武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
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レビュー : 356
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106100055

作品紹介・あらすじ

「金沢藩士猪山家文書」という武家文書に、精巧な「家計簿」が例を見ない完全な姿で遺されていた。国史研究史上、初めての発見と言ってよい。タイム・カプセルの蓋を開けてみれば、金融破綻、地価下落、リストラ、教育問題…など、猪山家は現代の我々が直面する問題を全て経験ずみだった!活き活きと復元された武士の暮らしを通じて、江戸時代に対する通念が覆され、全く違った「日本の近代」が見えてくる。

感想・レビュー・書評

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  • 面白!

    家計簿から見える加賀藩の御算用者(経理)、猪山家三代の人生。

    武士ってファンタジーな存在が、家計簿(つまり生活の記録)を通して輪郭のある個人として浮かび、その生活(苦)に触れて生々しく、親近感を抱きました。

    そしてこの家族の経歴が凄い!
    祖父信之、父直之、そして成之の三代が幕末から明治維新まで加賀藩に、後に成之は新政府の海軍に官任するのですが、この歴史を生きた「生の声」は大変興味深く面白かったです。



    信之、きみは幸せだったのか?
    自分のお金持ち出して、藩の事業成功させ、けれども見合った給料が払われていたとは言いがたい。。。結局家財道具一式を売り捌く羽目になっている(こんなことが赤裸々に暴かれている)。
    そもそも、武士の収入と「身分を維持するための費用」を比較するに、武士って、全然「おいしくない」立場とさえ思います。
    それでも子の直之と孫の成之も同じく会計係として勤め続ける(それしか道がない)のですが。

    そして時代の流れで維新が起こり、新政府で実務に長けた成之が、従前よりもっと高給取りになったことは、良かったじゃないか(武士なんて廃止になって)!と思います。

    子どもが高給取りになって維新の恩恵を受けている直之は、しかし、新政府に不満を抱いている様子もあり。。。

    この辺り、現代でも、新しい技術を受け入れられない、昔の効率的でない、勤続年数だけで地位について仕事しないおっさんおばさんの(ごめん、素直に言うと、老害)の嘆きに通じるものがあり、いつの時代も、新しい時代に適応する人と歴史と共に死んでいく人に分かれていくんだなとしみじみ思いました。


    歴史に触れるって、結局、現在の自分の価値観を浮かび上がらせることになりますね。


    ちなみに、直之は優秀な実務屋さんでした。なので彼を老害とは言えません。加賀藩で大出世もしてます。むしろ新政府に携わっていたら彼も頭角をあらわしたかもしれませんが、年齢もあり、それは叶いませんでした。

    この辺り、加賀藩は徳川慶喜側についていたり、おそもそも維新後の政府要職は薩長の人間が占めているなどいろいろ政治の趣がありますがそれはまた別のはなし。



    歴史おもろいね。年号や人物名暗記するだけの下らない授業しないで、こんな面白いことを教材に、社会のあり方について考えを述べさせる授業をしたらいいのに!


    思うことがたくさんある良い書でした。

  • 世襲制が続いた江戸時代。その世襲制に終わりを告げる例外を与えたのが算用者という職種。つまりそろばん方だそうです。武士はこのような学問は下級武士が行うものとバカにしていた。しかしながら、算用方は必要ということで能力次第で登用される。ナポレオンも下級騎士出身だったため、大砲方を選んだのは、同じ事情がヨーロッパにもあったそうです。数学が世襲制を打ち砕いて近代化を進めたのは、感慨深い。

  • 家計簿ってその家の歴史ドラマがつまってるんだなぁ。面白かった。

  • 時代は幕末。新しい時代を築くべく行動を起こした若きリーダー達(坂本龍馬や高杉晋作など)ではなく、歴史上無名の一介の士族・猪山家がこの激動の時代をどう生き抜いたかが家計簿と手紙のやり取りから手に取るように見える。
    "歴史とは過去と現在のキャッチボールである” 
    テクノロジーによって日々目まぐるしく進化する今の世の中をどう生き抜けば良いのかという問いを持って本書を読んだ時、過去から返ってきたボールに学びを得た。幕末という激動の時代に生きた士族の運命は、世襲によって得た肩書や特権の上にあぐらをかいていた者と、”既存の組織の外に出ても、必要とされる技術や能力をもっている”者で大きく分かれた。これからどんな時代が来ようと、求められる人材というのは変わらないのだろう。これだけは誇れるという技術や能力を磨き続ければ、未来を恐れることはない。

  • 会社で経理をしているので、思わずのめり込んでしまった。
    漢数字での記帳とか帳合はどうやっていたのかな?
    江戸時代の会計に俄然興味が湧いてきた。
    帳簿関連の古文書を調べてみよう。

  • 幕末から明治維新までの武士の生活を加賀藩の武士が残した古文書から復元し、考察するもの。
    表題が「家計簿」となっているが、経済面だけではなく、当時の武士・士族の考え方、風習まで記しており、より幅広い範囲での考察が可能である。
    特に明治維新に入り、なぜ武士(士族)が大きな反乱なく、四民平等を受け容れたのか。武士の経済的な基盤を理解することで謎解きできる。

    江戸時代が約200年安定した政治基盤を持てたのも、「位は取るが実をとらず、位は取らないが実をとる」といった封建制とはいいながら、勝者が全てを取る、ヨーロッパスタイルではなかったことが要因ではないかと改めて実感。

    また、「石高」、「知行」などの実態の運用状況もなかなか分かり難いところであるが、それも実例に基づき分かり易く説明されており、その意味でも重宝。

    著者あとがきより引用、
    猪山家の人々から、大切なことを教えてもらったように思う。
    大きな社会変動のある時代には、「今の組織の外に出ても、必要とされる技術や能力をもっているか」が人の死活をわける。


    以下引用~
    ・行政に不可欠な「算術」のできる人材がいつも不足しがちであったのである。武士とくに上級武士は、算術を賤しいものと考える傾向があり、算術に熱心ではなかった。
    ・加賀前田家は「算術」を非常に大切にした家である。・・・海軍は数字のかたまりである。明治維新後、日本が海軍を建設したとき、海軍の中心をなしたのは、薩摩と旧幕府そして差がであったが、のちには加賀もこれに割り込んだ。
    ・厳密な儒教社会からみれば、日本の婿養子制度はおよそ考えられない「乱倫」の風習である。
    ・武士と百姓町人の家計簿を比べたとき、最も違いがあらわれるのは交際費である。(身分費用)
    ・考えてみれば、江戸時代は「圧倒的な勝ち組」を作らないような社会であった。武士は威張っているけれど、しばしば自分の召使よりも金を持っていない。
    ・教育して官僚・軍人にして身を立たせる。とくに、明治初年の士族はこの教育エネルギーが絶頂に達していた。

  • 何回読んでも興味が尽きない。現在と似ているようで、かなり違う武士たちの日常に驚くばかりです。

  • 歴史に疎い私でも、武士の生活を垣間見ることができました。武士の生活も大変なのね。。。映画観たいなぁっと思って読んでみたのですが、この本をどのように映画化したのか映画を観るのが楽しみになりました。

  •  古本屋で温州みかんの段ボール箱に入っていたのは、加賀藩士猪山家の37年間にわたる細密な出納帳だった。ただの家計簿ではない。「御算用者」という会社で言えば経理と資財を合わせたような職務に代々ついていた、いわば会計のプロが残した家計簿だったのだ。磯田道史『武士の家計簿』は、「国史研究史上、初めての発見」というこの貴重な史料をもとに、武士の暮らしぶりを超具体的に紹介してくれる一冊だ。
     家計簿を付け始めた当初、一家の収入は米にして五十石。1石が27万円程度として現代感覚にすると年収1350万円相当だったという。ところが借金は年収の倍もあった。武士としての体面を保つために多額の交際費が必要不可欠だったからだ。祝儀交際費の支出機会は年200回以上、額面で年収の三分の一にも上っている。明治維新によってこの「身分費用」がなくなったことは、武士にとって特権を失う以上にありがたいことだったのでは、という著者の推測も肯ける。
     さて猪山家、さすが会計のプロだけあって、いよいよクビがまわらなくなる寸前に家財の一切を売り払って借金を整理したようだ。家計簿には嫁入り道具の着物はおろか、欠けた茶碗までいくらで売ったと生々しく記録されている。その後も苦しい台所が続くが、幸いにも猪山家は親子三代にわたって計数能力に恵まれ、徐々に藩政に重用されるようになる。一介の下級武士から、藩主の家族の秘書役へ、そして家計簿三代目(猪山家としては九代目)の成之は加賀百万石の兵站を預かる立場へと出世。さらにロジスティックの腕を見込まれて新政府軍にヘッドハントされ、誕生したばかりの日本海軍のソロバンをはじくことに。明治7年の彼は現代で言えば3500万円相当の収入を得ていたそうだ。
     という具合にこの本、歴史読み物としてのトリビア的楽しみもさりながら、筆とソロバンを両手に激動の幕末を生き延びた会計一家・猪山家の成り上がりストーリーとしても格別のおもしろさ。森田芳光監督で昨年末、映画になったのも納得だ。無味乾燥な数字から無類の物語を抽出した著者の仕事に感謝したい。

  • 映画になっているような話題本はあまり読まないが、この本は違った。
    なぜなら私の祖先が代々金沢出身だからだ。どんな暮らしをしていたのだろう?
    年収の2倍という借金をしながら会計係をしていたお侍が、家計簿を付けて財政を立て直す古文書による記録。
    家族の手紙や日記もあり、心温まる内容だ。借金の目録表の中に曾祖父の名字を発見。「あれ?」と驚く。
    同じ名前もあるかもしれないと思って、市立図書館で古文書の名簿をネットで調べたらこの名字の人をひとり発見。80ページくまなく捜したが他に同じ名字はいない。再びびっくりして、階下の母に知らせに行く。
    それにしても同僚に年利18%で金を貸すとは、曾々おじいちゃんはせこいではないか。あんまりだ。ま、こちらも同じように貧乏をして助け合っていたのだろう。
    でもこの映画の主人公は努力して頑張り、スパルタで育てた子孫は明治になって偉くなって金持ちになった。曾祖父の子孫の私はせこいのだけを受け継いだ。

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著者プロフィール

磯田道史(いそだ・みちふみ)
1970年、岡山市生まれ。歴史家。国際日本文化研究センター准教授。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。『武士の家計簿』(新潮新書)で新潮ドキュメント賞、『天災から日本史を読みなおす』(中公新書)で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。『近世大名家臣団の社会構造』(文春学藝ライブラリー)、『無私の日本人』(文春文庫)『殿様の通信簿』(新潮文庫)『日本史の内幕』(中公新書)ほか著書多数。該博な知識と親しみやすい語り口で、テレビでも多くの視聴者に歴史の意味と愉しさを伝えている。


「2020年 『歴史とは靴である 17歳の特別教室』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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