塩野七生ルネサンス著作集 (3) (塩野七生ルネサンス著作集 3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106465031

感想・レビュー・書評

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  • 日本の高校世界史の授業ではかけらも名前が出てこないが、イタリアの歴史ではかなりの人気者チェーザレ・ボルジアの栄光と凋落について書かれた伝記調の書籍。マキャヴェリの「君主論」のモデルと言えば少しはわかる人が出てくるか。イタリア書かせたら右に出るものはいないおなじみ「塩婆」塩野七生の名著。

    イタリア諸国の権力の駆け引きについて、登場人物の内面も含めて細かく描かれている。特にチェーザレが権力の座から転げ落ちた後、情報の欠乏から彼が判断を誤る部分は読者側からしても恐ろしい。
    山崎豊子が好きな人にはおすすめできるかも。

  • 私がチェーザレ・ボルジアの名前を知ったのは、多分この本のタイトルからだ。
    いつこの本の存在を知ったのかわからないけれど、チェーザレ・ボルジアのイメージがこれで決定されたのは間違いない。
    とはいえ、何をした人なのかは長いこと知らないままで、ボルジア家とメディチ家がごっちゃになっていた。

    ところがこの本が図書館から届いた3日ほど前、押し入れの奥の方から川原泉の『バビロンまで何マイル?』が出てきたのです。
    押し入れの奥にあったということは、かつて読んだことがあるはず。
    …内容覚えてないなあ…とぱらぱら見てみたら、何とこれがチェーザレ・ボルジアの話でした。
    こりゃあ、『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』を読む前に一度読み返さないとな。
    結果、一度読み返しただけではなく、この本を読みながら何度か『バビロンまで何マイル?』も読み返しました。

    さて、肝心のチェーザレ・ボルジアってどんな人なのかというと、ルネサンス期のローマ法王の息子です。
    ええと…ローマ法王って結婚が禁じられています。→なのに子ども
    そしてチェーザレのお母さんは、人妻です。→もちろん法王の妻ではない
    つまり、2重に罪の子なわけです。
    誰も面と向かっては言いませんが、世間はみんな知っていた事実でした。

    そしてさらに悪いことには、パパである法王は非常に子どもたちを愛していましたので、法王としての権力を駆使して子どもたちに身分や権力や財産を与えるのです。
    パパ法王は史上最低の法王と言われたアレッサンドロ六世。
    全ての欲に対して貪欲な方です。

    パパ法王はチェーザレを枢機卿というカトリック教会の中での法王に次ぐ地位(とはいえ何人もいる)に、相当若い時期につけてしまいます。
    この時期のカトリック教会は、宗教革命直前のもっとも乱れていた時期。
    政治という名の陰謀が渦巻く世界で、後ろ盾がパパしかいないチェーザレの身分はかなり危ういもの。
    しかも、誰もが知っている罪の子であるチェーザレは、どう頑張っても法王にはなれないので、若くして頭打ちなのです。

    チェーザレはそれよりも、世俗に還って自分の力で世界を手中にすることに野心を燃やします。
    頭が切れ、行動的で、冷酷で時に残忍な彼は、20代の若さで、イタリアの中部を制圧します。
    当時のイタリアは群雄割拠の時代。
    ミラノ、ナポリ、フィレンツェ、ヴェネツィアなどのほかに、フランスやスペインもその領土を狙っているわけです。
    日本で言ったら戦国時代みたいな感じ?

    とすると、チェーザレは織田信長ってところでしょうか。
    イタリアという概念を初めて口にしたのがチェーザレというのも、信長っぽい。

    しかし信長が新しい日本を作るためのビジョンをかなり明確に持っていたらしいのに対して、チェーザレはイタリアを統一して何をしたかったのかはわからない。
    彼は行動するだけで、自分の行為について語ったことはないうえに、志半ばで終わってしまいましたからね。

    何を言っても推論でしかないけれども、私は、チェーザレは何か確固としたものが欲しかっただけなんじゃないかと思いました。
    パパから与えられたものは大きかったけれども、パパが死んでしまったらあっという間にその身が不安定になる。
    事実パパが亡くなってからチェーザレの運が尽きるまでの速さよ。

    チェーザレは自分の言葉をほとんど残していないので、行動はわかるけれど血の通った人間としてのイメージがわかないと塩野さんが話した相手が映画監督のルキノ・ヴィスコンティ。
    で、彼の紹介しれくれた人を観察してイメージを膨らませたのだとか。
    すげ~な。

    そして最初に考えていたタイトルは『チェーザレ・ボルジア』だけだったけど、それでは日本人には伝わらないということで考えたサブタイトルが『優雅なる冷酷』。
    それを庄司薫に話したらサブタイトルにしないでくっつけたらと言うので、このタイトルになったのだとか。
    いや、このタイトルは最強だと思いますよ。
    ものすごく時間がかかったけれど、満足度の高い読書でした。

  • 4-10-646503-5 298p 2001.7.25 ?

  • もともと興味のあったチェーザレの話なだけに読んでみるとその波瀾万丈の人生を垣間見る事が出来て非常に勉強になった。
    イタリア統一という野心を持った彼のような男の最後があの様な形で終わってしまったのには残念である。

  • 法王アレッサンドロⅧ世の子息で枢機卿だった英雄テェーザレ・ボルシアの生涯。そのような存在でありながら、いかに反キリスト教的な人物だったかが、今から考えると信じられないように思います。ちょうど500年前のイタリアの状況が良く分かります。当時のカトリックの堕落の様子が主人公親子及び妹・ルクレティア・ボルジアなどの生活から伺えます。主人公自身が法王の非嫡出子でるが故に法王の座を諦めざるを得ないなど、凄い話です。なお、フィレンツェ、ペルージャ、ボローニャなどの地名が出てくるとついつい現在のセリエAを思い出します。

  • チェーザレ・ボルジアの人となりが知れる作品。

  • 後記にあたる「メイキング」部分で、23 の傷に関する推測があった。その説明には納得させられた。史実至上主義のあやうさが、よくわかった。

  •  西暦1500年前後のイタリア。
     文化的にはルネッサンスの花が開いた時代だが、政治的には、ヴェネチア、フィレンツェなどの都市国家のほか小国が群雄割拠する。そこにフランス、ローマ帝国、スペインなどの外国が触手を伸ばす。こうした中で君主が生き残るためには、日本の戦国時代とは比較にならない高度の「権謀術数」が求められた時代だ。
     時の法王アレクサンデル6世の子として生まれたチェーザレ・ボルジアは、この混沌としたイタリアの統一を目指す。ただし、その力が整うまではフランスの力を借り、その真意を察知されないよう慎重に、力が整うにつれ次第に大胆に。
     政敵を毒殺したり、命は保証するとの条件で降伏した敵国僭主や武将を即座に処刑したり、部下として従軍していたウルビーノ公国を突然攻めて滅ぼしたりと、目的にためには手段を選ばない。また、部下の武将たちに反乱を起こされ(マジョーネの乱)絶体絶命のピンチに陥ったときも、時間を稼ぎつつ事態の好転を待ち、部下の罪は全て許すとの条件で和睦したにもかかわらず、反乱武将たちを殲滅してしまう。この徹底した冷徹さが、後年、マキャベッリをして「君主論」の中で、理想的君主のモデルとされた所以であろう。
     法王アレクサンデル6世の後ろ盾があっての自分だ、ということは完全に理解していたチェーザレであり、対策も講じていたらしいが、彼の不幸は、法王が死んだ時(マラリアとされている)、自分も同じ原因で生死の境をさまよう状態であったことである。
     ここを潮目に彼は運命の女神から見放され、結局32歳と若くして波乱万丈の生涯を終える。

    以降は独断的私見:
     16世紀以降のイタリアも群雄割拠が続いた。
     イタリア統一は19世紀まで待たなければならないが、その間、周辺の列強オーストリア、フランス、スペインなど統一国家に翻弄され続ける。
     19世紀に統一された後、列強に追いつけ追い越せと頑張りすぎて、とうとう第2次世界大戦で敗戦国に至った、その遠因がこのにある。。。というのはやや牽強付会か?
     こうした後年の歴史を見るにつけ、確かに歴史にifは禁物だが、チェーザレが32歳の若さではなく、せめて我が織田信長くらい生きていたら、イタリアの統一は成っていたのかもしれない。
     もし統一が成っていれば、その後の3世紀にわたるイタリアの苦悩もずいぶん変わっていたであろう。

  • イケメン!イタリア史おもしろいなー。

  • 好きな俳優さんがチェーザレ・ボルジアを演じると聞いて、とりあえず借りてみた本なのですが、読み終わった時にはすっかり塩野七生が描くルネサンスの世界に浸かっていました。

    最初のイタリアの背景やらを説明している部分は年号やら慣れないカタカナの名前などに、ぐっ、と思うのですが、それを飲み込めば後はチェーザレの一生を追いかけるだけです。

    個人的にはチェーザレよりも父親のアレクサンデル6世に惚れますね。
    愛人が~という点はさておき(調べたところ相当乱れていたらしいし笑)。

    イタリア内部だけでもややこしい状態なのに、それを難なく御してトルコまで手のひらに載せてしまう辺り、さすが最高権力者。
    またその血はしっかりチェーザレに受け継がれていて、チェーザレとフランス王との関係などは息をつめて読んでしまいそうな位。だけどそこがいい。

    当時の複雑な状況を生々しく、分かりやすく描いているなという印象でした。

    フランス王、ダヴィンチ、マキァベリ。
    大学受験の世界史で聞いたことのある名前がチェーザレと絡んでいくのも読んでいて楽しい。高校世界史では「人物名」でしかなかった存在が読んで、知るにつれて「人」になっていく感じ。

    いつか、もう少しルネサンス時代に詳しくなったときに読み返したい本。
    その時はまた別の印象があるんだろうな。

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