国家の品格 (新潮新書 141)

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  • Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106101410

作品紹介・あらすじ

日本は世界で唯一の「情緒と形の文明」である。国際化という名のアメリカ化に踊らされてきた日本人は、この誇るべき「国柄」を長らく忘れてきた。「論理」と「合理性」頼みの「改革」では、社会の荒廃を食い止めることはできない。いま日本に必要なのは、論理よりも情緒、英語よりも国語、民主主義よりも武士道精神であり、「国家の品格」を取り戻すことである。すべての日本人に誇りと自信を与える画期的提言。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;藤原氏は数学者かつエッセイスト。著名な作家夫妻(新田次郎と藤原てい)の次男。アメリカ留学記「若き数学者のアメリカ」で日本エッセイスト賞受賞。海外滞在記から科学、数学者評伝まで幅広く執筆。エッセイでは武士道や祖国愛、情緒の重要性を説く。
    2.本書;世界で唯一の❝情緒と形の文明❞を持つ日本は、❝国家の品格❞を取戻すべきだと言う。藤原氏は、『はじめに』で主張。「現在進行中のグローバル化は、世界を均質にするものです。日本人はこの世界の趨勢に敢然と闘いを挑むべきと思います。・・・孤高の日本を取戻し、世界に範を垂れる事こそが、世界史的貢献と思うのです」と。七章の構成。発行部数約300万部のベストセラー。
    3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
    (1)『第三章;自由、平等、民主主義を疑う』より、『戦後、連合国は第二次世界大戦を「民主主義対ファシズムの戦争」などと宣伝しましたが、それは単なる自己正当化であり、実際は民主主義国家対民主主義国家の戦争でした。どこの国にも扇動する指導者がいて、熱狂する国民がいました。・・・民主国家で戦争を起こす主役はたいてい国民なのです』
    ●感想⇒書、『ひとはなぜ戦争をするのか』の中でフロイトは書いています。「人間は、指導者と従属する者に分かれます。圧倒的多数は、指導者に従う側の人間です。彼らは、決定を下してくれる指導者には合理的に従います」と。攻撃本能を持った指導者が、従属する民衆を扇動して戦争の意思決定をするのです。戦争の悲惨さは、浮浪児兄妹の餓死までを描いた、「火垂るの墓」(野坂昭如著)を読めば、身につまされます。某書によれば。『太平洋戦争で、「一億総特攻」とか「国民の血の最後の一滴まで戦う」といったスローガンが指導者によって叫ばれた』と言います。無責任な言葉です。マスコミさえも報道の役割を忘れ、同調したのでしょう。現在の指導者達も、平和主義を謳った憲法を見直そうという動きをしています。戦争は失うものばかりです。正しい道筋を示してくれる指導者の出現を願ってやみません。
    (2)『第六章;なぜ「情緒と形」が大事なのか』より、『私は事ある毎に「外国語にかまけるな」「若い時こそ名作を読め」と言っている。・・・若い時に感動の涙と共に(名作を)読むのが何と言っても理想です。…読書によって培われる情緒や形や教養はそれ(語学)とは比較にならぬ程大事なのです』
    ●感想⇒読書の効用は、言わずもがなです。例を上げれば、司馬遼太郎氏は「必要な事はすべて図書館で学んだ」と、立花隆氏は「授業で得た知識より、自分で本を読んで得た知識の方がはるかに大きい」と言いました。私は、読書から得られる宝は3つあると考えます。❝①知識の習得 ②疑似体験によって未知の世界を知る ③人間への理解❞です。藤原氏は、「若い時こそ名作を読め」と言います。最もだと思います。私は中学の頃、読書に目覚め、野口英世等の偉人伝やヘッセ等の小説を読み感動しました。あの頃の震える程の感動は若さゆえと思います。そして、困った時や苦しい時の読書も重要です。私は、難題が発生した際に、尊敬する著者の書物を再読し、解決のヒントを貰いました。いずれにせよ、読書をベースに様々な経験を積みながら、人間性を醸成し、充実した人生を全うしたいものです。❝継続は力❞ですね。
    (3)『第七章;国家の品格』より、「日本は、アメリカの鼻息を伺い、「国際貢献」などというみみっちい事を考える必要は全くないのです。・・・世界に向かって大声を上げる胆力もなく、おどおどと周囲の顔色を伺いながら、最小の犠牲でお茶を濁す、という屈辱的な態度なら、国際貢献など端から忘れた方が良いのです。そんな事に頭を使うより、日本は正々堂々と、経済成長を犠牲にしてでも❝品格ある国家❞を指すべきです」
    ●感想⇒藤原氏は、品格ある国家の指標は四つあると言います。「①独立不羈(自らの意志に従って行動できる独立国) ②高い道徳(優雅と温厚) ③美しい田園(金銭至上主義に冒されていない) ➃天才の輩出(役に立たないものや精神性を尊ぶ土壌)」と。「アメリカの植民地状態でおどおどと周囲の顔色を伺いながら、最小の犠牲でお茶を濁す」日本のリーダー。我が国の官僚は❝偏差値エリート❞と揶揄されています。教養と大局感を身に着け、総合判断力を持った真のエリートを養成すべきです。一方、世界を見渡すと、❝貧困に喘ぐ人❞や❝紛争が止まらない国❞が散見されます。藤原氏が言うように「日本は正々堂々と、経済成長を犠牲にしてでも❝品格ある国家❞を目指し」世界や人類に貢献すべきでしょう。その為に、私達は、望ましいリーダー(政治家)を選ぶ眼力を養わなければなりません。
    4.まとめ;「日本は、アメリカの市場原理主義(究極の競争社会・実力主義社会)を模倣し、国家の品格を失った。❝論理と合理性頼みの改革❞では、社会の荒廃を止められない」と書いています。そこで、アメリカ社会の一端を覗きましょう。堤未果氏の『ルポ 貧困大国アメリカ』の一節です。「貧困児童の為の無料給食はインスタント食品が多い。これらには人工甘味料や防腐剤がたっぷりと使われており、栄養価はほとんどない。貧困地域を中心に、過度に栄養が不足した肥満児・肥満成人が増えていく。健康状態の悪化は、医療費高騰や学力低下に繋がり、さらに貧困が進むという悪循環を生み出していく」と。さて、本書はアメリカを手本?にしてきた日本の将来に対する警告の書とも言えます。18年前に出版されたのですが、今読んでも納得いく事も多いと思います。但し、本書は「論理よりも情緒」「英語よりも国語」が大切とあり、やや偏り過ぎの面もあります。日本の戦後目覚ましい発展は、国民の知恵でアメリカに学ぶと同時に反面教師として努力重ねた結果だと思うからです。それにしても、昨今の政治の金銭問題や企業の不祥事を聞くにつけ、道徳観の欠如は否めません。経済合理主義の功罪が問われているのでしょう。(以上)

  • 2005年に話題になった本です。
    タイトルは存じてましたが、今になって初めて読みました。

    この年末年始、ゴーンさんの海外逃亡や中東で再び戦争が始まりそうな情勢といったニュースが飛び交うタイミングで、この本を読む機会を得たのは「なにかの巡り合わせなのかな?」と思うほど、本書で著者が懸念する事態と、現在の世間の騒がしさの背景にあるもののシンクロ感があり、いろいろと考えさせられる内容でした。

    著者は、私の母と同じ昭和18年生まれ。母の世代の方の語り口調で唱える世界観と考えると、やや極端な言い回しかな?と感じられる書きっぷりも、私としては受け入れられる内容でした。

    時より恐妻を自虐ネタとして書いておられますが、ネットで拝見するご夫婦のお写真は、大変に仲が良さそうで、シャレが過ぎて筆が滑っているようなところが微笑ましくもあります。

    2020年になって、本書が出版された2005年当時よりも、著者が懸念する方向へ日本は突き進んでしまっているのではないかなと、この本の最終章でありタイトルでもある「国家の品格」を読んで、考えさせられました。

  • 国家の品格。タイトルがいいよね。笑
    しかし、民度として今の日本に品格なんぞ感じない。
    電車でダラダラ携帯ゲームをする人ばかりのこの国に、再度「品度」ってものが何たるかを教えなければいけません。

    【感想】
    合理・論理ではすべてをカバーできない。
    大事にすべきは、日本古来からの感覚である
    『情緒と形』を大切にするべきだ。
    武士道を思い出し、日本人は日本人のように思い、考え、行動して初めて国際社会の場で価値を持つ。

    大まかに言うと、この主張が本書の大筋。

    ・自然に対する繊細な感受性
    ・無常感、もののあはれ
    ・四季の変化を愛おしむ心
    ・懐かしさ
    ・家族愛、郷土愛、祖国愛

    筆者の主張は偏りすぎだと思いつつ、確かにこういった感覚は大切にしないとなぁ・・・
    確かに小学校から英語をさせたり、経済の勉強とか株式投資の勉強をさせること自体は良い事だと思う。
    ただ、それはベースの五教科をしっかりと身につけた上で、っていうのはとても納得。
    まだ子どもいないけど、子どもできたらしっかりとそこんとこ教育したいな。
    家族愛、郷土愛、誇りとか、そのへんも。

    また、個人的に会津藩の教えが良かったので引用。

    【会津藩の教え】
    1.年長者の言うことに背いてはなりませぬ
    2.年長者にはお辞儀をせねばなりませぬ
    3.虚言を言うことはなりませぬ
    4.卑怯な振る舞いをしてはなりませぬ
    5.弱いものをいじめてはなりませぬ
    6.戸外で物を食べてはなりませぬ
    7.戸外で婦人と言葉を交えてはなりませぬ

    ・ならぬことは、ならぬものです

    今自身で制作中の「十戒」の参考にします!

  • とても保守的。
    保守的ではあるけれど、
    愛国心が平和の糧になるなら必要なのだろうと
    考えさせられた。
    でも、欧米は〜だ、みたいな考えが通用する時代は
    もうなかなか来ないのではないかなー。

  • 今頃やっと一昔前のベストセラーを読んだ。それほど色褪せてないし今でも十分な説得力がある内容だった。情緒と形こそこの国に相応しい品格の礎だと断言している。頷ける箇所も多い良書だった。

  • 筆者が現在の日本が如何に危機的状況にあるかを憂い、その打開策として古くは武士道にあるような「情緒と形」といったような道徳を身につけて国家としての品格を高める必要性を述べた。
    品格を高める上では、自ら母国の文化や伝統、歴史、言語といったものをきちんと理解しておくことの重要性にも触れられている。このことは、真の国際人となるためにも必要である、とも。

    歴史学(及び人文学系学問)をやることの意義について考える上で、一つの道筋が示されていよう。

    国際化の名の下に幼少期より英語教育を行うなど米追従の姿勢に反感を覚える私としては、
    より多くの人々に読んで頂きたい一冊として紹介したい。

  • 日本人として生まれて来れたことを誇りに思う。そんな気持ちになれた一冊。
    知らなかった日本の素晴らしさ。知っていたはずなのに忘れていた日本の高貴さ。
    自分が日本人として生きる意味を改めて認識出来た有り難い本だった。
    「もののあわれ」を忘れてはならない。そして武士道精神の回復を今の日本に!と叫びたくなった。
    今の日本は大和魂すら消えてしまいそうに小さな灯火となっているような気がする。
    本来あるべき日本の姿を日本人一人一人が思い出し、品格ある国家を保つことに力を入れて欲しい、また力を入れていきたいと心から思えた。

  • 【速読】前に「B層」を読んだことを下敷きに。現代は「美徳・教養」を兼ねた「日本人論」新書が売れるんですね。「B層」で志向される日本人像と本書のはだいたい同じでして、そして両者に共通するのは理由はないけど「多くの人が共感できる」話題を幾つも用意していること。著者のボヤキです。「教養」を問うけど新書そのものでは「教養」が身につかないというパラドクス?それともこれが新書のあるべき姿なんでしょうか。てことで内容には触れませんけど、これならオレグの武士道の話の方が、ずっとためになります。

  • (2006年頃読んだ直後の感想です)
    『国家の品格』(藤原正彦/新潮新書)について、「論理的におかしい文章が山ほどある」とか、「事実誤認や誇張のカタマリだ」とか、そういう野暮なことを指摘するのは、もういいやと思う。それより、この本が200万部も売れた理由のほうを考えてみたい。

     この本のいいところはどういうところ? ネット書評で惜しみなく★★★★★をつけている気前の良い皆さんに聞いてみよう。まず、平易でわかりやすい。読んでて「そうそう、まさにその通りだ」と思える。日本人であることに誇りを持てるようになる。そして、読んで元気になれる。すばらしい効果だ。まさに五つ星にふさわしい! では、その効果の源泉はどこにあるのか?

     この本が「わかりやすい」というのは、たとえば水戸黄門が「わかりやすい」のと似ている。あらかじめスジが決まっている時代劇のように、読者側がすでにそう思っていることを、さまざまな事例を出してスッキリ言い放ってくれるから「わかりやすい」のだ。
     この本が「心地よい」のは、『キャンディキャンディ』と同じ理由による。少女マンガの王道は「そのままの君が好き!」だ。リクツなんてどうだっていい。論理には限界があるのさ。好きになるのに理由なんていらない! 著者はみんなのアタマをなでて「そのままでいいんです」と言ってくれたのだ。
     この本を他人に勧めてまわる人がいっぱいいる。中には配ってまわる人もいるという。きっと「まさに自分の思ったとおり!」の本だから、みんなにわかってほしいんだね。占い師の決まり文句に、こういうのがある。「あなたは懸命に努力しているのに、周囲の人はわかってくれないんですよね?」 みんな「そう、そうなんです!」と大きくうなずくそうである。

     水戸黄門と少女マンガと占いである。最強だ。これより強力なおもてなしなんて思いつかないほどだ。読者はこの本を読んで、爽快感と慰安と勇気をもらう。こんなにお得な本はナイではないの。
     こう考えていくと、この本は確かに「リクツ」の本ではない。はっきり「セラピー」の本である。「あなたに心地いい言葉を言ってあげる」……スピリチュアルな江原某の本とか、美容の天才な齋藤某の本とかと、おなじなのだ。
     そしてこの本は、まさにそのように作られたものだという。雑誌の記事などでは、まず最初に結論が決まっていて、それにぴったりくることを言ってくれる人を探すものだ。この本は「ちょっと愛国心とかはやってるから、読者にキモチイイこと言ってくれそうな人はいないかなぁ……」と編集部が調べるうちに、講演などで注文通りのことを言っている著者を発見し、その講演原稿を手直しする形であっという間に作り上げたそうである。(かなり情報ゆがめてますか、スミマセン、でもそんなふうに聞こえたのです、リクツじゃないのです)
     そもそも講演というのは、カネを払って聞きに来た客を、たのしませてナンボである。言うなれば芸人といっしょ。めんどくさいことをしろとか、おまえらは頭が悪いとか言っていては、次のお座敷がかかるものか。客をもちあげておだてていーい気分にして帰すのが優れたスピーカーに決まっている。藤原先生は、ものすごく優秀な芸人さんなのである。

     ちゅうわけで、『国家の品格』はすばらしい娯楽本である。さすが200万部も売れる本は、売れるだけの理由がある。ちょっと心配なことといったら、この本を正しく「娯楽」として消費するのではなく、「本気」にしちゃうイタイ人が、ごくごく少数出ちゃったらこまるなぁくらいのものである。
     なぜなら、この本はひとつの取引を持ちかけているからだ。リクツ抜きに癒し、励まし、自信と誇りを持たせてあげる。だって、ただ日本に生まれただけで、あなたはすばらしい歴史と感性をその身に備えているのだから。その代わりに、リクツ抜きでこの国を愛しなさいと。
     果たしてこの取引、お得だろうか。考えない代償というのは、だいたいにおいて高く付くような気が私はするのだが。まぁ、そんな後先考えない取引に応じてしまう人は、この本を「娯楽として」読んでいる人にはいないだろうと思うのだが…………。

  • 不覚にも泣いてしまった。著者は数学者で論理についての持論、日本人の特質、文化、美意識から私たちにメッセージをおくっている。天才の生まれる風土について、国語言語が国家であり独自の文化であること、国際人に必要なのは国語力をつけることで中途半端な英語力ではないこと。あとは論理的で合理性をすすめるアメリカ民主主義の閉塞感を打開することができるのは日本の武士道精神や情緒であるというのも面白い。論理的であることが正しいと言えない理由を、論理展開の出発点の確からしさに論理展開時の確立との積で考える発想は流石に数学者らしく美しい。現在の鬱屈した閉塞感を打ち破るエネルギーのある書で、自国の文化をよく知らず日本語の勉強をおろそかにしている私達には必読の書といって良い

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著者プロフィール

お茶の水女子大学名誉教授

「2020年 『本屋を守れ 読書とは国力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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