日本売春史 (新潮選書)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106035906

作品紹介・あらすじ

「娼婦の起源は巫女」「遊女は聖なる存在だった」「遊廓は日本が誇る文化だった」など、これまでの売春論は、その是非を問わず、飛躍と偽善にみちた幻想の産物ばかりである。また、現代にも存在する売春から目を背け、過去の売春ばかりを過剰に賛美するのはなぜか?古代から現代までの史料を丁寧に検証、世の妄説を糾し、日本の性の精神史を俯瞰する力作評論。

感想・レビュー・書評

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  • 日本恋愛思想史もそうだったが、勉強になるものの複数回読み直さないと自分は消化できない。
    売買春の話はイデオロギー的な話が多い中、このような割と忠実に史実を追っていくものは貴重だと思います。

  •  先日読んだ『日本人のための世界史入門』が面白かったので、小谷野の「歴史もの」の旧著に手を伸ばしてみたしだい。
     本書はわりと下世話な興味で読んでみたのだが、予想したよりもずっとアカデミックで真面目な本だった。

     カバーに書かれた惹句をそのまま引用する。

    《「娼婦の起源は巫女」「遊女は聖なる存在だった」「遊廓は日本が誇る文化だった」など、これまでの売春論は、その是非を問わず、飛躍と偽善にみちた幻想の産物ばかりである。また、現代にも存在する売春から目を背け、過去の売春ばかりを過剰に賛美するのはなぜか? 古代から現代までの史料を丁寧に検証、世の妄説を糾し、日本の性の精神史を俯瞰する力作評論。》

     この惹句のとおり、本書のメインテーマは、網野善彦、佐伯順子らによってなされてきた「聖なる遊女」論を論破することにある。
     その本筋部分も面白いのだが、私はむしろ脱線部分――随所にちりばめられた売春史をめぐる広範な雑学――のほうを愉しく読んだ。
     たとえば――。

    《森鴎外は、最初の妻を離縁してから十一年間独身だったが、その間に妾を囲っていたし、娼婦はともかく藝妓遊びは一通りしたようだ。ただし夏目漱石は、今のところ、娼婦買いはもちろん、妻以外の女と性関係をもった形跡がなく、それが今日、漱石が国民作家とされる所以でもある。》

     ところで、本書で槍玉にあげられている「聖なる娼婦幻想」は、私自身の中にもある。
     それは、本書にも言及のある(※)『罪と罰』のソーニャ(=清らかな心をもつ娼婦)のイメージの影響かもしれないし、昔読みかじった網野善彦の本の影響かもしれない。

    ※「ドストエフスキーの『罪と罰』の娼婦ソーニャは聖女ふうに描かれているが、これは下層民に同情を寄せる近代ロマン主義や社会主義、さらにディケンズの影響であろう」という言及。

     が、私自身の精神史を振り返ってみると、もっと俗な小説の影響のほうが大きい気がする。それは昭和の大ベストセラー、五木寛之の『青春の門』だ。

     これは「黒歴史」に属するのかもしれないが、私は中学生くらいのころ、『青春の門』を夢中になって読んだことがある。
     で、薄幸なヒロイン・織江が「夜の蝶」に身をやつしつつも主人公・信介を一途に想いつづける様子とか、重要なキャラクターとして登場するインテリ娼婦カオルの存在に、ガキながらも強い印象を受けたのだ。

     本書には言及がないが、『青春の門』が日本のある世代の「聖なる娼婦」幻想に与えた影響は、かなり大きいと思う。

  • 売春について書かれた本としては初見でした。
    他の小谷野氏の著作と、書く対象への切り口は同様です。
    ものの見方に納得できれは、明快な内容だと思います。

  • 貧困のために売春があり、また、性病で若くして亡くなって行ったという悲惨さがあった。


    一方で過去の売春が美化もされたというのも面白い。

  • ふむ

  • もう一度ざっと読み直してみたけれど、前半はアカデミズムにおいて、遊女がいかに聖化され「文化」として無理やり組み込まれてきたかという指摘。
    後半はしかし、現代においてもなお、売春は事実上暗黙のうちに公認されており、
    売春が合法化されているヨーロッパの一部の国と比べるにつけ、あー日本はやっぱり、建前の上では欧米と肩を並べたがってそのつもりになっているけど、全然そんなことはないなと実感。本音と建前の嫌な部分が出たなあ、と読後薄暗い気分にさせられた。

  • 360円購入2014-05-08

  • 2015.06.07 新潮選書のサイトより

  • 比較文化学の専門家による売春の研究書。学術的である。特に、歴史に詳しく、万葉集以降の書物をよく研究し、最近の研究者の論述にコメントしている。論旨は「現在、わが国に存在する職業としての売春を黙殺して、過去を賛美するような行為は不誠実」である。
    「強姦というのは、思えば不思議な犯罪である。合意の上で行えば快楽であるセックスが、同意を得ずに行うと犯罪になる、こうした行為は、他には見当たらない」p38
    「世に、日本では遊女が卑しめられたり売春を罪と考えたりする伝統はなかったとする説があるが、端的に誤りである。程度の差こそあれ、売買春は普遍的に後ろめたさを伴う。売春が文化になった徳川時代でも変わりはない」p40
    「いくたりかは讃仰される高級娼婦がいたとしても、多くの娼婦は蔑視の対象でしかなく、むしろそれを聖女化したのは、近代の泉鏡花や永井荷風の小説だろう」p98
    「(日本の中世)傀儡女や白拍手が芸能者であったように、多くの芸能民の女が、同時に売春を行っていた(巫女、傀儡女、遊女、白拍手女、曲舞女、ごせ)(脇田晴子)」p100
    「芸者の発祥の地は深川」p129
    「江戸では、吉原のほかの遊里を岡場所というが、そのうち日光街道、中山道、甲州街道、東海道の第一の宿場である千住、板橋、内藤新宿、品川を四宿(ししゅく)といい、岡場所の代表的なものとする」p132
    「昭和28年から、売春等取締法案、売春禁止法案が女性議員を中心として何度か国会に上程されては審議未了廃案となり、賛成派と反対派の妥協の結果として「禁止」ではなく「防止法」が成立したのである」p180
    「売春防止法は、売春をしてはならないと謳いつつ、罰せられるのは売った側のみ、かつ自由売春(個人の売春)は罰せられないため、当初からザル法と言われた」p182
    「大阪府は条例によってソープランドの新設を認可していないため、大阪にソープはない。(その他同様に青森、山形、長野、富山、奈良各県にもソープはない)」p184

  • 佐伯順子の『遊女の文化史』(中公新書)における近世の性の美化を批判し現代の売春の問題に口をつぐむ欺瞞を厳しく告発してきた著者が、日本の売春の歴史をおおむね実証的な観点からたどった労作です。

    網野善彦や阿部泰郎らの研究の偏りを、学説史的な観点から解き明かしているところなど、勉強になることが多々ありました。後半は、『もてない男』(ちくま新書)などに近い、ややエッセイふうの叙述になっています。もっとも現代の性風俗について考察するには歴史学的なアプローチ以上に社会学的なアプローチが必要になるので、この不統一はやむを得ないのかもしれません。個人的にはいつもの小谷野節を楽しみながらよむことができました。

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著者プロフィール

小谷野 敦(こやの・あつし):1962年茨城県生まれ。東京大学文学部大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了、学術博士。大阪大学助教授、東大非常勤講師などを経て、作家、文筆家。著書に『もてない男』『宗教に関心がなければいけないのか』『大相撲40年史』(ちくま新書)、『聖母のいない国』(河出文庫、サントリー学芸賞受賞)、『現代文学論争』(筑摩選書)、『谷崎潤一郎伝』『里見弴伝』『久米正雄伝』『川端康成伝』(以上、中央公論新社)ほか多数。小説に『悲望』(幻冬舎文庫)、『母子寮前』(文藝春秋)など。

「2023年 『直木賞をとれなかった名作たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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