日露戦争: もうひとつの「物語」 (新潮新書 49)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (211ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106100499

作品紹介・あらすじ

開国から五十年後の一九〇四(明治三十七)年、近代化の節目に起きた日露戦争は、国家のイメージ戦略が重んじられ、報道が世論形成に大きな役割を果たした、きわめて現代的な戦争だった。政府は「正しい」戦争の宣伝に腐心し、新聞は開戦を煽った。国民は美談に涙し、戦争小説に熱狂した。大国ロシアとの戦争に、国家と国民は何を見て、何を考え、どう行動したのか?さまざまな「物語」を通して、日露戦争をとらえ直す。

感想・レビュー・書評

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  • メディア史の視点から、メディアが煽り、大衆が熱狂する事により、日露戦争がエンタメ化していた事を論じており結構面白い。メディアと大衆の共犯関係は日清戦争にその萌芽が見られるが、日露戦争により本格化したと言えるだろう。
    メディアは売れる記事を書くので、中には捏造もある。よって、読者にはリテラシーが求められるわけだが、それはフェイクニュースが蔓延る現代において尚更必要であろう。

  • タイトルから一目瞭然なんだけど、あくまで“もうひとつの”って点がポイントかも。これは、戦争そのものに関してってより、アナザーストーリー(この作品では出版物)に焦点が当てられる。当時のマスコミの在り方とかはとても興味深かったし、この時代からのちの世界大戦にかけて、その界隈はむしろ退行している事実も面白い。一般的日露戦争の知識とか、当時の作家人とか、もっと知ってればもっと楽しめたかも。

  • 2004年刊。商業ジャーナリズム、寄稿される文学作品、他大衆小説の分析から、日露戦争時と戦後の世論とジャーナリズムの関係、政府擁護あるいは批判における大衆意識の実相を解読。戦中に関しては、反戦的言説に対する発禁処分の多さは目を引くが、当該言説の問題点も本書は指摘しており、戦争賛美・反戦の何れの功罪も議論しているのは好感。ただ、戦後の講和批判新聞への発禁処分等、政府対応に関し、現代との隔絶性を感じずにはいられない。つまり、現代のイメージで旧憲法下の報道機関の、報道内容の正確性を把握する危険性を看取できそう。
    逆に冷静さを欠いた世論とそれに迎合する商業ジャーナリズムについては、戦後のポ講和条約批判言説と、(東京)二六新聞への根拠なき露探疑惑が興味を引く。後者は、露探疑惑による部数減、部数回復の起死回生策として旅順陥落号外。誤報のためさらに部数減、の過程がそれ。商業ジャーナリズムへの印象操作・世論による誘導の危険性と、商業報道機関の限界を看取可。この点は、ある意味現代的。世論の冷静さ欠如は、政府が欧米諸国に遠慮して忌み嫌う人種間戦争視観は、国内での愛国心には響くといった面にも伺える。
    さらに、ある時代の大衆小説にその時代の空気感が反映している点も意識すべき事項のよう。日露架空戦記モノが日露戦前に広く刊行されたが、戦後は日米架空戦記モノが隆盛(ちなみに現在はどうかなぁ)。一部には、戦争の推移のみならず、満州の経済的開放、国際連盟を予知したかのごときものあり。一方で、かかる架空戦記モノには外交交渉の描写が欠如するばかりか、その存在意義すら意識外で極めて偏頗と解説。至極尤もの感。本書が十分な内容かは不明確だが、示唆に富む書。

  • 新書文庫

  • 日露戦争について、戦争そのものではなくそれを報道するマスコミや一般大衆について記述した一冊。

    いわゆる軍戦記とは違うので、その手の期待をすると裏切られるけれど、自分はとても楽しめた。
    特に印象に残ったのは、太平洋戦争の頃の言論統制がなく、まだ比較的緩い時代で、日本軍に対して批判的な記事があったり、それどころかロシア勝利を予想するメディアもあったこと、また大衆の最初の熱狂、その後の反動などどれもとても面白かった。

  • 日露戦争開戦までの背景、国際的な関係などは歴史の教科書に良く書かかれているが、国内における国民の一致団結、意識高揚のためには、メディアによる先導が必要である。当時は新聞報道がその役目を果たす。そこから小説、戦争報告などを介して、また、団結していく。批判的な書もあったようだが、どれくらい影響(世論)かは良く分からない。何時の世でも、メディア広報が鍵を握っているようだ。戦争と言えども現代における戦争との違いを感じる。武士道の精神が双方にあること、敵方であれ、誉あることは尊ぶ。現在では、大量虐殺のみが、兵器を使って行われている。
    報道について、時代変わり、手段が変わっても、変わらないものは、人の心を扇動する、操作する、トリック、手法。新聞⇒ラジオ⇒テレビ⇒インターネットと手段や速度は変わっても、伝える人、操作された情報により、我々は動かされる。開戦⇒戦中・戦後と情報・解釈の仕方がまるでちがうことが起こっている。今後も変わらないだろう。

    戦友(12の連作)真下飛泉 ましもひせん

  • 戦争のグローバル化によって、その世論形成にマスメディアが大きな役割を果たすようになった。そのさまがよくわかる1冊。蛇足ながら、『野性の呼び声』のジャック・ロンドンが人種差別主義者だってこと知らんかったなぁ。

  • メディア、特に新聞という媒体を軸に、国民がいかに戦争に関わっていったかをたどる興味深いもの。
    「表現」によって、時には本人の意志を超えて戦争に対する意見が形成されていたというところもなかなか面白い。
    政治・外交的な流れとして捉える戦争とは違った、国民のダイナミズムを感じられる。

  • 本書は歴史書ではない。戦場にいない当時の市民のが見た「情報」を綴った本だ。報道ジャーナリズムを活用した現代の最初の戦争と表している。
    市民だけでなく、国際世論を味方につけるために、ロシアのような派手な工作はせずに、様々な国の新聞記事を地道に読み、事実誤認記事の訂正を求める程度だった。この正攻法うが好感度をアップさせたらしい。
    下に引用したくだりは、私たちの情報の受け取り方に注意喚起している。
    当時の朝日新聞の役割は今日異なり、戦争を国民が高揚するような報道をしていた。別途、社の方針の移り変わりだけを見てもおもしろいだろう。

  • [ 内容 ]
    開国から五十年後の一九〇四(明治三十七)年、近代化の節目に起きた日露戦争は、国家のイメージ戦略が重んじられ、報道が世論形成に大きな役割を果たした、きわめて現代的な戦争だった。
    政府は「正しい」戦争の宣伝に腐心し、新聞は開戦を煽った。
    国民は美談に涙し、戦争小説に熱狂した。
    大国ロシアとの戦争に、国家と国民は何を見て、何を考え、どう行動したのか?
    さまざまな「物語」を通して、日露戦争をとらえ直す。

    [ 目次 ]
    第1章 誰が戦争を望んだのか
    第2章 「正しい」戦争と情報戦略
    第3章 戦場の表現者たち
    第4章 「露探」疑惑と戦争小説
    第5章 架空戦記と大陸への論理
    第6章 反戦・厭戦運動と旅順戦役
    第7章 終戦、そして次の戦争へ

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著者プロフィール

長山靖生(ながやま・やすお):1962年生まれ。評論家。鶴見大学歯学部卒業。歯学博士。開業医のかたわら、世相や風俗、サブカルチャーから歴史、思想に至るまで、幅広い著述活動を展開する。著書『日本SF精神史』(河出書房新社、日本SF大賞・星雲賞・日本推理作家協会賞)、『偽史冒険世界』(筑摩書房、大衆文学研究賞)、『帝国化する日本』(ちくま新書)、『日本回帰と文化人』(筑摩選書)、『萩尾望都がいる』(光文社新書)など多数。

「2024年 『SF少女マンガ全史 昭和黄金期を中心に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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