「池の水」抜くのは誰のため? 暴走する生き物愛 (新潮新書)

  • 新潮社 (2020年10月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784106108792

作品紹介・あらすじ

「池の外来種をやっつけろ」「鳥のヒナを保護したい」。その善意は、悲劇の始まりかもしれない。人気テレビ番組の盲点から自称プロ、悪質マニアの暗躍まで、知られざる“生き物事件”を徹底取材。

感想・レビュー・書評

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  •  科学的な知識を身につけていない(身につけようとしない)善意ほどこわい物はない…と常々思ってきた。ここでいう科学とは自然科学だけではなく社会の科学も含まれる。戦争は常に善意から生まれる。
     生物多様性を破壊しかねない行為にも,善意から生まれるものがある。やれ,稚魚の放流で生き物の大切さを学ぼうだの,買っていたネコやかめがかわいそうだから,とりあえず自然に離してあげようなどという行為は,命を大切にしているようで,その生物以外の命を大量に奪っている行為かもしれないのである。
     本書の題名である「池の水を抜く…」というのは,もちろん,あのテレビ番組のことである。外来種がいたといって大騒ぎをする一過性の水抜きお祭り行事に対して,著者は厳しい。その後のため池はどうなっているんですか? 数年に一度はちゃんと水抜きをするのが,ため池の維持のためには必要ですよ,と。しかも,それらの外来種は,外来種と言われている動植物たちが悪いのではない。彼らを悪者にするような番組はどうかと思う。悪いのは,興味本位で外国から連れてきた人間である。しかも,人が上手に利用している外来種(作物などはみんなそうだ)は,いっぱいある。そのことをぬきにして,外来種云々というのはとても人間の身勝手であり,他の生物に申し訳ない。
     アメリカザリガニはとっても可愛い。産卵し,お腹の中で子育てをしている姿も可愛い。これは生物教育の生きた教材としてもとてもいいのではないか。ただ,日本の池には居て欲しくなかった…でも,こうなった以上は,絶滅させるのは難しい。では,どうすればいいのか。
     科学的な知識の普及,地元のいろいろな人の合意形成,未来への責任と共感など,さまざまな場面で連携をとりながら,進めていくしかあるまい。
     生物多様性,外来種などについての入門書として,本書をお薦めしたい。読みやすい本です。巻末には,もっと学びたい人への参考文献も紹介されている。

  • 有名な池の水を全部抜く番組の批判かと思いきや、もっと深い環境についての本でした。里山にカブトムシが帰ってくる環境を作ろうと他県のカブトムシを放流して炎上した議員の例など、いい人だけど知識がなくてやらかした例や、悪意のある例など豊富に紹介されています。最後に自身の失敗例も挙げられており、真摯な人が書いた本だなと感じました。

  • 池の水を全部抜くはちゃんと見たことが有りませんが、男としては血が騒ぐ番組で有ります。水を抜いて池に居る生き物を捕まえるなんて子供の頃だったら憧れて眠れなくなるレベルです。
    この題名なので、水を全部抜くことでダメージが有るのかなあと思って読み始めたのですが、そうでは無くて、継続して水抜き、駆除をして管理して行かないと改善しないという事だったんですね。TVの力ではない部分で継続できるのかと。
    良かれと思って行う放流も、環境を悪化させる一因になるし、餌を与えたりする行為も自然のバランスを崩す要因となるし、知らずに色々な自然破壊を行っていたんですね。
    昔、釣りキチ三平で毒が流れて死の川になってしまった川に、三平がオイカワを大量に捕獲し放流する美談があるのですが、あれもダメだったのかなあ。感動したんですが色々難しいですね。
    自然に何か関わろうとするときは、必ず専門家の意見を聞くのが重要だという事ですね。

  • 生態系を守るという視点と生物愛の対立。池の水を抜く番組などを例に生物多様性の抱える問題点を語る。

    間違った生き物愛の事例が豊富。野生動物に餌付けすることで人馴れしてしまい結局ヒトと対立する例、希少動物を勝手に放流、インスタ映えする写真を撮るため動物に近づきストレスを与えたり。天然記念物を守るため繁殖した猫を捕獲するのを文春砲に攻撃されたり。

    動物が可哀想だから、という視点が時に間違った方向に行ってしまうことが残念ながら良くあるようだ。

    池の水も一度だけではなく何度も抜かないと本来の生態系には戻らないというのも意外。テレビ受けだけでなく地道な活動が必要なようだ。

    筆者は初の著作。滲み溢れる動物愛が良い。ただし問題が実は大きいので、筆者のように割り切れず動物との距離についてはこれから深く考えさせられそうだ。

    テンポも良く気軽に読めて、かつ有用な一冊です。

  • 感情的に書いてるのかもだけどそれが中途半端に

  • ふむ

  • イノシシが美味しく価値があるのは秋。害獣として狩る必要があるのは夏。なるほど、ジビエは簡単じゃないな。

  • 「絶滅できない動物たち(M・R・オコナー)」で読んだ動物福祉のジレンマととても似ている。生き物の気持ちを推し量れない以上、どうしても主観的な主義主張になりがち。そんななか客観的で公平な記述になるよう相当注意されている本と感じた。

    ちょうど最近、近所でツバメの雛が地面に落ちていて、子たちが大騒ぎしていた。最終的には近所の方がそっと巣に戻した。巣が近くにあったし、家屋につくられた巣だったので、戻してあげてよかったと思うけれども、これが森の中だったら?巣が近くになかったら?。
    「池の水」にはあまり関わりがなくとも、公園の鳥や虫や野良猫などペット以外の生き物と接する機会は案外多い。生き物とのかかわり方をいろいろと考えさせられた。

  • 近隣の川でも、目につく生き物はミシシッピアカミミガメ、アメリカザリガニ、コイ、タガヤシだけ。釣りをしてもブラックバスとブルーギル。
    外来種だけとしか出会わない環境になってきています。
    「善良なる無知な人間ほど困ったものはない」
    生態系や自然環境に関わる問題のみならず、SNSでも”お気持ち”が最優先され正しい情報や理論的根拠のある情報が伝わらなくなってしまうのは同じなのか。
    一方通行ではなく、多方面から、あらゆる角度から観察し考察し、その時点での最適解を見つけ出すべきなのは自然保護でも変わらない。
    変化する自然環境や生態系。自分に出来る範囲で学びを継続していきたい。

  • 【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 複雑なテーマをこんなにわかりやすくまとめられるのはすごい

  • 知らずに何かを傷つけているかもしれない。
    生き物との付き合い方は難しい。
    人間はもっと難しい。

  • タイトルを見て、「これは読んでみたい」と思い、借りて読んでみました。
    が、池の水を抜く話は、ほんの一部でした。

    いわゆる外来種への対応が大きなテーマの本なのですが、決して大上段に構えた本ではなく、たくさんの事例を紹介しつつ、しかも、それらはいずれも、地に足の着いた取り上げ方で、丁寧な考察を加えています。

    「外来種=悪」といった単純な図式になっているわけではないので、「歯切れが悪い」という印象を受ける方もいるかもしれないのですが、外来種に対するいろんな考え方を紹介することで、様々な論点が提示されています。
    また、シカやイノシシやクマなどの在来種についての問題にも触れられていて、生物界全体と人間との関係について、考えるヒントを得る上でも、役に立つ本だと思います。

    結局のところ、外来種については、単純な解決策はないのですが、キーワードは、「生物多様性の確保」「生物多様性の考え方の涵養」「持続性のある活動・継続的な活動」あたりでしょうか。
    より多くの方に読んでいただきたい本です。

  • p22.より引用”宮城県の沿岸部で進められている、防潮堤の上に盛り土をして、広葉樹を植える事業が、苗が枯れるなどして難航している、というような内容でした。”
    ”植生の研究で著名な学者、宮脇昭・横浜国立大名誉教授の提唱する、「元々そこにあったはずで、そこで最も安定的に存在する植生(森)」を苗の段階から作ってしまおうという理論に基づく事業”

  • 池の水はキャッチーだが、それだけの話ではなく、生き物との接し方について考える材料を提供してくれている。

  • 「生き物がかわいそう」はわがままに通じる。テレビは映えるところを使って煽るだろうけど、世の中そんなに簡単じゃない

  • 東洋経済ONLINE(2020/10/17):外来種を悪とする「池の水ぜんぶ抜く」の疑問点 テレビ番組だけではわからない問題点もある https://toyokeizai.net/articles/-/380208

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