「自分」の壁 (新潮新書)

  • 新潮社 (2014年6月16日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784106105760

作品紹介・あらすじ

「本当の自分」よりも「本物の自信」を。「自分とは地図の中の矢印である」「仕事とは厄介な状況ごと背負うこと」―脳、医療、死、情報化社会、仕事等、多様なテーマを語り尽くす。目からウロコの一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 「自分」の壁
    著:養老 孟司
    紙版
    新潮新書 576

    最初の主題はいわゆる「自分」という問題です。
    残りはなんとなくそれにも絡んだ、さまざま話題です

    気になったのは、以下です

    ・戦後、日本人は、「自分」を重要視する傾向が強くなりました
     これは欧米からの影響によることころが大きいでしょう
     その結果、個々人の「個性」「独創性」が大切だとさんざん言われるようになったのです
     教育現場ではもちろんのこと、職場などでも「個性の発揮」を求める風潮が強くあります

    ・そんなものがどれだけ大切なのかは疑わしい。これまでにもそのことを繰り返し書いて、話してきました。

    ・個性は放っておいても誰にでもあります。だから、この世の中で生きていううえで大切なのは、「人といかに違うか」でなくて、人と同じところを探すことです。

    ・世間に押しつぶされそうになってもつぶれないものが、「個性」です
     結局、誰しも世間と折り合えない部分は出てきます。それで折り合えないところについては、ケンカすればいいのです。それで世間が勝つか、自分が勝つかわかりません。でも、それでも残った自分が、「本当の自分」のはずです

    ・弟子入りの最初の段階から、「個性を伸ばせ」などと言っても意味がない

    ・外国にも「顔色を読む」といった表現があるのかどうか、少なくとも私は知りません
     日本語には他にも、「血の巡りが悪い」、「人の痛みを感じる」といった言葉があります

    ・20世紀の終わりに、多くの科学者を対象にした調査をまとめた「The End of Science」(科学の終焉)という本が出版されました。ここで科学者のほとんどが、「科学はすべてを解明しない」と答えています。

    ・すんなり馴染めないからこそ、私は世間を関心の対象としてきました。そして、わからないからこそ、何とかそのルールを明文化したいと考えた。

    ・日本には世間というものがあります。世間のメンバーではない人はメンバーとは別の扱いを受けます
     しかし、これは差別意識の産物ではありません。あくまでも会員制クラブのメンバーかどうか、ということです

    ・日本にとって必要な思想は、全部、無意識のほうに入っているのです
     「それはまずいでしょう」
     それがなぜ、どういう理由で、どのへんがどう、まずいか。
     その理屈は、いちいち言語化されない。誰も説明しない。でも、まずい、のは、当たり前、なのです
     それは、無意識で共有されている

    ・江戸時代も同じで、合議制がベースとなっていました
     将軍は決して独裁者にはなれなかった

    ・豊かさのなかの自殺
     不況のせいで日本人の自殺が増えている、という考え方は少し違うのではないか、と思います

    ・世間といじめ
     あんなものなくなるわけがない。それが結論です。
     むしろ考えておくべきなのは、いじめられたときの対処法です
     軍隊のいじめが過酷なのは、逃げ場がつくれないからです

    ・人を信用するとコストが低く済むのです
     相手を信用していないと、何でもいちいちたしかめなくてはいけなくなります。これは手間暇、すなわちコストがかかることです
    ・だから本当は、契約書なんて交わさなくて、なにか問題が起きて、どうしても解決できないときにだけ弁護士が出てくる、くらいでいいのです

    ・絶対反対、と、絶対賛成、が二項対立という、構図になると、コストがかかるし、具体的な話ができなくなります

    ・しかし、もともと私は、選挙というものについて、あまり期待をしていません。
     いつも次のように言ってきました。
     紙に名前を書いて箱に入れるだけで、ないか変わると本気で皆さん思っているのですか、それはおまじないと同じではないですか、と。

    ・日本が国際化することは、日本人がもっとウソつきになるということです。
     ああいうウソつきは、外国には昔から当たり前にいるからです

    ・国があなたに何をしてくれるかではなく、あなたが国に何ができるかだ ケネディ大統領

    ・かっては、そんなに簡単に変わらないことがわかっていたし、そのほうがいいことも常識でした。その変わらないものが、「世間」であり、「大和魂」だったのです。
     「世間はそう簡単にかわらないよ」これが世間の常識だったのです

    ・ある程度年を取ってからでいい。大器晩成でいいのです

    ・一生役に立たないこともあるかもしれません。それを中国では、「英雄時を得ず」と言ったのです

    ・パソコンやケータイに限らず、人は便利なもの、面白いと思うものに慣れていく。
     こういう流れは、逆に戻すことはできないものです
     「ただ、考えておいたほうがいいのは、ではそれによって人がどう変わるのか、という点です」

    ・情報過多というのは、別の言い方をすれば、身はつかない情報ばかりが増えていくことです。
     知っていても、役に立たない

    ・情報過多になり、知らず知らずのうちにメタメッセージを受け取り続けていくと、本当に何が大事なのか、そのバランスが崩れてしまうように思えます

    ・情報をたくさん仕入れたからといって、役に立つとは限らない

    ・先生によれば、「よくない教科書というのは、よくできすぎている教科書、説明が至れり尽くせりの教科書だ」
     そういう教科書で学ぶ疑問が生じない

    ・なにかにぶつかり、迷い、挑戦し、失敗し、ということを繰り返すことになります。
     しかし、そうやって自分で育ててきた感覚のことを、「自信」をいうのです

    目次
    第1章 「自分」は矢印に過ごない
    第2章 本当の自分は最後に残る
    第3章 私の体は私だけのものではない
    第4章 エネルギー問題は自分自身の問題
    第5章 日本のシステムは生きている
    第6章 絆には良し悪しがある
    第7章 政治は現実を動かさない
    第8章 「自分」以外の存在を意識する
    第9章 あふれる情報に左右されないために
    第10章 自信は「自分」で育てるもの

    ISBN:9784106105760
    出版社:新潮社
    判型:新書
    ページ数:224ページ
    定価:800円(本体)
    発行年月日:2014年06月
    2014年06月20日発行
    2014年08月20日7刷

  • 本書は、養老孟司さんの「壁シリーズ」の一冊です。
    「自分」というモノサシから、社会、政治、情報、自信について、などなど幅広く考察をされています。
    色々な物の見方があり、参考になりました。

  • 「自分」というテーマについて、著者の養老孟司さんが語った本です。

    「自分」は矢印に過ぎない。この第一章で語られる、「自分の意識とは、社会の中で自分の現在地を確認するための矢印である」という考えは、その後展開される思考の根本となるものであり、多くの転勤で各地を転々としてきた私には、とてもしっくりくる考えでした。

    社会と自分の関係性について、少しも悩まないという社会人はいないのではないでしょうか?本書は、そんな悩みにひと匙のアイデアをくれたような気がします。

    最後に、本書はこれまでに出版された「バカの壁」「死の壁」「超バカの壁」の3冊で語られてきた、自分と他人、自分自身、そして自分と社会についてのまとめのような内容でした。

  • 養老孟司さんとお酒を飲みに行って、いろいろとお話を聞いた気になれるような一冊です。養老さんが思うことをいろんなテーマに渡って好き勝手話しているだけですが、何だか窮屈でぐらぐらしてきた今の日本社会を根本的な視点から眺めて読み解いてくれていて、気付かされると同時に共感できることが多い。基本的にはこれまでの似たような新書とほぼ同じような内容ですがが、最新(この本で言えば2014年)の社会状況も交えてお話を聞けます。あとがきに書いてある通り、この手の新書は、出版社が本を売るために企画し、編集者の人が養老さんに話を聞きに言ってそれを文章化し、それを手直ししただけだそうです。他者の視点で自分の考えをまとめるというのも楽しそうです。そして出版社も儲かる。

  • 物事の捉え方、社会の見方が読む前後で変わるのが楽しい。
    自分、自我、自己は地図の矢印(現在地)であるという考え方
    この前提には、地図をかけるだけの出会い(師匠的な)、時間をかけた調査が必要だと思う。
    迷子であることを意識するだけでも、地図を作ろうと行動を起こせそうだと感じた。

  • 人はしばしば「自分探し」に出かける。旅をし資格を取り答えを外に求める。しかし養老孟司は言う――自分は探すものではなくすでにここにあると。
    日々の暮らしや人との関わりの中で嫌なことも嬉しいこともすべてが自分を形づくる。
    壁にぶつかれば回り道もできるし壁の高さを知ることもできる。壁こそが自分の輪郭をはっきりさせる。
    探すより今の自分を引き受け磨く。その積み重ねが唯一無二の「自分」を描く。

  • 私は自分に自信を持てずにまごついてしまうことが多い。そんな中、『バカの壁』を読み、次にどの本を読もうか検討していた時に、同著者の本で自信を養うことに関して記されている点に気づいたことがこの本を読むに至った経緯である。

    この本を読んで学んだことは、「周りに流されたり楽をしようとしたりせずに、多くの人との出会いや挑戦が真の自信に繋がる」ということである。
    今まで行ったことがない環境に足を一歩踏み入れて新しい人と出会い人脈や自分の視野を広げて、どんどん挑戦し続けていくことが自分の成長に結びつくと解釈した。

    私は、「新しい経験に一歩踏み出す勇気が欲しい時」にこの本を再度読むだろうと思った。


  • 「自分」を見つめ直すヒントを得られる本でした。

  • 体調が上向く布石となった価値ある本。自分なんて分からなくて当たり前との記述が目から鱗でした。
    『自分探しなんてムダなこと』
    『自分とは地図の中の矢印である』
    『自分以外の存在を意識せよ』
    本文中のこれらの意見に浸るうちに、脳みそが柔軟体操をしてるかのごとく、グニャっとして楽になります。
    養老孟司さんの本は大好きでたくさん読んでます。文章力が確かで柔らかくて癒されます。
    ただ、この本は興味のない箇所も多いので減点1。

  • 『バカの壁』『超バカの壁』『死の壁』と、養老さんの壁シリーズは都度読んで参りました。毎度毎度あ〜分かるぅ〜、納得ぅ〜っと言う記憶だけあって内容は全く覚えておりませんので、偶に読み返すのも必要だと思いますね。あ、『人の壁』は未読か。

    特に年齢を重ねる毎に壁シリーズの面白さと言うか、筆者の捉え所の良さを実感します。
    脳、人生、医療、死、情報、仕事について筆者の考えが方が相変わらず面白い、いや、そうなって欲しいと思いますが、経営者の立場としては仕事については些か賛成出来ない事もありました。

    ま、昆虫好きの学者さんですから浮世離れしている所も散見できすし、それがまたいいんでしょうか。

    この猛暑の中、クーラーの効いた部屋で昼寝を狙って読むには最高の本ですね。

    次の壁は何でしょうか。私としては『信用取引の壁』と言うのを一筆お願いしたい、そうです、今年信用取引で大損した私です。株は現物に限ります、そこテストに出ますからね。Twitterの煽りに乗せられてんじゃねーよ、このバカ、バカは私か。やはりバカの壁を越えられない私です。

  • 個人についての考え方を再認識しました。

  • 自分のことがよくわかっている人が書いた本であった

    自分に自信がない

    いろいろ挑戦してきたものが自信

    人は自分が作り出すエネルギーの40倍を使っている。40人を雇ってるのと一緒

    GDPが高くなると人と比較して不幸が出てくる。

  • 「自分探し」なんてムダなこと。「本当の自分」を探すよりも、「本物の自信」を育てたほうがいい。脳、人生、医療、死、情報、仕事など、あらゆるテーマについて、頭の中にある「壁」を超えたときに、新たな思考の次元が見えてくる。「自分とは地図の中の矢印である」「自分以外の存在を意識せよ」「仕事とは厄介な状況ごと背負うこと」―『バカの壁』から十一年、最初から最後まで目からウロコの指摘が詰まった一冊。

    目次
    第1章 「自分」は矢印に過ぎない
    第2章 本当の自分は最後に残る
    第3章 私の体は私だけのものではない
    第4章 エネルギー問題は自分自身の問題
    第5章 日本のシステムは生きている
    第6章 絆には良し悪しがある
    第7章 政治は現実を動かさない
    第8章 「自分」以外の存在を意識する
    第9章 あふれる情報に左右されないために
    第10章 自信は「自分」で育てるもの

  • これも読んでよかった。
    自分について悩んでいたけれど、これを読んでいる間は少し遠くから自分を見つめることができた。

  • わかったような気にならないこと
    前提や自分の意識を疑うこと
    楽な方向に進むことに危機感を感じること
    相反する事象や視点を変えて物事を見ること
    自分という物体を過信しないこと
    まあ、自分以外のものを感覚的に捉えることは出来ない訳だけど
    仏教を深く知りたくなった

  • 遺言より読みやすかった。情報とはうまく付き合って、自分の意識を信用しすぎないようにしたい。

  • chap.10
    ここまでの章は著者自身の考えがつらつらと書いてあったが(あとがきにも、言いたいことをずいぶん言ったとあった笑)
    この章は自分にとっても耳が痛く、かつためになった。

    脳は楽をしたがるが、人生はごつごつしたものである。
    自分にどれだけ負荷を強いることができるか知ること。

    自分が成長できる環境に身をおきつつ、
    自分の人生をしっかり見据ようとおもった。

  • 読み進むにつれ、意欲ややる気を少し削がれる。
    自分では抗えない外的内的要因には、どうしようもない。

    が、一貫しているのは『向き合う』ということ。
    逃げずに、真っ直ぐに。

    自分であるための自信。
    選択は常に難しい方を選ぶ。
    簡単な人生で楽しいのか?
    自信はつくのか?
    それで、自分は自分を見つけられるのか。

  • 「バカの壁」に続く養老さんシリーズ。
    今回は「自分」というテーマに関し、著者の考え方について書かれている。
    前回のシリーズと同じく、1つの結論に対してすべてが書かれている本ではないので色々な話が出てくるが、著者の視点が独特であるため「新たな視点」が得られるという点では面白い本だと思う。

    ・「自分」は矢印に過ぎない
    →今のところ、自分の中ではあまり理解しきれていない。今後の感じ方が変わる日が来るか?

    ★意識は自分をえこひいきする
    →脳によって「自分」、「それ以外」を区別している
    <例>
    口の中にある唾 と 外に出した唾
    体内の便 と 体外の便
    生首や切り落とされた腕

    ・「思想の自由」は日本特有のもの。内と外がという感覚が日本人特有。
    →インターネットの70%は日本語(人口比は2%)

    ・誰かが感情的な批判をするときはどこかに「嘘」が存在している

    ・自殺の要因は以下3つ

    1 本人
    2 社会的要因 (いじめ等)
    3 意識できない社会的要因(GDP高→自殺率高 貧富の差が拡大するため)

    ★「世間」は「自分」より先。自分ではどうもできない事が多いと考えた方がラク
    →「いじめ」は無くならない。基本的には逃げる方が得策。

    ・老後は子供の世話になれば良い。
    「世話にならない」という姿勢は逆に、自分の親の世話をしないの裏返し。
    「共同体」であるという感覚こそが正しい
    <所感>
    現在の感覚ではイマイチ腑に落ちない

    ・不信はコストが高く付く
    →信じていない場合、すべてを確かめる必要がある
    ※口約束 → 書類での約束

    ★昔より「共同体感覚」が薄れている社会になってきている
    <例>
    特攻隊は「自分」は「自分だけのもの」ではなく、「親、家族、村、国etc」のものという感覚があったからこその行為

    ・日本 → 全体主義
     西洋 → 個人主義

    ・夏目漱石は海外で個人主義を学んだが、晩年は「私なんかいない」という考え方に達した

    自分に入ってくる情報をどこかで制限しないと、仕事は進まない
    <例>論文作成等

    ・「何が問題なのか?」から考える仕事の方が難易度が高い

    ★他人と関わり、面倒を背負い込める状況を楽しめるなら相当なもの。
    迷い、挑戦し失敗を繰り返し、自分で育ててきた感覚を「自信」という

  • 葉月は、蛹の家に勝手に上がり込むと、居間のテーブルの上に無造作に置いてあった本を手に取った。
    「……『自分の壁』っていうか、『自分が壁』って感じですよね」
    「……それじゃあ、安部公房だよ」
    蛹は、庭先で煙草を吸っていた。どこからか拾ってきた一斗缶を、灰皿の代わりにしている。縁側のガラス戸が開いていて、メンソール煙草の匂いが部屋の中まで微かに入ってきていた。

    葉月はとりあえずキッチンに入り、旧式のコーヒーメーカーをセットした。お湯が沸くまでに時間がかかるタイプだ。コーヒーが出来るまで、居間のソファで待つことにして、先ほどの本をぱらぱらとめくり始める。
    「あまりに強固な『自分』を作り上げてしまうと、そこからうまく外に繋がれなくなる、という話でしょうか」
    「多分ね。もちろん、自分は自分だ。他者との境界がないわけじゃない。けれども、他と明確に切り離され、独立して存在するものでもない。それは生物学的に見れば当たり前だけど、それはそれとして、自分を唯一無二で、不可侵で、尊いものだと思いたがる傾向はあるのかもね」
    「個性とみせかけてみんな同じ、っていうアレかもしれないですね。でも、前から思っていましたけど、だからといってシロアリも人間も対等だという考え方の人って、意外と少数派かもしれませんよ」
    「そうかなあ。じゃあみんな、ソーセージは下等生物の死体だと思って食べてるの?」
    「いや、ソーセージはソーセージだと思って食べてますけど」
    「それ、意味が分からないよ」
    首をかしげながら、蛹はゆっくりと煙を吸い、吐き出した。
    「ところで話を戻すんだけど」
    と、蛹は言う。
    「俺は原発がどうなろうと正直どうでもいいんだけどさ、でも、この本の中の原発に言及した部分は、とてもまともだと思う」
    「政治の話なんて、珍しいですね。他人をまともだと表現することも珍しいですし」
    「政治の話じゃなくて、科学の話だよ。これにも書いてあるだろ。政治の話にすると、すぐ脱原発か、再稼働か、みたいな話になる。どうするのが安全か、という議論ができなくなるし、実際、今から原子力技術者を目指したいと思う若い人がどれだけいるのかって話。要はめんどくさい」
    「まあ、止めても動かしても、この先、原子力とは途方もなく長い付き合いになるわけですからね……って、最後に本音出ましたね?」
    「うん。政治的に言えば、全部今さらなんだよ。だから科学の話をしないといけない」
    「自分はどう思うか、どうしたいか、じゃなくて、どうするか、ってことでしょうか。結局、手の届く範囲の外にあることは、口ではどう言おうと、頭でどう考えようと、自分と関係の無い他人事ですし」
    「そういうことかもしれない。俺みたいな人間からすると、絆とか相互理解とか、正直鬱陶しいんだけどね。でも、言っていることはもっともだと思う。まあ、鬱陶しいんだけどさ、ものすごく」
    そのとき、コーヒーメーカーが小さく電子音を発して、コーヒーが出来たことを知らせた。
    「……何度も言わなくても、分かってますって」
    葉月は立ち上がり、コーヒーを淹れるためにキッチンに入っていった。

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著者プロフィール

養老 孟司(ようろう・たけし):1937年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士(解剖学)。『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。『バカの壁』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞受賞。同書は450万部を超えるベストセラー。対談、共著、講演録を含め、著書は200冊近い。近著に『養老先生、病院へ行く』『養老先生、再び病院へ行く』(中川恵一共著、エクスナレッジ)『〈自分〉を知りたい君たちへ 読書の壁』(毎日新聞出版)、『ものがわかるということ』(祥伝社)など。

「2023年 『ヒトの幸福とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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