幻の大連 (新潮新書 255)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106102554

作品紹介・あらすじ

「ふるさとは大連」-遼東半島にある港街にしてシベリア鉄道の玄関口、大通りにはアカシアが連なる。そこはかつての植民地においてもっとも美しい都市だった。一方で、張作霖爆殺、満州事変と激動の時代、元憲兵大尉・甘粕正彦、男装の麗人・川島芳子、張学良、謎の阿片王、猟奇的殺人の妖婦など、怪人たちが闊歩する。多感な少女時代をかの地で過ごした著者が記憶を辿り、歴史書にはない貴重なリアリティを再現する。

感想・レビュー・書評

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  • 日露戦争に勝利した日本が明治39年5月大連を占拠した。その後、敗戦まで大連は日本が統治した町となっている。

    ヨーロッパへの陸路として満州鉄道を敷き、
    ヨーロッパに負けない国際都市という都市計画を建て、
    数々の近代的な施設も作った。

    当時を知る人の話では
    「東京よりも近代的で洗練された町だった」そうだ。

    そんな華やかな大連時代を知る著者の見た大連を綴ったエッセイ。

    女学生から見た大連のようすや文化
    人々の生活
    中国や朝鮮の人との関係
    生活などが、飾らず描かれている。

    うちの父親が子供の頃に大連に住んでいたという。
    「死ぬまでにもう一度だけ大連に行きたい」
    と言っていた父親と大連旅行に行ったことがある
    その旅行の前にこの本を読んでいたらよかったな…。

  • 日本がかつてユーラシア大陸の東の端に持っていた植民地。日本は五族共和の大義を掲げて満州国という独立国家を作り清王朝復活を謳い皇帝溥儀を建てていた。だが内政も軍事も実質的には日本の関東軍や官僚の強い影響下にある傀儡国家であった。
    本書タイトルの「幻の大連」とは幼き日々を満州国で生活した筆者が、在りし日の美しい満州国の日常がどの様なものであったかを綴っている。彼の地は日本が日露戦争の勝利により、ロシアから99年借り受けたものとなっていたが、鉄道、道路から近代的な建築物などを整備し、さながらヨーロッパの様な街並みであったという。それもそのはず、ユーラシア大陸を横断するシベリア鉄道の東の終着点として、ヨーロッパから数日も旅をすれば訪れる事ができる場所になる。日本はここにヨーロッパへの入り口を作った。
    筆者はその様な平和な時代から、中国人の家政婦を雇い暮らしている。それはたわいも無い日常生活、食事や学校の様子、更には旅行で訪れた場所など、美しく活気ある満州の暮らしが瞼の裏に浮かんでくる。まるでスクリーンに青々と映し出されるように鮮やかさがありながら、その描写一つ一つに少女が抱いていた疑問の影には常に日中間の暗い問題が付き纏っている。満州で日本が引き起こした数々の謀略、中国人の民衆に広がっていく反日感情。凡そ幼い少女ではその全体像や時代背景を理解するのは難しかったであろうが、漠然とした不安を抱く。筆者が本書を記したのは、そうした時代の裏側も歴史も理解した上でのことだから微妙な少女の心の中と戦争という血生臭く冷徹な歴史が入り乱れていく。白と灰色のコントラストで交互に繰り返される映画を見ているかの様な感覚に陥る。
    現在では勿論中国の大連となっているが、ここは古くは日露戦争の激戦地としても名高い場所である。乃木希典将軍とロシア軍が死闘を演じた場所、その奪還のために何万人もの死者を出しながら勝利した203高地など今はただの観光地と化している。平和な時代になり、私の周りにも大連へ旅行に行く人もいるくらいだ(中々ビジネス以外で目指すとはマニアックでもあるが)。日本と中国の間で揺れた、かつての満州国の大地。そこに眠る多くの日本人へ現代中国の平和な姿、日本人観光客の姿が届いているだろうか。

  • #178

  • 若い女性の眼から見た戦前から戦中の大連の姿。
    ダンスホールや映画、街路樹に咲く季節の花々等と大連で楽しく暮らす様子が書かれる中で時々登場する関東軍の人々。
    当時の満州、中国と日本の歴史を市井の若い人の視線で書かれたノンフィクションはノスタルジックでありながら新鮮でした。
    少女の身近な思い出話かと思いきや甘粕正彦や川島芳子を身近で見た話も登場し、歴史の大きな流れの中に暮らされていたのだな、と感じます。

  •  大連旅行前の予習として選んだ一冊。
     大連で生まれ育った著者の随想と、詳細な調査により語られる史実が、美しい日本語で綴られている。戦前の風景など見たこともないのに、まるで実感しているかのように感じられるのは、著者の筆力のためだろう。
     前半は学生時代の思い出、後半は戦中戦後の文学者としての活動が描かれる。中でも興味深いのは、歴史上に名を残している要人と身近に接していたことだ。
     すでに故人となられた著者が見ていた風景が、まるで目の前に広がるかのようだった。

  • 蒼穹の昴以降、満州界隈にとても興味があって、関連書籍を見つけては読んでみてるけど、これもなかなか面白かった。実際にその地に生きた経験談を元に、歴史的事件を上手く絡めながら話は進んでいく。近所で起こった出来事もちょいちょい出てきて、随筆的要素も強いから、歴史の要点だけを求める向きには合わないけど、読み物としてはなかなか楽しかったす。

  • 平成25年5月9日読了。

  • [ 内容 ]
    「ふるさとは大連」-遼東半島にある港街にしてシベリア鉄道の玄関口、大通りにはアカシアが連なる。
    そこはかつての植民地においてもっとも美しい都市だった。
    一方で、張作霖爆殺、満州事変と激動の時代、元憲兵大尉・甘粕正彦、男装の麗人・川島芳子、張学良、謎の阿片王、猟奇的殺人の妖婦など、怪人たちが闊歩する。
    多感な少女時代をかの地で過ごした著者が記憶を辿り、歴史書にはない貴重なリアリティを再現する。

    [ 目次 ]
    第1章 小学生の頃見た旅順の風景
    第2章 女学生時代-張作霖爆殺事件の真相
    第3章 避暑地の海で見た溺死体
    第4章 阿片王の住む町
    第5章 満州事変余聞
    第6章 憧れの内地で学生生活
    第7章 帰省した夏休みの出来事
    第8章 豪華なる春、厳しく楽しい冬
    第9章 児玉邸殺人事件の顛末
    第10章 内地に帰り、思わぬ転機が
    第11章 再び訪れた戦中の満州

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    [ 参考となる書評 ]

  • 戦争でなくなったわけではないけど 自分のふるさとも なんか もう何処にもないなぁ と。今日本に住んでいる人で ある程度の年齢の人は 子どもの頃と何もかも変わったふるさと ってものを 切ない思いで見てるような気がする

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