中国「見えない侵略」を可視化する (新潮新書)

  • 新潮社 (2021年8月18日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784106109195

作品紹介・あらすじ

「千人計画」の罠、留学生による知的財産収集――中国がいま狙うのが、「軍事アレルギー」の根強い日本が持つ重要技術の数々だ。殺戮ドローン、ゲノム編集等の新たな軍事技術開発まで、経済安全保障を揺るがす脅威を総力取材!

感想・レビュー・書評

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  • 「千人計画」だけを敵視する、読売新聞の世界観|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
    https://www.newsweekjapan.jp/ishido/2021/09/post-19_1.php

    読売新聞取材班 『中国「見えない侵略」を可視化する』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/610919/

    猫が信頼を置くカセイケン代表の榎木英介の書評の紹介
    「石戸諭さんの書評。読売新聞の取材班の本の問題点を指摘する論考です。必読。
     最近、中国に人材が流出する原因について、日本の研究の問題が背景にあるという論考が増えてきているように思います。」

  • 「平和を愛する諸国民の良心に期待する」という楽観が蔓延る日本社会に一石を投じる内容。
    保守もリベラルも、右も左も、皆に読んで欲しい。賛同するにせよ批判するにせよ、一人でも多くの人が読んでからそれをするならば日本は必ず良い方向に進むだろう。それだけ内容のある良書。
    Amazonのレビューなどには、はなから読んでないとしか思えない批判が多い。
    例えば
    ・今や中国の方が遥か上を行っており、日本から盗むものなどない。科学技術を窃取されるなどというのは妄想だ
    ・留学生をスパイ扱いするなんて酷い!
    といった浅い批判ばかり。
    しかし、あとがきにもあるように、中国が今や日本の軍事力と経済力をはるかに上回っていることは当然であり、読売新聞もそんなことは分かった上で論じている。だが、その日本から盗みたい技術があるから現実に千人計画で日本人研究者を中国の大学に置いているのだ。欲しい技術もないのに、一体だれが高い研究費と給料、高級マンションを用意して研究者を呼び寄せるというのか。自前で軍事技術を開発するより安上がりだからに他ならない。
    また留学生を一律でスパイ扱いするなどということは、本書は全く論じていない。そうではなく、米国で中国人留学生がスパイとして逮捕されたことや、日本に留学していた中国人が帰国後に軍事研究の表彰を受けたことなどの「事実」を書いている。こうした現実に国が何も対処しなくてもいいはずがないだろう。
    ネットを見ても、毎日新聞の記者が、あたかも本書を「被害妄想」であるかのようにこき下ろしている記事が見つかる。全く嘆かわしいことである。では、千人計画に対してしっかりと対策を取っているアメリカは一体何なのか。アメリカは妄想に向かって拳を振り上げるドン・キホーテだとでもいうのか。
    諸外国の取り組みに比べて、日本はあまりにも安全保障への意識が低すぎる、特に経済安全保障の意識が低い。それが本書の指摘である。そんな意識必要無いというなら、そうした批判もまたアメリカを初めとした諸外国との比較においてなされなければならないだろう。

  •  新聞の連載企画が元で読みやすい。千人計画、軍民融合技術の国家戦略化など、中国が重要技術の獲得・促進に国を挙げている様子が非常によく分かる。国家として重視していることに加え、それだけの国力もあるということだろう。サイバー攻撃による窃取のような明らかなもの以外にも、留学生や共同研究を通じた技術獲得、また中国の経済活動への依存それ自体がリスクになり得る。これらリスクには、自由民主主義や自由貿易を掲げる国の方が脆弱だろう。
     一方、米中デカップリングを中心とした対抗策も本書で解説。トランプ政権期の対中姿勢は、同盟国・パートナー国と組む形でバイデン政権にも継承されており、また米経済界の対中認識も大きく変わったという。「安保は米国、経済は中国」では許されない、という第五章のタイトルが重い。

  • 読売新聞にて、2020.1〜11にかけて計32回「安保60年」という特集を集め加筆されたもの。
    「安保は米国、経済は中国」という日本政府の姿勢の甘さに、かなり突っ込んだ形で問題提起されている。中国人留学生による、日本からの技術、軍事的分野におよぶ情報の流失など、あってはならない。少し、内容を解釈するのに時間がかかりそうなので、再読必至。

  • 先に読んだSilent Invasionと同じ路線。中国の対外行動の可視化と、それに対する主に米国の対応について書かれている。あと日本も思ったよりは対応しているんだなという印象を受けた。なんとなく日本のメディアには期待していないが、思いの外骨太ではああったが、先のSilent Invasionと比較してしまうと、少々見劣りする。しかもう向こうは著者が個人だし。。。

    ちなみにSilent Invasionでは、民民の親中アプローチ的なものにもかなりのページを割かれているが、こちらはページ数が少ない分、もう少し目的・目標が明確なものにフォーカスしている感じ。

    比較的最近の事象を集めていることもあり、過去10年以内で起き、自分でもウォッチしていたニュースと関連した話も多く、一定以上熱心に中国を見ていた身には、そこまで大きな発見はなかったように思う。そういう意味では、報道機関として、もう少し踏み込んで何か新しいものを見出して欲しかった気もする。

    P.21
    千人計画では、外国人研究者に本国の大学で中国人留学生を受け入れさせるケースもある。そうした場合、留学生を通じ、外国の進んだ研究施設をそっくりそのまま中国国内に再現する「シャドーラボ(影の研究室)」が作られることもあるという。

    P.22
    複数の研究者が、過去に日本で行った研究のデータを使って論文を書く場合でも、中国の大学の肩書きで発表するように要求されたと口にする。

    P.56
    「中国未掌握コア技術リスト」と大した中国語の報告書が一九年初め頃、日本政府に持ち込まれた。(中略)当時、リストを目にした経産省幹部は、「『中国製造二〇二五ね』に沿って獲得すべき外国の先端技術を調べ上げている。標的リストだと直感した」と振り返る。

    P.87
    中国の千人計画に対しては、軍事転用可能な機微技術を流出させる懸念が指摘されている。欧米では技術搾取などのリスクがあり、「研究インテグリティを損なう」と警鐘が鳴らされている。学術会議が、「戦争を目的とする科学の研究は絶対に行わない]
    との声明を発表したのは、東條英機内閣が戦争中の一九四三年、「研究機関に於ける科学研究は大東亜戦争の遂行を唯一絶対の木付与として強力に之を推進する」と閣議決定し、多くの科学者が動員されたことを反省したからだ。(中略)技術流出防止などの問題に取り組んでいる自民党のルール形成戦略議員連盟の甘利明会長は、二〇年の五月四日付読売新聞で、「学術会議は軍事研究につながるものは一切させないとしながら、民間技術を軍事技術に転用していく政策を明確に打ち出している中国と一緒に研究するのは学問の自由だと主張し、政府は干渉するなと言っている。日本の技術が中国の軍事技術に使われようとしても防ぐ手立てがないのが現状だ」と語る。

    P.128
    中国共産党の機関紙「求是」によると、習氏は、「産業チェーン、サプライチェーンは肝心な時に断裂させることはできない。これは、大国経済が備えておかねばならない重要な特徴である。今回の新型コロナの流行は戦時下でのストレステストである」と述べたという。(中略)習氏は、「世界の産業チェーンの対中依存関係を強め、外国による人為的な供給停止に対する強力な反撃と抑止力を構築しなければならない」とも強調した。さまざまな製品のサプライチェーンを中国に依存させることが、中国にとって大きな「武器」になることも、改めて習氏の頭の中に刻み込まれたことは間違いない。

    P.147(オバマ政権)
    中国を戦略的なパートナーとみなすこうした外交観の中心にいたのが、オバマ氏の外交最側近で、国連大使や国家安全保障担当大統領補佐官を歴任したスーザン・ライス氏だった。ライス氏は、大国同士の外交によって世界秩序が決まると信じ、同盟国である日本よりも中国との「大国関係」の構築を優先していた。日本の外交官が台中認識を共有しようとしても、ほとんど聞く耳を持たなかったという。

    P.150(二〇年七月二三日、ポンペオ国務長官)
    ニクソン氏ゆかりの場所で、ポンペオ氏は「中国が自由と民主主義に向けて進化するとした歴代米指導者の理論は結局、正しかったのだろうか」と述べ、米国の伝統的な中国関与政策を失敗と断じた。「我々は中国を歓迎したが、中国共産党は我々の自由で開かれた社会を悪用した。中国は優れた知的財産や企業秘密をだまし取った。ニクソン大統領は中国共産党に世界を開くことで『フランケンシュタイン』を作り出したことを心配していると言ったが、まさにそうなっている」とまで述べた。

    P.236
    酒井鎬次という陸軍中将がいた。陸軍きっての秀才とされ、第一次世界大戦時にフランスに駐在したことで「長期総力戦」の愚を知ったという。戦時中は東條英機と対立して不遇をかこった。
    片山杜秀氏の『未完のファシズム』(新潮選書)によれば、酒井には、「持たざる国」の日本にとって、戦争の相手は身の丈に合っていなければならない、「持てる国」との戦争は極力避けるべきだ、との信念があった。「『持たざる国』なりに可能な最大限の範囲で兵器を近代化する。数は不十分でも質の優れた航空部隊や戦車部隊を編成する」ことを志向した。

    P.237(酒井鎬次:一九四三年『戦争類型史観』)
    「我々は厳粛な事実を正しく認識し、あるが儘の現実を素直に把握するの用意も亦極めて重要であろう。戦争に敗れたものが、多くのこの現実把握の不足から出発していることは、我々が戦争史に於て数多く見た所である」
    「我々が検討した戦争史から受ける暗示は、理想と現実との程よい調和ではなかろうか。そして、これに達する道は、主観的に考えて、腹八分の摂生法を守るにあるやに考えられる」

    P.238
    日本の政党・メディアには、「日本が果たすべき役割は、米中双方に自制を求め、武力紛争を回避するための外交努力にほかならない」といったように、「外交努力」と唱えさえすればどうにかなるとの主張が少なくない。だが、説得力のある具体策は聞かない。外交と軍事は両輪というのが国際政治の常識である。交渉、対話は重要な手段であるが、そもそも日本にそれなりの「力」が備わっていなければ、どう実現しろというのだろう。
    半世紀前、現実主義で知られた政治学者の永井陽之助は「中央公論」で発表した論文にて、「『全能の幻想』とは、自国だけの『一方的行為』で、国際問題や紛争が、すべて片づくと考える妄想である。国際政治はつねに、対他的行動であって、相手が他の出方に依存していること、を無視することである」と指摘。そのうえで、「自主外交なるものが、政治の世界で、『なんでも可能である』と思い込む大衆のイリュージョンにおもねり、刺激するジャーナリズムの軽薄さゆえに、いたずらに大衆の焦燥感のみを増長させるならば、日本の将来にとって、この上ない危険を意味するだろう」と喝破していた。

  • 中国の千人計画と日本のポスドク問題、米国の高等教育のグローバルセンター問題(自国研究者と外国人研究者の割合の逆転)等、水面下で起きている問題が理解できて勉強になりました
    L◯N◯の危険性を意識する必要はあるかと思います

  • ● 少なくとも44人の日本人研究者が20年末までに千人計画に参加したり、関連した表彰を受けたりしていたと報じた。東大や京大等の国立大の元教授が多かった。
    ● 5年分の研究費約2億円。大学では日本語が堪能な秘書がつき、永住権の付与や、無料の人間ドックなどの特典もあったと言う。
    ●内部に3グラムの指向性爆弾を備えた手のひらサイズの小型ドローン群が、顔認証システムを使ってターゲットを捜索・追跡し、見つけ次第、死体にくっついて脳だけを爆薬で破壊して殺害する。
    ●中国にある技術摂取は、学術研究をめぐる米国の自由な風土を利用している。このため米国では、安全保障上の観点から学術研究のあり方そのものを見直している。

  • 中心テーマは5章の「安保は米国、経済は中国」では許されない、につきるだろう。つまり経済安全保障の重要性について論じた内容となっている。本書は20年の新聞連載記事にバイデン政権誕生(菅政権)までを加筆したものだが、その後の岸田政権になってようやく経済安全保障担当大臣が設置され、22年5月に経済安全保障推進法案が可決された流れを見ると、あらためて本書には重要な意義があったと言えるだろう。
    日々の報道により断片的には知っていたことではあったが、ここまで酷い事になっていたことに正直驚いた。経済安全保障というと産業界が中心というイメージがあったのだが、昨今の学術会議や千人計画等々の問題にもあるように、学術機関が果たす役割が大きいことがわかる。という意味では学術安全保障という視点も重要であり、経済・学術安全保障という呼び名に変えた方がいいのではないかとすら思えた。

  • 経済安全保障の分野を学びたい人におすすめ。

    【概要】
    ●世界経済に組み込まれた中国の対応、軍事転用可能な民生技術の2点から見た経済安全保障
    ●千人計画、軍民融合
    ●中国依存のリスク
    ●米中デカップリング

    【感想】
    ●国際情勢を見ると、軍事力を用いた戦いになる前に、国家の存亡は決まるのだろうと思える。なぜならば、中国の「戦わずして勝つ」ための目に見えない戦いに、日本は対応できていないからである。本書ではそれがよく理解できる。
    ●興味を覚えた内容は、「中国の香港国家安全維持法、あのやり方はよくないという国々は27か国、理解ないし指示すると見解を表明した国は53か国」と「世界で民主主義国といえるのは87、非民主主義国は92、ということで権威主義的政治体制がいいのか、自由民主主義体制がいいのか、というものは現実的な問いかけになっている」であった。
    ●「日本にとって、何が必要で、どんな姿勢が求められるのか」、国民がメディアを通じて得られる情報が正とするならば将来に不安を覚える。
    正ではなくメディアの情報が偏っているとしたならば、メディアは、視聴率狙いだけでなく真に必要な情報が国民に伝わるような内容を報じてもらいたい。そう感じた。

  • 『#中国「見えない侵略」を可視化する』

    ほぼ日書評 Day500

    「百戦百勝するは善の善なるものにあらず」

    「まず勝ちてのち戦う」

    『孫子』にいう、これらの概念を地でいく、昨今の隣国のありようを、さまざまな事例を上げて解説し、具体的な対処法を提示する。

    現代における「侵略」とは、他国の国土、たとえば尖閣を、武力をもって制圧することではない。
    そうした、明示的な戦闘行為などは愚の愚であり、むしろ相手に気づかれぬうちに、実質的な従属関係に置くことが、今日の「侵略」なのだ。

    双方の力関係はあくまでも相対的なものであり、相手に長じたものがあれば、それを盗み、あるいはその発展を妨げることで、中長期的に国力を削いで行く。

    複数の相手に対してこれを繰り返すことで、気づいた時には、他国が自国に抗えない地位を確固たるものとする。

    開発投資やワクチンの優先供給等は、まだわかりやすいもの。

    特に我が国では、対応法制度の未整備もあり、共同研究や留学生といった隠れ蓑のもと、多くの重要技術が、この瞬間も流出し続けているという。早急な対応を求めたいものだ。

    https://amzn.to/3bNSJii

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著者プロフィール

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「2022年 『わいせつ教員の闇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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