石が書く (叢書 創造の小径)

  • 新潮社
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (133ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106015083

感想・レビュー・書評

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  • <原題:L’écriture des pierres>

    稀覯本である。1975年発刊で現在は絶版。古書もあることはあるが、かなり高値がついている場合が多い。

    『不思議で美しい石の図鑑』で触れられていて、リストには入れていたのだが、入手が難しそうなのでそのままになっていた。

    先日、『石さまざま〈上〉』を読んでいて何となく気になり、やっぱり探して読んでみることにした。

    ロジェ・カイヨワは、フランスの文芸批評家、社会学者、哲学者、という。若い頃はシュルレアリスムに参加していたが、後に袂を分かち、バタイユらとともに社会学研究会を創立している。

    ・・・というような著者背景を知らなくても特に問題はない。
    この本はカイヨワの著作の中では特異なものとされているようだ。
    訳者あとがきによれば、他の著作のように「透徹した分析を支えとして、緻密な論理を展開していく」のではなく、「石の示す驚異をひたすら凝視しようと」しているのだという。

    さほど長くはない本だが、ほとんどがカイヨワ自身のコレクションだという石の写真が数多く収録されている。
    その石の文様をカイヨワが「読み解き」、通訳のように人の言葉に移し替えていく。

    あばらや石(風景が入った大理石、paesine)、瑪瑙(agate)、玉髄(calcédoine)、縞瑪瑙(onyx)、亀甲石。
    自然の造形の妙に目を見張る。
    中には、石の模様に人が絵や書を描き込んだものもある。石と人の織りなすハーモニーである。

    石は、おそらく、それを十分に凝視したものにだけ、その物語をそっと差し出すのだ。
    特に、オレゴン州の碧玉を凝視して著者が書き取った石の「言葉」は圧巻である。大きくうねり、たたみ掛ける波のように、読者を不思議な世界に押し流していく。
    こんな言葉を聞き取れる人はそう多くはあるまい。

    原文は「鉱物のように硬質で、水晶のように透明で、宝石のように純乎として輝きを放っている」という。
    訳出が十全であったか、訳者は謙遜されているが、その香りは十分に伝わっているように感じる。


    *ちなみにこの本は、府外の図書館から相互貸借制度(でいいのかな?)で借りました。
    府内だと特に料金が掛からないのですが、府外になると片道分の送料を利用者が負担するということになっているようです(このあたり、自治体により、それぞれの決まりがあるようですが)。
    さまざま便利な制度があるものなのですねぇ。図書館さん、いつもありがとうございます。

    • 薔薇★魑魅魍魎さん
      わおう、ぽんきちさんは鉱物も好物とは。
      R・カイヨウは私も一時期 胃潰瘍になるくらいハマりまくり37,8冊の著作を蒐集しましたが、今この本...
      わおう、ぽんきちさんは鉱物も好物とは。
      R・カイヨウは私も一時期 胃潰瘍になるくらいハマりまくり37,8冊の著作を蒐集しましたが、今この本 行方不明です。あっ、そうだ、存命だったら79歳の宮澤賢治は、鉱物マニアでしたからこの本、きっと読んだはずですよね。
      2014/04/08
    • ぽんきちさん
      薔薇★魑魅魍魎さん

      をを。お持ちですか(@@)。さすがです。見つかるとよいですねぇ。

      石、好きです(^^)。
      そっか、賢治も石...
      薔薇★魑魅魍魎さん

      をを。お持ちですか(@@)。さすがです。見つかるとよいですねぇ。

      石、好きです(^^)。
      そっか、賢治も石が好きだったのですね。
      賢治が、例えば瑪瑙を題材に童話を書いたりしたら、幻想的ですばらしかったかもしれませんねぇ・・・。
      2014/04/09
  • 石を愛する著者の散文に石の切断面の図版が添えられた稀代の美しき書物。
    石が好き。石は一つの小宇宙。
    石にまつわる書物では、中野美代子『眠る石』、長野まゆみ『鉱石倶楽部』、種村季弘『不思議な石のはなし』がお気に入りだけど、本書もそこに加えたい。
    石は沈黙して語り、人は雄弁に騙る。誰かの物語、何処かにある風景を。観察者は知性・知識・洞察力を存分に働かせて石と向き合う。頭の中で蝶のような喚起的なイメージの連なりを飛翔させてその切断面に照射するとき、一幅の画が露出する。石に対する伸びやかな好奇心を新たに植えつけられた。

  • 中国では、風景や人物像などを読み取ることのできる石目をもつ大理石を「夢の石」と呼んだそうです。言い伝えによると、岩や石の形や文様が生み出す不思議から悟りがひらけるといいます。石目をじっと見つめていると、瞑想や催眠状態になり、だんだん洞窟や山などの風景が見えてくる。賢者はそのなかに入っていき、<真の世界>と関わりをもつのだそうです。石を使ったアクティブ・イマジネーションといってもいいかもしれません。カイヨワの石のコレクションの写真が美しい本。

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著者プロフィール

(Roger Caillois)
1913年、フランスのマルヌ県ランスに生まれる。エコール・ノルマルを卒業後アンドレ・ブルトンと出会い、シュルレアリスム運動に参加するが数年にして訣別。38年バタイユ、レリスらと「社会学研究会」を結成。39–44年文化使節としてアルゼンチンへ渡り『レットル・フランセーズ』を創刊。48年ユネスコにはいり、52年から《対角線の諸科学》つまり哲学的人文科学的学際にささげた国際雑誌『ディオゲネス』を刊行し編集長をつとめた。71年よりアカデミー・フランセーズ会員。78年に死去。思索の大胆さが古典的な形式に支えられたその多くの著作は、詩から鉱物学、美学から動物学、神学から民俗学と多岐にわたる。邦訳に、『戦争論』、『幻想のさなかに』(以上、法政大学出版局刊)『遊びと人間』、『蛸』、『文学の思い上り』、『石が書く』など多数。

「2018年 『アルペイオスの流れ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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