「いいね!」が社会を破壊する (新潮新書 542)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106105425

作品紹介・あらすじ

そのクリックは、地獄への一本道。「無駄」の排除を続けた果てに、人間そのものが「無駄」になる……。ネットの進化がもたらすインパクトを、「ビジネスモデル小説」の第一人者が冷徹に見据える。

感想・レビュー・書評

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  •  読んだ人のほとんどが思うことだろうが、タイトルと内容に乖離がありすぎ。
     このタイトルなら誰だって、「ツイッターなどのSNSの普及によって人々の悪意が増幅され、社会の息苦しさが増していく」的なネット批判の書を思い浮かべるだろう。

     しかし実際には、SNSの話などほとんど出てこない。「ネット社会化」の負の側面に光を当てた本には違いないが、本書が目を向けるのはむしろネット社会化による雇用喪失の問題なのだ。
     少し前に『コンピュータが仕事を奪う』 (新井紀子)という本があったが、本書は『ネットが仕事を奪う』とでもしたほうが的確な内容である。

     『コンピュータが仕事を奪う』 はじつに面白い本だったが、本書はイマイチ。
     そもそも、著者は小説家であって評論家ではないから、この手の評論ぽい文章は得意ではないらしく、論の進め方がダラダラしていて散漫だ。

     それでも、1~2章はわりと面白く読める。

     1章は、著者がかつて同社日本法人に在籍していたイーストマン・コダックが、デジカメ技術の進歩と普及によって経営破綻するまでの道筋をたどったもの。いま多くの業界で進行している「イノベーションが雇用を破壊する」プロセスの典型例を、そこに浮かび上がらせるのだ。
     著者が最もよく知る業界の話だけあって、この章は内容が濃い。

     つづく2章は、著者がいま身を置いている出版業界の近未来を展望したもの。電子書籍の普及が出版不況の救世主にはならず、「電子出版という新しい船に乗り込むことを許されるのは、ごく僅か」となる過酷な未来を、著者は描いてみせる。
     目新しい論点はないものの、電子書籍ビジネスの世界を舞台にした長編小説『虚空の冠』も書いている(らしい。私は初期の犯罪小説しか読んだことがないけど)著者だけに、電子出版をめぐる冷徹な分析はなかなか読ませる。

     しかし、3章以降はだんだんつまらなくなっていく。
     “スマホの普及は人を幸せにしない”だとか、グーグルなどによって個人情報が収集される危険性だとか、「ネットが拍車をかけた就活地獄」だとか、「何をいまさら」な話ばかりが目立つのだ。

     前半だけなら読む価値はあるが、一冊の本としては中途半端な出来と言わざるを得ない。

  •  1988年に世界で14万5千人の従業員を抱えて世界一のフィルム企業イーストマン・コダック社は2012年にチャプターイレブン(会社更生法)適用となった。絶頂期には1ドルで70セントの利益が出ると言われた、フィルム・現像・プリントの各段階で利益が見込めたからだ。ご想像の通りその凋落の要因は、デジタル化です。フィルムレスのデジタルカメラの登場に加えスマホで高画質カメラが搭載しかも瞬時にネットに掲載や共有、メールでのやり取りも出来る。一部のマニア等以外には必要とされなくなった。

     書籍も同様だ。amazonを筆頭にネット販売で実店舗書店は世界中で激減している。日本は再販制度で本の定価が決まっているのでネットでも実店舗でも価格差は無いが利便性や在庫数には太刀打ち出来ない。更に今後は電子書籍が普及すれば、出版社は大幅縮小し取次・書店・製本・紙業・印刷業・物流業に多大な影響が出るのは必至だ。私自身は、紙派だが今後電子書籍が相応の価格(紙に比べて圧倒的に低コスト)になれば、保管場所、即時性、特にエコの観点から電子書籍を勧めざるを得ないと思う。

     上記二点は、イノベーションだがこれ等ITイノベーションは高度デジタル化と通信インフラ向上によって、雇用や機会の喪失をもたらし極一部の人間とプラットフォームを有する企業だけが有利になるのが、現在のイノベーションだ。既得権益を壊し新たな産業を生み出すが雇用を生み出すものでは無くなってきた。

     本書の題名、''いいね!が社会を破壊する''とは、決してソーシャルメディア等の反応を示す''いいね''では無く、日々進化するIT化による超効率化や生産性向上による弊害で雇用や賃金が守られなくなり、素晴らしいITを駆使したインフラも利用する人が限られやがて衰退するのでは、という懸念だ。

     AI化やロボット化は、確かに素晴らしい人に代わって頭脳・肉体労働を行なってくれるだろう、では人は何処へゆくのか? ロボットへの前後準備作業や手作業でないと出来ない本当に単純な労働、もしくは高度で人としての感覚が必要な頭脳労働。超二極化されつつ有るのでは無いでしょうか、

  • フェイスブックによる個人情報の流出に危機を唱える、という趣旨の本ではない。いやそれどころではなく、アマゾンが仕掛ける物流改革やネット通販による流通破壊、そして大型量販店やLCC (格安航空会社)などによる価格破壊と、利用する大多数の人々が「いいね!」と思っている便利なネット環境が逆に人々の雇用を奪い、さらには社会を破滅させる危険性に警鐘を鳴らしたもの。 世界最大のフィルムメーカーである米イーストマン・コダック社に15年間勤めた著者自身が2012年にその倒産を目の当たりにした経験から、好調を続ける優良企業までもが陥る罠と、消費者の取るべき方策について提言する。昔からのことわざ・「タダほど怖いものは無い」の真意を罪のない一般市民が身を以て痛感するのは、そう遠くない未来なのかも知れない。

  • 「いいね」なのでフェイスブック系本かと思ったら、便利を追求してきたことで今の社会が出来、便利になったがその側面では雇用など色々社会を破滅させてきたという話。便利なもの、安いもの、タダなものに飛びつくのは人のサガとして全くその通りなので、逆に社会が今後もさらに便利を追求していく過程のなかで、自分としてどう接していくか今後のことを考えるきかっけになれたような本でした。

  • タイトルからはソーシャルメディア批判かなと思いながら読んでみたが、なかなかFaceBookもtwitterも出て来ない。
    それよりももっと高い次元から現代の情報社会(?)に警鐘を鳴らしている様な。
    元々不安だったところに、更に不安が増したが、解決法や処方箋はくれない。
    さて、どうしたものか・・・・

  • 情報産業の首根っこを押さえている、米国は21世紀も覇権国として君臨しつづけるのだろうか。

    情報と金とチャンスと権力が集まる、東京はますます栄え、地方はますます疲弊する。

    若い人は、チャンスをもとめて東京に吸い寄せられるが、  WINNERS TAKES IT ALL 


    希望をなくした若者たちで、東京がかってのニューヨークのハーレムタウンのようにならなければいいが。

    というのがこの本を読んでの感想、というより連想です。

  • 便利はいいね?



    1. かつての優良企業イーストマン・コダックが2012年に会社更生法を申請するまで。写真の歴史はコダックの歴史。フィルム市場を独占していた。皮肉にも株主がコダックのデジタル化を妨げた。

    2. 地方書店を駆逐したネット書店のAmazon。クリック一つで購入は便利。電子書籍は必ず本格化する。そして電子出版。出版社の間接部門は削減。

    3. イノベーションによる構造破壊。全ては人手を減らす方向へ。格安航空券の安さは経費削減から。総合スーパーが街を破壊する。工場を誘致しても雇用は増えない。物流企業Amazon。

    4. 3Dプリンターの衝撃。スマホで幸せになったか。サボリが出来ない。LINEはタダではない。個人情報で収益を上げている。Facebookは顔データベース。個人情報全てを把握するGoogle。これらの情報は「官」も利用する。

    5. 勝者なき世界。未来の展望が描けない。ネットで就活地獄に。労働は機械に取って代わられる。

  • コダックの崩壊理論。
    レイイナモトさんの持論とあわせて読んだのでわかりやすかった。

    しかし、筆者がフェイスブックをやっていないのに、いいね!をタイトルに入れるのは、ちょっと看板の上げ方がちがうのでは?

  • より快適な、より便利な生活を追い求め、「無駄」の排除を続けた果てに生まれるのは、皮肉にも人間そのものが「無駄」になる社会…。ネットの進化が実社会にもたらすインパクトを、経済小説の第一人者が冷徹に見据える。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40195734

  • ネット社会、について

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著者プロフィール

1957年生まれ。米国系企業に勤務中の96年、30万部を超えるベストセラーになった『Cの福音』で衝撃のデビューを飾る。翌年から作家業に専念、日本の地方創生の在り方を描き、政財界に多大な影響を及ぼした『プラチナタウン』をはじめ、経済小説、法廷ミステリーなど、綿密な取材に基づく作品で読者を魅了し続ける。著書に『介護退職』『国士』『和僑』『食王』(以上、祥伝社刊)他多数。

「2023年 『日本ゲートウェイ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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