- Amazon.co.jp ・本 (475ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106006395
感想・レビュー・書評
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なんというか、やっぱり「怪作!」としか言いようがない。
第一章は文具船の乗員群像。
"まずコンパスが登場する。彼は気が狂っていた。"
いきなりですよ。機能についての記述はあっても容貌についての描写は少なく、頭の中で本来の形態と擬人化された容貌の画像が揺れます。 読むにつれ、これは映像化無理やなあと強く思った文房具の擬人化。しかも(ほぼ)全員狂ってる。 人間じゃないし、そんなもん感情移入できない小説なんか読めたもんじゃなかろうがと言われるかもしれないけど、私は本気で面白かった。
第二章は小惑星クォールの千年史です。住民は十種の鼬族。 共食いあり蛮行ありで血みどろ。 人間の歴史をコンパクトに、当然歪みを持ってなぞっています。 歴史に疎い私でもこれはアレだなと分かるエピソードや人物がちりばめられてて、その歪み方も含め面白かったのですが、どうもこの章で挫折する方が多かったらしい。 だけど、一章でひたすら個々に降りていった話が、ここでは英雄や政敵、紛争などがちりばめられつつ大きな流れの記述になる、このダイナミズムの落差も面白いと思うんだけど。
「辛かったらこの章はすっとばしてもよい」とおっしゃるブロガーさんもいるくらいですが、それはあまりにももったいなすぎる。 推理小説で事件を読んだら真ん中すっとばして終章の「さてみなさんこの中に犯人が」だけ読むようなものです。
第三章。
惑星クォールへの侵攻。 途中で主体が入れ替わる文章には第一章で馴れてますが、それだけじゃなく、空間も時間も飛びます。 飛びまくります。 カットバックの多い映画みたいに。 登場人物(文具と鼬ですが)すごく多いのに。
迷走の程度がどんどん高くなり、ああ、こんな風に終わってしまうのだろうか。コンパスはどうなったのだろう。 と、本気で不安を感じましたが、みごとに静かな着地です。
最後の1行はこの奇怪な物語を物語として終わらせるに相応しい言葉だと思いました。 余韻が深い。
参考までに。「もえ絵で読む虚構船団」というページがあります。おもしろい。https://www.pixiv.net/artworks/73965509詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
段ボールを整理していると新潮社「純文学特別書下ろし特別作品」が発掘され、懐かしくなって読み返す。
『砂の女』『箱男』『燃えつきた地図』、『個人的な体験』『洪水はわが魂に及び』『同時代ゲーム』などなど、安部公房、大江健三郎作品がごっそり発掘される。けっこうこのシリーズは好きだったので古書でも買っていたのである。なんか函入りでつきものもも凝ってるし。
ということで『虚航船団』、奥付を見ると1984年であり、当時の私は18歳でパンク(しかも日本のインディーズ)にうつつをぬかしていた頃だ。
その頃読んだときはそんなに面白いと思わず、「しんどい」という印象しかなかったのだけれども、今読み直してみると、ものすげぇ面白いじゃないか。
というのはつまり、当時高校生だった私は歴史の勉強もせず、もちろん心理学等にも興味がなく、それらの知識が皆無だったため、本書の面白さがわからなかったのであり、あれから30年、さまざまな本を読んで多少なりとも知識が増えたため、ようやく本書の本当の面白さがわかったのかもしれない。
ということはやっぱりツツイヤスタカは天才なんである。『虚航船団』から14年後に書かれた同じ「特別作品シリーズ」の『敵』も出てきたので再読してみよう。 -
文房具編と文房具のとこだけはわりと面白く読めた。雲形定規と画鋲と虫ピンが好き。
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ちなみにこの評価なのは
作品が悪いというわけではありません。
非常にとっつきづらいのです。
特に後半が!!
人によってはそこで脳みそが燃えるかもしれません。
作品としては不条理や混沌を
テーマにしているのだと思います。
攻める文房具だって、攻められる鼬たちだって。
ちなみに鼬の歴史は人間の歴史が改変されて出ているので
人間への遠まわしな批判なのかもしれませんね。
このままだとこうなるかもよ?
って。
彼の作品は自由気まま。
これが許されるのは
著者の文章、だから。
それ以外の人がしてもしらけるだけに思えます。 -
歴史小説を書きたいのではなく「歴史を書きたい」と、これ以前のエッセィで言っていたが、これがその歴史なんだと思う。
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わけがわからず夢中になって最後まで読んだ。
とても読み応えのある面白い小説だとは思うけど、好き嫌いははっきりするよね。っていつものことか( ̄∀ ̄)。 -
これぞ「筒井康隆ワールド」。この人の作品は「わかもとの知恵」まではほとんどを読んでいますが、私の中ではこの作品と「パプリカ」が双璧。
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途轍もない小説を読んだ。
かなりの長編である。
よくもここまでエネルギッシュに描けるものだ。
本作を未読のまま死ぬ事が無くて良かった。
明らかに筒井康隆氏は、
諸々の作家とは別格の天才であると認識。