小説作法ABC (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106036316

作品紹介・あらすじ

"ここに書かれてあることが理解でき、かつ実践できるならば、作家になる資格は十分にあるでしょう"-人は誰でもストーリーテラーになる。「物語る能力」を最大限に生かすための基本的技術とは何か?一行目を書き始める方法から、構成の技術、新しい文体を発明する秘術、職業作家としての心構えまで、奥深い「プロのコツ」をシンプルに伝授する本。

感想・レビュー・書評

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  • 引用をあまり読まない斜め読み。
    東京をよそ目線から書く、という項目などは発見があった

  • 2021/2/7

    作家がどういう動機から、何のために、具体的にどのように物語を創作するのかのヒントが散りばめられている。小説を「いかに書くか」と併せて「いかに読むか」とも読め、一石二鳥。それに付随した雑談(法政大学の講義をもとに書かれた本だから?)もとても勉強になる。

    一つだけ印象的な一節を書き留めておこう。

    「ドロップアウトとは、たんに負け組になることではなく、勝ち負けを超越することです」
    →李白や杜甫


    メモ
    ーーーーーーーーー

    文学全集の冒頭だけ読み漁り、文豪たちが読者をワクワクする世界にどのように引きづり込むかを体得。

    人は放っておいてもストーリーテラー

    個々の書き手が辿りについた技術の集大成こそ文学

    ロマンスは定型 小説は自己批評の精神

    冒頭にWhy?を強めに

    日本の近代文学は貧富の差の縮小を目指していた
    →文化の政治性

    ありきたりな名前は読者が自分のことを書かれていると思い込むような仕掛け

    日本は日記という形式が尾を引く

    文学は世界を豊かに見る窓

    東京は地方の植民地化を受けた 歴史がない

    韓流ドラマの記憶喪失は徴兵制

    ドイツの民族統一 → ロマン主義

    文学は人の怪物性を暴く

    文学は、そのイマジナリーな時間を最大限もてあそぶことができるというメリットを持っています。
    →文学の包容力

  • 例題も試してみたい。

  •  島田雅彦が初めて書いた「小説の書き方」入門である。
     入門書とはいえ、対象読者のハードルはわりと高めに設定されている感じ。たとえば、小説家を夢見る高校生が本書を読んだら、「ムズカシイなあ」と途中で投げ出してしまいそうだ。

     「小説の書き方」入門としてどれほど実効性があるかは定かでないが、島田自身の小説観を一通り開陳した文学論としても面白く読める。

     本書を読んで改めて感じたのは、島田雅彦は作家としてよりもまず評論家として、ひいては文学研究者として非常に優秀であるということ。いまや島田も作家兼大学教授だが、最初から文学研究者としてアカデミズムの道を歩んでいたとしても一家を成した人だと思う。
     逆に言うと、評論家肌、研究者肌だからこそ、島田の小説はあまり面白くないのかも。

     島田は第1章で、文学を神話・叙事詩・ロマンス・小説・百科全書的作品・諷刺(サタイア)・告白の7種に大別し、それぞれの特色を論じていく。
     そして、「ロマンス」と「小説」を分かつものは「自己批評の精神」の有無であるとし、次のように述べる。

    《私たちは、今日出版されているフィクションのほとんどを、便宜上、小説として受けとっていますが、そのじつ、小説になりきっていないものが大半です。自己陶酔しか感じられない小説は、ロマンスと分類されるべきなのだから。
    (中略)
     しかし、主人公のなかに苦い自己認識があり、第三者の目から見れば自分の行動がいかに滑稽かを暴く批評意識が盛り込まれていたならば、それは小説の仲間であるとみなすことができるでしょう。》

     ……と、このように文学史全体を鳥瞰したうえで、小説を書くための基本的技術が論じられていく。その中には、本質をずばりと衝いた至言がちりばめられている。
     たとえば、比喩表現についての次のような指摘――。

    《自分が伝えたいと思っているイメージを、一発で相手の脳のなかに生じさせられる言語の使い手こそ、比喩表現の巧者です。手っ取り早くその奥義をお教えしますと、フィジカルな感覚、自分の肉体の感覚にダイレクトに訴えかけていくような比喩表現を使ってみることです。
    (中略)
     比喩というのは、一文のみに使われるものではありません。単一の文章だけでなく、それらの文章が重なっていったときに、全体として匂い立ってくる比喩の効果というものも、たしかに存在するのです。それは、描写の戦略でもあります。比喩表現は、本来単発で使用されますが、そこにある種の規則性を持たせてやるといいのです。》

     また、本題から外れた余談的部分にも、島田の批評能力が躍如としていて、思わず膝を打つ鋭い指摘が多い。たとえば――。

    《なぜ韓流ドラマにおいて記憶喪失というテーマは頻出するのでしょうか。そのひとつの答えが、韓国には徴兵制があるから、ということになろうかと思います。つまり、韓国の男子は一九歳から三○歳になるまで、ほぼ二年半にわたって入隊します。二年半はけっこう長い。それまでの人間関係や生活スタイルや恋愛が、一旦断ち切られる感覚を持つはずです。ある種のワープをしたかのような、断絶の体験。青春の中断。とすれば、徴兵制のメタファーとしての記憶喪失が、物語に入ってくるのは当然ではないでしょうか。》

     巻末には「番外編」として、自らのデビュー当時からの経験をふまえて「作家の心得」を説く文章が付されている。“自分は作家としてこのような覚悟をもっている”というマニフェストとしても読めるもので、島田らしからぬ熱い文章になっている。
     私には、この「番外編」がいちばん面白かった。次に引く一節など、感動的ですらある。

    《七○歳を超えてなお、一日たりとて書かない日はない古井由吉氏の小説への執着はいったい何に由来するのか、私はかつて面と向かって訊ねたことがあります。氏は不気味な微笑とともにこういいました。
     ――憎しみだね。
     確かに世界に対する憎悪は強靱な執筆のエンジンになりうる。自分の存在を希薄にするような世界に対しては、おのが存在を呪いの言葉とともに刻みつけてこそ復讐になる。その意味で孤立無援は作家の勲章です。人気者は迎合という雑務をこなすうちに凡庸化するから、どれだけ憎しみを保っていられるかの勝負になるでしょう。そういえば、古井氏は大家への論功行賞としての文学賞一切を拒否しているそうです。賞欲しさのスケベ心が創作の邪魔になるという。こうなると、創作も個人的な宗教の色合いを帯びてきます。
     古井氏はこうもいいました。
     ――書くことがなくなってから、本当の作家になるんですよ。
     書くことがなくなったら、上がりというわけではないらしい。無論、大家は書かなくても、作家と見倣されるという意味でもない。書くことがなくなっても書き続けなければ、本当の作家ではないという意味です。三○年以上書き続けていれば、そのような境地に至るのです。古井氏がいう本当の作家は果たして、世界に何人くらいいるでしょうか? たぶん、世界に一○○人、日本では五人くらいではないでしょうか。》

     この「番外編」は力が入っていてよいのだが、本書全体についてちょっと残念なのは、他の作家の作品や自作からの引用文がやたらと多いところ。必然性の感じられない引用も目立ち、ページ稼ぎにしか思えない。引用を全部取っ払ったら、ページ数は半減してしまうだろう。

     丸山健二の「小説の書き方」本である『まだ見ぬ書き手へ』は、ほかの作品からの引用をただの一つも用いずに書かれていた。その点でも、あの本は潔い名著であったと思う。

  •  あの島田雅彦も年取ってずいぶん説教くさくなったものだな、という感想は措いて、かなり具体・実践的な「小説の書き方」指南書。特に創作への関心も意欲もない者にとっても、「小説の読み方」の参考になる。

  • 分類されているのでポイントが把握しやすい。
    百科全書的小説の執筆を目指して、得意分野の知識をより深めようというのは面白い
    なんかところどころ鼻につくがノウハウ本だしまあどうでもいいか。

  • 島田雅彦による小説の書き方指南書。小説の書き方や考え方を論理的に解説する。
    普段はあまり小説を読まないので、小説技法については気にしたことがなかったが、これを読むと小説家はさまざまな技法を駆使し、緻密に設定しながら書いていることがよくわかる。小説をジャンル、構成、書かれる対象、語り手、対話、描写、視点、時間、言葉、書く目的等の要素別に解説しており、小説を書くためだけでなく、読む際にも参考になると思う。ただこの本に書かれている内容は、非常に緻密で、著者にとっては最低限のルールなのかもしれないが、これから小説を書きたいと思う初心者には、かなりハードルが高そうだ。著者は、小説家を目指すのであれば、このルールを踏まえたうえで更に個性を持たせることが必要と説く。各章の最後にトレーニングの課題があり、これを実践してみると自分の能力がよくわかる。(自分は小説家にはなれそうにないと自覚できます)
    小説の読み手側としては、作者の力量を推測するのに役立ちそうだ。

  •  身もふたもない言い方からはじめますと、小説のみならず、あらゆる表現活動を行おうとする際、自分の無意識のパワーなどというものを過信してはなりません。この〈特別な私〉が主体であれば、カメラのシャッターを切れば自意識が反映されたすばらしい写真が撮れ、舞台に立てば魂の叫びが観客の心を打つ演劇表現になる……などとは、ゆめゆめ思ってはならないのです。

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著者プロフィール

作家

「2018年 『現代作家アーカイヴ3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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