立憲君主制の現在: 日本人は「象徴天皇」を維持できるか (新潮選書)
- 新潮社 (2018年2月23日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106038235
作品紹介・あらすじ
「時代遅れ」な制度が今ますます機能している理由とは――? 日本の「象徴天皇制」をはじめ、世界43ヵ国で採用されている君主制。もはや「時代遅れ」とみなされたこともあった「非合理な制度」が、今なぜ見直されているのか? 各国の立憲君主制の歴史から、君主制が民主主義の欠点を補完するメカニズムを解き明かし、日本の天皇制が「国民統合の象徴」であり続けるための条件を問う。
感想・レビュー・書評
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どこかで見た書評が気になったので図書館で借りて読了。
タイトルどおり、21世紀の現在にあって君主制を採用している国を概観することができる点は非常に面白く、知らないことも多く楽しめた。イギリス、北欧、ベネルクス、アジア、と地域ごとに分けての概説も特徴をつかみやすく、理解を助ける構成だったと思う。
ただ、著者の専門がイギリス政治外交史・ヨーロッパ国際政治史ということで、全内容の半分近くがイギリス王室に割かれており、ややイギリス偏重の傾向はある。その部分も内容そのものは面白く、イギリスの歴史を王権と議会の関係に焦点を絞っておさらいする形になるのでイギリス史の俯瞰としてはわかりやすい。
副題の「日本人は『象徴天皇』を維持できるか」という煽り文句に関しては、最後の1章が当てられているだけで論考としては不十分かと思う。期待させる副題をつけるほどではないというのが正直なところ。
本書全体を読んで印象に残ったのは、多くの君主が(アラブの石油王に限らず)資産家であるという事実である。封建制度の長から国王という形へという経緯を考えれば大地主であることは当然なので、その上がりで巨大な不労所得があるのも当たり前で、首長としての生活基盤を支えるための資産を自前で賄えるというのも、言われてみればあるべき姿のように思う。翻って日本の皇室は、戦前までは同様に大地主であり資産家であったのだろうが、現在は上がりのとれるような不動産はほとんど所持していないようだ。皇族には戸籍もなければ人権もないということがしばしば言われるが、財産権もないのだなあと改めて驚いた。資産のこと一つ考えても、維持の難しい制度である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本の中で紹介された他の国と違って、日本の天皇は歴史はあるけどかなり長いこと権力とは縁遠かったわけなので、歴史的にはけっこう特殊なんじゃないかと思った。第二次大戦後はヨーロッパと同じような立憲君主制だけど。
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なんとなーく、君主制が何かしらの抑止になっているのだと気づいた。
著書のH.G.ウェルズのように、街中で天皇陛下が通るだけで街中が熱狂するのを違和感をもつ(怒りや嫉妬を感じる)のも当たり前の感覚だと思った。
全ては、天皇陛下の人柄ではある「国民の皆様の理解を・・・」そのような態度では、反対意見を言うのを憚れる。 -
民主国家とは本来合理的に両立し得ない筈の君主制。それでも、日本をはじめ君主制を採用している国は43カ国にのぼるという。
君主制がどのようにしてその国で必要な制度とされ、溶け込んできたのか。置かれた条件は国によりけりではあるが、任期のある政治家ではなし得ない長期的な視点、真に国家と国民を思う道徳観、国民統合としての振る舞いが相まったものなのだろう。
それを思えば日本に皇室があることがありがたく思えるが、皇位承継ルールを子細に眺めると前途洋々とはとてもいえない。
海外では君主制のあり方には不断の見直しがなされているという。それでも、それらは何らかの示唆にはなっても、日本の範にはならない。私たち自身が考えて決めていかなければならないことだと感じた。 -
本書の大半を占める各国の個別史は馴染みがなく、初めて知ったことも多かった。
前書きにて。WWII末期、極貧層出身で労働党のべヴィン英外相が、WWI後に独カイゼル体制を崩壊させ象徴を奪ったことがドイツ人のヒトラー台頭への心理的門戸を開いた、と断言したという。だとすると、天皇制を廃止していたらその後に日本には何が起こっていただろう。
各国ごとに立憲君主制の制度は少し異なる。たとえば英女王は軍の最高司令官で国教会の長だが、方や天皇の統帥権と国家神道が今や否定的に評価されていることからすれば、不思議にも思う。また、近年の例ではダイアナ妃の離婚や死去後に英王室が歳費改革や広報に努めたように、あり方も時代によって変化している。
その上で著者は、制度のみでなく君主個人の資質、またそれ以上に政府や国民の成熟度を立憲君主制が続く要件として結論づけている。 -
本書は、21世紀の今日ではもはや「時代遅れ」と見なされることも多い、国王や女王が君臨する君主制という制度を、いまだに続けている国々の歴史と現状を検討して、「立憲君主制」が民主主義の欠点を補完するメカニズムを解き明かし、現代の日本の天皇制への示唆について考察している。特に、著者の専門とも関わって、イギリスの立憲君主制の形成過程及びその意義について丁寧に繙かれている。
本書は、我が国の象徴天皇制の行方をはじめ、現代の(立憲)君主制について考える上で必読といえる良書であると感じた。特に、共和制にはない立憲君主制の良さとして、連続性及び継続性があるということを再認識した。 -
2018/5/1 TBSラジオ セッション22 荻上チキ
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