遺言。 (新潮新書)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106107405

作品紹介・あらすじ

これだけは言っておきたかった――80歳の叡智がここに! 私たちの意識と感覚に関する思索は、人間関係やデジタル社会の息苦しさから解放される道となる。知的刺激に満ちた、このうえなく明るく面白い「遺言」の誕生!

感想・レビュー・書評

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  • 著者、養老孟司さん、どのような方かというと、ウィキペディアには、次のように書かれています。

    ---引用開始

    養老 孟司(ようろう たけし、1937年11月11日 - )は、日本の医学者、解剖学者。東京大学名誉教授。医学博士。ニュース時事能力検定協会名誉会長。神奈川県鎌倉市出身。

    2003年に出版された『バカの壁』は450万部を記録し、第二次世界大戦後の日本における歴代ベストセラー5位となった。

    ---引用終了


    で、本作の内容は、次のとおり。

    ---引用開始

    これだけは言っておきたかった――80歳の叡智がここに! 私たちの意識と感覚に関する思索は、人間関係やデジタル社会の息苦しさから解放される道となる。知的刺激に満ちた、このうえなく明るく面白い「遺言」の誕生!

    ---引用終了


    そして、本書に登場する方々を少々見ておきます。

    池田清彦さん(1947~)---生物学者
    津田一郎さん(1953~)---数理科学者
    内田樹さん(1950~)---フランス文学者
    茂木健一郎さん(1962~)---脳科学者

    内田さんと茂木さんは、著作が多そうなので、何か読んでみようと思います。

  • 養老先生によれば、”ヒトが意識を「同じにする」という機能が生じたことで、感覚優位の動物の世界から離れた”ということらしい。
    またしても、昨日まで読んでいた多様性の科学ではないが、
    画一化、同一化によっておこる弊害の話??となって
    ちょっと待てよと考えさせられた。

    私は最近自分の好きではない本、あまり読みたくないジャンルの本
    も極力読もうと試みている。だから、図書館に行くと
    任意の棚の前に経ち、<ダーツの旅>よろしく、えいやっ!
    と読む本を選ぶことが多い。

    ところが、Kindle本を選ぶときはそもそも私が読んでいる
    本からバイアスがかかっていて、好きそうな本を見せてくる。
    「おっ、いいねぇ」って読むとますます私の好きな方向性が
    定められる。Amazonが私の嗜好を特定しているというのが一つ。
    また、私の思考をAmazonが狭めようとしているというのが一つ。

    怖いなぁ。私の中の私というヒトを外側から作られていくような。
    それで、同じになっていくことの怖さも感じる。
    先生は”科学とは、我々の内部での感覚所与と意識との乖離を
    調整する行為としてとらえることができる。”と書いた。
    Amazon (先端技術)とは、図書館ロシアンルーレットと
    私の網羅する知識領域との乖離を調整する行為だなぁ。

  • 養老孟司さんの「壁シリーズ」です。
    「意味があるとは」「イコールとは」「意識とは」などの側面から、都市化した社会について考察された本です。
    ぜひぜひ読んでみてください。

  • 「ぼちぼち死んでも当たり前の年齢(80歳)になった。それなら言い残したことを書いておこう。とは言っても当面死ぬ予定はない・・・」 動物とヒトとの違い、ヒトが 生きるとはどういうことか? を思索し、デジタル社会での人間関係 の息苦しさから解放されるには〝考え方ひとつで、人生は凌ぎやすくなる〟と説く、養老先生が書下ろした10章の『遺書』▷ヒトの「意識」という照明は、眠ると消え起きると点灯する。身体の都合、脳の都合で戻る。▷「脳」が消費するエネルギ-は、覚醒している時と寝ている時、ほとんど違わない・・・など。

  • 2019年2冊目。
    親友に勧められて年末購入し一気に読了。
    養老先生の視点というか、物事の切り取り方にはいつもハッとさせられる。当たり前の中に潜む違和感に気づかせてもらうというか、自分が漠然と思ってることを言葉にするというはなんて難しいことなんだ、、と痛感する。
    もちろん、「それそれ!そういうことなんです!」と代弁してもらうきもち良さというか、言い得て妙、みたいな感覚は読書の醍醐味でもありますが。
    作家の確固たる知識と豊富な経験値、鋭い考察とが炸裂した刺激的な一冊であることは間違いありません。

  • 壁シリーズの第5段です。古本屋で見つけたので購入してみました。今どきの話題にふれつつ、愛猫まるをたまに登場させつつも、『バカの壁』と同じように、けっこう集中力と頭脳労働が求められる本です。「おじいちゃんの遺言かぁ、モー娘みたいにタイトルに「。」つけちゃって可愛い〜」なんてニヤニヤしながら読むと痛い目にあいます。さすが壁シリーズ。

    自分は建築について考察する部分で、けっこう腑に落ちました。空間を共有すると簡単にいうけれど、確かにそれぞれの体験は全然別だよなと。

    たとえば実家にしても、その家にいる感覚は、親と子ではまったく違うでしょう。自ら数十年ローンを組んで、日々苦労と充実感を重ねながら自分の稼ぎで手に入れた家に住む人間と、なんとなくあるのが当たり前な感覚で住む人間の体験が、同じであるわけがないのです。でも、そんなことも、こうしてあえて意識しなければ、存在しないも同然です。それを、私たちはごく普通に同じ空間を共有していると信じています。

    これは改めて考えると、怖い事だし、同時に心踊ることでもあります。他人の体験は永遠に自分のものにはならなず、想像したとしてもそれは「仮にその状況にある自分」の体験でしかないという、この分からなさ、ある種の断絶の感覚こそ、逆にいえば新たな体験を予感させる要因だからです。

    すべて分かりきった世界にどんな喜びがあるというのでしょうか。人や事物にレッテルを貼り、分かったつもりになる時に人は、自分自身の「思考」もしくは「記憶」しか見ていません。

    もちろん、どうにもよく分からない「他者」はストレスの元ではあります。だから排除しようという恒常的な意識の働きがあるのでしょう。でも、言ってしまえば、意識(思考)にとって、身体こそがまず最初の大自然であり「他者」なのです。

    「意識」は永遠に若く元気で生きるべきだと考えますが、「身体」は自然の法則にしたがい粛々と死にむかいます。そんな自然たる身体を、思い通りにしたところで、グロテスクな結末にしかならないのではないでしょうか。オルダス・ハクスリー『素晴らしい新世界』がまさにそんな世界を描いています。養老先生の本を読んでから読むと、かなり面白いと思います。

    というようなことを、読みながらつらつら考えました。

    ひとまず、養老先生の遺言は、個々人が生々しく体験する刺激であるところの感覚所与と、思考が作った抽象概念は、現代人が思っている以上に乖離してきており、社会がだいぶまずいことになってるぞ〜そろそろ身体に気づけ〜、という事だと受け取りました。

  • 養老先生の本は「バカの壁」に続いて2冊目。
    もうはっきり分かった。私には養老先生のスタンスは全く合わない。

    ご専門に関係する脳科学的な話題は理路整然としているけど、哲学や社会学的な話題はだいぶ乱暴が過ぎるように感じる。この人はすぐこういうご自分の専門外の話題にも結びつけてさもありなんといった風に話したがる(なお、私はそのこと自体は別に否定しない。ちゃんと裏付けのある評論ならば。)けど、まるでワイドショーの司会者のようなお粗末なもので、色々と突っ込みどころが多すぎると感じ、途中で読むのをやめた。

  • 八十歳になった著者が、言い残したいことを綴った遺言的エッセー。遺言といっても、著者がずっと考え続けてきたという、ヒトと動物の違いや「差異と同一性」の問題(感覚所与と意識のせめぎ合い)についての思いを吐き出した、という感じの本。「バカの壁」のような「語り下ろし」スタイル(編集者が分かりやすい言葉で文章化する)でないためか、小難しくて分かりにくい内容になっている。

    「感覚所与を意味のあるものに限定し、いわば最小限にして、世界を意味で満たす。それがヒトの世界、文明世界、都市社会である」、「科学とは、我々の内部での感覚所与と意識との乖離を調整する行為」、「ヒトの意識の特徴が「同じだとするはたらき」であり、それで言葉が説明でき、お金が説明でき、民主主義社会の平等等が説明できる」、「文明とは秩序であり、それを大規模に作れば、自然には無秩序が増える。」、「数学が最も普遍的な意識的行為の追求、つまり「同じ」の追求だとすれば、アートはその対極を占める。いわば「違い」の追求なのである」、「ヒトは、意識に「同じにする」という機能が生じたことで、感覚優位の世界から離陸した」等、なるほどと思える記載が随所に。

    著者は本書で、何でも抽象化・概念化し同じものに括ってしまう(画一化してしまう)人間の意識のはたらきの危険性(その究極の成果物が都市社会であり、デジタル・コンピュータ社会)に警鐘を鳴らしている。ただ、いかんせん説明をはしょっていたり難しく書いていたりするので難解だったのが残念。

  • 意識と感覚の乖離の話を面白く感じました。
    自身の教養の無さと普段いかに考えないで生きているかに気付かされる本でした。

  • 養老孟司(1937年~)氏は、東大医学部卒、東大大学院基礎医学博士課程修了、メルボルン大学留学、東大教授、東大総合研究資料館館長、東大出版会理事長、北里大学教授等を経て、東大名誉教授。専門の解剖学に加えて脳科学などの見地から多数の一般向け書籍を執筆しており、『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞(1989年)、2003年に出版した『バカの壁』は、出版部数400万部を超える戦後日本の歴代4位となっている。尚、現在までに「壁」シリーズとして、『死の壁』、『超バカの壁』、『「自分」の壁』、『遺言。』、『ヒトの壁』の計6巻を刊行し、シリーズ累計の出版部数は660万部超。
    私は新書を含むノンフィクションを好んで読み、興味のある新刊はその時点で入手するようにしているが、今般、過去に評判になった新書で未読のものを、新古書店でまとめて入手して読んでおり、本書はその中の一冊。(シリーズの中では『バカの壁』、『死の壁』を読んだ)
    本書は、『バカの壁』以降「聞き書き」が続いた中での久し振りの「書き下ろし」で、養老先生が、最近の世界・社会は変だと感じる中で、何故そう感じるのかを筋書き立てて書いたもの、見方を変えれば、「ヒトとはなにか、生きるとはどういうことか」をまとめたもの(養老先生はそう言っている)である。
    聞き書きの本は一般に理路整然としていないことが多く、本書は書き下ろしということで期待したが、やはり、所謂教養新書的ではなく、エッセイ的な書き振りなので、読後感は必ずしもすっきりはしない。
    それでも、私なりの理解をラフにまとめると以下である。
    ◆通底するテーマは「同一性(同じ)」と「差異(違い)」の二項対立であり、それは、「意味・意識」と「感覚所与」、「理論」と「現実・事実」などと言い換えられているが、私の理解では、更に、「抽象」と「具象」、或いは「左脳的」と「右脳的」などとも言えるように思う。
    ◆そして、動物とヒトの決定的な違いは、動物は後者(差異)しか理解できないのに対し、ヒトは進化の過程で前者(同一性)も理解できるようになったということである。そして、現代のヒトは前者を追求するあまり(都会的な生活や情報のデジタル化はその典型)、すべてのものには意味がなければならないと思い込み、かつ、自分に理解できないものの存在を許さなくなっている。
    ◆前者を理解できることがヒトがヒトであることを特徴付け、その結果、言葉、お金、民主主義、宗教(究極は一神教)が生まれたのであり、そのこと自体を否定するわけではないが、一方で、前者と後者の乖離が、様々な社会問題における分離・対立を生んでいるのも事実であり、ヒトはもっと両者のバランスを考えて生きるべきである。
    私は本書を読みながら、これまでに読んだ様々な本を思い出したのだが、例えば、ユヴァル・ノア・ハラリのベストセラー『サピエンス全史』では、ホモ・サピエンスがあらゆる生き物の頂点に立てた最大の要因として、「虚構」を認知・共有できるようになった「認知革命」を挙げているが、これは養老先生の言う「同一性(≒抽象)」という概念を獲得したことと同意である。また、現在の現代思想(=ポスト・モダニズム思想)は、「同一性」を重視した「大きな物語」を前提としたモダニズム思想のアンチテーゼとして、「差異」に着目した議論を展開しており、そのあたりは千葉雅也の『現代思想入門』等に詳しいが、これは、養老先生がもっと「差異」を意識すべきということと合致する。更に、山口周の『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』では、今のビジネスにおいては、MBAのような画一的な知識よりも美意識が大事だと書かれているが、これは本書の中で、「アートは「同じ」を中心とする文明社会の解毒剤」と言っていることと繋がる。要するに、本書に書かれていることは、現在実に様々なところで注目・議論されているテーマなのである。
    「同一性」の追求によって進歩してきた現代文明は、IT、バイオテクノロジー、プラネタリーバウンダリー、資本主義等、様々な意味において分岐点にあり、「差異」の重要性を再認識するべきという主旨に同意する。
    (2022年12月了)

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著者プロフィール

養老 孟司(ようろう・たけし):1937年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士(解剖学)。『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。『バカの壁』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞受賞。同書は450万部を超えるベストセラー。対談、共著、講演録を含め、著書は200冊近い。近著に『養老先生、病院へ行く』『養老先生、再び病院へ行く』(中川恵一共著、エクスナレッジ)『〈自分〉を知りたい君たちへ 読書の壁』(毎日新聞出版)、『ものがわかるということ』(祥伝社)など。

「2023年 『ヒトの幸福とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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