カエサルを撃て

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (396ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120029325

感想・レビュー・書評

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  • てっきりブルータスがシーザーを撃つ話かと思ったら、共和制の末期、ガリア(ケルト)の民を討伐して、ルビコンを渡る直前までの話でした。
    ということは、ネタバレでもなんでもなくて、シーザーが勝つことは決まっている。

    ところが、この作品のシーザー、つまりカエサルは、さえない中年男なのである。
    対するガリアの諸部族をまとめ上げたウェルキンゲトリクスはまだ若く、鍛え上げた肉体には力がみなぎり、そして美形なのでございます。
    そうなると当然読者は、判官びいきも相まってウェルキンゲトリクスを応援すると思うでしょう?
    ところがこいつがまた、見た目に反して粗野で下卑たやつなのです。

    基本的に男の話です。
    女は、男を鼓舞するため、または性的に慰めるために存在しているだけ。
    カエサルもそこそこ女たらしだが、ウェルキンゲトリクスときたら、情け容赦なくレイプしまくり。
    そこが許せない人は読まないほうがいいでしょう。
    私もちょっとうんざりしながら読みました。

    が、この、頭も薄くて文学青年崩れのさえない中年男カエサルは、世界の中心、ローマの頂点で政治を動かすほどの男なのに、コンプレックスの塊なのだ。
    男らしくあることのできない自分。
    周りの目を気にして、自分をよく見せるための嘘をつき、嫌われないために全方向に愛想よくし…そんな自分が情けなくて嫌い。
    だから傲岸不遜なウェルキンゲトリクスが怖い。だけど魅かれる。

    一方、子どもの頃は女の子のようにかわいらしかった美しい顔立ちと鍛え抜かれた体に、下卑た品性と空っぽのおつむと天才的な戦略センスを持つウェルキンゲトリクスは、好き勝手に生きているように見えるが、満たされない思いを抱え続けている。
    志半ばで弑された父の遺志を、母から、周囲の人々から、有無を言わさず押しつけられた彼は、本当の自分がわからない。
    本当の自分は何をしたかったのか、何を好きで、何が嫌いなのか。

    最後に気づく。
    中年オヤジが嫌いなんだ。
    自分に重荷を背負わせる中年オヤジ。見苦しい姿をさらす中年オヤジ。
    そして父。
    一度も好きだったことのない父の遺志を、なぜ自分が継がねばならないのか。
    大好きな母すらも、自分より父の遺志を優先する。
    中年オヤジに踏みにじられた自分の人生の虚ろさに気づくウェルキンゲトリクス。
    要はマザコンでエディプスコンプレックスなのね。

    強姦シーンに比べて戦闘シーンはあまり詳しく書かれていないのだけれど、人とは違う視点で戦況をとらえるウェルキンゲトリクスの戦いは、どう見てもシーザーを圧倒していたはずだけど、当然のように歴史はシーザーに勝利をもたらす。
    それは多分、シーザーの方が先に本当の自分、、情けない自分を認めたからだと思う。

    ふたりとも本当に情けないやつなんですが、最後はちょっとかわいそうになってくる。
    でも、人生が思うに任せないのは普通のことだからね。

    ウェルキンゲトリクスがぶつぶつひとりごちながら「へへ、へへ」って笑うのが、矢吹丈に思えてしょうがない。
    とりあえず立てよ、ジョー!

  • 英雄とは…[破壊し創造し苦悶する者]
    哀しいかな全てを棄て去らねば英雄にはなれない…せめて最期の瞬間には愛を識って往ったと願いたい。二人ともに、他人によって命を絶たれたのだから。

    [ガリア戦記]をガリア側から描いた本作を読み終え、改めてカエサル版が読みたくなった。

  • ガリア戦記をガリアの王の視点から描いた作品。

    歴史を知らなくても、とにかくおもしろく読めた。
    当時の時代背景からすれば当然だけれども、女性蔑視的な扱われ方は憤りを感じなくもないが、ぐいぐい読み進めてしまう。
    敵としてのカエサルもとても魅力的だった。

  • 読了したのはもう何年も前のことだけど、本当に面白いので登録。

    ガリアの若き青年ウェルキンゲトリクスと、ローマの小さなハゲた将軍カエサルの対比。
    ウェルキンゲトリクスのきれいな体が目の前に本当にいるような錯覚すら覚える。

  • ジュリアスシーザー対ガリア王ヴェルチンジェトリクスの戦いを描いた1冊。
    ローマ軍とガリア解放軍が正面から激突した紀元前52年のガリア戦争において
    史実ではカエサルは常勝将軍として描かれているが、この小説では彼を冴えない中年将軍としても描いている点が実に興味深い。
    泥臭い人間模様を野暮ったい文体で描き出す彼の表現力は相変わらず健在で
    まさに歴史小説を描くのにふさわしい人物であると言えよう。
    ガリア戦記と読み比べてみるとこれまた異なった視点に立つことができ、
    強いて述べるなら「カエサルを撃て=新説ガリア戦記」と言ったところだろうか。

  • ガリアだからフランスでいいよね。

  • 西洋歴史小説、というのを初めて読んだ。人名や地名で混乱したけど結構面白い。ヴェルチンジェトリクスの描写が「神」だったから、カエサルが勝つとは思わなかった。自分が歴史に暗いことがよく分かった。

  • まとまりのないガリアを制した男・ヴェルキンジェトリクスがカエサルに挑む

  • ちょっと、読みにくい本だったのですが状況の描写がとても面白い。

  • 初佐藤作品。歴史の見方、所詮勝った方に良いように記録は残ることに気付かせてくれた。カエサル好きが一転!目からうろこ

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著者プロフィール

佐藤賢一
1968年山形県鶴岡市生まれ。93年「ジャガーになった男」で第6回小説すばる新人賞を受賞。98年東北大学大学院文学研究科を満期単位取得し、作家業に専念。99年『王妃の離婚』(集英社)で第121回直木賞を、14年『小説フランス革命』(集英社/全12巻)で第68回毎日出版文化賞特別賞を、2020年『ナポレオン』(集英社/全3巻)で第24回司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『カエサルを撃て』『剣闘士スパルタクス』『ハンニバル戦争』のローマ三部作、モハメド・アリの生涯を描いた『ファイト』(以上、中央公論新社)、『傭兵ピエール』『カルチェ・ラタン』(集英社)、『二人のガスコン』『ジャンヌ・ダルクまたはロメ』『黒王妃』(講談社)、『黒い悪魔』『褐色の文豪』『象牙色の賢者』『ラ・ミッション』(文藝春秋)、『カポネ』『ペリー』(角川書店)、『女信長』(新潮社)、『かの名はポンパドール』(世界文化社)などがある。

「2023年 『チャンバラ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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