昭和天皇 「よもの海」の謎 (新潮選書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106037450

作品紹介・あらすじ

御前会議で読み上げられた明治天皇の御製、その解釈を巡る闘いが昭和史を動かした――。「よもの海みなはらからと思ふ世に……」、それは本来言葉を発してはいけない天皇が、戦争を避けるためにあえて読み上げた御製であった。しかしその意思とはうらはらに、軍部強硬派による開戦の口実に利用され、さらに戦後の戦争責任にも影響を及ぼしていく……。御製はいかに翻弄されていったのか――知られざる昭和史秘話。

感想・レビュー・書評

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  • 昭和天皇の和歌を縦糸に、天皇に関わりのあった要人たちの言動が検証されます。和歌から天皇のお気持ちを忖度するのは、解釈側の主観でしかないでしょう。それよりは、数多くの日記をすり合わせる努力から、事実が見えています。まだ、あの戦争は正しく総括されていません。未公開資料は、経験を無駄にしないために全て公開してもらいたいですね。

  • ふむ

  • 「よもの海みなはらからと思ふ世に
                   など波風のたちさわぐらむ」

    昭和16年9月6日、日米開戦か、回避かを決する御前会議の
    終盤。慣例を破って昭和天皇は発言を求めた。そこで読まれた
    のが明治天皇が日露戦争の際に詠まれた御製だった。

    慣例を破ってまで明治天皇の御製を読み上げたのは、外交の
    力で日米開戦を回避せよとの昭和天皇の意思表示だった。

    しかし、大御心とは反対に日本はアメリカとの戦争に突入して
    行く。和平を望んで読み上げたはずの御製は軍部によって
    都合よく解釈された。

    日本は何故、昭和天皇の思いと裏腹の道を進むことになった
    のか。本書は明治天皇の御製の作られた時期、異なる解釈、
    戦後の昭和天皇のお言葉までを追って、「よもの海」の変遷を
    追っている。

    膨大な資料を突き合わせている、その労力は凄い。だが、本書
    は「検証」にまでは至っていない。昭和史の謎を解くというよりも、
    著者の推測を積み上げているだけなので、「歴史検証」として
    よりも「エッセイ」として読んだ方がいいかも。

    著者が提示しているのはあくまでも「仮説」なんだよな。軍部が
    日米開戦に「よもの海」を利用した証拠がまったくないんだもの。

    軍部の動き、側近の思い等、参考になる部分もあるのだけれど、
    時々、まったく関連の感じられない話がはさまっているので
    読み手としては「これがどこへどうつながるんだぁ」と叫びたく
    なった。余計な記述は削ればよかったのに。

    ただ、御前会議での「よもの海」があったからこそ、戦後の
    訪米でホワイトハウスの前で読まれたお言葉に「両国の
    国民は、静けさの、象徴である太平洋に、波風の、立ち
    騒いだ、不幸な一時期の、試練に耐え、今日、ゆるぎない、
    友好親善の、絆を、築き、上げて、おります。」が含まれ
    たのだろう。

    先の戦争に対し、昭和天皇には様々な思いがあったこと
    だろう。だが、お立場上、それを公に出来なかったのでは
    ないか。著者は戦後の記者会見での歯切れの悪さを批判
    的に書いているが、言明することは出来なかったのだろう
    なと受け止めるわ、私は。

    尚、昭和天皇は病の床で御製の遂行を重ねていらっしゃった
    というのを初めて知った。有名な御製なので正式に発表された
    ものだと思っていたが、違ったようだ。以下がその御製。

    「身はいかになるともいくさとどめけり
                 ただたふれゆく民をおもひて」

  • 昭和天皇が太平洋戦争開戦を巡る御前会議において、慣例を破って発言された。それが明治天皇の作った歌「四方の海…」であり、戦争回避の願いを込めた行為であった。本書は、その発言をされた昭和天皇、発言を受けた陸軍の杉山参謀長、永野軍令部長、同席した関係者、さらには発言があったことを伝え聞いた近衛文麿、山本五十六という人たちの歌の受け止め方とその後を丁寧に追跡している。さらには、当時この歌が軍人や知識人にどのような形で知れ渡っていたのかにも目を向けている。掘り下げ方に浅さや偏り、過度の推測がなきにしもあらずだが、この件で一冊の本が書き上げられたことは特筆に値するだろう。
    それにしても、これを読むと当時の軍人たちの身勝手さと、昭和天皇の気持ちとは裏腹の消極的な行動というのが浮かび上がってくるのには、「やはりな」という感を強く抱かせられた。
    ちなみに、個人的に御前会議でこのうたを天皇が詠んだという事を知ったのは、日米合作映画『トラ・トラ・トラ』であった。

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著者プロフィール

平山周吉(ひらやま・しゅうきち) 1952年東京都生まれ。
1952年東京都生まれ。雑文家。慶応大学文学部卒。雑誌、書籍の編集に携わってきた。昭和史に関する資料、回想、雑本の類を収集して雑読、積ん読している。著書に『昭和天皇「よもの海」の謎』(新潮選書)、『戦争画リターンズ 藤田嗣治とアッツ島の花々』(芸術新聞社)、『淳は甦える』(新潮社)。『戦争画リターンズ 藤田嗣治とアッツ島の花々』で第34回雑学大賞出版社賞、『江藤淳は甦える』で第18回小林秀雄賞受賞。

「2022年 『満洲国グランドホテル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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