人間の基本 (新潮新書 458)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106104589

作品紹介・あらすじ

人生を無駄にしないために必要な足場、それが人間の基本である。末端ばかりを大切にする時代にあって、それがなければ、周りに流され、やがては自分を失い、死んでしまうこともある。ルールより常識を、附和雷同は道を閉ざす、運に向き合う訓練を…常時にも、非常時にも、どんな時代でも生き抜くために、確かな人生哲学と豊かな見聞をもとに語りつくす全八章。

感想・レビュー・書評

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  • 曽野綾子さんの本は初めてである。ブックオフで何冊か買ったまま置いてあったうちの一冊。

    2012年刊行の本であるのでやや古いが、「人間の基本」という大きなテーマを扱われた本であるし、当時の年齢でも80歳と、人間としても作家としても熟されている著者の語りであるので、「人生哲学」とか「人間学」的な話が聞けるだろうと期待して購入した。

    「帯」にそれらしきことがたくさん書かれている。
    ・「恐るべきは精神の貧困である」
    ・「人生を無駄にしないための全八話」

    はじめにでは、「足場というか、基本というのは、実に大切なものです。それがないと流されます。流されれば、自分を失いますし、死んでしまうこともあります。でも今の日本は、足場や基本は問題ではなくて、末端が大切な時代になりました。」というような問題提起がなされていた。

    著者は、この頃、「人間の・・」とか、「人生の・・」とかの本を多数書かれているようだ。逆にこういうテーマの本は、駆け出しの作家にはかけず、大御所的な作家であればこそ扱えるテーマだろうと思う。

    確かに、目次の流れから見ても、著者の人生経験を通しての、教育論、常識論、善悪論、プロ論、教養論、生死観、そして人間の基本に関する考えが述べられた本だと思うが、一部のレビュアーもおっしゃっているように、なんとなくスッキリ感がなく、腑に落ちない後味の悪さが残っているのはなぜなのか?

    一つは、曽野さんの時代の人に比べて、現代の若者を無能扱いしている点に違和感を感じるのだと思う。上記のはしがきの言葉は、昔の人(著者も含め)は、足場や基本を問題にするのに、現代の若者は些末なことにとらわれているという論調だ。

    今の若いものは、自分の知恵がなかったり、苦労知らずであったり、付和雷同的であったり、我慢が足りなかったり、の傾向がみられ、要するに人間の基本がなってないということを指摘されているように聞こえる。

    そしてまた、若者がターゲットであると並行して、「日本人というものは・・・というような批判もある。

    確かに経験豊かな大先輩の言葉であり、教訓に満ちているのかもしれないが、独断的な言い回しに、個人的にはやや反発を感じる部分も多い。

    例えば、「私がよく『東大法学部は駄目』というのは、高度成長期に作られた、有名大学から一流企業に入れば一生安泰、という錯覚がどうしようもなく刷り込まれているからでしょうね。人は学歴だけでは生きていけない。」という文。

    あえて、「東大法学部」と限定してして言う必要があるのでしょうかね。これがあるために、独断・偏見の匂いがしてくる。

    また少し後に出てきた、「犬の飼い主が『シッ』とやって教えるように、幼児にも、初めは家の中でも外でもしていけないことをはっきりと教える。可愛がるのはいいんですが、ベタベタの猫かわいがりは絶対にだめということです。」という文。

    著者の主張は主張として、仮に受け入れてみるとしても、この犬と人間をおなじように扱うデリカシーのなさというか、作家であれば、同じことを言うにしても、もう少し工夫ができるのではと感じた。

    こういう感触を最初のほうで持ってしまったので、後半は走り読みとなった。著者の重要な主張は、次の2点として、自分なりに整理したい。
    ・物事には全て二面性がある(裏表、善悪、平等不平等、権利義務・・・)。一面にのみとらわれるな。
    ・自分の頭で考えて、自分で選択し、自分で経験し、自分で乗り越えよ。

    • yuka♡さん
      フォローありがとうございます。
      いろいろ参考にさせてください!
      フォローありがとうございます。
      いろいろ参考にさせてください!
      2020/07/31
    • abba-rainbowさん
      yuka♡さん、こちらこそフォローありがとうございます。面白い本あればご紹介ください。
      yuka♡さん、こちらこそフォローありがとうございます。面白い本あればご紹介ください。
      2020/07/31
  • ●本書は、やや決め付け的かつ説教的な表現が多いので、取分け若者には賛否両論あると思います。これは、著者の自信の表れと思います。しかし、読んでみると、共感する事も沢山あります。
    ●例を上げると、❰主張①❱多数に従うのは自分の個性を失うことではなく、他の存在を認めること。 ▶私の意見①;私は若かりし頃、会議の場で自説に拘った発言を繰り返しました。その時、私の尊敬する人が私の発言に一定の理解を示した上で、多数の意見を尊重すべきだと諭され、バランス感覚の重要性を認識しました。 ❰主張②❱年長者が年下の者に、様々な話をする事で世間の機微を伝えていくのは、人間社会にとって大事な事。 ▶私の意見②;私は会社勤めの時に良き先輩と上司に恵まれました。人を思いやる心、特に弱い立場の人への配慮。感謝の気持ち、自分一人では何も出来ない・・等、です。最後に、受け入れられない筆者の主張を書きます。❰主張③❱月に一冊の本も読まないのでは、近い将来、馬鹿みたいな老人になることは目に見えています。 ▶私の意見③;読書は人間形成に必要と考えています。しかし、経験も大切と思います。従って、主張③は多様性を認めない表現で納得出来ません。
    ●但し、冒頭に書きましたように、経験に裏打ちされた、含蓄に富む内容も多々あるので、一読の価値はあります。

  • 人生を無駄にしないために必要な足場。それが人間の基本であると言っています。

    本書の最後のことば 「常時ばかりではなく、非常時にも対応できる人間であるために、その基本となるのは一人ひとりの人生体験しかありません。強烈で濃厚で濃密な体験、それを支える道徳という名の人間性の基本、やはりそれらがその人間を作り上げるのです。」が結論かとおもいます。

    気になった言葉は次です。

    ・私はある皮肉な外国人が「人は皆、その年齢ほどに見える」と言った言葉が好きなんです。つまり年を取れば、人は誰も体験がふえ、精神の内容も豊かにある。ということです。
    ・足場というか、基本というのは、実に大切なものです。それがないと流されます。流されれば、自分を失いますし、死んでしまうこともあります。
    ・理想というものは、自分自身の生活と体験によってしかがっちり捕まえることはできませんし、知識だけで人生を渡って行くことは無理な話です。それがわからないと、現実感覚まで狂い始めるでしょう。
    ・粗末に扱われているものからは、臭気がするんです。
    ・どんな状況でも自分の頭で考え、想像し、工夫して生きることが人間の基本だと私はずっと思ってきました。
    ・戦後、日教組が「人間はみな平等」というおかしな平等意識を作り上げましたが、先生と生徒は決して平等ではありません。
    ・そもそも人間は、「他人は自分を理解してくれない」という覚悟の上に、長い人生を立てていかなくてはならないのです。
    ・日本の教育は、この「あなた自身の頭で考える」という部分が抜け落ちてしまっているようです。
    ・人間も世の中も中心となる軸、芯がしっかりしないと、そこから外れているという意識もなくなっていきます。
    ・世の中の常識というものは、自分があるからこそ認められるのです。自分と常識とが違っていることを十分にわかっているからこそそれに従える。大勢の人が育ことだから価値があって正しいと考えるのは間違っています。
    ・自分自身の価値観や好みを隠して他人に迎合することに慣れてしまうと、いつまでたっても人として芽が出ないばかりでなく、抑圧された欲望が、奇怪な人間の性格を生むことになります。
    ・ルールという表面的なことにとらわれると自由を失いますし、なぜそういうことをするかと、尋ねられても、人を納得させる返事はできません。・
    ・人間の基本から叩いて叩き潰してから、人間としてスタートさせる。それこそが教育を与えられる強みだろうと思いますし、そうでないと修羅場を乗り越える力も、それより以前に、自分で物事を考える習慣も身につきません。
    ・自分の持って生まれたものが、その目標に適しているかどうか、何より本人が早いうちに気づかなければならないんですけどね。
    ・労働というのは、プロとアマの2つにはっきりと分けられます。アマは、労働時間でもって労賃を得る人のことで、プロというのは、時間と全く関係がない働き方です。本当のプロの仕事というのは趣味娯楽の領域にあるものだと私は思っています。
    ・酔狂とは、前後左右も見境いなく、ひたすら、惚れた相手に愚かしく入れあげることですから。
    ・私はむしろ、へそ曲がりをしていれば食える、と考えるほうです。とにかく、人がいかない方向を選ぶ、他人がやりたがらないことをすれば少しは自分の生きる道があるかもしれない、ということです。
    ・ユーモアとは人間の真実をとらえた瞬間の笑いであって、人間はあまりに本当のことを言われるとつい笑ってしまうものです。
    ・真実を見る、というのはまず自分をきっちり見ることです。自分を見つめていればこそユーモアが生まれるのに、そうならないのは幼稚な証拠、つまり真実を見抜く力もないし、人間というものに対するごく一般的な恐れや同感のない証拠です。
    ・戦後教育は、「生」を唱えるばかりで、人間の「老・病・死」をしっかり見つめることを教えてきませんでした。
    ・延命ではなく、最後の希望をかなえてあげるのが人間の幸せだと考えていることに、私は心の底から感動しました。
    ・生きて行く上で困難がない人生なんて、多分この世にはないでしょうから。その困難の中から、生き方を発見し、その困難の意味を見つけるという過程を体験したことは、私にも何度もあります。
    ・私自身が年を取ってからますますはっきりと、非常時には老いた人間から使い捨てる、広い意味でのトリアージがあっていいとおもうになりました。
    ・もともと私は自分も他人も信用していないんです。
    ・人間は、自分が生まれた場所と時間を変えることも、過去まで遡って運命や歴史を変えることもできません。

    目次は、以下のとおりです。

    はじめに

    第1章 人間本来の想像力とは
    第2章 「乗り越える力」をつける教育
    第3章 ルールより人としての常識
    第4章 すべてのことに両面がある
    第5章 プロの仕事は道楽と酔狂
    第6章 ほんとうの教養
    第7章 老・病・死を見すえる
    第8章 「人間の基本」に立ち返る

  • ●生活保護の受給者は医療費の自己負担はゼロ。
    ●少しでも怪我をさせる可能性のある遊具は公園から除去。
    ●一部の優先席を設けても誰も譲らないから、全席を優先席に変更。

    上記は3つは私が勝手に気がつくところを挙げたものだ。正論に聞こえるが、心のどこかにひっかかるものを感じる。”奥歯にささった小骨”のように、気にはなるけど、それが何か、どこにあるのか、良く分からない。そして、取れない。

    みなさんにも、そんな経験がないだろうか?

    曽野綾子氏の「人間の基本」は、彼女の豊富な知識と経験、そして卓越した文章能力をもって、我々が人間が生きる上で何かひっかかるもの、すなわちこの”見えない小骨”を取り出してくれる本だ。

    曽野綾子氏の次のような一文がある。

    『私が考える教育とは、多少なりとも悪い状況をあたえて、それを乗り越えていく能力を付けさせることですが、今は、良い状況を与えるのが教育とされています』

    この指摘には自分にも心当たりがある。たとえば私の場合、我が子供達が勉強しやすいように専用の机を買い与えようとか、専用の部屋を与えようとか・・・。できる限りよりよい環境で、との想いから、色々なことを優遇してきた。しかし、きっと子供は、勉強したい・しなければならない・・・という思いさえあれば、勉強する机がなくても、みかん箱をひっくり返してでも、勉強をする、そういうものなのだろう。むしろ、そのようにハードルを超えてたくましくなっていく、ということなのだろうと思う。

    この他にも心に響く指摘が数多く出てくる。彼女の指摘はそう、それは酸いも甘いも理解して説教する寺の坊様のようでもある。耳障りではなく、しかし、いちいちグサグサと突き刺さる。

    ”人生”という名のシャツのボタンのかけちがえに気づかせてくれる貴重な本だ。全ての人が読むべき本だが、特に人に指導をする立場にある人・影響を与える立場にある人・・・そう、教育者や親は必読だろう、と思う。

    (書評全文はこちら → http://ryosuke-katsumata.blogspot.jp/2012/07/blog-post_23.html

  • なるほどと思う所が30%、それはおかしいでしょとツッコミが70%。


    価値観が違う著者の本を読むと色々刺激的です。


    プロの件と超法規の話は心に留めたいと思います。

  • 幼稚園から大学まで聖心という育ちのためか、一般市民からは生粋のお嬢様と思われている作者だが、15歳の時に縁談が破談となったり、母娘ともに父から暴力を受け続けていたりと悲惨な青春時代を送っており、社会に出てからも60歳を過ぎた両親を熟年離婚させたりと、なかなかの苦労人である。本書は教育・常識・教養など、人間の「基本」となる部分をしっかりと確立もせずに、見た目やルール・そして金銭面の損得という「末端」ばかりを重視する今の風潮に流されずに「凛々しく」生きるためのアドバイスが詰まっている。例えば「貧乏」とは贅沢が出来ないことではなく、「今日の晩御飯を食べることが出来ないという状態」であると論じ、アフリカなどの僻地と比べると別世界であり、世界的に見ても恵まれた暮らしを送っている日本人の甘えを叱咤する。時に愚痴っぽい言い回しや、また上から目線も少し気になるが、人生の大先輩からの心優しいお説教と思いながら読んでみたい。

  • ピースするなとか、ナイフをもたないと人間としてなってないとか、やりすぎな主張も多かったが、参考になる考えはたくさんあった。
    人間の基本は非常時やライフラインがないところでも、いかに工夫して生きられるかということか。戦後の恵まれた環境で生きたことしかない人には酷な意見な気もする。
    他人は自分を理解してくれないという覚悟、ダグダー、善悪の間に人間の性質がある、他人を信じるな自分も信じるな、昨日のことを今日の眼でみない、自由というものは義務を果たしてこそ自由、は覚えておきたい。

  • 曽野綾子氏の文章は初めて読んだが、その印象は、しっかりとした芯のあるおばあ様といった感じで、明瞭な言葉の数々には押し付けがましさはなく、むしろ「洗練」という言葉が適切に思う。

    『日本の自殺』(文春新書)で指摘されている、文明の内部崩壊のプロセスと共通する内容もあり興味深く思ったが、簡単に言えばその基本にあるのは「これからの日本人に対する憂い」である。

    混沌のない世の中など蒸留水みたいで魚も飼えない、という曽野氏の言葉はまさにその通りで、混沌は恐れるものではなく、人生を豊かにする楽しみだ。
    混沌を楽しめるか否か。憂いに対する答えの一つはそこにある。

  • 曽野綾子さんの本は、

    自らの人生について考える上で、

    将来のことを考える上で、

    更には自分のこれからの時間の使い方を考える上で

    非常に参考になる点が多いです。

    これも勉強になった1冊でした。

  • 著者が残り少ない人生の中で、残したいメッセージの一部だと感じ伝わってきました。ありがたい内容であり、教育として受け継いでいくべきものだと思います。少し突っ込み過ぎの内容もありましたが枝葉であり、幹としては良書だと思います。

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著者プロフィール

1931年東京生まれ。聖心女子大学卒。93年恩賜賞・日本芸術院賞受賞。2003年文化功労者に。2012年菊池寛賞受賞。著書に『人生の収穫』『「群れない」生き方』『人間の道理』『老いの道楽』等多数。

「2022年 『未完の美学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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