仮釈放

  • 新潮社 (1988年4月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784106006487

作品紹介・あらすじ

自分を裏切った妻を、悔のない行為として殺した男が、無期刑の判決を受け、16年後に仮釈放された。長い歳月を隔てた彼の目に、この世界はどう映るか?与えられた自由を彼は享受できるか?罪と罰のテーマに挑み人間の哀しみを描ききった意欲的長編小説。

みんなの感想まとめ

罪と罰、そして人間の心理に迫る物語が展開されます。仮釈放された男は、妻を殺害した過去を抱えながらも、社会に戻ることへの不安や孤独感に苛まれます。彼の心の奥底には、罪を犯したことへの悔いが薄く、内面的な...

感想・レビュー・書評

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  • 不倫した妻を殺害、相手を刺傷、その老母を図らずも焼死させた男は、無期懲役の判決を受け独房で15年余りの歳月を過ごして来た。無期刑囚にも仮釈放がある事を知ってからはそれに望みを託して模範囚として長年努め、もうすぐ50歳になる。その男にとうとう仮釈放の日が訪れる。しかし、元高校教師をしていた彼は真面目で大人しい人物ではあったが、犯した罪を認めてはいても内心ではその行いを必然であったと確信し、心から悔いてはいなかった…。
    長い刑務所暮らしが身体にしみ込んだ男が仮釈放で娑婆に出て行く時、解放感や喜びよりも強烈な怯えや心細さに襲われ、社会に馴染むまでの心もとないさまを精緻な描写によって淡々と描く。その文章に引き込まれて、浦島太郎の様に出所後の外の世界を眺める男の心情に寄り添っていく自分を感じた。
    彼がどんな状況で罪を犯したかは、中盤に差し掛かるまで明らかにされない。その時の心理状態、犯した罪に彼が心の中でどう向き合い、今も被害者にどんな思いを抱いているかは周囲の人間にはわからない。彼の心の底に沈む澱のようなもの、心情を吐露できる相手がいれば何か違っていたのだろうか?例えそれが同じ犯罪者であったとしても。
    心温かく彼に寄り添い、その人生に配慮する保護観察官や、彼の過去を承知で雇い入れた養鶏場の社長。男は彼らに見守られながら、仕事やアパート暮らしにも次第に慣れ、侘しい一人暮らしの部屋でメダカを飼い始める心のゆとりも見せる。保護観察官はそんな彼の姿を喜び、彼に妻帯を勧める。彼の過去を全て知りながら一緒になる事を望む女との生活は慎ましいながらも幸せに回り始めるかに思われたのだが…。
    何ともやり切れない衝撃のラストに、仮釈放とは、更正とは、罪と罰とは何なのか。上辺からは確認出来ない悔悛の情、犯罪が起きる要因や背景、他人のお節介や良かれと思ってしたことの引き起こした結末、人間心理の正常と異常の境目について、つくづくと考えさせられた。読み終わって、フェルデナンド・フォン・シーラッハの『犯罪』が思い起こされた。読後言葉を失う、忘れ得ぬ一冊。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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