レビュー : 52
  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901509

作品紹介・あらすじ

愛するベイビー、いつになったらまたあなたをこの腕に抱けるの? 43歳独身のシェリルは職場の年上男に片思いしながら快適生活を謳歌。運命の赤ん坊との再会を夢みる妄想がちな日々は、衛生観念ゼロ、美人で巨乳で足の臭い上司の娘、クリーが転がりこんできて一変。水と油のふたりの共同生活が臨界点をむかえたとき――。幾重にもからみあった人々の網の目がこの世に紡ぎだした奇跡。待望の初長篇。

感想・レビュー・書評

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  • netflixのドラマのようにゴクゴクと読んでいけちゃう喉ごしでありながら、しっかりと人間のアブない深淵を覗かせてもくれる一冊。笑い、泣き、慄きました。

    個人的に一番キてるな〜と思ったのは、シェリルが玄関でカタツムリ百匹ぶちまけながら自慰にふけってしまうシーン。その後人間同士の関係は驚くべき変化を遂げていくのに、カタツムリは後半に至ってもまだ屋内を這っていたりする。また、クリーが去った後もしばらく彼女の搾乳したミルクがジャックに与えられ続ける描写などもあって、一瞬で変化する物事とマイペースに連続性を保った物事との対比が面白く、もの悲しい。

    奇妙な筋立てにリアリティーを与える細かな描写もいちいち印象に残った。「いまやわたしたちはいっしょに救急車に乗り、内側からサイレンを聞いた仲だった」とか、「これは政府が国じゅうの出産中の女たちのために配布した道具だ」とか、本当にそういう経験した人からしか出て来なそうな表現で感心してしまう(馬鹿みたいな感想ですが)。

    子育て中の身にとっては、夜中の授乳時に自分の人生の可能性について思いを馳せてしまうシーンが、男であっても共感せずにはいられない。訳者あとがきによると本作は妊娠中から出産の三年後まで執筆されていたようだから、これらのシーンの異様な説得力にも納得できる。

  • 恋愛、幸せ、理想の人生、そういうものを思い描く時、抗い難いほど固定観念に捕らわれていたことを思い知らされた。シェリルの重ねる妄想と行動、やがてそれを一枚づつ捨て去り現実と向き合う。その時に人生は何度も輝くのだ。そこには無駄もなく近道もない。この物語はあらゆる人々に捧ぐ人生賛歌だ。

  • 中年になること、孤独であること、異性であれ同姓であれ誰かを愛するということ、子供を育てるということ。誰かの平凡に見える人生でも、血は流れ痛みを抱えている。ミランダ・ジュライはいま、こんなことを書いてくれるんだ、という喜びを感じた。

  • めっちゃネタバレです。

    翻訳小説ひさしぶりに読んだけど、読みやすかったなあ。岸本さんの訳、すごく身近な言葉でいい…。「肩がバキバキ」とか「ぜんぜんオッケーです」とかそういう微妙にリアルな言い回し。岸本さんのエッセイも大好きなのでたぶん自分的に肌に合ってるのかも。

    んで、これ最初孤独な独身中年女性の狂気、みたいな感じで進んでいくのかとちょっと警戒した。いや杞憂でした。
    クリーと同居しはじめて、傍若無人に搾取されるだけだったのが反撃をはじめて、バトルになり、だんだんその関係性が変わって来る、そのあたりでもうぐいぐい話の中に引っ張り込まれる。
    主人公がややこしい妄想にとりつかれて、ファック、としか言い様のないことばっかり考えてるあたりもだいぶ突っ走ってるんだけど、でもこれやばいな、と主人公に自覚があるので、どこかちょっと明るい。

    クリーが妊娠して、出産のあたりは、ふたりの祈りが本当に切実でうつくしくて胸に迫って来るものがあります。
    あたらしい命はどうやったって尊くて、愛そのもののかたち。
    なんかこのあたりは印象的な文章があちこちにあって、うぐぐぐ、ってなる。

    受精卵は自分が精子と卵子という二つのものだったころの記憶を宿していて、なのに一つのものとして生きていかなければならない永遠の孤独を運命づけられている、なんて、ひりひりするんですよね…。

    危機にある赤ん坊に、主人公が、この世界はすばらしいんだよ、だからこっちにおいで、生きろ、生きろ、と呼びかけるとこはここがクライマックスかってくらい、もうシンプルに力強くて心が揺さぶられました。

    でもってクリーとシェリルの恋。最初のキスシーンはとてもやさしくてピュアなんだけど、その恋はたぶんはじめから終わりが見えてるんだよねえ。すくなくとも主人公のほうには。
    あれだ、神田川の、ただあなたのやさしさがこわかった、的なやつ。現実には破綻するであろう、って予感があるからせつない。
    それでも人と人との関係って、一瞬のしあわせであっても一生分の価値があったりもする、一方的なものであってもいい、どんな型にもはまらないオリジナルなものであってもいい、ってことなんかがちゃんと伝わって来るわけで。

    運命の子クベルコ(であるジャック)とのやりとりが本当に救い。
    スイートポテト、って呼びかけて、あ、根菜だと勘違いされたらいけないな、って思い返すのとか、とてもかわいい。

    いやー最後ほんとフィリップとどうにかなるかと思ってそれはなんかいやかも…と思ってたので良かった。

    そしてエピローグ。あああ、これが本当でありますように、と祈らずにはいられなかった。

    なぜかすごく感想を書きたくなる小説だったなあ。
    心斎橋の本屋さんで岸本さんと津村記久子さんの対談イベントがあって、行けなかったんだけどもそこでこの本取り上げられてたってんで読んでみたんですけど。
    もっと早く読んでおけばよかったー。

    ミランダ・ジュライも岸本さんの翻訳も(絵本以外では)初めて読んだ。
    誰にでもオススメではないんだけど、自分的には妙に癖になる感じ。
    なんだかとてもいとおしい、と思うような物語でした。

  • 『彼はぼくこわいよと思うこともできない、「ぼく」ということも知らないのだから』

    このちょっと世間からずれている主人公にミランダ・ジュライを投影しないでいるのはとても難しい。「君とボクの虹色の世界」、「フューチャー」の主人公のその延長線上に(あるいは同じ位置にと言った方がいいか)この本の主人公は位置しているのだから。コケティッシュという表現は最近余りに耳にしないけれど、正にその言葉が真っ先に頭に浮かぶあのミランダ・ジュライの顔を主人公に貼り付けずにはいられない。

    SNSで時々披露される作家自身を写した映像の少々痛い感じ(その言い方は余り好きではないけれど)、それらは主人公の言う所の「システム」を彷彿とさせずにはいられない。例えば車から箱を抱えて降りてきた彼女が転んで箱をぶちまける映像などに感じる「あざとさ」のようなもの、あるいはロンドンのホテルでの怪しげな行動から感じる「迷子の気持ち」のようなもの。それらはシェリルの心の中のつぶやきによって説明可能となるもののように思う。そして漸く、そういうことか、と理解されるものであると感じる。もちろん、その映像は偶然を捉えたものではない。作家の表現の一つである。全て計算されたことであるとは思いつつ、そこにどことなく漂う「よるべなさ」は、作家の個人的な趣向や価値観の根幹を成すものであって、それが作品に滲み出ていると考えた方が自然であると思う。

    ミランダ・ジュライを読み始めた切っ掛けは岸本佐知子であるのは言うまでもない。彼我の差はあれど、自分の中でこの翻訳家はどこかしらミランダ・ジュライと通じ合う「変」さがある。「気になる部分」を読み返してみたらきっとこの作品のシェリルそっくりな逸話が見つかる筈と思う。その翻訳家の趣味嗜好がぎっしり詰まった翻訳私花集「変愛小説集」の二冊目でミランダ・ジュライは強烈な印象を残した。以来翻訳を待てずに読んで来た作家ではあるけれど、この作品は岸本佐知子によるトランスレーションを待たずには消化し切れなかった作品。とてもジェンダー・オリエンテッド(性別志向性とでも言うのか)が高い作品だと感じる。特にセクシュアリティの表現のされ方に、男性目線を模した女性性の主張のようなものを強く感じる。同じ翻訳家の手になるニコルソン・ベーカーのフェルマータが男性性を強く意識させるのとちょうど正反対であるように。その敷居の高さが少しだけミランダ・ジュライを近寄り難くさせる。シリアスな顔のミランダ・ジェニファー・グロッシンガーに初めて出逢った気にさせる。いつもに増して岸本さんの翻訳が光る。

  • 読み終わって、タイトルに唸る。すげーや。

  • ミランダ・ジュライの初めての長編は、意外にも?しっかりした構造を持つ、物語らしい物語だった。ちょっとジョン・アーヴィングの読後感を思い出したりした。

    最初クスクス笑いながら読んで、途中から切なくなってくる。

    『いちばんここに似合う人』とも『あなたを選んでくれるもの』とも全く違うことに挑戦しているのが素晴らしい。

  • 訳者があとがきで主人公のことを「繊細ぶってる割に他人の気持ちに鈍い」と評していて、膝を打つ手が止まらない。いるいる。わかる。

  • とてもよかった。自分のルールをガン無視してくる他人と関わるのはしんどいし腹も立つけど関係性は変わっていくし考え方も広がるし自分はもっと遠くまで歩けるようになる、したいと思ってもできなかったことへの勇気も湧いてくる。少しずつ自分を愛せるようになる。

  • ある種妄想の世界に生きる43歳の女シェリルと、その前に現れる最強最悪の「現実」クリー。よくある女性2人の分かり合いの物語ではなくて、変化、変化、変化。2人の関係はひたすらに変化し続ける。避ける、闘う、愛し合う、あらゆる剥き出しの感情の表出だ。そして見えていないものが見える。職場の人物。セラピスト。恋愛。あまりにも入り組んでいて話の流れとして読みやすいとはいえないけれど、最初に感じたあまりの嘘くささ(現実との乖離)から、最後には滅茶苦茶な現実が輝く。エピローグの輝かしさ。
    主人公にどことなく共感してしまう。ぜんぜん違う性格だし考え方も違うけれど、その人生回避の姿勢に。しかし彼女はぐちゃぐちゃではありながら走り抜けた。素敵だ。

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著者プロフィール

ミランダ・ジュライ(Miranda July)
1974年、バーモント州バリー生まれのアーティスト、作家、女優、映画監督。本名はミランダ・ジェニファー・グロッシンガー。
バークレーで育ち、16歳から舞台の脚本、監督を務めている。カリフォルニア大学サンタクルーズ校に入学するが2年目に中退、ポートランドに引越してパフォーマンス・アートを始める。1996年に短編映画集製作のプロジェクトを始め、2005年に映画「君とボクの虹色の世界」を監督・主演。非常に高い評価を得る。
2005年から小説の執筆を始めている。代表作に『いちばんここに似合う人』。ほか、『あなたを選んでくれるもの』『最初の悪い男』など。

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