- Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106036279
作品紹介・あらすじ
団塊の世代のように突出して数が多く、居場所のない「ユース・バルジ」。この指標を手がかりに、暴動と人口の「隠れた法則」をあぶりだす。イスラム自爆テロの本質は何か、中国は危険なのか、アメリカの覇権の行方は?さらに、魔女狩りや大航海時代、日本の戦後復興など、世界史の特異な現象をも読み解く。海外ニュースが全く違って見えてくる知的興奮の書。
感想・レビュー・書評
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江戸時代、武家の三男坊とかになると士官先もなく、嫁の来手もなく、惨めな生活をしていたというドラマだったかを昔見たことがあって、なるほどなあと思ったものである。しかしこの武家がおそ松くん並みに兄弟が多ければ、長男おそ松くんはいいとして、弟たちは能力もあり教育も受けていても社会の中に正当な地位を得ることができず、大変鬱屈した生活を送ることになるだろう。やがては社会、すなわち幕府を恨むようになり、そこに「尊皇攘夷」論などが吹き込まれると、彼らは名誉のため命知らずのテロリストになるのである。そこに吹き込まれるイデオロギーは「聖地奪還」でも「アーリア人の優位」でも「イスラム原理主義」でも時代と場所に適合すれば何でもいいのである。本書『息子たちと強国──上昇志向におけるテロと国家の没落』(原題)の主張を応用するとこんなことになる。
「戦闘年齢」といわれる15歳から25歳(あるいは29歳)の人口(これをユース・バルジと称する)が人口の30%を超えたとき、社会に居場所を与えられないが上昇志向をもった二男坊・三男坊によって内乱、革命、テロ、戦争などが起こるという主張であり、15世紀以降、ペストで人口激減したヨーロッパが人口を盛り返して世界制覇した歴史、開国した日本が膨張してようやく原爆によって止められる歴史など実例が豊富に挙げられる。目下の脅威はイスラムの人口爆発である。
他方、先進国では人口の減少に悩む。人口増加のためには女性に生んだり生まなかったりする選択権を与えないような抑圧された地位を与え、避妊・堕胎・嬰児殺しを厳しく取り締まるとともにそのような知識を持った産婆を殲滅するのがいい。魔女狩りはそうやって産婆と彼女らが持つ女性医学の知識を殲滅し、ここに大航海時代が開けていくという解釈はなかなか見事だ。しかしもはや先進国ではそんなことはできない。だからといって人口の増えた他国の人々を受け入れても国内に摩擦が起こるだけでうまくいった事例はごく少ない。
著者ハインゾーンは解決策を示せない。わずかに多民族国家として成功しているモーリシャスの事例を挙げる程度である。しかしここまで論考を進めれば、世界平和のための論理的帰結は2つ。ユース・バルジ分を火星移民に送るか、挙児権なり挙児義務を制定して厳格に女性一人あたりの出生率を2.1に保つ超管理社会を作り上げるしかない。いずれもディストピア小説が描いてきたようなことである。ああ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ユース・バルジという考え方は、いま起こっている問題を説明する上で有用であると感じた。
例えば、ミャンマーで軍部が起こしたクーデター。
NHKスペシャルによれば、軍部は既得権益と強く結びついており、上層部は大きな利益を得ているそうだ。
彼らにとっては限られたパイを独占することが重要であり、民主政権など邪魔なのだろう。
米軍のアフガニスタンからの撤退も一例である。
意外に感じるが、アフガニスタンは出生率が非常に高く、兵士になり得る多くの若者を抱えている。
アメリカとは人的資源が違いすぎたのだ、
一つ興味を持った点として、ユース・バルジを経験した国は、それが収まった後に高齢化に悩まされるのではないか、ということだ。
中東やアフリカ、南米といった国々が経済的に発展することなく、高齢化に悩まされることになるとすると、世界的な大きな問題なのではないだろうか。
日本よりも出生率が低いヨーロッパ諸国の将来にも興味を惹かれる。
とにかく、今後も各国の人口統計には注意を払っていこうと思う。 -
ずいぶん過激なタイトルだと思ったが、確かにありうる話だし、統計的に有意だとしたらとんでもないことだと思った。若者が多すぎると火種になるとは。この火種をうまく活用できれば経済成長が望めるんだろうが、政治が不安定だと、破壊力に繋がってしまう。しかし、出生率が何で決まってくるのかはわからなかった。
出生率の低さで苦戦している先進国は何が問題なのだろうか? -
大分、未来は悲観的
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人口に占めるある世代の割合が一定以上に膨張する(=ユース・バルジ)と、その世代は権限や居場所を求めてテロや革命を起こすという、人口と暴動の関連性に着目した書籍。テロの原因は貧困という風に思っていたが、欧米の決して貧乏では無い若者がISに参加したり、人口爆発を起こしている国で社会が不安定なのは、この説を裏付けているのかも。日本の団塊の世代はこれに当てはまらない程度の膨張だったが、それでも学生闘争は活発だった。居場所がないという意味ではオウム真理教に走る若者がいたのは最近のことだ。この法則だけではないのだろうが、これで世界を眺めてみると興味深い。子供や若者の数が少なくなれば、戦力を維持することが難しくなる。若者を死なせることができない軍隊になる。アメリカはまさにこの状態。この限りでは、将来の中国はそれほど危険ではないと言えるかも。新たな視点をくれる一冊。
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2019/05/31 下記の紹介を受けたので読みたいリストに入れた。
統計的に男は暇で自尊心、自己承認欲求を満たすために「力」に惹かれると。
過去に世界で起こった大規模な戦争は、多子化で職にあぶれた若年男性の人口増加と強い相関があるそうで。
キーワードは「ユース・バルジ」。 -
かつてのヨーロッパの覇権、現在も続くテロリズムの影には「ユース・バルジ(過剰なまでに多い若年人口)」がある。
ヨーロッパは、初期重商主義により「人口の多さ=富の多さ」とし、「宗教」の権威を用いて堕胎や嬰児殺しを禁止した。
かつて、魔女迫害が行われたが、これはこの関連と考えられる。
「魔女」として糾弾されたものは産婆も多く、彼女たちが人口調整の手段を持っていたが、迫害されたことでそれらはほぼ壊滅的な状態となり、ヨーロッパは人口爆発を迎える。
ユース・バルジ(過剰なまでに多い若年人口)、わけても、植民地の拡大に大きく影響した。
貧富にかかわらず、三男坊、四男坊は親からの財産や土地を相続することは期待できず、「自力で」居場所を確保するしかなく、それが外に向かって爆発した結果、ヨーロッパは全世界を席巻した。
現在もテロリズムや紛争が絶えない地域では「ユースバルジ」が往々にして見られる。
<感想>
日本でも「団塊の世代」でよくいわれることだが、世代の人口の多さが社会に影響を与える。
当然の帰結なのかもしれないが、改めて考えたことがなかった。この本で世界規模で論じられていたので、とても新鮮に感じた。
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政治哲学者のハンナ・アーレントは自身の著「全体主義の起源」の中で、ユダヤ人迫害や植民地支配の発生要因を、自国内であぶれた「余計な者たち」のはけ口、生きる道の顛末として考察した。しかしそこには「余計な者たち」がなぜ生まれるのかまでには言及していなかったが、まさかそれを人口学という異分野で説明できるとは思いもよらなかった。ペスト流行による人口減少で危機に瀕していた中世ヨーロッパ。その反動で出生爆発が起き、ユースバルジという問題が起こる。ユースバルジは戦争やテロにはけ口を求める。したがって、世界の均衡を保つには人口抑制が欠かせない。だが一方で、抑制しすぎると少子化問題が起き、国家存続の危機につながる。人口統制とは国家にとって最も厄介であり難しい舵取りを求められる。
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■書名
書名:自爆する若者たち
著者:グナル・ハインゾーン
■概要
団塊の世代のように突出して数が多く、居場所のない「ユース・バ
ルジ」。この指標を手がかりに、暴動と人口の「隠れた法則」をあ
ぶりだす。イスラム自爆テロの本質は何か、中国は危険なのか、ア
メリカの覇権の行方は?さらに、魔女狩りや大航海時代、日本の戦
後復興など、世界史の特異な現象をも読み解く。海外ニュースが全
く違って見えてくる知的興奮の書。
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■気になった点
・職にあぶれた者に残された道は4つだ。
・国外への移住
・犯罪
・クーデター
・革命
・集団殺人
・植民地を創る