私たちはなぜ税金を納めるのか (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106037276

作品紹介・あらすじ

国家と経済と私たちの行く先は? 21世紀必読の税金論! 市民にとって納税は義務なのか、権利なのか? また、国家にとって租税は財源調達手段なのか、それとも政策遂行手段なのか? 17世紀の市民革命から21世紀のEU金融取引税まで、ジョン・ロックからケインズそしてジェームズ・トービンまで――世界の税制とその経済思想の流れを辿り、「税」の本質を多角的に解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 「税金」と言われると、いやいや払うものというイメージがどうしてもある。
    広辞苑を引くと、「租税」の項には、「みつぎもの、年貢」という定義の次に、「 国家または地方公共団体が、その必要な経費を支弁するために、法律に基づき国民・住民から強制的に徴収する収入」とあるという。
    国家というものがあり続けるためには、「税」という収入源が必要なのだ。
    本書では、租税が歴史的にどのようにして生まれてきたのかを追い(主に欧米が対象)、その意義を問い、将来を考える。
    税制の歴史の流れとともに、哲学者・経済学者たちの種々の国家論や租税理論を紹介・解説している。

    近代までの国家は、国家の持つ財産(「家産」)で財政を賄う「家産国家」だった。だが、支出の増加のため、それでは立ちゆかなくなり、「租税国家」へと移り変わっていく。
    多くの場合、租税制度を変化させる大きな契機は戦争であった。有り体に言って、戦争には「金」が掛かるからである。

    租税を考える上で、「義務」として政府が上から払わせるか、「権利」として市民が下から支えてくかの2つの視点がある。市民革命を経た場合は、国家を支える「権利」としての側面が大きいという。

    課税をいかに公平に行うかというのは大きな問題である。制度の変遷は公平さを追い求めての変遷とも言える。

    租税は「財政上の必要を満たすため」という面が大きいが、一方で、政策手段として行う場合もある。課税により、経済システムを制御していこうという試みである。CO2排出に掛けられる税などがこれにあたる。この課税の問題は、政策上の目的が達成されれば、税収が減るというジレンマである。

    税は時代とともに変わる。近年、新たな税として注目されるのは、「金融取引税」である。金融派生商品に掛けられるもので、元はといえばリーマン・ショックに端を発するという。経済は実物経済から金融経済へと大きく推移してきた。こうした税が導入されれば、金融危機の対処費用としても運用可能であり、投機的取引を押さえる政策課税としての側面も持ち、またこうした税の負担は主に富裕層に掛かるため、公平性の面からも適切と言えるようである。

    国際化が進む情勢の中で、将来的にはグローバルタックス(世界共通の課税)が構想されてきている。南北格差や環境に関する問題など、国を超えて解決しなければならない問題に充てる財源を持つ必要があることが見込まれる。こうした税を誰がどのように管理するか、実際上の問題はあるが、大きな視点で見ていくことは大切なことだろう。

    日本の税制の流れについては、あとがきに簡単にまとめられている。
    日本の所得税は明治20年に導入されている。明治政府による「上から」の導入になる。但し、日本の税はいささか特殊で、納税と選挙権が連動していたため、「名士」の証明となる面もあった。高度成長期には放っておいても税収は伸びたが、そのままの税制では難しくなってきている。公平性をもって税収を上げていく必要がある。

    いささか断片的だが、本書で印象に残った点を挙げてみた。専門外のため、読み落とし、読み違いがあると思う。ご指摘があればありがたく受けたい。



    *18世紀のイギリスでは、収入を正確に見積もることが困難であったため、馬車や下僕を所有しているかで課税率が決まったりしたこともあったという。

    **以下、まったくの与太話です。
    一応、個人事業主なもので、年度末は毎年、ぶーたらいいながら確定申告します。必要経費をまとめ、帳簿を整え、控除分を引き、課税率を掛け、なんちゃらをかんちゃらし・・・。
    「むきぃぃぃぃ。どこの世界に支払うものの代金を客に計算させる商売があるんだよ(怒)!! しかも計算がめんどくさすぎ!!」と荒れ狂ってやるわけですが(^^;A)、これもまぁ「むしり取られている」と思うからそう思うわけで。
    税金の本を読んだし、今年度からは「あら、面倒だけど、仕方がないわね、おほほ・・・」とココロ穏やかにやれるかな(==)。きっと無理(^^;)。

  • 何かのレビューを見て、読みましたが期待していたものと全然違いました。タイトルにある結論に至るまでの、解説の長さに根が負けます。とても教科書的な本で、私にはとてもハードルが高すぎました。世界における税金の成り立ちから、それを納める必要性までをそういう方向から捉えたい方には向いているかもしれませんが、軽い気持ちで読み始めると永遠に終わりが来ないかもしれません。

  • 少し堅く言えば、租税を通して見た国家論です。扱っている範囲が近代の欧米、それも英米仏と独が中心なので、そういう意味での限界はあるでしょうが、現在の日本国民が考えなければいけない項目はキチンと提示されていると思います。バランス良く叙述しながら、これからの最大の課題である、国境を超えた金融取引と課税回避行為について、読者が前向きに考える材料を提供しています。
    国家の役割と限界、グローバル化してゆく資本主義経済の制御、そのためのトービン税(金融取引税)など新たな税制の可能性、と書くとなんだかとっつきにくそうな印象を受けるでしょうが、大学教養課程程度、かつ、表現も平易で読みやすい本です。

  • 東2法経図・6F開架:345.2A/Mo77w//K

  • 開始:2022/10/31
    終了:2022/11/8

    感想
    税の切り口から経済史、経済思想史を概観する。税は単なる政府財源ではない。あらゆる経済主体に影響を与え、ひいては資本主義の手綱を取る。

  • 税金を取りやすいところから取っていこう、の取りやすいところに属する私、、、

  • 諸富徹の2013年の本。ただ消費税議論が選挙でも争点になったいま、改めて手に取る価値がある。「税金を取られる」という言葉の違和感から、浜矩子の「人はなぜ税金を払うのか」(東洋経済新報社)とともに手に取った。
    両者とも収奪型税制は近代において大転換をしたという共通認識を持つ。
    浜さんは税金は権利か義務か博愛かと義務から権利への転換をフランス革命に置き啓蒙思想の「自然権」のもとで「権利」にまでなった。それからたぶん税の所得配分機能を理論化する中で「愛」に現在なったと言う。それはそれでなかなか心を揺さぶる。
    まず各々の国で税導入の契機は戦争だった。イギリスでは対スペイン戦争、アメリカでは南北戦争、日本においては日清戦争が思い当たる。
    家産国家から租税国家への転換において、市民革命期のイギリス、19世紀ドイツの財政学、アメリカの政党政治のなかでそれぞれの租税思想が形づけられたという。
    イギリスでその思想を代表するのがロックとホッブスで自主的納税倫理を確立しただ、市民が税を納めるのは国家が本来の機能をはたしている限りでそれを破れば納税を停止するばかりか国家の転覆「革命権」さえ持つ。市民は議会を通じて「租税協賛権」を持つ。
    これと典型的に違うのがドイツの例である。

  • あとがきで、「日本の明治期の税制では、直接国税を一定額以上納めた者に対して選挙権が与えられた歴史があり、納税が「義務」どころか一種の「特権」「恩恵」と理解されるという歪みが生じた」という事が書いてあり、これはなんか現代に繋がっているなと思った。

  • 2013・8に図書館から借りるが読まずに返却

  • 政治
    社会
    お金

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著者プロフィール

諸富 徹(もろとみ・とおる):1968年生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。現在、京都大学大学院経済学研究科教授。専門は財政学・環境経済学。『グローバル・タックスーー国境を超える課税権力』(岩波新書)、『人口減少時代の都市』(中公新書)、『私たちはなぜ税金を納めるのか』(新潮選書)、『資本主義の新しい形 (シリーズ現代経済の展望)』(岩波書店)他著書多数。

「2024年 『税という社会の仕組み』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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