- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106105869
感想・レビュー・書評
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数年前にテレビ時代劇、「水戸黄門」が最終回を迎えた。これで時代劇のレギュラーテレビ番組は全滅した。かつて「銭形平次」、「遠山の金さん」、「大岡越前」、「暴れん坊将軍」などテレビ欄を占めたこともあった時代劇は滅びつつある。なぜそんな状況になったのか。著者の分析によれば、視聴者側と製作者側の問題がある。
視聴者側の問題とすれば、近年になってテレビ視聴率が年代別に算出されるようになったことだ。時代劇はそれなりの視聴率を取っていたが、その視聴者は50代以上であることが数字上はっきりしてしまった。企業は、お金を使いたがらない高齢者しか見ないテレビ番組には提供したがらない。スポンサーがつかない番組が消えていくのは必然だ。
そして、製作者側。著者いわく、時代劇とは一種のファンタジーであり、時代考証はほどほどにして悪い奴を正義がやっつける。そんな単純な展開が観る側に爽快感や感動を与えるのだ。それは、テレビ時代劇もクロサワや勝新の映画もそうだ。しかし、今はリアリティーにこだわり、当時の社会を忠実に再現し、悪役の都合までも描いてしまう。「正義は勝つ」ことにこだわらなくなった時代劇は、それだけを望むファンも失ってしまった。
と、冷静な分析をする著者だが、時代劇愛があふれるあまり、実名で俳優や監督、作品を貶しまくってるのもご愛嬌か。岸谷五朗に対しては、相当お怒りのようだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
時代劇は好きだったが,観なくなった.今でも骨太の時代劇があれば,観ることもある.この本に書かれていることは,何となく時代劇に魅力を感じなくなっていた自分の感覚とすごくフィットする分析だった.
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よくここまで書いたな、でもまだまだ書きたいことあったろうな、という印象。バブル以前から時代劇の衰退が見えていたのなら、やはりテレビ向けにワンパターン量産し続けたのが、負けの始まりだったのでは。
ポスト火野正平には、濱田岳さんや新井浩文さんをぜひ。 -
分析は平板なのだが、個人的には色々考えさせられた。時代劇が本質的にファンタジーなら、今、その遺伝子は漫画やラノベに息づいていて、「るろうに剣心」がその後継者なんだろう。
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愛ゆえの苦言。
時代劇の現状について、厳しくも冷静なる分析。
が、これはおらが国の邦画全体について、テレビ番組について、いや芸能界全体についての諸問題に対しての警鐘でもある。たまたま時代劇が炭鉱のカナリアだっただけで。
時代劇そのものに対しての需要は、決して落ちてはいない。それは封切り映画に足を運び、場内な雰囲気を体感しているからわかる。
がっかり時代劇を連打していたら、そういったファンがどんどん去ってゆくのではないか。そりゃあかんって。
海外にも愛好家はたくさん居るのだし、製作側にはもっと広い視野で臨んでいただきたくもあり。 -
日本映画の盛衰と一蓮托生だった時代劇。失われたものへの憧憬を綴るのでなく、実証をあげて羅列された多くの問題点は強い説得力を持って存続の危機を訴え、エンターテインメントとして維持するための処方箋にもなっている。なにより行間には時代劇への愛着が溢れんばかりだ。
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時代劇がマンネリ化していった原因、大河ドラマが平板化していく過程、時代劇が陥っていった衰退の渦をひとつひとつ解きほぐし、唇を噛み締めながら詳述した本。論評対象が実名なのも素晴らしい。
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著者の時代劇に対する熱い思いが伝わってくる。それにしても岸谷五朗が酷評されすぎてる。。
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率直
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いやあ、久しぶりに熱いのを読んだ! 高野秀行さんが「こんなに悲しくも面白いレポートは珍しい」と紹介していたのだが、まさにその通り。著者の悲憤がストレートに伝わってくる。
著者は1977年生まれ。おやまあその若さで時代劇研究家?と思うのだが、その「時代劇=高齢者向け」という状況こそが今日の惨状を招いたのだと著者は言う。若者が見ない番組に大手スポンサーはつかない。何故若者は時代劇を見ないのか? ずばり「つまらないから」。じゃあ、何故時代劇はつまらなくなったのか?
撮影所が下請け化し技術も停滞している・時代考証をやかましく言い立てることで表現が窮屈になっている・人気者に頼るドラマ作りで、時代劇をやれる役者がいない・プロデューサーも監督も脚本家も、時代劇というものをよく知らない人が多くなっている……、著者のあげる理由にはすこぶる説得力があって、こりゃほんとに時代劇は瀕死だなあと思わされる。
確かに近年の時代劇といえば、「水戸黄門」に代表されるお約束的ワンパターンのものばかりが思い浮かぶ。かつてはそうではなかった、現在を舞台にしたのではありえない絵空事になってしまうような、ギリギリの厳しい状況での人間ドラマを描ききった秀作が数多くあった、滅びようとしている時代劇について、ノスタルジーではなく語りたい、この思いを共有したい、という気持ちがほとばしる一冊だ。
俳優や監督、番組等について、名前を挙げて厳しく批判している。でもそれは「ためにする」ものではないから、イヤな感じがない。最終章に書かれた、このところのNHK大河への批判には、うなずくところが多かった。まったく「江」はひどかった。上野樹里ちゃんが主演するというものだから久しぶりに大河を見る気になったのに、なんじゃこりゃ~!これ本気?ギャグじゃないよね?って感じで。まあテレビドラマが見るに堪えないのは時代劇だけではないわけだけど。
このままだとそう遠くないうちに時代劇は死ぬと著者は言う。それでも自分なりにこの状況と闘いつつ、「春日。お前は間違っている!」と現場から(作品という形で)声が上がることを願っていると書かれていて、心からの言葉なのだと思った。