ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 6105
レビュー : 633
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106108204

作品紹介・あらすじ

2019年7月22日、「東洋経済オンライン」記事で紹介され話題。
少年院には「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない非行少年が大勢いた……。

この世には「反省以前の子ども」が沢山いる。認知力が弱く「ケーキを等分に切る」ことすらできない――。人口の十数%いるとされる「境界知能」の人々に焦点を当て、彼らを社会生活に導く超実践的メソッドを公開。

感想・レビュー・書評

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  • うーん…
    ちょっと期待しすぎてしまったからか、評価をつけづらい。
    ある程度知識がある人には、物足りなさを感じてしまうかもしれません。読みやすい文体と語り口で、スラスラと読むことができます。でもそれゆえ、これまで関わってきた子どもたちが頭をよぎりまくり、別のことを考えながら読んでいるような時間が実に長かった。あまり集中できていなかったように思う。

    わたしは児童分野でソーシャルワーカーとして働いていたことがあって、そこには”ケーキの切れない非行少年たち”と同様の子どもたちがたくさんいた。つまり、「見る力」や「聴く力」が弱く、そこから得られる情報が実際と異なってしまって、認識がずれている子どもたちだ。うんうん、いるいる…そう思いながら読んでいて、現場はいつもそういう子たちの対応に困っていた。でもたぶん一番困っているのは子ども本人なんだけど。そもそも”困ってる”って、結構高次の感情のような気もしていて。何か”困る”ような出来事があっても、それに対して”困ってる”と判断できるかどうか、がまず最初の関門で、その次に「どうやってその関門を乗り越えるか」という関門も存在する。
    “困ってる”という感情を知らなければその出来事は流されてしまう。また、人とコミュニケーションを取ることが苦手であれば、「困った(と思われる)時に誰かに相談する」という選択肢なんてまず出てこない。そうやって一人でさまざまな「困った(と思われる)場面を乗り切る方法」を繰り返していくうちに、犯罪に行きついてしまうことだってあるだろう。

    怖かったのは、自分にも非行少年たちと重なる部分があるという点だ。
    例えば、融通の利かなさや不適切な自己評価。困難にぶち当たった時に融通が利かないと、選択肢が乏しく、解決には程遠い方法しか思いつかない。自己評価が不適切であれば、自分に直すべき点があっても、適切にフィードバックできずに妙な自信を持っていたり、逆に被害意識が強ければ、「あの人が自分を見てくる、何か自分に問題があるのでは」という思いが募ったり。
    凶悪犯罪によって少年院に入所した子どもも、こうして日常生活の中のちょっとした出来事に困っていて、それを誰にも相談できずに一人で解決しようとして、ちょっとした勘違いから人を殺してしまったのかもしれない。誰かに相談しようにも、被害意識が強ければ、他人に馬鹿にされると思い込んで、結局誰にも相談できないのだ。
    P125「問題なのは自尊感情が低いことではなく、自尊感情が実情と乖離していることにあります。何もできないのにえらく自信をもっている。逆に何でもできるのに全然自信がもてない。要は、等身大の自分をわかっていないことから問題が生じるのです」。
    いかがでしょう?わたしはこれは、非行少年だけではない、今の時代を生きる人全員に言えることではないかと思いました。特に、SNSのように虚飾が可能な世界では、いくらでも自分を偽ることができる。どんどん現実の自分と、SNSでの自分の姿が乖離してゆく。
    彼らは決して、理解できない他者じゃない。

    認知の課題があったり、知的な課題がある人や子どもの話を、わたしは一生懸命聴いてきた。でもたぶん、「丁寧に話を聴く」だけではわからないものが潜んでいる。
    P123「”褒める””話を聞いてあげる”は、その場を繕うのにはいいのですが、長い目でみた場合、根本的解決策ではないので逆に子どもの問題を先送りにしているだけになってしまいます」。
    この一文は耳が痛い。
    これまで関わってきた子で、知能検査WISCでばらつきがある子は結構いて、でもだからといってどう対応すればその子が生きやすくなるのか、それはわからなかった。それがわからない以上、彼らは生きづらいままだし、「問題行動」を起こすことだってある。
    書籍の中では、彼らの生きづらさや「問題行動」の背景にある、「話を聴く」だけでは見えてこない、認知機能を強化するトレーニングが紹介されている。

    きっと子どもも大人も、あらゆる点において「自分で気づくしかない」。しかし、周りは何をすれば、それが本人の”傷つき”ではなく”自分を変えよう”とする気づきになるのか、それは人によって違うのだけれど、答えのない、非常に難しい問いのように感じた。

    • ロニコさん
      naonaonao16gさん、おはようございます^_^

      コメントをありがとうございました。
      コメント欄に書き始めると、途中でフリーズするこ...
      naonaonao16gさん、おはようございます^_^

      コメントをありがとうございました。
      コメント欄に書き始めると、途中でフリーズすることが多く、今回も何度かフリーズ…返信遅くなりすみません。

      naonaonao16gさんの書かれているレビューから、社会福祉の分野でお仕事をされている方なのだろうな…と思っていましたが、ソーシャルワーカーとして働かれていたこともあるのですね。

      私のような経験の浅い学校関係者でも、そこから先の詳しい情報が欲しいな…と思うのですから、専門職の方は尚更でしょうね。
      とはいえ、この本、勤め先の先生方の間で一時期引っ張りだことなり、喜んで頂きました。しかし、先生方こそそこから先が知りたいでしょうね…。

      学校現場は、制度的に昔と変わらないのに社会や子ども達の様子は大きく変わっています。もっと柔軟に対応できるように、現場の先生方は奮闘されていますが、大元がお役所的なだけに色々と難しいですね。
      末端にいる自分にさえ、そんな風に見えてしまいます。

      naonaonao16gさんの心のシャウト、私は全く違う立場にいながら、いつも共感しております。
      2020/07/06
  • これは、かなり衝撃的な内容。
    殺人や性犯罪などの凶悪犯罪を犯して少年院に服役している子どもの中に、無視できないパーセンテージで、認知機能が極端に低い子どもがいる、というお話。

    学力が低い、という問題ではない。
    学力も低いのだが、それ以前に、視覚や聴覚などの発達があまりにも未熟すぎて、その年齢の人間に当然要求される諸能力を身につけることができず、壮絶な「生きにくさ」を抱えている、という話である。

    例えば、帯に書いてある図形。
    「ケーキを三等分して下さい(3人で平等に分けて下さい)」という課題に対する、ある受刑者の解答である。
    小学校低学年ならまだわかるが、この図を書いたのは10代半ばの少年で、何分間も考え抜いた末の解答なのである。

    さらに衝撃なのは図形模写のテストで、ある受刑者が書いた図。
    まるで幼稚園児か、認知症の高齢者が書いたような図だ。
    正直、これは下手なホラーより怖い。
    自分の隣で普通に生活している、健康そうな若者が、実はこんな稚拙な認知機能しか持たない、脳障害を抱えた人だとしたら。
    幼児や認知症患者のように、本来なら保護と管理の対象となるべき人間が、成人の身体と資格(車の免許など)を持ったまま、放置されていたとしたら。
    それは、本人にとっても周囲にとっても不幸なことだ。

    現在、知的障害の基準はIQ70以下とされているが、これはかなりゆるめの基準らしい。
    現実にはIQ85でもかなり生活に不具合が生じるらしく、このIQ70-85の境界知能の人も含めると、知的に問題を抱える人の割合は人口の約16%となるそうだ。
    ざっくり言うと、35人クラスなら下位5人が該当する計算となる(実際には学校間のレベルの差があるので、単純には当てはまらないが)。
    この見逃された知的障害の子に、小学校低学年くらいの早い段階で介入し、支援するのが、福祉の観点からも犯罪防止の観点からも望ましいと著者は述べている。

  • 認知能力が低く、反省する以前の少年がたくさんいる。ホームレスに石を投げて殺した某大学野球部員たちも、そういう少年なのかもしれない。

    発達障害や知的障害への早期からの支援は、僕が育った頃に比べかなり充実してきていると思う。それでも、育った環境によりなかなか気づかれない子どもたちもいる。

    こういった子どもたちが生きていくのは、我々が想像している以上にしんどくて辛いことなんだと思う。

    行動変容のためには適切な自己評価が欠かせない。本書の後半では、どのように支援を行うべきか述べられている。参考になる。

  • 児童精神科医の著者が医療少年院で出会った「反省以前の少年たち」とはどういう子たちなのだろうか…反省を促しても態度が悪い、とかそういう意味だろうか?と思っていたが、全く違った。

    軽度知的障害や境界知能の少年たち(この本では少女も含めて少年と呼んでいる)。
    日常生活の中では、その問題点は目立たない。
    しかし、勉強となると、認知能力(見る力、聞く力、身体を動かす力)が低いため、小学校2年生辺りからついていけなくなる傾向が見られるそうだ。
    この時点で、家庭がしっかりしていれば、子どもの様子に気づき、療育系の相談窓口に出向くなどして適切な処置がなされていく。
    が、取りこぼされてしまう子たちもいる。多くは機能不全の家庭で育つ子たちだ。
    学校では、忘れ物が多い、何度注意しても変わらない、口より手が出る…などの傾向が見られ始め、問題児のレッテルが貼られてしまう。
    義務教育のため、ついていけなくてもとりあえず中学卒業まで学年だけは上がっていく中、そういった子たちが、スクールカーストの最底辺にいることや、イジメの対象になることは容易に想像できる。
    そして、不登校から引きこもりになってしまったり、非行に走ってしまったりするそうだ。
    そんな立場に、幼い頃から立たされて来た少年たちの自己承認度が高いわけもなく、注意されても反省を促しても、真の意味での効果はあるはずもない。
    著者は、コグトレという独自の認知機能訓練を開発し、少年同士で教え合うことにより彼らの自己承認度を上げ、続ける意欲を持たせ、効果を上げてきた…。

    早い時期に彼らの困難に気付き、適切な指導がなされていれば、引きこもりや非行少年になることなく社会の一端を担える人材になれる。
    著者は、彼らは税金によって救済される側ではなく、納税する側になれるのだ。少子高齢化で財源確保が厳しい今、政府が真っ先に取り組むべきは教育改革であろう、と訴えていた。

    教育現場で悩む先生たちに是非読んでもらいたい本だった。
    もう少し、コグトレなどの実践について書いてあると良かったが、それはコグトレの本を買ってくれということか…。
    2019.12.14

    • naonaonao16gさん
      ロニコさん

      こんばんは^^
      わたしもこの本読んでみて、もう少しデータと実践例がほしいと思っていたところでした。
      すべて経験談になってしまっ...
      ロニコさん

      こんばんは^^
      わたしもこの本読んでみて、もう少しデータと実践例がほしいと思っていたところでした。
      すべて経験談になってしまっているので、今後研究が進んで、実際に見る力や聴く力が弱かった子がどんなトレーニングをして納税者になったのか、など長期にわたる研究例がほしいな、なんて思っていたところでした。
      2020/07/04
    • naonaonao16gさん
      ロニコさん、こんばんは^^

      返信ありがとうございました!
      スマホで打ってるとフリーズしますよね??わたしも同様の現象があり、返信する...
      ロニコさん、こんばんは^^

      返信ありがとうございました!
      スマホで打ってるとフリーズしますよね??わたしも同様の現象があり、返信する際はPCでするようになりました…
      なかなかゆっくり入力の時間が取れず、せっかくコメントを下さったのに、遅くなりすみませんm(__)m
      ちなみに、フリーズの件は運営の方に相談しているところです!

      ソーシャルワーカーをしていた頃、学校の先生と連携して子どもや家庭の支援をすることが多く、よく学校訪問などを行っていましたが、担任の先生が一人であれだけの子どもをみるのは本当に大変だろうなと常々思っておりました…

      ロニコさんは、司書さんをされていらっしゃるんですよね^^この作品を勧めるところが素晴らしいです!さすがです!

      現場の先生方は日々起こる個々の出来事に柔軟に対応してくださっていると思うんですよね。ただ、何か動いたりする時に、上を動かすのが難しい、ということなのだと思われます…
      わたしは今は、福祉的な立場で教育機関で働いているのですが、子どもにとってベストなことがすぐにできずにやきもきすることばかりです…

      シャウトへの共感嬉しいです!
      きっとこれからも、たくさん心の声を発すると思いますので、どうぞよろしくお願いします(笑)
      2020/07/12
  • いかにも新書的な表題「ケーキの切れない非行少年たち」。売らんかな、の雰囲気を感じて手に取るのを迷っていたが、読んでよかった。

    現状IQは70以上であれば、知的水準は問題なしとされるが、本作で扱われるのは、軽度知的障害あるいは境界知能というパッと見では分からない状況の世界である。

    他人事ではない。私の母親はおそらく該当する。定年まで地方で公務員だったし、外見は綺麗にしていたから、誰も理解してくれなかった。
    だが、私はネグレクトという環境下で育った。

    7月初版だが、私が手にしたのは9月中旬で6版。
    察するに、世の中の多くの人々にとって他人事ではない状況や問題があるのではないか。

    発達障害はすでに白黒の問題ではなく、連続体であり、環境や適性によって問題が大きくなったり、比較的適応が上手くいったりという、ことが知られている。
    伝え聞くところによると、専門外来が受付を一時停止するほど、身近な問題だ。

    本作は、そのなかでもグレーゾーンの知的水準の人々が抱える問題を、非行行動を犯してしまった少年のための矯正施設に従事した医師が記している。

    勉強が苦手。
    意思疎通が下手。
    対人関係も苦手。
    融通が利かない。
    思い付きで行動。
    感情のコントロールが不得手。
    計画が立てられない。
    見通しが持てない。

    私の母そのものだ…。今は80を過ぎて、疎遠にしているが。ずっと母に困ってきた。学生のころから母の問題を引き受け、疲れ切ってしまった。

    私が学生の折、家庭教師をした女子高生もそうだったな。息子が教えた高校生にもこういう子がいて、何度もどう教えても定着が難しかったと聞く。

    医療、学校教育では手の届かない、まして可視化しづらい障害だ。一見ではわからない。

    発達障害のなかでも、軽度或いは、境界領域の知能故、まだあまり光が当たっていないが、不幸にも犯罪へのリンクがデータとしてもあり、それは残念なことだ。

    著者が示すよう、刑罰相当で刑務所では本人の満足度も社会コストも負荷となるが、事前に適切な養育、教育環境に恵まれれば、納税者となりうる可能性もある。

    データを示しながら、内実を分かりやすく記した本作が世の中を少しずつでも変えるきっかけになることを信じたい。

    ワイドショーの小倉さん、宮根さん、恵さん、安藤優子さん、凶悪犯罪を伝えるときに、「なんでこんなことするかなあ???」と鬼の首を取ったように伝えているけど、そういう次元じゃないので、ぜひ読んだほうがいいと思います笑。

  • ぜひ、オビにある「三等分したケーキの図」を見てみて欲しい。

    小さい子どもは認知が上手くできないものだ、という話を聞いたことがある。
    通常、成長過程でそうした機能は高度化していくのだろうが、ずっとそのままだったとしたら。
    性犯罪を起こしたり、感情のコントロールが効かない少年たちは、自分をどのように見ているのか、というと「自分は優しい人間だ」と言う。

    こうした「反省以前の少年たち」を、遠い目をしては見られない自分がいる。
    自分自身がそうした少年に関わったこともある。
    また、女性にとって小さい頃にイタズラ目的で怖い思いをした率って、恐らく低くないと思うからだ。

    少年たちは社会から虐げられるほど、更なる弱者を見出して、捌け口とする構図があるのなら。
    それを教育の力で、「防ぐ」ことが出来るのなら。
    それはまだ見ぬ被害者と加害者の救いになるのではないだろうか。

    筆者からはコグトレという認知能力を高めるトレーニングが紹介されている。
    図形の書き写しや、感情の可視化、集中力のつくものなど、色々あって面白い。
    こうした「どうすればいいか」に答えてくれる一冊は、本当にありがたい。

    学校に行かない(行けない)子どもが増えている。
    学校に無理に行かせない保護者も増えている。
    自分一人に最適化された社会なんて存在しないのと同じように、学校も誰か一人に向けて居心地が良いことなどありえない。

    筆者は社会的なトレーニングが学校で行われないことを問題視しているけれど、そもそも学校という場が社会である。
    その中で、少数派へのサポートが足りていない面は必ずある。
    こういうことを考えていると、行きたくても行けない子に対する手厚さとか、多様性に行き着いて揺れる。
    けれど、それは学校そのものがなくてもいいという答えにはならないように思う。

    話が逸れたかもしれないが、こういった個々の弱点を踏まえて、だからこそ、多数の人間が一緒に生活する場の意味もまた取り上げて欲しい。

  • 〈どうすれば非行を防げるか。非行化した少年たちに対しては、どのような教育が効果があるのか。そして今、同じようなリスクをもっている子どもたちにどのような教育ができるのか。そうした問題意識を共有し、加害少年への怒りを彼らへの同情に変えること、それによって少年非行による被害者を減らすこと、犯罪者を納税者に変えて社会を豊かにすること、それが本書の目的です〉

    自分のまわりに非行少年はぜんぜんいないので
    他人事に思っていました。

    でも、たとえば性非行少年にはいろんなストレスが溜まっていって、その発散のために猥褻行為をやってしまうことがわかりました。
    一番のストレスの原因は、”イジメ被害”だそうです!
    イジメを受けたストレス発散のために、小さな女の子をターゲットにして性非行を行っているケースが非常に多かったそうです。
    イジメは、その当事者だけでなく新たな被害者をうんでいたのです。

    そう思うと、私たちだって、関係ないからって放っておいてはいけませんね。
    いつ身近の大切な幼い女の子が巻き込まれるかわかりませんから。

    ある意味被害者でもある彼ら非行少年について、どのようにすればいいか、ということがこの本に書かれています。
    私が今すぐ何かをできるわけではありませんが、少なくても彼らに対して温かい気持ちを持てたことが良かったと思います。

  • こんなに本を付箋だらけにしたのは初めてかもしれない笑
    この話に興味があって、全く知識がない自分からしたら
    面白かった。
    自分にできることってなんなんだろう。
    また読み返して見ようかな、と思えた。

  • 現在、新書分野のベストセラーになっている本。
    類書は多いのに、本書だけがベストセラーになった理由はよくわからない。キャッチーなタイトルの効果であろうか。

    著者は、発達障害・知的障害を持つ非行少年が収容される医療少年院で長く働いた経歴を持つ児童精神科医(現在は立命館大学教授)。

    経験をふまえ、非行少年の中には軽度知的障害や境界知能の事例が多いことが明かされていく。
    重度ではないがゆえに彼らの障害は見過ごされ、支援の手が差し伸べられないまま、学校などで生きづらさを抱えていた例が多い。

    彼らの多くがいじめのターゲットとなり、そのことで溜めたストレスのはけ口として犯罪に走る例が目立つという。同時に、犯罪の重大性を認識できない認知能力の低さも、非行の背景にある。

    本書の前半では、非行少年たちの認知能力の低さを示す衝撃的な実態が紹介される。

    『ケーキの切れない非行少年たち』とは、紙に書いた円をケーキに見立て、「3人で食べるために、平等に切ってください」と書かせる問題に、正答できない少年が多かったことを指す。

    円を3等分することすらできない。「100-3」程度の簡単な計算すらできない。漢字も読めず、日本の総理大臣の名前すら言えず、日本地図を示して「自分の住んでいたところはどこ?」と聞いても答えられない。

    そのように、知識も認知能力も社会生活に不十分な少年たちが、重大な犯罪を犯して少年院に送られてくる。そして反省することを強いられるのだが、「反省以前」だと著者は言う。

    《これまで多くの非行少年たちと面接してきました。凶悪犯罪を行った少年に、何故そんなことを行ったのかと尋ねても、難し過ぎてその理由を答えられないという少年がかなりいたのです。更生のためには、自分のやった非行としっかりと向き合うこと、被害者のことも考えて内省すること、自己洞察などが必要ですが、そもそもその力がないのです。つまり、「反省以前の問題」なのです。》(22ページ)

    反省できるだけの能力を育むことから始めなければ、更生できるはずもない、と……。

    後半の6、7章では、そんな彼らに社会がどう対処すべきかという処方箋が語られている。
    現在の学校教育、医療分野で行われている支援は、まったく不十分だと著者は指摘する(6章)。
    そのうえで、最後の7章では、著者が実際に行い、多くの非行少年たちを劇的に変わらせた「認知機能に着目した新しい治療教育」が紹介される。

    著者の眼目――いちばん主張したいことは、処方箋が提示される6、7章にこそあるのだろう。

    しかし、タイトルのつけ方が示すとおり、版元は前半のセンセーショナルな実態のほうを強調したがっているようだ。
    また、そうした売り方をしたからこそベストセラーになった面もあるだろう。

    実際に読んでみれば、著者の筆致に煽情的な部分はない。非行少年たちの更生をひたすら願う真摯な内容である。

    印象に残った一節を引く。

    《矯正教育に長年携わってきた方が、こう言っていました。「子どもの心に扉があるとすれば、その取手は内側にしかついていない」。まさにその通りだと思います。子どもの心の扉を開くには、子ども自身がハッとする気づきの体験が最も大切であり、我々大人の役割は、説教や叱責などによって無理やり扉を開けさせることではなく、子ども自身に出来るだけ多くの気づきの場を提供することなのです。》(153ページ)

  • この本では、児童精神科医である著者が、その経験に基づき、どうすれば非行を防げるのか、非行化した(またはしそうな)少年たちに対してはどのような教育が有効なのかについて言及しており、それにより非行少年による被害者を減らし、犯罪者を納税者に変えて社会を豊かにすることを目的としている。

    前半部分(第1章〜第3章)では、非行少年の実態や彼らに共通する特徴について、第4章、第5章ではその特徴があるにもかかわらず、気づかれずに知的障害の枠からはみ出た子供達について、第6章では現在の教育の実状とその問題点についてが提言されており、第7章ではこれまでの教育とは別の方法で非行少年をアプローチする、筆者が考案したコグトレ(認知機能強化トレーニング)について紹介されている。


    この本を読んで、非行少年のほとんどがイジメや虐待の被害者だったことを知り、被害者が被害者を生む負の連鎖を断ち切るには、子供たちが毎日通う学校の教育が重要だということを切に感じた。

    また、刑務所にいる1人の受刑者を納税者に変えれば、およそ400万円の経済効果になり、日本から犯罪をなくすことができれば、年間5000億円の損害をもなくすことができるそうだ。

    これを知れば、「非行少年なんて自分とは全く関係のない世界の人間だ」なんて呑気なことを考えている人も、いかに犯罪者を減らすことが日本の国力を上げるために重要かを理解できるだろう。

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著者プロフィール

立命館大学産業社会学部・大学院人間科学研究科教授。医学博士、日本精神神経学会専門医、子どものこころ専門医、臨床心理士、公認心理師。京都大学工学部卒業、建設コンサルタント会社勤務の後、神戸大学医学部医学科卒業。大阪府立精神医療センターなどに勤務の後、法務省宮川医療少年院、交野女子学院医務課長を経て、2016年より現職。児童精神科医として、困っている子どもたちの支援を教育・医療・心理・福祉の観点で行う「日本COG-TR学会」を主宰し、全国で教員向けに研修を行っている。著書に『教室で困っている発達障害をもつ子どもの理解と認知的アプローチ』『性の問題行動をもつ子どものためのワークブック』『教室の「困っている子ども」を支える7つの手がかり』『NGから学ぶ 本気の伝え方』(以上、明石書店)、『不器用な子どもたちへの認知作業トレーニング』『コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング』(以上、三輪書店)、『1日5分! 教室で使えるコグトレ 困っている子どもを支援する認知トレーニング122』『もっとコグトレさがし算60 初級・中級・上級』『1日5分 教室で使える漢字コグトレ小学1~6年生』『学校でできる! 性の問題行動へのケア』(以上、東洋館出版社)、『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮社)などがある。

「2020年 『対人マナーを身につけるためのワークブック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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