戦前日本の「グローバリズム」 (新潮選書)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106036781

作品紹介・あらすじ

満州と関東軍、軍部の政治介入、ブロック経済による孤立化、日中戦争…多くの歴史教科書が「戦争とファシズム」の時代と括る1930年代。だが、位相を少しずらして見てみると、全く違った国家と外交の姿が見えてくる。国際協調に腐心した為政者たち、通商の自由を掲げた経済外交、民族を超えた地域主義を模索する知識人-実は、日本人にとって世界が最も広がった時代だった。

感想・レビュー・書評

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  • 東2法経図・6F指定:210.7A/I57s/Inoue

  •  1930年代を定説とは違う視点から描いていて新鮮。曰く、「満蒙は日本の生命線」松岡洋右の目標は、軍事的膨張ではなく、日満提携と外資による満州の経済開発。国際連盟脱退で日本は国際的に孤立したわけではなく、その目的は満州事変を国際連盟の審議対象から外し、欧米との部分的な関係修復を図ることであり、それは一旦成功。ファシズムはデモクラシーから繋がるもので、同時代の欧米やソ連もある程度共通の国家主義を採っていた。英のブロック経済に対し日本は自由貿易路線。日満はブロック経済だったが、それも米国依存。東亜同文学院など、中国や「南洋」理解は進む。
     では、なぜ日中戦争は拡大したのか(本書では国民の熱狂を例に挙げている)。昭和研究会はなぜ矢部貞治のような知識人、更には国際協調を擁護する蠟山政道や、中国統一に共感し対独伊提携への疑問を唱える中山優を迎えたのか、それとも元々このような人々をも包含する存在だったのか。自由貿易を掲げ経済的に対米依存だったのになぜ対米開戦に至ったのか。この時代の複雑さを一層感じる。

  • 1930年代のグローバリズムに日本がどう対応したのかについて,独自の視点を提供している。

    各国がブロック経済で反自由貿易的な政策を採る中,日本は2国間交渉で地道に自由貿易の道を探る。日印会商や日蘭会商もそうした文脈で再解釈されている。国際連盟の問題も同様。

    戦前期の日本がギリギリのところまで自由主義貿易を追求していったことはもっと強調されるべきだろう。

  • ・松岡洋右は満蒙の経済的活用を主張していたが、満州事変によりその目標が潰えた。満州国がアメリカ資本の導入を目指した旨は[http://booklog.jp/item/1/4582764053]にも記述があったような。日本は当初米英に接近しようとし、独伊とはむしろ仲が悪かったという。のちの同盟関係からすると意外だが、ナチスの思想の根本に人種差別があることを考えるとむしろ自然なのか。ファシズムへの共感とヒトラー体制への賛意は異なっていたよう。
    ・国際連盟脱退をめぐる状況。脱退は国際連盟に三行半を叩き付ける行為と思っていたが、満州国が連盟に承認される見込みがなくなり、制裁の対象となることを避けるため先手を打っての脱退であって、その後も別の場面では国際協力を続けようとしていたという。チェコスロヴァキアを通じて小国を味方につけようとした駆け引き。
    ・南洋や中国への関心。地域研究を担った東亜同文書院、東亜経済調査局附属研究所(大川周明、イスラーム研究)。関心を持たないことが孤立化への道だとしたら、学ぼうとすることは確かに鎖国と真逆の姿勢だろう。動機はさておき。それをグローバリズムと呼ぶ、のか。

  • 著者:井上寿一(日本政治外交史・歴史政策論)

    【メモ】
      ・2011年以降の著作
    『戦前昭和の社会 1926-1945』(講談社現代新書, 2011)
    『戦前日本の「グローバリズム」 一九三〇年代の教訓』(新潮選書, 2011)
    『戦前昭和の国家構想』(講談社選書メチエ, 2012)
    『政友会と民政党 戦前の二大政党制に何を学ぶか』(中公新書, 2012)
    『理想だらけの戦時下日本』(ちくま新書, 2013)
    『第一次世界大戦と日本』(講談社現代新書, 2014


    【目次】
    1章 満州-見捨てられた荒
     本土の無関心
     現地居留民と関東軍の危機
     満州事変-「満洲」の再発見
    2章 国際連盟脱退とその後(欧州を知る)
     欧州の現実を目の当たりに
     極東における危機と欧州にとっての危機
     欧州諸国との新しい外交関係の模索
    3章 国内体制の模範を求めて
     「挙国一致内閣」の国際的な連動
     国家主義のなかの欧米
     民主主義の再定義
    4章 外交地平の拡大
     地球の反対側にまで展開する経済外交
     経済摩擦と国際認識
     地域研究の始まり
    5章 戦争と国際認識の変容
     日中戦争と「東亜」の創出
     ファシズム国家との対立
     「南洋」との出会い

  • 満州事変から太平洋戦争まで戦争への道をひた走ったのではなく、外交や経済でのグローバリズムが存在していたことを克明に明らかにした内容。
    これが、マスコミと国民の戦勝ムードによって判断を誤らせたことが指摘されていて、まさに現在の安倍政権肯定の風潮と重なり、危機感を覚えます。

  • 1930年代ーそれは日本が最も世界を知った時代であった。

  • 第3章の「国内体制の模範を求めて」のドイツ(第三帝国のほう)に対するスタンスの違いと距離感の変化に関する記述がとても面白かった。

    受験ストーリー的にキャッチフレーズで既成事実化させて整理しているような部分に対しての「視点を変える」作業を行うのにとてもいいテーマ設定と本の構成だったと思います。章ごとの結論部分のまとめがあるのも良かった。

  • 1930年代の日本は満州事変と国際連盟脱退によって国際的に孤立し、それが後の太平洋戦争に至るという従来の考え方を修正する。第一は経済外交、第二は対外認識、第三は国内体制の国際的な連動であり、協調と平和を意図しながら、結果は戦争に至ったと論じている。だが、何故意図したことと違う方向に進んだのかが、「歴史の逆説の力学」という言葉で片付けられ、本書を読む限りでは、あまり詳しく述べられていない。私が知りたいのはその「何故」であったのだが。

  • 歴史の逆説を追跡する一冊。ただし「回帰」志向に「流用」はされたくはない。

     戦前日本の通俗的なイメージはたくさんあるし、教科書的に生成されたイメージそのものが完全な誤りであるわけでもない。しかし、通俗的なイメージの拡大は「実際のところ……」という側面を簡単にかき消してしまうこともある。
     結果としてみれば、確かに軍部独裁によって破産してしまうのが戦前日本の行き着くところだし、軍人が政治に口を挟むようになったのは問題の一つだ。しかしその襞をかきわけてみると、デモクラシーがファシズムに打倒されたわけでもない。政党内閣瓦解後のデモクラシー側の課題は、新しい政党政治の確立だが、その中で、ファシズム国家に範を見て改革を模索する人々も現れてくる。デモクラシー擁護の試みがファシズム受容につながってしまうというわけだ。
     また第二次世界大戦といえば、持たざる国日本、ドイツ、イタリアの同盟だが、同盟が形成されるまで、日本とドイツは仲がよかったわけでもない。古くは日清戦争後の三国干渉やドイツ肯定の黄禍論、そして第一次世界大戦では敵味方に別れて闘った。日独親善は実は至難の連携だったのだ。
     そう、歴史は単純じゃない。
     本書に一貫するのは歴史の逆説を追跡することだ。
     興味深いのは1930年代の日本は、内向的というよりもどちらかといえばグローバリズムの展開を模索していたということ。その文脈で満州国の成立や国際連盟の脱退という筋道がでてくる。著者によれば、国際連盟から脱退することで、アメリカによる対日経済制裁を回避でき、脱退後、アメリカによる牽制は沈静化に向かい、欧州各国との外交関係も再設定が可能になったという。たしかに結果としては手を挙げるという暴挙に出てしまうことは事実だし、それは問題であろう。しかしそれを目指したわけでないというのはまさに「歴史の逆説」でもある。
     著者が注目するのは1930年代。この時代は満州事変に始まり、満州国建国、国際連盟脱退を経て、日中戦争に至る時代である。確かに軍国主義日本が国際的に孤立し、ファシズムへの道をひた走る……というのがお約束な理解だ。それは決して否定できないことだ。しかしその限定的認識の枠外には膨大な道筋があったということを無視する必要もなかろう。
     単純なものの見方を通底から揺るがす興味深い一冊であり、歴史の教訓から学ぶことは大いにある。ただ、付言するならば、こうした新しい試みが、何か「回帰的」なるものを志向する人間たちには「利用」されたくもないのも偽らざる読後感でもある。
     そして危惧すべきは、積極的な「回帰」派のひとびとよりも、語らぬ「予備軍」としてのマジョリティへ自負を与えるような読み方は敬遠すべきだろう。そのことは副題となっている「一九三〇年代の教訓」に泥を塗ることになってしまうからだ。

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著者プロフィール

井上寿一
1956年(昭和31)東京都生まれ。86年一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。法学博士。同助手を経て、89年より学習院大学法学部助教授。93年より学習院大学法学部政治学科教授。2014~20年学習院大学学長。専攻・日本政治外交史、歴史政策論。
著書に『危機のなかの協調外交』(山川出版社、1994年。第25回吉田茂賞受賞)、『戦前日本の「グローバリズム」』(新潮選書、2011年)、『戦前昭和の国家構想』(講談社選書メチエ、2012年)、『政友会と民政党』(中公新書、2012年)、『戦争調査会』(講談社現代新書、2017年)、『機密費外交』(講談社現代新書、2018年)、『日中戦争』(『日中戦争下の日本』改訂版、講談社学術文庫、2018年)、『広田弘毅』(ミネルヴァ書房、2021年)他多数

「2022年 『矢部貞治 知識人と政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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