【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社
3.89
  • (20)
  • (41)
  • (23)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 329
レビュー : 34
  • Amazon.co.jp ・本 (141ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106037863

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 安定した高品質の池内さんの書籍。

    ・サイクス=ピコ協定は、オスマン帝国の最終的な崩壊に際して、中東に新たな国家と国際秩序を形作るという課題に、もっぱら域外の大国(英仏露伊)が主体となって取り組んだもの
    ・民族と宗派がモザイク状に展開する基本構図が変わらない限り、帝国や強権的な国家の崩壊が、細分化され断片化された割拠の状況を作り出すのは、一時的には不可避だろう
    ・不凍港を求めて南下するロシアとオスマン帝国との間では昔から戦争が絶えない。一方で、ロシアの急所であるオスマン帝国の首都イスタンブールはロシアは引続き支配できておらず、それが両国間に協調関係を生み出すことすらある
    ・トルコと、トルコから独立したギリシャとの間では戦争だけでなく住民交換が行われた
    ・西欧にとって、アラブ諸国やトルコは、地中海の東岸や南岸で、アラブ世界やその背後のサブサハラ・アフリカ、あるいは南アジアから流れ着く移民・難民を、人権や自由の理念・原則からは疑わしい手法を用いながら、食い止めてきた「ダム」か「壁」のような存在だった

  • 「オスマン帝国なんてぶっ潰して、あいつらの領土を山分けしよう
    ぜ」とイギリスが持ち掛けて、「そりゃいい考えですな、旦那」と
    フランスが合意したのが1916年のサイクス=ピコ協定である。

    その協定の詳細な解説かと思いきや違った。私も現在の中東の
    混迷を考える時、この協定を頭に置いているのだが、著者はこの
    協定だけが本当に中央混迷の根源なのだろうかと疑問を提示し、
    中東の歴史や地政学、複雑に交錯した民族模様や国家間の関係
    を解説した書だった。

    サイクス=ピコ協定単独ではなく、セーブル条約・ローザンヌ条約
    の3つをセットとして考えなければならぬと著者は説く。もうここで
    躓きましたよ。私はセブール条約とローザンヌ条約を調べるところ
    から始めなければならなかったもの。

    確かにサイクス=ピコ協定がすべての根源だとするには、この協定
    内容がすべて守らていなければならない。でも、それ自体が無理。
    だって、子供が考えても「それは無理だろう」っていう約束ばかり
    しているのだも、イギリスは。

    サイクス=ピコ協定の前年、「アラブ人の国を作るのを認めてやる
    からこっちの味方になってトルコと戦え」とメッカの太守であった
    フサイン家との約束である、フサイン=マクマホン協定があるで
    しょう。

    そうしてサイクス=ピコ協定の翌年には「ちっ、戦争にお金がかかっ
    て財政がピーンチ。あ、ちょっとお金貸してよ。貸してくれたらパレス
    チナに住んていいよ」と、ユダヤ人コミュニティのリーダー的存在で
    あったロスチャイルド家と約束したバルフォア宣言があるでしょう。

    「うわ、どれも守れないわ。しゃあない。新しい条約作って線引きしな
    おそう」で、セーブル条約とローザンヌ条約が出来たのね。って、こん
    な理解でいいのか、私は。

    イギリスにしてみたら自分たちは痛くも痒くもないから、どんな無理な
    約束でもしたんだろうけれどね。でも、やっぱりこの三枚舌外交は
    問題が多いと思うんだよね。

    百年の呪縛は解けるどころか益々混迷を深くしているように思える。
    ただ、本書で著者が書いているように難民が流出していることで
    少数民族の問題がある程度解決に向かっているという面もある。
    本当はあってはいけないことだけれど。

    結局は力でしか状況は変えられないのかな。アメリカとロシアの仲介
    でシリア内戦の、2度目の停戦合意が取り付けられたのはつい先日。
    それなのに、反政府勢力の地域にロシア軍が空爆だよ。

    大国の思惑に翻弄されるのは、いつも一般の市民なんだよね。どれ
    だけ血が流れて、涙が流れたら和平が訪れるのかな。

    読んでいて余計に出口が見えなくなってしまったので、私はやっぱり
    イギリスの三枚舌のせいにしたくなったよ。

  • レビュー省略

  • ちょうど知りたいと思っていた部分を、思っていたよりずっと深く教えてもらえた。
    今の混迷の原因がサイクスピコ協定という単純な話ではなくて、もっと昔からの経緯の中の過程のひとつという話。

  • 国際政治におけるトルコの重要性がよく分かる

  • 混迷する中東の歴史について、大国が切り分けたサイクス・ピコ協定だけが悪者なのか?
    現代の国家では、あまりに細分化されすぎるとて、政治的・経済的・軍事的に自立困難となる。(沖縄を独立させたらどうなるか考えて見るとよくわかる。)
    では結局、民族とは何なのか? 言語・遺伝子的特徴、文化
    の統合されたユニットと考えるべきなのだろうが、ユニットを構成する人員が少なすぎると経済的・軍事的に自立できず、どこかで別のユニットと共同して国を作る必要がある。
    現在の中東の混乱は100年前の無理なユニット同士の結託の綻びとも言える。

  •  現在もシリアを中心とした中東エリアは戦火と混乱の中にあり、悲惨な状況が終わる気配を見せていない。
     この地域の争いの大元の原因は、オスマン帝国の衰退と解体に見いだせるが、そのときのサイクスピコ協定が諸悪の根源であるとの世の評判は的確ではない、と作者は述べている。
     その理由をその後の歴史をたどりながら紹介説明していて、本書の題名だとそこが主眼に思えるが、実はその後の地域の状況や現在の考察が主体になっている。そして、現在の様相はオスマン帝国が崩壊した頃に状況が似てきたのではないかと心配し、大国の影響力など大きな違いもあるが、今後の激変を予想というか懸念している。
     本書は、なんで中東はいつも戦争しているのか?と感心ある人向けのいい入門書になっていると思う。

  • 新しい職場であるNGOの先輩に薦められた本。現在のシリア難民の経緯を紐解く一助になる、サイクス=ピコ協定の経緯と詳細、そしてこの協定がいかに現在の中東情勢に影を落としているかを簡単に説明した本。セーブル条約による細かい民族や宗派へのトルコ領の割譲とローザンヌ条約によるトルコ国民主義を反映した国境線の策定を経て現在の中東があるが、情勢不安を抑制する手は果たしてあるのか。協定の話以外にも気になる三文字団体、PKK・PYD・YPG・KNCなどが簡単に説明されており助かった。領土を広げたいロシア、クルド独立を抑制するためシリア情勢を混沌のままにしておきたいトルコ、ISを抑えるために「テロ集団」を支援するアメリカなど、各国の思惑が錯綜する中での難民問題解決は気が遠くなる程難しい事を痛感した。結局害を被るのは一般市民なのに。

  •  1916年に結ばれたサイクス=ピコ協定から,その後の100年間の中東世界や地中海東岸世界の動向や構造をまとめた,著者が「中東ブックレット」と呼ぶ作品の一作目です。
     この地域のこの100年の動向を把握できる良い作品だと思います。より深い考察はできると思いますが,背景と概略,現在の動向を把握するにはいい位置づけと分量の内容だと思って読んでいました。
     現在でも激動のさなかにある地域であり,常に状況が変わるとともに,世界の各地のいろんな分野に影響を与えている地域ですが,その背景の概略を把握するためには良い本だと考えます。

  • 混迷する中東の歴史について、中東を大国で切り分けたサイクス・ピコ協定だけが悪者扱いされているが、現地の諸勢力の意向を反映して細かく切り分けたセーブル条約や、それに反発したトルコ人による支配地域の拡大を諸大国に認めさせ、現在のトルコの国境をほぼ確定したローザンヌ条約も、あらゆる方法が試され、その度に済む土地を追われて、命を落とす人々を多く生み出した。
    セーブル条約では細分化されすぎており、政治的にも経済的にも自立が困難だった。
    結局は西欧や周辺大国による様々な思惑と介入、植民地化、侵略が昔から中東をゆるがしている。

全34件中 11 - 20件を表示

池内恵の作品

ツイートする