日の名残り

制作 : Kazuo Ishiguro  土屋 政雄 
  • 中央公論社
3.93
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レビュー : 45
  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120019470

感想・レビュー・書評

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  • イギリス人カズオ.イシグロの作品、図書館半年以上待ち続けてやっと順番がきた。とある名家の執事が偶然のドライブ旅行に出て折り節我が執事人生を咀嚼しながらの数日間。執事と言えば ちびまるこちゃんの花輪くんの執事 西城秀治(ヒデジイ)くらいしか思い付かないワタシですが、何しろ英国の執事とくれば半端ない専門性と品格の世界。執事人生悔い無し と自覚するスティーブンスだが、自己を抑えてひたすら主人を支える生活に 果たして全て良かったのだろうかとの思いも湧く旅行。いちばんの目的は終盤の元 女中頭との再会だが、あわよくば仕事に戻って欲しいとの思いは意外な結末でホロリとなる。旅の終わりの黄昏時にたまたま出会った男の一言「人生、楽しまなくちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。」
    日本語訳がよくて、とても良かった。

  • 主人公スティーブンスは、ダーリントン・ホールと呼ばれる由緒正しい名家の執事である。大戦後、ダーリントン卿は失脚、館はアメリカ人ファラディ氏の所有するところとなる。家付きの執事として仕えることになったスティーブンスに新しい主人は、一度ゆっくりイギリス見物でもしたらいい、と旅行を勧める。初めは遠慮したスティーブンスだが、かつていっしょに勤めた女中頭で、今は結婚して田舎で暮らすミス・ケントンから来た手紙のことを思い出し、訪ねてみようと思い立つ。

    小旅行の間、スティーブンスの脳裏に去来するのは、数々の歴史的事件の舞台となったダーリントン・ホールの栄華の日々であり、いっしょに働いていた有能な女中頭ミス・ケントンの思い出である。人手不足もあり、満足の行く仕事ができないスティーブンスは、もう一度ミス・ケントンに戻って来てほしいと考えている。今回の休暇旅行は彼にとってはそういう意味のある旅行だった。しかし、ジョーク好きのファラディ氏は、「おいおい、スティーブンス。ガールフレンドに会いにいきたい?その年でかい?」と、からかうのだった。他者であるファラディ氏の価値観と主人公の価値観との相違が暗示されている大事なところだ。

    回想のなかに当時のドイツ駐英大使リッペントロップの名が度々登場することからも、英国とドイツの間に再度戦端が開かれようとしていた時代であることがわかる。スティーブンスが仕えるダーリントン卿は、第一次世界大戦後の賠償問題で疲弊したドイツに同情的で、宥和政策を推進しようとしていることが言葉の端々から伝わる。卿を崇拝する主人公は、卿の仕事が円滑に進むよう、交渉の舞台であるダーリントン・ホールの運営に心を砕く。

    執事という職業はイギリスにしかなく、他の国のそれは召使である、と言われるほど、英国人にとって執事という職の持つ意味合いには重いものがある。スティーブンスが目指すのは「品格」を持った執事である。では「品格」とは何か。スティーブンスは言う「品格の有無を決定するのは、自らの職業的あり方を貫き、それに堪える能力だと言えるのではありますまいか」と。この言葉が、彼の行動、意思決定を終始つかさどる。尊敬する父も、そのように生きてきた。スティーブンスに感情がないわけではない。おそらく、執事という職を辞しさえすれば、自分の思いを表面に出すこともできるのだろうが、執事である間は、執事であることを貫き、それに堪えるのだ。

    読者から見ると、朴念仁の石部金吉にしか見えないスティーブンスだが、執事という生き方しか知らない彼にとって、より良い執事をめざす限り、気がおけず、能力について尊敬も覚える女性を前にしても、同僚の線を決して越えることはない。それは、ヒューマニズムの問題や、イデオロギーに関しても同じである。主人の決定に異議を唱えるなどということは、執事としての分を超えることになるからだ。彼の考える「品格」を持った執事である、ということは「頭」や「心」は主人に預け、有能な「手足」として働く、いわば「道具」に徹するということである。

    ダーリントン・ホールで暮らしているうちはそれでよかった。しかし、たとえ車で出かける数日間の旅行にしても、一歩屋敷の外に出れば、そこは異世界である。スティーブンスは執事ではなく、一人のイギリス人として扱われる。はじめは、とまどい、やがて上流階級の人間と見られることに快感を覚え、本来の出自を隠すようになる。そこには「品格」をもった執事スティーブンスの姿はない。むしろ、それがスティーブンス本来の姿であった。

    「執事」という殻をかぶり、本来の自分をみつめることを怠ってきたつけは、この旅行の真の目的であったミス・ケントンとの再開できっちり払わせられることになる。スティーブンスの腹積もりでは、不幸な結婚に陥っているミス・ケントンをそこから救い出し、もう一度ダーリントン・ホールに連れ戻し、かつての愉しい日々を再開する、というものだった。しかし、その期待はあえなく潰える。彼が顧みることのなかった時間は、他の人間を成長させるに充分な時間であった。夕闇迫る桟橋で、こみ上げる涙の苦さ。

    アメリカ人という他者の洗礼を受けることで、名残りの日々を過ごすための新たな生きがいを見つけることになるスティーブンス。ほろ苦い結末だが、人生の夕暮れを照らすやさしい光が、そこにさしているようだ。鼻をかむためのハンカチを貸してくれる男の言うとおり「夕方が一日でいちばんいい時間」なのかもしれない。

    蛇足ながら訳について一言。1990年に、この翻訳が出たとき、丸谷才一氏は書評の最後に「土屋政雄の翻訳は見事なもの」と、付け加えるのを忘れなかった。そのことに異議はないのだが、72ページで、ダーリントン卿の「これは誇張ではあるまい?」という質問に対し、スティーブンスが「とんでもございません」と答えているのが気になる。文化庁は、誤用ではないとしているようだが、「品格」を大事とする英国の執事が使う言葉とは思えない。ここは、「とんでもないことでございます」と訳してもらわないと、スティーブンスも浮かばれないのではないだろうか。

  • ノーベル文学賞受賞おめでとうございます。
    差しあたって未読ですぐ手に入りそうなものをということでこれを。
    英国の秩序正しい執事が休暇にドライブしながら過去の様々な回想にふけるという内容で、想像以上に良かった。

    「わたしを離さないで」は読んでいたけれどこちらのほうが私は断然好き。

  • 名作って本当に名作なんだなあ。

  • 静謐だ。執事が旅に出る。過去の回想が語られ、「良き」名家の思い出が郷愁を誘う。旅は目的地の着き、日の入りにロマンを感じる。それにしても見事に上流階層を描いていて、感じいった。図書館で予約して1年以上かかって借りることができた。最後のページをめくるのが惜しかった。

  • カズオ・イシグロが最初に大々的に取り上げられたのがこれだったと思う。その時に買ってこれまで読まずじまい。ダウントン・アビーを見てしまった後ではいまいち面白くない。

  • 名家の執事の物語。最初は違和感を感じたが、最後の人生についての話は感銘した。ミスケントンとの関係は微妙な話でミスタースティーブンスの対応は疑問が残るが、イギリスの風土か。
    *いつも後ろを振り向いていちゃいかん。前を向きつづけなくちゃいかん。人生楽しまなくっちゃ。夕日が一日で一番いい時間なんだ。もっと前向きになって、残された時間を最大限楽しめ。人生が思い通りに行かなかったからと言って、後ろ

  • 映画を先に見てたので、小説の世界になかなか入れなかった。

  • これ程の装丁の施された単行本なのに、なんとしおりが付いていないとは、少しびっくりした。
    カズオイシグロは1983年に国籍を英国に移したらしい。つまりそれまでは日本国籍だったわけだが、この作品の語り口からはネイティブ日本人はかけらも感じられない。ほとんど日本語を解さないようだけれど、家庭で両親とは日本語で話した、らしい。すんなりと納得行く話ではないけど、まあノーベル賞なんだから僕などの納得がいく筈も無くすまぬm(_w_)mのであった。

  • 話題なので読んでみたが、ちょっと難解
    大学時代の購読を思い出した。
    イギリスっぽい?

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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