「承認欲求」の呪縛 (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
3.60
  • (24)
  • (43)
  • (47)
  • (11)
  • (2)
本棚登録 : 705
感想 : 66
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106108006

作品紹介・あらすじ

「嫌われたくない」「認められたい」が破滅を招く! SNSでは「いいね!」を求め過ぎ、仕事では「がんばらねば」と力んで、心身を蝕む人がいる。その悪因と化す「承認欲求」を徹底解剖し、人間関係や成果を向上させる画期的提言。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み

  • SNSが発達したことの弊害ともいえる承認欲求が、現代の日本の問題としてどう顕在化しているのか?
    具体的な事例に基づいて理解し、承認欲求を求めるものたちの心理感を理解できました。

  • 承認欲求と聞いた時点でSNSにドはまりしている人たちの事書いてあるのかな?と軽い気持ちで読みはじめましたが、誰でも承認欲求に振り回されていて、関わり合いにならないようにするなんて人と会わないで仙人にでもなるしかない状態だという事が分かりました。
    大企業の隠蔽や偽装も、得た信頼を失わないようにする為嘘をついてしまう事に端を発しています。すなわち承認欲求によって道を踏み外すわけであります。
    企業としてどうすべきかという事が色々書いてありましたが、我々は結局個人個人で何とかするしかないわけなので、この本で一番ピンと来たのは「もう一つの世界を作る」という事でありました。仕事だけを全てと生きているとどうしても一度の失敗で失う事が多すぎるので、趣味や副業で別の世界を構築していくという事が重要。一つが失われたり損なわれたりしても、全てが無くなるわけではないという風に自分自身を誘導していくことが必要と感じました。

  • 「承認欲求」というキーワードに反応して購入。先日大きな衝撃を受けた『女子をこじらせて』と何か結びつけられるかな、と思って読んだが、そうでもなかった。
    というのも、本書は個人というより、むしろ組織に焦点をあてて承認について論じた本だったから。心理学というよりは経営学、「職場のメンタルヘルス」的な分類になるのかもしれない(著者の専門は経営学だし)。


    本書から学ぶべき最も重要な教訓は、

     (認知された期待 − 自己効力感)× 問題の重要性
     = プレッシャーの大きさ
     =「承認欲求の呪縛」の強さ

    という形で定式化されている(p.127)。

    「認知された期待」について補足。
    期待が大きいほどプレッシャーも大きくなるが、ここでいう「期待」とは、あくまで「自身に向けられている期待を当人がどう認知しているか」というものである。
    実際には相当期待されていたとしても、本人が「自分は特に期待されていない」と思っていたら、プレッシャーはない。逆に、実態以上の期待を勝手に背負って自滅するパターンもあるかも。


    本書を読んであらためて感じたのが、一つの組織に生計を依存することの危険性だ。
    特定の組織に所属していることで主な収入を得ている場合、どうしたって、その組織内での評価や立場にこだわるようになる。それはいずれ「承認欲求の呪縛」につながる。上の式でいうところの「問題の重要性」が大きくなりすぎるからだ。
    このリスクを回避するためにも、日頃の仕事の中で、特定の組織に属さなくても通用する「汎用的な能力」を育てていくことを意識したい。
    まあ、ひとつの組織に長く属するからこそ獲得できる安心感とか居心地の良さというのも、きっとあるだろうから、基本的には同じ場所にいたいけれど……。


    ずっと、承認欲求を克服することが成熟の条件の一つだと思っていた。原始仏教やストア派的な道を行くなら、それが理想なのかもしれない。
    しかし、社会的動物である人間がこの欲求を無くすことは不可能にみえる。ならば、適度に承認欲求を満たしつつ、呪縛に囚われないよう、うまいこと付き合っていくほかない。


    以下は抜粋。

    ・承認欲求は人間にとって「最強」の欲求である。人は認められることで直接その欲求を満たせるだけでなく、芋づる式に有形無形の報酬を獲得し、関連するさまざまな欲求も充足できる。(中略)ところが、あることをきっかけに、こんどは獲得した報酬や築き上げた人間関係にとらわれるようになる。しかも、そこから容易に逃れられない。それが「承認欲求の呪縛」である。(p.55)


    ・「承認欲求の呪縛」が自分自身を追い込み、それがある限界を超えると、しばしば取り返しのつかない事態を招く。(中略)それは特殊な人による、例外的なケースとしてかたづけることはできない。だれでも一定の条件が備わったときには、同じような問題を引き起こす可能性がある。(p.103)


    ・中間管理職は共同体の外に「顔」をもたない。外部の厳しい風にさらされた経験もない。そのため罪を犯して共同体のなかで居場所を失ったとき、自分の立場も居所もなくなる。さらには自己のアイデンティティやプライドも崩壊する。(中略)組織に対して強く依存しているがゆえに、そこで承認が失われたとき絶望の淵に立たされるわけである。(p.156)

  • どちらかと言うと、認められた人がそれを失うことを恐れて縛られるという意味の「呪縛」。まだ認めてもらえていない、認められたいと思ってしまっている今の自分のニーズにはイマイチ合わなかった。

    「呪縛」とは、恥、面子、意地、責任感、使命感などなどに置き換えられる。呪縛の強さとは、(本人が認知した期待ー自己効力感)×問題の重要性。受験エリートは自分の期待を下げられないというロジックは刺さる。

    個人でできる打開策としては、大きな志を抱く、別の世界を持つなどが挙げられている。

  • 承認欲求の功罪両面が書いてあってよかった。
    そしてSNSのいいねにとどまらず、組織内のいいねにしがみつく中年にまで話を振ることで「最近の若者は」の議論にとどめなかったのは素晴らしい。
    ぜひおじさんたちに読んでもらいたい。

  • そうなんだなぁと納得できるようなわかりやすい構成。承認するだけでは弊害も踏まれるということを学びました。今後、役立てようと思います。

  • 最近よく考えるテーマ。
    自分自身も、承認欲求から逃れられないしんどさを味わっているし、周りを見ても、認めて欲しい怨嗟の声を聞く。この時期は、特に。

    もっと認められたい、という積極的な承認欲求よりも、既得権益を奪われたくない、という消極的な承認欲求の方が強いと書かれていたこと。

    そして、認められる為に役割を演じている自分と、本来の自分との乖離に、潰れてしまうことがあるということ。

    読んで、この二つが印象に残った。
    割と自分は「こうでなくては」という思い込みが強い方で、だけどその思い込みは自分自身から来ているものではないな、と思うこともある。

    「自分が選手(相手)の感情や態度に依存してしまうことを恐れ、高圧的な態度をとり続ける人もいるようだ。命令ー服従の関係のなかには、はじめから尊敬も感謝も入る余地がないからである。」

    指導者の話だが、選手に敢えて(相手)と入れた。
    認められたいと思う人は、反面、相手によって左右される自分が気に入らないとか、隠したいと感じて、関係を遮断してしまうのかもしれない。

    日本が狭い共同体化していくことへの危惧を筆者は「あとがき」で述べているが、承認欲求の裏にはこうした遮断の感覚があるのかな、という点が興味深い。

    承認欲求の呪縛を解くカギとして、職場のダイバーシティやプロ化を挙げている。
    多くの価値観と関わりながら、自分自身の専門性を深めていく。なるほどなあ。

    認められることで苦しんでいくのではなく、楽観視出来ればいいなと思う。
    日本社会には根深い問題ではあるものの、「そういう自分」を知ることも楽になる一つなんだろう。

  • 基本、人を相手にした仕事をしてきたので、「ありがとう」と言われたときはうれしくなり、またがんばろうと思える。反対に(アンケートなどで)批判されるとやる気をなくす。
    これって承認欲求?と思い、読んでみました。

    最初に
    「承認欲求は本来、人間の正常な欲求の一つである。(中略)承認欲求があるからこそ人間は努力するし、健全に成長していくといっても過言ではない。また、ほかの人と協力したり、助け合ったりする動機も承認欲求から生まれることが多い。」
    とあり、著者は承認欲求そのものを否定しているのではない、とわかりました。

    「ほめる」と「認める」の違い、など、なるほど、と思う点も多かったです。

    仕事については、外資系によくある「評価主義」に対する考え方が変わりました。
    「お金で済ましたほうがサッパリする」ことも確か。
    イスラエルの託児所のケースも興味深かったです。

    そして、この本でもやはり、「もう一つの世界」をもつことの有効性が述べられていました。

    とはいえ、本業で疲労困憊している人には難しいことでしょう。
    「やりがい搾取」「がんばること(長時間労働)を美徳とする」という日本企業の体質が変わることを願うばかりです。

  • p.48
    ストレートに表現したら顰蹙を買うことがわかっているので、わざわざ迂回する戦略をとり、認められようとしている。それだけ、他者から認められることへの執着が強いからである。

    p.74
    彼はその道の大家である師匠に「いつまでたっても社会的に評価してもらえない」とこぼした。すると師匠は「実力があっても評価されないのは幸せだ。私のように実力以上に評価されるのはどれだけ苦しいか」と答えたそうだ。
    たしかに私の周りを見渡しても、なかなか認められないと嘆く人は何人かいるが、実際に多少なりとも認められた人を思い浮かべてみると、その人が幸せな人生を送っているかといえば、必ずしもそうではないようにみえる。
    → 過小評価されている方が気楽なので幸せなんだな。

    p.91
    主観的価値と客観的価値のギャップに目をつけて利益を得るのがビジネスである。いわゆる「やりがい搾取」、そして「承認欲求の搾取」もまたそのギャップにつけ込んだものだといえよう。
    → 客観的価値を意識できないほどに、それそれの顧客にあわせた付加価値を前面に押し出すことが大事。

    p.119
    やりがいであれ、承認であれ、本来それは働く人にとって望ましいものであると同時に、それによって意欲が高まり、仕事の成果があがれば企業もまた利益を得る。その恩恵を正当な形で本人に配分するのが筋だろう。企業はそこから経済的な利益を得ながら、働く人には心理的(主観的)報酬だけですませようというのは、やはりフェアではない。
    → 承認目的ならタダでも働いてくれる。だから、ボランティアなどと言ってタダで人を働かせる企業は犯罪として処罰の対象として良いのではないか。そうすることで、みんなの意識が変わって健全な社会になりそう。スタートアップ企業を潰さないために10人まではセーフとか、特例は必要だろうけども。

    p.190
    そもそも仕事内容や環境の変化が激しいポスト工業社会では、能力や貢献度も変動しやすい。花田光世(1987)が明らかにしているように、これまでの日本企業の人事制度は敗者復活の機会が乏しいトーナメント型に近かったが、これからは敗者復活の容易な人事制度に切り替えていかなければならない。

    p.192
    このようなゼロサム型の組織や社会で成功体験を積ませるには、どうすればよいか。それは周囲との競合を避けることである。閉ざされた組織の中でも、一人ひとりの目標やキャリアが競合しなければ、他人の足をひっぱる動機は生まれない。組織の中で出世したい人、専門職を目指す人、ゆとりある生活を送りたい人など、それぞれが自分の道を歩めば良いからだ。

    p.196
    特に効果的なのは、自分の名前を出して仕事をさせることだ。名前を出すことによって、製品やサービスに対する顧客の評価が直接本人に返ってくるようになる。ある機械メーカーでは機械の組み立てを丸ごと一人に任せ、製品には製作者の名前を入れて出荷するようにした。すると社員のモチベーションが目に見えて高くなり、若手の離職者がゼロになったそうである。社内外に発表する文書を原則として署名入りにするとか、仕事上のアイデアについては発案者の名前を明示するといった方法もある。
    → なるほど、仕事の成果物に自分の名前が付いたら自己効力感が上がるよな。

    p.198
    何が賞賛に値するかをできるだけ文章にして具体的に示す。たとえば表彰する場合も、賞状には通り一遍の文言ではなく、理由を詳細に記述したほうがよい。またカードやスマートフォンのアプリを使って、ほめ言葉や感謝の言葉を伝える仕組みを取り入れている会社もある。口に出すのが照れくさい場合に使えるといったメリットもあるようだ。
    → ちゃんと自分を分かってもらえているという安心感、自分は正しい努力を続けられたという肯定感を満たすことが大事。

    p.205
    自己開示は、自分の弱みも包み隠さずみせることである。そして逆説的にいうと、弱みを見せれば恐れを抱かなくてもよいので強くなる。その意味でも大切なのが「失敗体験」である。
    → 失敗してもみんなに話せるネタを得られたくらいの気楽さが欲しい。みんなに話せば原因と対策の振返りができ、リトライする気力も養える。

    p.208
    「楽しむ」ことを徹底できれば、「承認欲求の呪縛」に陥らなくてもすむはずである。

    p.214
    もっとも、リアルな世界に居場所を見いだせないからこそ、ネットの世界にそれを求めた人が多いのは事実だ。それなら、せめて複数のSNSを使い分けるようにすれば、「承認欲求の呪縛」を軽減できるはずだ。ちなみに要領のよい若者は、匿名で複数のアカウントを使い、異なるキャラを演じている。

    p.217
    こうした問題を一挙に解決する方法はないのか?
    ある。メンバーの「プロ化」、すなわち組織をプロフェッショナルの集団に変えればよい。なぜ「プロ化」によって問題が解決されるかを説明しよう。

  • この本で指摘されている通り、本当に多くの日本人が、「認められたい」「認められなくてはいけない」という状態に陥ってしまっています。

    この呪縛を解くカギとして、著者は
    ・周囲と同一次元で勝負をしないこと
    ・別の大切な世界「もう一つの世界」をもつこと
    ・組織をプロフェッショナルの集団に変えること
    を挙げています。

    まずは、自分の行動が経済によるものなのか、承認を求めてのものなのか、自己実現のためのものなのか、を自覚することから始めることが大切だと感じました。

全66件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

同志社大学政策学部教授

「2022年 『何もしないほうが得な日本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

太田肇の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×