- 本 ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106107139
作品紹介・あらすじ
経済思想の巨人、未来へのラスト・メッセージ。富を求めるのは、道を聞くため―それが、経済学者として終生変わらない姿勢だった。人間社会の営みに不可欠な「社会的共通資本」をめぐり、縦横に語った全8話。
感想・レビュー・書評
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日本の経済学者ではあるが、経済だけでなく、様々なことに造詣が深く、示唆に富んだ講演の書籍化。宇沢弘文の社会的共通資本を知るのに、入門編としてちょうど良い。平易な言葉で、より良い経済活動のあり方、倫理的経済のあり方について述べており、初心者にもおすすめ。
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『人間の経済』 宇沢弘文
最近、仕事でESGに関連するサービスのプロモーターを担うことになったため、ESGについて調べているが、どうも懐かしい感覚になる。その感覚を突き詰めると、学生時代に読んだ宇沢弘文氏の『社会的共通資本』に行き着くことがわかり、改めて宇沢氏の著作をもっと読んでみようと思い、本書を手に取った。
本書は、エッセー的な側面も強く、宇沢氏の過去の仕事や思想的な遍歴を追体験するような本である。宇沢氏は、稀代の経済学者であるとともにヒューマニストであった。なんでも計算範囲に含めようとするイメージの強い経済学者の中でもトップを走る宇沢氏が行き着いた結論が「大切なものは決してお金に換えてはいけない(p51)」ということであることは非常に興味深い。環境資本や、制度資本等の人間がこれまで社会で守り続けてきた社会的共通資本というものは、決してお金という単一の軸で推し量ってはならない。この一説を読んで、今同時進行で読んでいる内田樹氏の『レヴィナスの時間論』を想起した。レヴィナスのまた、なんでも一望できる光を当てて、統一的に物事を説明しようとする西洋哲学へのアンチテーゼともいう形で、他者論を展開した人物であるからである。敬虔なユダヤ教徒であるレヴィナスは、神の思考を人間が理解できるような尺度で推し量ることへの自制を求める。この世には我々の記号体系や言語が全く通じない他者があり、それらを他者のまま受け入れることの哲学を、レヴィナスは展開したのである。まさに、環境資本や制度資本などを、お金という統一的な尺度で推し量ることは、デカルトやベーコンにはじまる西洋の近代哲学の帰結であろう。そうした中で、我々の尺度では測れない社会的共通資本を、そのまま受け入れることを宇沢氏は我々に求めているように感じる。
しかしながら、全くの他者と言う形では、あさましい人間には対策をすることができない。環境への負荷を一定のレベルで資本主義の世界に落としこむ必要性もある。そんな中で、まさに2022年の現在、カーボンプライシングやカーボンニュートラルが叫ばれる30年以上前に、宇沢氏は炭素税のアイデアを世界に発信している。ただ、炭素税を課税することは産業構造の形もあるため、発展途上国に対しての平等に反するため、それぞれの国が持続的に発展できるよう係数をかけた「比例的炭素税」であるべきとも述べている。さらにその課税によって集まったお金を大気安定化国際基金として、一定の割合で発展途上国の熱帯雨林の維持、農村の維持、代替エネルギーの開発費用などに充てようというアイデアも展開している。この宇沢氏のアイデアは、エネルギー消費大国であるアメリカに否決され、排出権取引という形に変えられてしまう。排出権取引は、そもそもの排出権の割り当てに恣意性が働くゆえに、環境への対策とは異なる国力のある大国に有利に働いてしまうこともあり、根本的解決にはならないという点を宇沢氏は指摘している。現在のESGに関する動きとみると、よりミクロなビジネスの領域で、環境負荷という形で外部化されたコストをどのように価格に反映させるかという議論がさかんになっているところを見ると、宇沢氏の先見性には驚くばかりである。私はビジネスマンであるために、なんとかこのようなミクロなビジネスの枠組みの中で、環境負荷を価格に反映させる動きを加速させたいと考えているが、そのような思想的源流はやはり宇沢氏のアイデア(特に『自動車の社会的費用』)にあると思う。次回は、『環境問題を考える』と読もうと思う。巷のESG解説本も興味深いが、GWこそこのような骨太の本を読んでみたいと思う。 -
公演の書き起こしに基づくコラム集みたいな本だった。なるほど、といちいち納得しつつ、これにとても心動かされたという敬愛する知人がどこに心動かされたのかは今ひとつわからなかったなあ…。
社会が弱者排除に向かい、当の弱者自身さえもが強者を偽装して世間的な延命を図るような世情のなかで、「社会的共通資本」をうたう著者のそれこそ仏心に打たれたのかな。
たしかにその考え方を現実の政治に反映させられれば(有権者すなわち庶民多数派の自覚と心がけ次第)、未来に希望はある。今のままじゃ到底かなわない夢だけど。
そういう意味で、まだ希望はある、と教えてくれてる気がしてうれしかったんだろうか。
そうかもしれないな。 -
宇沢哲学がコンパクトにまとまっていると思います。石橋湛山やヴェブレンに共感する姿勢に氏の一生を通じて辿り着いた哲学がみてとれます。経済学部出身の私としては、経済学とは何ぞやということを30年振りに考えさせられました。
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「社会的共通資本」の入門的な新書。
中でも数々の大学を行き来し、多くの学生を教えてこられたからこそであろうが、大学教育の章には力が入っているように感じられた。宇沢先生が逝去されて9年の月日が経つが、いまこそ必読の書だと思う。 -
ものすごく良かった。戦後の著名な経済学者が、市場主義経済を批判し、自然との共生、仏の心などを有してあるべき姿を語る。サステナビリティが重視されるようになった今だからこそ、目を通しておくべき本だと感じた。経済学者の立場から地球温暖化、生物多様性の保全にも尽力されており、主張がわかりやすい。
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この人が奨めるのだから間違いなかろう、ということで経済は苦手なのだが手に取ってみた。東京大学から36歳でシカゴ大学の経済学部教授になりベトナム戦争への反発もあって東京大学の教授に転じられて長く経済学の第一線で活動されてこられた方で風貌も特異なことから自分には理解できない難解なことを話される方、という決めつけをしておりこれまで触れたことがなかったのだがここまで分かりやすい話をされる方だとは思ってもみなかった。元々は数学者になるはずがより社会の問題に関わりたいという意向で経済学に転じられたという経歴らしく、公害問題や環境問題に対し具体的な関与をされて来られたところも素晴らしい。「富を求めるのは、道を開くため」というのが経済学者としての基本的な姿勢とのことで同じシカゴ大学の経済学者フリードマンをはじめとする市場原理主義とは一線を画す考えを提唱、実戦されようとして来られたようで本作品でもいくつかの印象深いエピソードが紹介されている。いわばSDGsのような言葉ができる前からそのような考えを提唱されてきたわけで不学を恥じたので著作をいくつか読ませてもらいたいと思いました。お酒が好きでアドバイスを求められたローマ法王に対して酒の勢いもあって説教をしてしまったなど人間臭いエピソードも魅力的。面白かった。これはおすすめです。
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経済学者かくありきという感じ。SDGsが生まれる前からよほどサステナビリティと生命の幸福を追求してきた学者。
著者プロフィール
宇沢弘文の作品





