ギャンブル依存とたたかう (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (195ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106035432

感想・レビュー・書評

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  • パチンコ、麻雀、競馬、競輪…。「庶民の娯楽」という美名の陰で、急速に増えつづける依存者の群れ。この本には「地獄への片道切符」に乗ってしまった人たちの末路が描かれております。

    僕は西原理恵子を始め、伊集院静や白川道など、確実にギャンブル依存症の作家のエッセイや作品を読んで、彼らの日常を笑ってみていたことがありましたけれど、それでも、彼らの日常が破滅しないのは彼らがやっぱり普通の人間の何倍もお金を稼いでいるのだという事実と、仮に、破綻はしていても『作家だから』ということで、多めに見てもらっているのであって、普通の人間が病的なまでにギャンブルにのめりこんでしまうと確実に待っているのは地獄への一本道です。

    僕は少年時代に、いわゆるアーケードゲームでこの症状に近い状態になってしまったことがあるんですけれど、やっぱり、ゲームをしないことには落ち着かなくなりますし、どんな手段を使ってでもお金を工面してやりたくなるという意味ではやっぱり似たようなものがあったのでしょうね。しかし、ギャンブル。この本では特にパチンコを取り上げておりますが、普通の主婦がパチンコにのめりこんで、夫の貯金に始まり、子供たちの保険を解約したしたり、果てはサラ金。ついにはヤミ金にまで手を出して、家族や親戚にも愛想をつかされて堕ちていくさまがなんともやり切れませんでした。

    ギャンブル依存はれっきとした病気できちんと病院に通って適切な治療を経ないことにはますます悪化させていく。そして本人だけではなく、家族や親戚さえも泥沼に沈ませてしまう。本当に恐ろしいものだということを感じました。ギャンブルそのものに関しては、個人的にはすべて否定するものではありませんが、何事も『過ぎたざるはなお及ばざるが如し』で節度を持って、楽しむ方は楽しんでください。

  •  ギャンブルはこれまで一度もやったことはありませんが、ネットや音楽に依存しがちな自分にも役立つかもしれないと思い、手に取った本。

     第一章はギャンブル依存症の大まかな説明である。『007』シリーズのイアン・フレミングの「ギャンブルに絶対勝つ方法はただ一つ、イカサマをすることである」という言葉を引用した上で、DSM-Ⅳ病的賭博「衝動制御の障害」ICD-10「習慣及び衝動の障害」において放火癖・窃盗癖・抜毛癖と同等の疾患であり、日本では法律によって場所・実施方法が制限されていないパチンコの存在が最大の特徴であると指摘している。また、今後は株取引のデイトレードやネット上のギャンブルが問題になるだろうと考えている。

     第二章はギャンブル依存症者の特徴の説明である。依存者はゲームに対し過度に興奮しやすく、醒めにくい身体的な下地が形成されてしまっていることや、ギャンブル依存症は強迫性障害とは関係がなく、遺伝が絡んでいたとしても、環境要因も考えられている。筆者は「ギャンブル依存症になりやすい性格の傾向はあるかもしれないが、条件の整った状況に立ち入ってしまえば、大なり小なり依存症への道を歩んでしまうため、「遺伝と性格」ではなく「躾と教育」が大切」と論じている。

     第三章ではギャンブル依存症者の数を推測している。国や地域、時代によって数字がばらつくことを踏まえた上で、アメリカ・カナダ・オーストラリア・香港のデータから得られた数字を用いると、日本にはギャンブル依存症者は100万から200万人(政令指定都市4つ分の人数)ほどおり、その値はアルコール依存症者の数(400万人)の一割から一割五分にあたる、ギャンブルを始める年齢が早いのは男性であり、依存症に至るのが早いのは女性、そしてギャンブル行為とかける金額が異なるだけで、貧富の差無くギャンブル依存は発生すると筆者は見ている。

     第四章はギャンブル依存症者が抱えていることが多い病気の説明である。
     躁鬱病(誇大感・浪費傾向・過活動の影響)、うつ病(症状が軽い時に気晴らしとして始めてしまうか、ギャンブルの果てに発症)、統合失調症(幻覚・妄想が落ち着いた時にはまってしまう)、アルコール依存症(クロスアディクションによる同時進行)、買い物依存症(四割の人にアルコール依存や薬物依存が見られる)、摂食障害(負けたときのストレスを発散するため)など、多くの病がみられる事が分かる。

     第五章はギャンブル依存症者の周囲にいる人々の苦しみを説明している。「ギャンブル依存症の夫をもつ妻自身が「両親が離婚したという生い立ちを持ち、自分の家庭だけは崩壊させたくないという切ない願いが共依存を生み、結婚という形式をギリギリまで維持させ」、その結果身体は風邪をひきやすくなるといった抵抗力が弱まる、精神は音に大して敏感になる、自責の念にかられるなどしてしまう」という趣旨の説明はひたすら悲しい。借金の肩代わりを何度となく続け、兄弟の配偶者とその親類との関係までもが破壊されていく。企業に配置される産業医もギャンブル依存に疎い場合もあるため、対策を講じれないのも問題だろう。

     第六章ではギャンブル依存症に関わる法の問題に触れている。
     適当な口実で得た物を転売してまでもお金を得てギャンブルに投資し、しまいには債務地獄へと至る。債務整理には特定調停・任意整理・個人民事再生があるが、あくまで治療することが前提だと書かれている。
     それでも無理な場合には自己破産するしかなく(ここで筆者は日本には顧客の借り入れ状況を見極めずに貸し付けるという、多重債務者を生み出しやすい体質が放置されていることを批判している)、この時、精神疾患(躁鬱病・統合失調症)を抱えている場合、医師の診断書を提出すれば金融会社の方で債権を放棄することがある。
     しかし自己破産後も消費者金融からの甘い言葉を用いた罠があり、十分注意する必要があると述べている。自己破産者の中で大きな割合を占めているのは事業の失敗とギャンブル依存であり、追い詰められたあげく、文書偽造による借金や、詐欺・強盗、保険金詐欺といった不法行為に走ってしまう人がアメリカのGA会員の47%いるという。

     第七章は治療の手順の説明である。
     導入期・離脱期・学習期、自助グループや薬物治療が説明されており、「本人が作った借金は本人に返させる」「主治医は本人自身」という下りは当たり前の事だがとても重要なのだと述べられ、ギャンブルをやめて自分を取り戻した人と、その家族が過去のことで揉める事は不可避であると忠告している。

     八章はギャンブルをめぐる社会への進言である。
     国営でギャンブルを運営しておきながら、何故苦しんでいる人へ手を差し伸べる機関が充実していないのか、ギャンブル依存症の実態を探ろうとしないのか、せめて欧米諸国のように厳しい制限を設けるべきではないのかと国の至らなさを厳しく批判し、風俗営業だと言うのであれば換金システムを廃止しろと、遊技場の仮面をかぶってCMを垂れ流すパチスロ業界の責任を問いている。
     また、医学会においてもシェイラ・ブリュム氏の働きにも関わらず、『臨床精神医学講座』で1ページ弱しか記載されていないなど、まだまだ問題は山積みのようである。

     筆者は小節も執筆なさるそうで、とても分かりやすい文章を書くが、その中身は上で書いたように大変濃い。一読をおすすめしたい。

    自分用キーワード
    フロイト『ドストエフスキーと父親殺し』 ギャンブラーズ・アノニマス(GA) アルコホリック・アノニマス(AA) ノン・ケミカル・アディクション スペンダー・メンバーズ(SM) サウスオークス・ギャンブリング・スクリーン(SOGS) ギャマノン(Gam-Anon) クロスアディクション アダルトチルドレン ハイヤーパワー 出資法(金利の上限:29.2%) 利息制限法(元本10万未満:20%、100万以上:15%、その中間:18%) 貸付禁止依頼 成年後見制度 日本消費者金融協会 

  • ギャンブル依存を扱った本では、これまでで一番いい。公平な視点でさまざまな治療法について触れているし、著者が小説家でもあるので文章もわかりやすい。

著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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