はじめて読む聖書 (新潮新書 582)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106105821

作品紹介・あらすじ

なるほど。そう読めばいいのか! 池澤夏樹、内田樹、橋本治、吉本隆明など、すぐれた読み手たちの案内で「史上最大のベストセラー」の魅力に迫る。「何となく苦手」という人のためのぜいたくな聖書入門。

感想・レビュー・書評

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  • [聖書を読む人を読む]名前はもちろん知っていても、実際にはその膨大な量からなかなか手が出ない人も多いであろう旧約・新約聖書。ユダヤ文化論等で知られる内田樹、新約聖書の個人全訳を手がける田川建三といった聖書のエキスパートたちが、今日においてもなお多大な影響力を様々に与えているこの両書について語った作品です。


    聖書そのものの解説となると、それ自体が自身から遠いものであったり難しいものと感じられるのですが、本書は聖書を読む人の関心や問題意識が主に記されているため、とっつきづらさがまったくない一冊でした。さらに関心を深めるためのブックリストも充実しており、題名にあるとおり、聖書が「はじめて」の人にぜひオススメです。

    〜二千年たっているんだから、いろいろあって当然なんです。そのことを知っていただきたいんです。単に崇めたてまつりたい人にとっては、いろいろあっては聖典ではなくなるから困るでしょう。しかしそういう人には、御自分で御勝手に一つお決めになって崇めてください、と申し上げるしかない。しかし私は崇めたてまつる行為につきあうつもりはない、ということです。〜

    これはめっけもんでした☆5つ

  •  聖書をどう読むか、作家や批評家が語る。

     作家の池澤夏樹は文学によく引用される箇所を中心に紹介する。クリスチャンでない者には「イエス・キリストというのはたいへん優れたスピーチライターであり、コピーライター」(p.33)と見ることもできるという。
     旧約聖書研究者の秋吉輝雄は、「清く正しい」新約聖書に対して旧約聖書は矛盾の塊であると指摘する。それは、旧約聖書が時制のないヘブライ語で書かれているからであり、過去に起きたことを記述したというよりも「いままさに眼前で行われている」(p.56)ことを文書に重ねているからだという。「まだ結末が確定していない現在の話」(p.56)である以上、矛盾が内包されていても気にしない。これは、時制を区別するギリシャ語で書かれた新約聖書との大きな違いであるという。
     哲学研究者の内田樹は、レヴィナス研究から聖書を読むようになったと語る。ホロコーストを生きのびたレヴィナスは、神の不在を説くようになる。これは単にユダヤ教を否定し無神論に走ったというわけではなく、彼はユダヤ教とはそのようなものだと解釈したのであった。つまり、「人が困っている時には助け、善行すれば報奨を与え、邪な行いをすれば罰を与える」というような神が存在するのだとすれば、それはもはや人が神をコントロールしていることになる。そうではなく、「神は地上の出来事には介入してこない」(p.76)のだと説いた。

     そのほか、橋本治や吉本隆明も論考を載せているが、最も面白いのはやはり田川建三のインタヴューであろう。
     新約聖書を研究していく上で彼はさまざまな読み方の可能性を提示する。それは、今現在の聖書の文面を絶対視する教会の考えとは相容れないものだ。田川によれば、当時の地中海世界ではギリシャ語が国際語として用いられており、したがって新約聖書もギリシャ語で書かれたが、しかし書いた本人にとってギリシャ語は母語ではなく第二言語であったりするため、ギリシャ語の文法や語法の誤ちが含まれているのだという。また後に西方教会がラテン語訳した際にも誤訳が発生した。こうした文法や語法の誤ちを指摘できるのは、彼がギリシャ語をはじめ様々な言語に長けているからだ。聖書の内容を唯一絶対とせず、古文書として批判的に読み込む彼の姿勢には共感を覚える。
     インタビューの中では彼の人生もつづられている。彼の学生時代に始まりフランスやドイツでの研究生活、国際基督教大学(ICU)での学生運動、そしてザイール国立大学での生活など、すべてが興味深い。ザイール(現コンゴ民主共和国)では、白人の宣教師が語ろうとしなかった貧困についてあえて取り組んだという。学生に対して「幸いなるかな、貧しい者」と説いても、実際に貧困に苦しむ黒人の学生にとっては貧しさが幸いであるわけがなく、到底受け入れられるものではない。田川はこうした学生との対話を通じて、この言葉をどう理解して読んでいくべきかを語る。
     「神を信じないクリスチャン」と書かれているが、彼は無神論者ではなく不可知論者であるため、正しくは「神を信じるとはいえないクリスチャン」というほうが正確かもしれない。神の存在を積極的に認めることはしない彼の考えが、このインタヴューから明らかになる。そして、それでは「クリスチャンになる」「クリスチャンである」ということはどういうことなのか、についても考えさせられる。

  • 聖書の概観、土台にある大きなものが何となくわかって、これからトライするつもりです。

  • 第Ⅴ章 田川健三の項目は難しかった。不可知論 神を信じないクリスチャン

  • 聖書について、10人の研究者や作家たちの解説やインタヴュー記事をまとめた本です。

    本書の中心になっているのは、新約聖書学者である田川建三へのインタヴューで、やく三分の一のページ数を占めています。インタヴュアーを務めるのは湯川豊で、主に田川の来歴について尋ねながら、彼がどのような経緯で聖書の研究にたずさわり、どのような同時代的な問題関心のもとで聖書を研究する新たな視角を見いだしてきたのかといった話を引き出しています。

    田川のインタヴューにくらべると短いものですが、吉本隆明も本書のなかで聖書とのかかわりを語っています。こちらでは、軍国主義少年だった吉本が、敗戦に直面した日本人のすがたと、聖書にえがかれているイエスのことばとの対比によって、どのような問題をつかみ出したのかということが語られ、やがてその問題意識が『マチウ書試論』へとつながっていったことが回想されています。

  • 本は脳を育てる:https://www.lib.hokudai.ac.jp/book/index_detail.php?SSID=5067
    推薦者 : 中村 重穂 所属 : 国際連携機構国際教育研究センター

    この本を推薦するのは、僕がキリスト教徒であるからでもなく、『聖書』にありがたみを感じているからでもない。どのような本にせよ、読み手の体験を通してその内面と響き合うものでなければそもそも本を読む意味はないということをこの本の中の第Ⅳ章「レヴィナスを通して読む『旧約聖書』」(内田樹)が慄然たる厳しさを持って教えてくれるからである。この本を手にした人は全部読まなくても良い(読めば読んだでそれなりに得るものはあろうけれども)が、上記の箇所だけはじっくりと読んで欲しい。その上で、関心があればレヴィナスの本に向かうこともお勧めする。わかりやすい本ではないが、人間について何かしら考えるきっかけとなると思う。

  • 知識人たちによる聖書体験の紹介。こうして読むと聖書は決まり決まった読み方があるのではなく、解釈は個人個人で多少異なるように見える。それゆえ聖書学なんていう聖書を研究する学問があるのであろう。
    個人的には田川建三氏の体験談が面白い。氏はヨーロッパに留学だけではなく、アフリカのコンゴで教壇に立っている。そこで見たのは宗教以前に白人支配層に対する根強い偏見。個人的解釈だが同じ宗教を信じてれいれば、出自を問わず皆仲間というわけではなさそうだ。

  • ・最初に読むおすすめは、旧約聖書のいちばん初めの創世記。その次に新約聖書の福音書(池澤夏樹)
    ・必死になってはいい仕事にならない。むきにならずのんびり仕事をしろ。しかし、期限までに仕上げなければならない(田川健三)
    ・聖書を読むならまずはマルコ伝。いちばん衝撃的だったのはマタイ伝(吉本隆明)
    ・まず聖書を一冊ということであれば、日本聖書協会『新共同訳聖書/旧約聖書続編つき』(山本貴光)

  • ●聖書の入門書的な期待で読み始めたが、期待外れだった。作家や評論家が聖書をどう読んだのかといった本であり、「聖書とは何なのだ」という疑問には答えてくれなかった。

  • 事前の期待通り、「神を信じないクリスチャン」田川建三先生の話が良かった。まさに新約聖書研究にまい進し、日本の教会関係者に「読むな」といわれる程の研究書を出し続けている。

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