歴史主義の貧困: 社会科学の方法と実践

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120004759

感想・レビュー・書評

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  • 哲学書ゆえ、非常に読みにくい。とりあえず理解できたであろう点をまとめる。
    帰納法的主義(自らの理論に適合する証拠のみを拾い集めること)への批判・反証の積極的模索を「歴史主義」に対し提案した書。婉曲的には集産主義への批判。
    まず、歴史主義とは「未来を予告するために社会の進化の法則をあばくことが社会科学の課題であるという信念」を教説とする主義である。
    本書前半部では自然科学との対比を通じ、この主義の特徴として以下のものをあげる。
    ○反自然主義的な主張(物理的法則を社会学的問題に適応できない主張)
    ・新奇性:物理学における新しさは排列・組み合わせの新しさである一方、社会における新しさというのは排列の新奇性に還元しえない真の新しさである。故にいかなる出来事も社会発展の異なった時期には決して本当に繰り返し起こることがあり得ない。
    ・錯綜性:物理学のように人為的に事柄を単純化する孤立化が不可能な点、また、社会生活が1つの自然現象であり、諸個人の精神生活を心理学、生物学、化学、物理…を前提にしている。このような諸要因の巨大な錯綜性故に同時代的な諸部分を含むだけではなく、時間的な発展の相次ぐ諸段階も包含する全体の内部で、決定していくことを意図しなければならない。
    ・有機体性:
    ・全体論:社会的集団は諸成員の単なる寄せ集めではない。集団は成員を若干失っても、あるいは他の人々に置き換えられても、その性格の多くを持ちづつけることがある。つまり物理学のように配置的なものだけで説明できるものではなく、その歴史を綿密に研究しなければ、当の構造を理解することも、その将来も予測することができない。
    →さまざまな社会集団の歴史をわれわれは直感的に理解するよう務めるべきという主張につながる。
    そしてその「直感的了解」には3つの種類がある。
    1:社会的出来事が了解されたといわれるのは、その出来事を惹起した諸力(そこに介在する諸個人や諸集団、その目的や利害)がどういうものであるかという観点から分析した場合。
    2:1よりも徹底したもの。社会的出来事は1つの新しい事態を創り出すので、その個別的な分野におけるすべての対象やすべての行為が志向しなおされることを要求する。
    社会的状況は物理的あるいは心理的変化でさえ少しも起こらないのに変わってしまうことになりうること。これを踏まえ、1の分析にとどまらず、あらゆる出来ごとを全体の中でそれぞれが特定の役割を演ずるものとして理解すべきである。
    3:1、2の主張することを十分に認め、さらに、そのような分析にもまして、党の時期に支配的である客観的で根本的な歴史的趨勢や傾向(伝統や勢力の隆盛・衰退)を分析すること。また、この出来事が歴史過程に何を寄与しているかを分析すること。
    ○自然主義的な主張(物理的科学と社会学科の諸方法に共通の要素)
    ・理論的であると同時に経験的である点:放送の助けを借りた予測や観察による法則のテストは共通しなければならない。

    上記のような特徴を踏まえ、後半部からは批判点を挙げる。
    ○ユートピア(全体論):全体としての社会の発展に関心をもつ。また、急進的な方法をとろうとし、社会的環境が変革される経験(革命など)に感銘を受けている。そして、その変革を合理化しようと試みる。
     しかし、「社会」という語はあらゆる社会的関係を包括しており、これらの関係をすべて統御することは不可能である。

     上記のような問題点をもつ「歴史主義」。これに対し、自身が約束する結果を産むことのできないものを批判。さらに「自然主義的諸主張の歴史的発展の法則」を求める。
     具体的には漸次的工学の応用を求める。社会諸科学はこれまで社会を改善するためにいろんな提案を批判することを通じて、発展してきた。われわれの最善の努力にもかかわらず、それを反証できないという場合にのみ理論は厳格なテストに耐えたということなのである。
     「一風変わっていて、隣人とはことなってあることの自由」、つまり「多数派と意見を異にして我が道をゆく」自由に進歩の源泉はある。人間の権利の平等化ではなくて、人間の精神の平均化を導かざるをえない全体論的統御は進歩の終焉を意味する。

  • Historicism(理論歴史学、とでも言うのが一番ちょうどいいのだろうか)を
    論理的に打ち崩していくポパーの傑作。

    正直、僕もポパーをちゃんと読むのが初めてというのもあるし
    1回だけではどこまで理解できているかというと全然であるが
    しかしそれでもなお本書の面白さはよくわかった。

    Historicismの反自然主義的主張、および自然主義的主張の立場を
    わざわざ一度整理してから、
    それぞれに対しての批判を展開する。
    このスキのなさが、ポパーの「批判思考の鋭さ」に繋がっている
    気がする。

    自然科学的な立ち位置を放棄したような「人文的」とでも言うべき
    歴史思想をポパーは厳しく批判するとあわせて、
    科学を「好き勝手に利用して説明をつける」いわばマルクスに代表される
    社会主義的な歴史学にもまったく容赦はない。

    じゃあ、ポパーは何ならいいんだ、と思っているのかというと、
    別に何ならいいか、ということはほとんど書いていない(笑)。
    要するに、筋道の立った批判(何ではないか)が大事だと
    たぶんポパーは考えていたのではないかと思う。

    未来を「確実性をもって予測できる」という妄想を、少なくとも
    科学の名をもって扱おうとすることは、
    ポパーは断じて許さない。
    それは、まさにそれが社会主義の温床ともいうべき、そして数多くの
    人々の不幸や死をもたらした原動因だと思っているからだろう。

    しかしポパー自身がよくわかっているように、
    人間は生物としての仕組みなのかと思うが、
    そういうものを好む(人がけっこういいる)。

    そういう連中に対しての批判のための武器を提供する。
    多様性ある社会、未来なんて予測できないけれど、
    自由かつ多様であることこそがそんな社会における重要な風土であると
    考えるポパーにとっては、それがとても大事なのだろう。

    哲学というと、基本的に何を言っているのかよくわからない
    (難しい言葉を、勝手な解釈でいじくりまわして、
     誰も入ってこれない世界を作り上げてインテリぶっている連中の遊び)
    という印象が、正直僕にもけっこうあるのだが(笑)、
    ポパーの思想、表現は、そんなことはなくて、
    ちゃんと読めばそれなりに理解できるような明快さがある、と思う。

    もっとポパーの著書を読まねばならないと思った。

  •  歴史主義(=歴史には宿命があって、それを知ることで未来を予測することができる)という考え方は大きな誤りである、と論じた本。
     論の要約はこうだ。

     (1) 人間の歴史経過は、人間の知識の成長に大きく影響を受ける。
     (2) 合理的(or科学的)に科学知識の成長を予測することは不可能だ。
     (3) したがって、歴史の未来経過を予測不可能である。
     (4) これは、理論歴史学の可能性がないことを示す。
     (5) 歴史主義的な方法は無効であり、これにより歴史主義は消滅する。

     なお、彼は長期的予測が不可能だと述べているのであって(本人がそう断っている)、短時間については言及していない。ただ、現在のITの普及、Googleの勃興などを考察するとその長期と言う言葉のスパンは短くなっているのかもしれない。それらはまさに科学的知識に依っているものである。

     ミルやハイエク、その他にも多くの著作を通しての論考であること、また、"The Open Society and Its Enemies"を受けて書かれているので、知識が足りず大半の考察が理解できなかった。。今後読みなおそう。

  • 読み応えあり。

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