同じ年に生まれて―音楽、文学が僕らをつくった

  • 中央公論新社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120031809

作品紹介・あらすじ

1935年生まれの世界的指揮者とノーベル賞作家。21世紀の日本への思いを率直に語る、ビッグ対談。

感想・レビュー・書評

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  • また面白いものを読んでしまった…。これも手元に置くべき本かも。。

    大江 演奏会の名人芸で、僕たち聴衆が、やはりバッハの音楽を現在生きることができることはある。だから僕達が感動するんだと。原則として中心にある芸術の受容のかたちとして、文学も僕はそうだと思うんですね。文学の場合、演奏家はいませんけど。小説を読む人間が演奏家と聴衆とを共に演じているわけ。上手くゆく場合はね。 (p.98)

    クラシックは西洋のオケでこそと思っているのと、本は原則今生きている人の本は積極的には読まないという信条を持っていたのだけど、その態度を改めるに十分な会話でした。

    大江 …一方、作家たちに言えば、どんな若い作家にも自分は人間を根底から支える文学を創ってるんだという意識を持ってもらいたい。…では本当の文学の読み手を創るための教育の敵は何かといいうと、僕は、あきらかにテレビだと思いますね。…現在のテレビは完全に消費文化で、テレビが映っているあいだだけ消費されるものです。…
    小澤 ええ (p.99)

    本当にそれなすぎるのですが、2000年から四半世紀が経とうとしている中、状況はさらに悪くなっているのか、それとも新人類が生れようとしているのか…

    小澤 …何で音楽でコメディーができたかというと、音楽の根底に、あなたは笑うと思うけど、人間が持っている情というものがありますね。…その情というもののなかには、ちょっといつも悲しみというのがあるんじゃないか。寂しさとか。…日本人だけじゃなくて人間が持っている本性、要するに、芸術が人間の生きていることに交わるとき、どこかにある寂しさとか悲しさ。なぜかというと、人間には必ず死ぬという宿命がある。生まれた瞬間にだれかと分かれなきゃいけないとか、会えば必ず別れというものがあるとか、そういう寂しさもあるし悲しさもある。人間の情というもののなかに必ず悲しみがあるとすると、音楽は、理屈なしに、それを出すのに一番手っ取り早いものを持ってたんじゃないか。音楽の響きのなかにそれがあるんじゃないか。そうすると、それがあったからこそ今度はそのなかから楽しい音楽というのが出たんじゃないか。(p.106-107)

    もうここ100同意でした…

    小澤 …だけど心配なのは、いまの日本の人たちの中には、音楽のダブルスタンダードを当たり前、あるいはそのほうがかえって都合がいいように思う人がいるかもしれない。それが恐ろしいです。そういうことが少し分かりかけてきたんで、僕は命を懸けてでも闘うと思っています。(p.125)
    この発言に対して大江が日本画や文学も普遍的なものにしてやろうという「野蛮なような情熱」が強くなかったと同意しているが、ここも改めて背筋を伸ばすことになった一節。本当に頭が下がるというか、一生懸命真面目に挑んでいる姿に勇気をもらう。

    小澤 …日本人は真面目な人が多いんですね。勉強家が多いんですよ。僕もそうですけど。勉強ばっかりしていると、勉強している相手のスコア、音というのは、だんだん非常に複雑になってきますから、それに無我夢中になると、自分が通訳者になるという使命を忘れる、あるいは気がつかない。これが恐ろしいんです。そうすると、その人の個というものが出てこない…(p.153)

    これは音楽に限らず日々の私の姿勢にも通じるもので(またもや)、また背筋が伸びる。いや本当にまじめに勉強だけしていて、、、自分という媒体を通して発言することを忘れてしまう日々、、、、

    【メモ】ブラームスの弦楽六重奏局の第二番の二楽章(p.156 -光君すごすぎ)

    大江 …音楽の演奏ということは、もう一度生き直すといいますかね、武満徹という人をもう一度生き直すことじゃないか。武満さんの人生のある局面を演奏家と聴衆の僕らが一緒に生き直すということじゃないか、と思うんです。(p.205)

    二人の会話がこうやって紙に残っていることが僥倖だと思える本でした。またいつか読みなおそうと。
    サイードの『音楽のエラボレーション』も読みたい

  •  クラッシック音楽の知識がほとんどないので,読み進めるのが大変でした。でも,世界の舞台でも活躍する二人が,どんな風に日本というものを見ているのか,個人というものを捉えているのか…ということはちゃんと伝わってきました。
     本当の意味での「開かれた個人」の大切さを感じました。
     1935年生まれということは,お二人は,2013年には78歳になるんですねえ。

    • おがちゃんさん
      追記 大江健三郎さんは、2023.3.3に亡くなられました。88歳でした。
      追記 大江健三郎さんは、2023.3.3に亡くなられました。88歳でした。
      2023/03/13
  • 音楽、文学の大家の二人の会話は興味深い。同じ年齢という共通点があるからこそ、共鳴するところも多々あるのだろう。

  • 良い師匠に巡り会うことは大事だなあと思いました。それから、小澤征爾さんの教育熱心なところは、音楽が大江さんの小説のように後世に残らない、歴史上の点のようなものであるため、何か形に残したいと思うと音楽に対する考え方を伝えていくという行いになるようです。

  • 世界に誇る音楽家と文学者の対談面白く読んだ。

  • 100607 「忘れ物」を取りに戻ってへとへとになった電車のなかで,小澤征爾さんんと大江健三郎さんの対談『同じ年に生まれて』を読了。「ディレクション」「エラボレーション」という概念をめぐる話がおもしろかった。大江さんが言及していたサイードの『音楽のエラボレーション』という本も読んでみたい。小澤さんが,武満さんのことをプチ・プランス(星の王子さま)みたいな人,と表現していたのにはグッときた。彼らの対談を聴いていると,「同時代」というものの素晴らしさを強く感じる。

  • 自分の手法で自分の世界を構築した、豊かで自由な感性を持った2人。なにゆえに、こんなにも魂の若々しさを保ち続けていられるのだろう。

  • 不思議な出会いをしたこの本。内容もとっても素敵でした。教育について、芸術について、日本について。おすすめです。

  • [2005.10]

  • 対談集 お二人が同年の生まれと言う事をこの本ではじめて知り、何となく感じていたどこか共通する雰囲気の答えが見つかったような気がしました。対話によってこちらに伝わってくるのは、みずみずしい感性と深い思索から生み出された、生きた言葉たちです。

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