秋 (新潮クレスト・ブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901646

作品紹介・あらすじ

分断が進む世界で小説に何ができるのか。新時代の希望を描く「EU離脱後」小説。EU離脱に揺れるイギリスのとある施設で眠る謎の老人と、彼を見舞う若い美術史家の女。かつて隣人同士だった二人の人生は、六〇年代に早世した女性アーティストを介して再び交錯し――不協和音が響く現代に、生きることの意味を改めて問いかける。『両方になる』で読者を驚かせた著者による、奇想とユーモアに満ちた話題作。

感想・レビュー・書評

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  • ユーモアとメッセージがたっぷりつまった作品だと思った。
    冬を先に読んだんですが、冬よりもこっち、秋の方が読みやすかったです。物語の構成は同じような感じだけれど。101歳の介護施設にいる老人・ダニエルが四部作通して登場していると聞いて、冬に出てきてたっけ!?どこ??どこで出てきてたの??ってすっかり忘れてしまったので(多分世界観についていくのに必死だったのかもしれない笑)また冬読んでから春を読みたい…いや先に春を読んでしまいたい…あれ、これは感想になっているのかな…?
    そういえばエリサベスの母がダニエルのことをゲイと呼んでいた理由が最後までわからなかったんだけど、読み落としがあったのかな?
    かつての隣人同士だったダニエルとエリザベスのやりとりがとてもあたたかくて好きだ。
    とにかく冬もそうだったが、秋でも登場人物みな、独特で、しっかりとした自己主張があって、思想が波のように押し寄せて、そしてEU離脱をめぐる論議が渦巻く中のお話だから、登場していない人たちにも自己主張があって、だからこそ激しい分断が起きていると主人公のエリサベス(notエリザベス)は感じていて、そう描写されていて、そう、いろいろと考えた。というより入ってきた。主張が。
    なんとなく、世界が揺らいでいる今、読むのにちょうどいいと感じた。

  • こんなにおもしろいだなんて、早く教えて欲しかった。

    CREST BOOKS の素敵な装丁にずっとずぅっと気になっていたのだけど、
    EU離脱…
    の文字が何となく堅くめんどくさく見え、2年も経ってしまったが…

    とんでもない!

    最初から、これは何?死後の世界?誰?この知的で紳士な老人は?韻?ラップ?
    と、驚いていると、リアルなエリサベスの世界に入っていく。。

    子どもの頃、アートなアートを家中に飾る隣人、ダニエル・グルック氏と出会う。
    彼は老人などではなかった。

    ダニエルがエリサベスに与えた美しい思想と言葉たちに震えます。
    「何を読んでいるのかな?」
    「いつも何かを読んでいなくちゃ駄目だ。文字通りに本を読んでいない時でも。」
    ダニエルとのお話しごっこや、何気ない会話でさえも、真実と正義とユーモアを持ち合わせて、本当に素晴らしい。

    EU離脱が現在のエリサベスの背景としてある。母との関係の中にとくに。
    母の家の近くに住む、スペイン人の夫婦が嫌がらせにあう。ヨーロッパに帰れと。

    そしていま、
    老人施設で眠りから冷めない101歳の老人、それがかつての友人ダニエルなのだ。

    彼との回想録のように、時代があちこちに展開しながら物語が進んでいく所もとても面白い。
    文体もユニークでかっこよくて木原善彦さんの訳が最高なのだと思う。

    ダニエルが話してくれたアート、ある日それに出会ってしまう。ポーリーン・ボティという、実在したイギリスのポップアーティスト。
    彼女の出現で、単なる老人との思い出話しではなくなっていく。
    フェミニズム?

    母娘の関係も見逃せない。

    こんな読書体験は初めてかも。
    YA文学のように心打たれるところと、リアリズムと風刺と…
    ああそうだ、『テンペスト』が出てくるところも好き。

    『冬』はいったいどんなだろう?
    楽しみだー

  • 療養施設で眠り続ける101歳のダニエルのもとへ見舞いに行くエリサベス。枕もとで本を読んで聞かせる。
    その描写とエリサベスの生活、エリサベスが幼い頃のダニエルとの記憶などが、オムニバスのように描かれていく。EU離脱に揺れるイギリス、時代を駆け抜けた女性アーティスト、呆れるほどのお役所仕事、大きなドラマはないけれど共感できる。

  • 主人公と眠っている老人との断片的な回想の物語。あっという間に読了。次は冬を読もう。

  • 世界への眼差しを著す詩的な表現がまだちゃんと理解できていないが、ダニエルが何を読んでいるの?何を考えているの?とあくまで穏やかに問いかけてくる感覚がずっと続くような文章だった。オムニバス的に話が展開するので少し慣れが必要かもしれない。

  • この本の翻訳者である木原善彦氏が、ラジオでこの本を含むアリス・ミス四季四部作を紹介するのを聞き、興味を持ち第1作目である『秋』を読み始めた。登場人物に魅力を感じるが、この著者の作風になかなか馴染めず、よくわからないまま読了。私のタイプではなさそう、これ以上読み進めるのは無理と感じたが、後日4冊とも読み終えた。今ならこの世界観を楽しめるはず、もう一度読み直さねばと思う本。
    *再読記録有り

  • 読みはじめは、読むのいつやめよう…と思ってしまった…
    でも、グレッグさんの謎が知りたくて最後まで読んでしまった…結局ところどころ分かってきたけど…次は「冬」なんだね、借りに行こう…

  • 世界の悲哀。長閑に火照る怒り。
    「手の中にいくつの世界を持てるのだろう。一握の砂の中に。」
    記憶と記録と夢想の断片で描かれるコラージュ。ことばあそびの歌(詩)。彼女の描くコラージュも、目を閉じると触れられる。わたしはそっと指でなぞる。あの青い空と桃色のレースを。女のからだの中に詰められた忌まわしき事件を。虐げられてきた過去を。夢でなんども彼の名前をよんでいたあなたの声も。
    わたしたちはそうやっていつくもの暗闇に光を投げるすべをしっている。わたしちのなかには、わたしたちのものがたりが。わたしたちの、真実が。
    そしてこの本は、わたしたちに各々にさまざまな想いをいだかせる。それはそれは、すばらしい、新世界。新しいパソコンよりも、袋にいっぱいのじゃがいもと玉ねぎがうれしい、そんな天真爛漫な希望。
    Image & Life。End of the Line。"こっちにも/あっちにも"。理不尽に引かれたそのこちらがわで、健気な花たちが、陽気に無言で必死におどっている。
    「今より優しい時代、今より博愛的だった時代の品々、人々の歴史が詰まった品をフェンスに投げつけてやる。」
    わたしはこれからきっと、もっともっと、ありとあらゆることを忘れていってしまう。この物語の欠片もすべて。だからまた教えてほしい。わたしは眠っている鳥をだきしめているのだと。抱きしめたまま、そっと眠らせておいてあげているだけなのだと。あなたに。

    「物語は数百年間変装を続けることで、世界の真実を隠してきたんだろうけれど。」

    「わたしはもう、ニュースに疲れた。大したこともない出来事を派手に伝えるニュースに疲れた。本当に恐ろしいことをすごく単純に伝えるニュースにも疲れた。皮肉な言葉にも疲れた。怒りにも疲れた。意地悪な人にも疲れた。自分勝手な人たちにも疲れた。それを止めるためになにもしないあたしたちにもうんざりりむしろそれを促しているあたしたちにもうんざり。今ある暴力にも、もうすぐやってくる暴力にも、まだ起きていない暴力にもうんざり。嘘をついて偉くなった人にもうんざり。そんな嘘つきのせいでこんな世の中になったことにもうんざり。彼らが馬鹿だからこんなことになったのか、それともわざとこんな世の中を作ったのか、どっちなんだろうと考えることにもうんざり。嘘をつく政府にもうんざり。もう嘘をつかれてもどうでもよくなっている国民にもうんざり。その恐ろしさを日々突きつけられることにもうんざり。敵意にもうんざり。」

    「いつでも何かを読んでいなくちゃ駄目だ、と彼は言った。文字通りに本を読んでいないときでも。じゃないと、世界を読むなんて不可能だろう?読むというのは不断の行為だと考えた方がいい。」

    「人々は互いに向かって何かを言ってはいるのだが、それが決して対話にはならない。今はそんな時代だ。」

    「本当に戦争がお望み?」

    「わたしは何も知らない。誰のことも、ほとんど何も。ひょっとすると、みんなそうなのかも。」

  • 『両方になる』で作者の雰囲気の虜になり、ずっと読みたいと思っていたが、せっかくなので"秋"までとっておいた。アリ・スミスのフラットで中性的な、無味無臭のようで類を見ない、そんな作風がこの作品にもしっかり漂っている。

    作者はおそらく、主人公エリサベスと同じように美術に造詣のある人だろう。深い教養を持つ人というのはどういうものなのか、はっきりわからないけれど、彼女の作品を読んでいると"その世界の一番細かい粒を掬える人"だと思った。どんな細かい粒も、才能も、美しさも、目の前にありさえすれば、それに気づける。これが教養なのだろう。

    四季シリーズの最初ということで、正直よく分かっていない。ただただ、アリ・スミスの精巧なスケッチをたどっていたら読み終わったというかんじ。テーマは分断だということはなんとなく感じる。彼女のことだから4巻を通してわかるような仕掛けも隠されているのだろう。楽しみにしながら、次作『冬』に進む。

  • 老人ホームで眠り続けるダニエルと美術史の非常勤講師のエリサベス。現在、過去、夢の中と場面が移り変わっていろいろなエピソードが綴られていくのは、本作の中でも重要なものとして出てくるコラージュみたい。「時代の空気を見事に切り取っている」と高く評価されているだけあって、ニュースだけではよくわからなかった分断された社会が描かれている。そんな緊張感がありつつも、生涯の友である2人の心温まる物語だった。

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著者プロフィール

1962年スコットランド生まれ。現代英語圏を代表する作家のひとりで短篇の名手としても知られる。『両方になる』でコスタ賞など受賞多数。おもな著書に、『秋』『冬』『夏』『春』の四季四部作など。

「2023年 『五月 その他の短篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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