陰謀史観 (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106104657

作品紹介・あらすじ

誰が史実を曲解し、歴史を歪めるのか?そのトリックは?動機は?明治維新から日露戦争、田中義一上奏文、張作霖爆殺、第二次世界大戦、東京裁判や占領政策、9・11テロまで、あらゆる場面で顔を出す「陰謀史観」を徹底検証。またナチス、コミンテルン、CIAの諜報や、ユダヤなどの秘密結社、フリーメーソンと日本の関係も解明する。日本史に潜む「からくり」の謎に、現代史研究の第一人者が迫る渾身の論考。

感想・レビュー・書評

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  • 「陰謀」、というと映画や小説でしかなじみがないし、そういうフィクションは大好物だったりします。

    しかし、「陰謀論」となると・・・。
    最近では「東日本大震災はアメリカの引き起こした人口地震だ!」とか、
    「NYの9.11の自爆テロはアメリカの自作自演だ!」とか、
    胡散臭い、愚にもつかない話ばかりだなと感じていました。
    しかし、そんなバカげた暴論がときに力をもつこともあるとなると、笑ってばかりもいられません。

    本書の著者の秦さんは、太平洋戦争の歴史を軸に近・現代史を振りかえりつつ、『陰謀史観』の論者たちを厳しく批判しています。
    「ルーズベルト大統領は真珠湾が攻撃されるのを知っていて、わざと日本に攻撃させたのだ」という話もどこかで聞いたことのある話ですが、それにたいする秦さんの論旨は明快。「前もって知っていたなら全艦隊を出港させておけばよかったではないか。被害は抑えられるし、戦争する口実だって与えられるのだから」
    もはや正しい歴史の知識をもっているかどうかよりも、ありえそうにないことを見分ける分別と見識の問題のように思えます。

    歴史は相対的なものだという考え方もありますが、やはり真実はたった一つなのだと思います(コナン君ではありませんが)。しかし、右左を問わず政治的なキャンペーンやアジテーションに利用されやすい学問であることも事実です。
    陰謀物のフィクションと歴史を混同しないように、偏見に惑わされない鑑識眼をぜひ養いたいものです。

  •  張作霖爆殺はソ連の仕業,ルーズベルトは真珠湾攻撃を知っていた,世界はユダヤ人やフリーメーソンに操られている…。こういった近現代史を捻じ曲げる臆説の数々を紹介し論駁を加えた好著。世に陰謀論の種は尽きない…。
     著者の定義によると,陰謀史観とは,「特定の個人ないし組織による秘密謀議で合意された筋書の通りに歴史は進行したし、進行するだろうという見方」(p.8)。なんとも不自然な視点だが,単純明快で結構受け入れられてしまう。政治的敗者によって考案され,社会的弱者によって支持される。
     田中上奏文,シオン議定書など,偽書であることがほぼ証明されている文書や,なかばでっち上げられた史料に(そうとは知らず/それを信じず)基づいて,陰謀史観に陥る人は後を絶たない。田母上史観がそんなにやばいとは,知らなかった。かなり体系的に自身の陰謀史観を固めている様子。それを広める藤原正彦氏…。
     こういう人々に,陰謀組織としてあげつらわれるものには2タイプある。コミンテルン,ナチ,CIA,MI6,モサドのような国家機関と,ユダヤ,フリーメーソン,国際金融資本,カルト教団などの秘密結社。後者は活動内容が事後的にも見えづらく,論者の妄想力はますますたくましくなっていく…。
     真珠湾奇襲はプロの軍人にはあまりにも投機的に見えて,意表を突かれたというのが真相のよう。哨戒飛行もしていない。相当な戦果を挙げたのだし,ほんとに察知してたなら前日に艦隊を移動していたはずという秦氏の意見はもっともだなぁ。

  • 秦郁彦は実績ある学者である。
    彼の最大の功績は従軍慰安婦に関する嘘を暴き出したことにあるだろう。
    政治的にはともかくとして、学術的に従軍慰安婦問題はケリのついた話になっている現況は、秦郁彦等の研究者たちの地道な努力の結果だと考える。   

    その秦郁彦による陰謀史観の本。

    さて、読後感だが、研究者としての秦郁彦が集めたデータ・資料が本著にもふんだんに盛り込まれているが、これは大いに参考になる。しかしながら、全体的に著者の史観がバイアスとなって読みにくいことこの上なかった。このあたりを割り引いて読まねばならぬと感じた次第。
       

    もうひとつの読後感は、『陰謀史観そのものは排除すべき』だが、『すべてを陰謀史観として排除してもならない』ことである。

    例えば、「ユダヤ資本が日本を支配している」という史観がある。これを否定するだけの材料もないが、さりとて俄かに肯定しがたいところもある。だから、私としてはYesともNoとも言えない。こういった史観をフレームワークにすることは、正直、できない。


    ならば、こういう「ものの見方」はどうだろう。

    「中国は対日戦略として日本のマスコミを手中にしている」
    これを否定するだけの材料は、市井の私たちは持ちえない。しかし、これは何となくありそうな気がする。つまり、「自分が中国首脳部であった場合、手っ取り早く日本の世論を手中に置きたかったら何をするのか?」といった視点で考えれば良いだけのことだ。この程度のことは、『戦国策』を紐解くまでもなく、彼の国では常識の範疇だろう。

    私はここで「中国が日本のマスコミを手中にしているか否か」ということを問題にしているのではない。何でもかんでも「それは陰謀史観というやつですね」と切り捨ててしまうのも、戦略眼を曇らせてしまうことになると言いたいのだ。
       
    その兼ね合いは実に難しいのだが…

  • 日本の近現代史の陰謀史観について語った一冊。

    割と真面目な感じで、自分の興味ある陰謀史についてはあまり触れられてなく残念。

  • 各種陰謀史観の発展とその相互関係を説明している。
    陰謀史観の各セクトは、お互いに矛盾しているのに、反目せず協調するあたりが面白い。

  • 陰謀史観を膨大な資料から論破しており参考になったが、如何せん学者本なので読み難く面白味がない。まあ仕方ないことだが。

  • 【由来】
    ・「動乱のインテリジェンス」のカバー裏の関連本紹介で

    【期待したもの】
    ・「陰謀史観」は自分も陥りやすい思考停止の誘惑であるが、最近はそうではないだろ、と思う。だが、そう信じてる人間って、なかなか論破できないので、その知力を身につけたい。

    【要約】


    【ノート】
    ・この本には唇亡歯寒を陰謀史観的に論破することを期待していた。そのことに気づいたのはタイトル故で、正岡さんの言う「タイトル読み」とはこういうことかと思ったりした。

    ・1908年 ホワイトフリート(P75)
     1924年 排日移民法(P83)

     松方乙彦(P93) ルーズベルトへの影響

     「国際政治における不感症」(P104)

     「陰謀」はあるけど「陰謀史観」はない?(P166)

     ウールステッターの「パールハーバー」(P181)

  • ラストに陰謀論を見抜くレクチャーが載っているが、著者である秦教授自身が、まさに本書の中で陰謀論を信じこませるための手法を使っているのには、苦笑せざるを得ない。

  • 江藤淳 ウォーギルト論の紹介が良かった。

    実際、米国は終戦直後の一時期、検閲をしているし、思想統制をしている。

    オバマ大統領の広島訪問は、ある意味、米国側からの太平洋戦争総決算だったかもしれない。

  • 2016年3月28日読了

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著者プロフィール

1932年,山口県生まれ。東京大学法学部卒業。官僚として大蔵省、防衛庁などに勤務の後、拓殖大学教授、千葉大学教授、日本大学教授などを歴任。専門は日本近現代史、軍事史。法学博士。著書に、『日中戦争史』(河出書房新社)、『慰安婦と戦場の性』(新潮社)、『昭和史の軍人たち』(文春学藝ライブラリー)、『南京事件―虐殺の構造』(中公新書)、『昭和史の謎を追う』(文春文庫)、『盧溝橋事件の研究』(東京大学出版会)、『病気の日本近代史―幕末からコロナ禍まで』(小学館新書)、『官僚の研究―日本を創った不滅の集団』(講談社学術文庫)など多数。

「2023年 『明と暗のノモンハン戦史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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