- Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106037863
作品紹介・あらすじ
百年前、英・仏・露によって結ばれた秘密協定。それは本当に諸悪の根源なのか。いまや中東の地は、ヨーロッパへ世界へと難民、テロを拡散する「蓋のないパンドラの箱」と化している。列強によって無理やり引かれた国境線こそが、その混乱を運命づけたとする説が今日では主流だ。しかし、中東の歴史と現実、複雑な国家間の関係を深く知らなければ、決して正解には至れない。危機の本質を捉える緊急出版!
感想・レビュー・書評
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パレスチナ紛争の再燃を受け、こちらを読了。
露土戦争の歴史(クリミア、アルメニア、クルド人自治区、シリア…)が今の国際情勢へと続いていることが良くわかりました。
地図で見ると、トルコって本当にすごい立地ですね。。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ある意味、強権国家の支配者にとって統治に邪魔な民族を追い払い、均質な住民構成とする方が支配は安定する
→難民を流失させることは政権維持のための合理的判断
難民問題は欧米の有力メディアに報じられ、世論喚起により初めて国際政治上の問題として注目されるようになる
西欧諸国の中東諸国への批判(中東の政治的自由の不在、人権侵害、民主化の遅れ)
独裁政権の民族主義(反欧米、反イスラエルの排外的スローガン)喚起
→多様な国民(言語・宗教宗派の多様なコミュニティ)を一方向 に向け、統制する有効な手段
アラブ諸国やトルコがその背後の地域からの難民を人権や自由の理念から疑わしい手法で受け入れてきた
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西欧諸国はそれを非難するが、第二次世界大戦後、かっての植民地から大量の難民の波に襲われることなく、紛争の影響を受けることなく、経済発展に必要な移民のみをある程度選択して受け入れることが可能であったのはこれらの諸国が難民の防壁となっていたこともまた事実。 -
サイクス・ピコ協定をマジックワードのように扱うべきでない、という主張はよく理解できるけど、それと相反するようなタイトル(笑)
今読んで思うのはこれが書かれた以降の急速な中国のプレゼンスの上昇。米露の合意が鍵だろうと書かれていたけど、全く異なる方向から中東問題の鍵を握るのは中国かもしれないなと、震えながら… -
サイクスピコ協定は歴史の流れの中で理解する必要がある。オスマントルコの衰退、アラブの混乱、ロシアの台頭…と言った流れ。
当時、英仏はその状況に対処する適切な案として締結。しかし当のトルコ、アラブを飛び越えて、上から目線で制御を試みた。西洋人がアジア人(中東人、トルコ人も含む)を人種として差別的に見ているためか。
他に、セーブル条約、ローザンヌ条約をセットで考える必要あり。
ページは薄めだが、内容が濃い。
読了60分 -
タイトルの通り、現代の混迷した中東事情の背景を、サイクス・ピコ協定を端緒にすえて論じる本である。
そもそも評者は世界史音痴がゆえに、サイクス・ピコ協定という名前は聞いたことがあってもなんなのかはよく分かってなかった。読んだ感じ、世間的には不安定な中東情勢はサイクス・ピコ協定が直接的な原因だと考えられているようだ。
しかし、筆者はこの協定がすべての原因というわけではなく、セーヴル条約とローザンヌ条約という取り決めの重要性を強調する。昨今の中東情勢の背景には、民族、領土、宗教などの諸要素があり、複雑な事象が絡み合っているため、その解決は一筋縄ではいかないということが分かった。
以前はアラブ諸国やトルコが難民移民の受け皿になっていたが、それらの国々の政情が不安定になることで、難民移民はその先のヨーロッパにたどり着く。ここにきてはじめて、難民問題は国際政治上の問題として表明化してきてた、とする筆者の論にはなるほどと思う。
トルコ(かつてのオスマン帝国)の存在は中東で大きい。その成り立ちを知る意義はあるだろう。対イスラム国紛争で名前を聞いたクルド人も取り上げられている。
1次大戦期における英仏のオスマン帝国領土への介入は些か不愉快である。 -
「結局、サイクス=ピコ協定が中東の諸問題の根源だ」。これは一見首肯しやすく、世界史でもよく教えられることからあまり疑いもせずつい使ってしまう「マジックワード」だと筆者は始める。
サイクス=ピコ協定とはどのような意図を持ってなされたのか。そして今までどのような影響を中東に及ぼしてきたのか。個別テーマについて委細深掘りしていく本書は知的興味を満たすだけでなく、露土の微妙な関係性や複雑な民族問題など、その根本背景にある課題がいかに複雑で、生半可な解決策では解消しないことを再認識させてくれる良著である。
本書発刊の2016年は同協定から100年の節目にあたる。2022年2月には、とうとうロシアのウクライナ侵攻という大事件まで起きた。この書を今改めて手に取ることは、単なる二項対立でしか語らない諸メディアの軽薄な論に踊らされないようにするためにも非常に有益である。 -
ビックリするくらい中東情勢について分かったような気にさせてくれる。
トルコとシリアのやっかいさから学ぶ近現代の国際政治の枠組って感じかしら。 -
イスラム国等、中東情勢の混迷は続いている今日ですが、これは何も今始まった出来事ではなく、過去から続く問題が同じような形のまま現れているに過ぎないということを理解すること。それによらなければ、今日の状況を理解することが出来ません。その状況に「サイクス=ピコ協定」がどんな役割をはたしているのか。それを理解するためには、負の側面だけではなく、これが上手く利用され、この地域の混迷を一時凍結したことも知る必要があります。本書では、中東地域に渡る複雑な情勢について、ポイントとなる点を章ごとに詳しくまとめられています。一つ一つを丁寧に整理することにより、何が起こっているのかの見取り図が、かなり明るく見渡せるようになると思います。そして、複雑さは問題になりやすいのですが、安易に簡単な解決を行うことは悪であり、慎重さと対話がいかに重要であるかを考えさせられます。
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★難しさばかりを痛感★整然とした国境線にみえるように、中東は外部勢力による人為的なルールで縛られている。「少数民族」とは自然に生まれる民族ではない。多数派が自らと異なるものと決めて特定の政策を作るから誕生する。そして少数民族が独立すると新たな少数民族を生み出す。民族はどこまでも分裂していくだけに解決は簡単ではない。悲しいことに中東に解決できる勢力はないが、解決策に対する拒否権を持つものは多い。