昭和史発掘 開戦通告はなぜ遅れたか (新潮新書)

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感想 : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106100765

作品紹介・あらすじ

「卑怯な騙し討ち」、米国では未だにこう呼ばれる真珠湾攻撃。開戦通告文を米国に提出するのが、攻撃開始から五十五分遅れたためである。これまで遅延の原因は、野村吉三郎大使をはじめ駐米日本大使館の怠慢とされてきた。しかし野村大使らの行動には多くの謎が残されていた。実は、日米開戦がなされたまさにその時、野村大使らはある陸軍大佐の葬儀場にいたのだ。-新庄健吉、謎を解く鍵は全てこの男の死にあった。

感想・レビュー・書評

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  • 総力戦研究所以外にこんなものがあるとは知らなかった

  •  書名は『開戦通告はなぜ遅れたか』だが、これに対する答えはあくまで憶測だ。

     簡単に要約すると、野村大使が開戦通告を届けるのが遅れた原因は、ある日本人の葬儀に出席していたため、その参列の席から外れることができずに結果として遅れてしまった、というもの。
     そんなアホな理由があるかいな、とツッコミたくもなるが、日本側にも米国側にも、開戦通告を遅らせたい思惑があったというのが著者の主張。


     つまり遅れたのではなく、わざと遅らせたというのだ。


     開戦時の首相、東條は戦争の常道は「夜討ち朝駆け」という考えを持っていて、真珠湾も不意打ちを当初から意図していた。宣戦布告などは奇襲が成功した後にすれば良く、先にしたら奇襲そのものが失敗に終わると思っていた。


     開戦前の御前会議では、開戦通告なき奇襲で一度は意見がまとまったらしいが、陛下から「ちゃんとした手続きをとるように」といった内容で、異例のお言葉があり、事前通告をしなくてはならないことになってしまった。


     しかし、東條は当初の夜討朝駆けの考えを変えることはせずに、なおかつ陛下の言葉を考慮したという形をとることにした。つまり、開戦通告を出そうとしたが、開戦に間に合わなかった、という言い訳を考え、それを実行した。


     戦後、マッカーサーと対面した陛下の口から「東条のトリックにひっかかってしまった」という発言があったらしい。(そういう発言録が残っているようなので、実際にあった発言なんだろうけれど、それが開戦通告の遅れを言っているのかどうかは著者の推測)


     米国側にも通告を開戦前に受け取りたくない理由があった。
     良く知られている話だから説明はいらないかもしれないが、それは真珠湾を奇襲させて、戦争に反対だった世論を一気に参戦へと導くためだった。そして事実”リメンバー・パールハーバー”を合言葉として見事に世論を誘導した。


     このあたりの事情は、真相がどうだったのか詮索しても決定的な証拠は出てこないので、うっちゃるしかない。


     この本はブクレポタイトルにもした新庄健吉という人物が、どういう人物だったのかという”伝記”と思った方がいい。これが結構おもしろい。この人は陸軍大佐ながら開戦前から「日米が戦わば、必ず日本は負ける」と発言し、米国で収集したデータを用いてその裏付けとした。スパイ活動で極秘情報を集めたのかと思いきや、公然と売られている新聞や雑誌、政府発表の統計資料などの情報から計算をして弾き出しただけなのだ。しかし、それがあまりに正確だったため、戦後GHQがそのデータを見て驚き、舌を巻いたらしい。


     彼は「米国と日本の国力の差は20対1、米国の損害を100%とした場合、日本の損害は常に5%以内に抑えなければ勝てない」ということを報告書にまとめ上層部に提出したが、それを軍首脳は認めなかった。(まあ、当然と言えば当然)


     彼の仕事はけっして報われない性格のものだった。彼の提出した報告書も無駄になった。
     戦争という大波の前で、成す術の無い人間の無力さを感じた。 

  • アメリカと日本の力の差を正しく判断し、報告していたのは新庄という人だったというのはわかったが、新しい発見って感じじゃないな〜。

  • 歴史研究家よりもノンフィクション小説作家になった方が良いように思う。史料の発掘や資料の援用はうまいのだが事実とする裏付けが決定的でないため仮説の域を脱しきれていない。前作のような資料の読み込み不足は無いように思えるが、それが頭の片隅にあるせいか・・・。

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著者プロフィール

1941年東京市生まれ。ノンフィクション作家。東北大学工学部中退。陸軍中野学校に関連する著者が8冊。共著を含めて50冊のノンフィクションを刊行。近著に『ルポ老人受刑者』(中央公論新社)。現在も現役で取材現場を飛び回っている。

「2021年 『陸軍中野学校全史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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