キレイゴトぬきの農業論 (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 81
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106105388

作品紹介・あらすじ

日本農業は「誤解に基づく神話」に満ちている! 有機が安全・美味とは限らない。農家イコール清貧な弱者ではない。有機野菜を栽培し、ゲリラ戦略で全国にファンを獲得している著者による、目からウロコの農業論。

感想・レビュー・書評

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  • タイトル通りの、非常によくできた農業論。

    農地という税制上優遇されている環境が、農家の発展を
    妨げているという指摘。
    旬のものは旬の季節に食べるべし(冬のほうれん草は、おかしい)。
    有機でなくても、安全な野菜は作ることができる。

    著者自身ストーリーマーケティングと言っているように、
    卵一つでも、鶏の姿や生産者の顔が浮かぶようなものを
    提供することで、値段以上の価値をあげる、などは見事。

    感心した箇所は、今回の震災の放射能問題について。
    農業経営者として、風評被害で支持が落ちるようでは
    経営者として負け。
    個人と個人が、強くつながっている関係を築くべし。

    こないだの小ざきの先代社長の言葉、お客の信頼があれば
    問題が起こっても商売は再開できる、につながる
    商売道ですね。
    久松農園、必ず生き残る農家でしょうね。

  • 有機農業だから美味しい、安全、環境はいい、はウソ。そのとおり。無農薬、有機栽培に対して、栽培者も消費者もなぜか神話を作りたがり、あたかも宗教のように排他的な考え方をする人もいる。宗教として自分で信じるのは良いが他人に強制するのは迷惑行為でしかない。著者は脱サラ有機就農者だがバランスのとれた見方で共感できる。すこしふるい本だが有機での就農を考えている人、有機野菜に興味のある消費者は読んだほうがいい1冊。宗教にそまらず自然体で読める。

  • 著者ご自身がおっしゃっている、「口から先に生まれた」が故か、ものすごくわかりやすい。農業界には、このように誰にでもわかりやすい言葉で説明できる人が少ないとのこと。帝人という繊維メーカーを経験した筆者だからこその、生産管理、営業、販売…と分けた「農業経営」をされている

    ・今の農業は、職人に偏り過ぎている(農業者同士で集まっても栽培のことばかり)。農協は何もしてくれない、とそもそも販売は他者をあてにしている。
    ・東日本大震災後、お客さんが離れていった絶望の中で自分が好きなのは「作業」だときづいた
    ・作業の合理化を徹底。「女性に機械は操作できない」は本当か?むしろ、体力の弱い女性を機械作業に回し、体力のある男性に体力仕事を担当させるなど、小さなところから合理化を。
    ・農家は、制度によって資産が守られ過ぎている(土地税制ー農家であれば宅地課税も優遇)。また、代々農家であれば、設備や土地もある。農業で「ビジネス」をする人が少ないのは、むしろガツガツしなくても食べていけるからではないか。
    ・「弱い農家像」により得をする人たち(公共事業ー土木関係者)がいることを覚えておいてほしい
    ・(東日本大震災後の)風評被害は、社会全体のコストを上げてしまう。仕方のないことではあるが。(ふぐについては、毒があると知っていても食べる人がいて、亡くなる人もいる。それでも美味しいから食べられている・・・。

    職業観・人生観も交えつつ。

  • これまで「農業」には、そこまで興味をひかれなかったのに、なぜか最近まわりで「農業」関係の話しがちらほら。そして、実は実家がお米とブドウを作る農家のせがれ。。。笑

    「有機農業」という言葉を聞けば「無農薬」と一律に体に良い!おいしい!というイメージを持っていますが、どうやらそれはすべてが本当ではないらしい。ということを元サラリーマン、脱サラ農業家という視点から語っている一冊。

    ほ〜。へ〜と思うことが随所に。その先、「有機農業」をどう捉えるかは自分次第!

  • 新規就農を考えている人にも・・ 食に対して 不安や疑問を抱えている人にも読んで見て欲しい・・
    消費者の目も経営者の目も持った著者だから こんなにわかりやすいのかもしれない・・

  • 個人的な感想ではあるが今まで読んだ農業の本のなかで一番現場サイドのことが分かりやすく、読みやすく書いてあると感じた。
    特に、有機のこと、農薬のこと、そして放射能のことなどが色んな人にわかってもらえるように書いてあると思う。
    農業はいろいろな側面があり、一概に農業で括ってはいけないと私は常々思っているが、この本を読めば農業のほんのさわりがわかってもらえるのではないか。

  • 「有機農法だから安心」という論理は、ハッキリ言って2周遅れです。

    無農薬・無化学肥料の有機農法野菜を少量多品種で手がける久松農園から、このような意見を聞けて膝を打つ思いだ。有機野菜じゃなければならない、という原理主義は論外としても、未だに新規就農するに際して自然農だ、無農薬でやるのだ、という人たちに欠けている戦略性、それについて書かれている本である。

    無農薬・無化学肥料とは美味しい野菜をつくるための手段であって、そこに至る手段としては別に慣行農法だろうが水耕栽培だろうがどれでも良い。一方で、新規就農という土地も資本もネットワークもない状況で採るべき戦略として、無農薬・無化学肥料というニッチな分野を狙うのはアリだと思う。

    自分自身、田舎に住んで有機農法で野菜を育ててみたが、虫や雑草との戦いは半端なものではなかった。そのような痛い経験を踏まえて、様々な農業資材を活用しながら、顧客選別をするマーケティング戦略として無農薬・無化学肥料を実践する久松農園のやり方は合理的に感じた。

    農業の素人で、漠然と有機農法が身体に良いのだと思っちゃっている人たちに是非読んでもらいたい内容である。

  •  これは読む価値がある本だ。久々に目からうろこが落ちた。ロジカルな思考と有機農業にありがちな過剰な精神論の徹底した排除、さらに農業という職業やその周辺の政策・農村社会・消費者に関する客観的な分析力。その辺の経営学の事例研究の何倍も面白い。

     最初の段階で「有機だから安全」「有機だから美味しい」「有機だから環境に良い」を嘘だと言い切るあたりは、まあ農学部にいれば常識のレベル。とはいえ、有機農業を実践している人自身が言い切るのはなかなか「勇気」のいることだと思った。おそらく、著者はこのスタンスで論戦をし慣れているのだろう。

     自らの経営方針を「土の生き物との共生」「とれたての鮮度を徹底追及」「ニッチを探る多品種栽培」「顧客・小規模飲食店との濃密なコミュニケ」においていて、これも極めて明快。つまらない精神論ではなく、経営資源の投入として、冷静に農法を選んでいる点も極めてわかりやすい。

     最後の「新参者の農業論」にある「清貧でエコロジカルな善人」という”職人”農家像を捨てよ、ビジネスツールとして開拓する能力を磨け、農村は特殊なのではなく、まだまだ困っていないのから変われないのだ、というメッセージは、思わず電車の中で「おおー!うむー」と叫んでしまった。行き帰りと乗り換えで計4回。

    これは読む価値がある本だ。

  • 著者の久松氏はちょっとした知り合いなのだが、以前と変わらない論理の明解さと歯切れの良さで楽しませてもらった。
    やや刺激的なタイトルなのだが、本書の内容は至って常識的である。逆に言えば、これがある意味衝撃を以て受け取られていることは、世間一般の有機農業に対する理解の低さをよく表している。農薬だけでなく、堆肥や有機肥料に対する誤解、誤用についても触れてほしかったが、新書という媒体の制約上専門性に踏み込み過ぎるのも難しいのかも知れない。
    次作にも期待したい。

  • 農業に興味があり、手に取った本。
    ドキッとさせられる言葉もたくさんあり、内容もわかりやすくてとても勉強になりました。作物をつくるだけでなく、事務や営業などさまざまな業務のスキルが必要なのはどの業界も同じですね…。
    また実際に農業始める時に読み返したいですを

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著者プロフィール

株式会社久松農園 代表取締役。1970年茨城県生まれ。1994年慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人株式会社入社。工業用繊維の輸出営業に従事。1998年農業研修を経て、独立就農。現在は7名のスタッフと共に、年間50品目以上の旬の有機野菜を栽培し、契約消費者と都内の飲食店に直接販売。ソーシャル時代の新しい有機農業を展開している。自治体や小売店と連携し、補助金に頼らないで生き残れる小規模独立型の農業者の育成にも力を入れる。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)がある。

「2014年 『小さくて強い農業をつくる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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