仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在

著者 :
  • 中央公論新社
3.58
  • (11)
  • (16)
  • (30)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 162
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120032172

作品紹介・あらすじ

若者に仕事がないのは、中高年のせい。フリーターより深刻な、過剰に働く若者の存在。問題は「所得格差」ではない、「仕事格差」だ…。ここに働く20‐30代の本当の姿がある。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 読んでみれば20年も前の本。刊行当時まさに若年だった私。そしていまだに曖昧な不安のなかで何となく仕事しているその後の私……。
    本書ではデータを裏付けにして仕事にまつわる雇用不安やフリーター問題、転職といった曖昧な不安に迫っている。データによって曖昧さがなくなるのは総じて若年に厳しい状況にあること、そして世の通説がデータ的には誤っていることだ。例えば、定年延長を含め中高年の雇用を守るような施策が打たれているが、より厳しい状況にあるのは若年層だということ。転職を重ねる人の多くはあきっぽいのではなく、逆に仕事へのこだわりが強いからこそであること。満足のいく転職を支える第一の要因は職場以外の友人・知人の存在というデータも。
    いまの時代、本当に働き続けられるのか、満足のいく仕事ができるのか、生活に十分な収入が得られるだろうかといったことは多くの人が不安に思っているだろうけど、20年前に書かれたこの本を通じて、こうした暗い風潮ってサブプライムローン以降とかでなく、少なくとも20年前からだし、もっといえばバブル崩壊の1990年代に入ったあたりからずっと続いているんだなあ。
    「曖昧な不安」の曖昧は解消され不安がはっきりするような読後感もあるけど、著者はデータを引く以外の部分でいろいろと希望を呼び起こすようなことを書いている。仕事に向かうのって気のもちようでもあるんだなあ。

  • 購入:2004年10月3日 廃棄:2019年5月18日

  • 10年以上前に書かれた本だが、少しも古びていない。というより変わっていない。この10年でITは劇的進化したにもかかわらず仕事にまつわる環境が変化していないということであり、それは、いいことでは、ない。
    こういう良書が今でも読む価値が十分あるのはよいことだが。

    [more]<blockquote>
    P89 なぜフリーターをしているのか「自分でもわからない」という理由が最も正直な答えだろう。

    P131 格差についての意識と統計上の実態には乖離がある。そのもう一つの原因は、いま生じつつあるのが賃金格差ではなく、むしろ仕事格差が拡大していることにある。(あるときから、Aの仕事は以前と同じである一方、Bだけ仕事が大変厳しいハードなものとなっていった)

    P139 仕事に貴賎はない。しかし仕事には明らかに異なる二種類のものがある。一つは仕事をする過程で学習や訓練の機会が豊富であり、働くことで人々が能力や所得を向上させていく事ができる仕事である。もう一つは、仕事の中で自ら多くを学ぶ機会が乏しい為、その職務自体からは能力向上や働く意味を見いだせない仕事である。一部の人のみが前者の仕事に就いているとき、そこには労働市場の「二重構造」が生じているという。【中略】多くの人にとって内部労働市場が遠い存在になり、外部労働市場の中、仕事を通じて自分の成長を実現できなくなりつつある。

    P142 どんなに努力しても、他者に関する個人の知識には限界がある。むしろその事実こそが相互に尊重し合う精神を育て、社会にモラールやマナーを生むことになる。【中略】大切なのは、働く能力の高低とひとりひとりの人間としての存在価値とは全く別のものだという根本を若いうちから教育し、確認し続ける地道な作業である。

    P153 仕事ぶりに対して「普通は・・・」「・・・が普通だ」を言わない。どんな仕事にも普通な仕事などない。単純に見える仕事も、そこには常に何か異常やトラブルが発生している。「普通なら」「・・・なんて普通じゃない」という言葉を吐いた途端、仕事の中身を細かく読み取ろうとする努力は放棄されてしまう。仕事にこだわってみる。そのため仕事にまつわるあいまいな表現をできるだけ取り除き、自分たちの仕事を自分たちの言葉で語ってみる。そんなささやかな試みこそが、仕事の中の曖昧な不安を払拭する。

    P231 むやみに頑張らないにせよ、何か自分なりにはっきりした意思を持つことは大切だと思うんです。夢なんか持たなくてもいい、夢を持つだけではむしろいけないとあえていいたい。

    P244 社会に未来がないと若者はいう。確かに成長、発展という未来を想像することは、若者にとって難しい。しかし、社会には成熟という未来はある。【中略】マリーシャとはポルトガル語やスペイン語で「ずるがしこい」ということだ。それは同時に「したたか」ということでもある。若者ももっとしたたかさを身につけることで、もっと強くなり、過去の世代より成熟できる未来があるはずだ。
    </blockquote>

  • 仕事帰り、電車が止まってしまったので、たまっていたレビューをせっせと更新。

    題名に引かれ、手に取ってみる。 題名から哲学的なれかと思えば、統計など、数字を用いて雇用不安、パラサイト・シングルなど具体的な
    内容。内容は今読んでも、ふむふむと思うが、何せ「2001年」に書かれた物なので、統計数値などを出されてしまうとがぜん読む気がしぼんでしまう。

  • 若者が親にパラサイトする傾向が強まっているとすれば、それは若者の自立心や就業意欲の低下といった精神的な問題が原因なのではない。むしろrそれは、現在の中高年の既得権を維持・教科しようとする社会・経済構造の産物なのである。
    パラサイト・シングルの場合、経済的困難に直面していないため、高賃金の仕事を求める必要もなく、労働はいわば「趣味化」する。そのため、就職した仕事が自分に向かないと感じれば、すぐに辞めてしま。その結果として生まれる若年失業は、経済的な深刻さを伴わない「ぜいたく」な失業となる。パラサイト・シングルにとって働くことは小遣いを稼ぐための義務、もしくは趣味的作業にすぎないのだ。
    突飛に聞こえるかもしれないが、フリータが今までにない新しいタイプの独立開業者に以降できる道筋をつけることこそ、最も重要だろうと、私は考える。人に労働力として使われるのではない。人に仕事を決められるのでもない。「自分で自分のボスになる」という意志を持つことで、結果的に独立がもっと増えていくことである。
    独立志向を持つには、会社や家庭を超えた幅白い人的ネットワークの形成が意味を持つ。職場以外のコミュニティへの積極的な三課といった取り組みが独立開業には大切になる。
    フリータが増えるのは就業意識が薄いからと強調するけど、それ以前に社会構造的な問題があるんです。つまり、中高年の雇用をいじする代償として若年の就業機会が減っているのは間違いない。
    アーティストとか、経営者として成功している人は、夢なんか全然持っていない。夢なんて言うヒマがあったら、もうその実現に向けて具体的に行動している。

  • うむ....統計学的な....堅い感じでした。
    でも最後の「17歳に話をする」の章は、著者自身のことばで、リアルな思いを綴っていて、とっくに17歳を過ぎてる私の心にも響いた。

  • <閲覧スタッフより>
    “データ”からみる若者たちの労働状況。「ハッキリした不安」は予測や対策によって解消させることができる。では「曖昧な不安」はどうだろう。「~しつつある」という類のイメージ先行型の曖昧模糊な不安にはどう対処してゆけばいいのか。そこで著者が提案するのは「データを読み込むこと」。曖昧さを打ち消すのは明確な情報である。「曖昧な不安」を少しでも「ハッキリした不安」に近づけようという試み。
    --------------------------------------
    所在番号:366.21||ケユ
    資料番号:10141405
    --------------------------------------

  • 「フリーエージェント社会の到来」からの流れで図書館から借りた。タイトルからはあまり想像できなかったが、雇用・労働に関するデータを分析することで問題点を明確にしている。
    内容的には「世代間格差」「格差の固定化」「非正規雇用問題」「仕事への不満」「将来への不安」「成果主義」など、今では様々な場面で話題になっているテーマがほとんどで目新しさはない。それもそのはずで、10年前に出版されたこの本がその嚆矢だったそうな。しかし何よりこの本で提起されている問題点が現在でもことごとく変わっておらず、むしろ悪化していることに驚かされる。

    ということで、この種の社会問題について幅広く扱われ、よくまとまっているので「おさらい」としての価値は十分にあった。残念な点は、データを多用しているわりにその示し方がイマイチなこと。数値を漢数字で本文中に表記されているのでわかりにくく、つい斜め読みで飛ばしてしまう。図表と本文を交互に見比べないと数値は理解できないので、そこに工夫がほしかった。

    【印象に残った点】
    ・若年層の所得格差は広がっていない。逆に、所得に差が無くても仕事内容や厳しさが異なることによる「満足度」の格差が広がっている。

  • 実を言うと、これを書いている私は転職経験者である。仕事上のいろいろな悩みや先の不安を、長年勤めた会社を退職して独立をしたばかりの知人に相談した時に勧められて読んだのがこの本だ。
     自分の持っている悩みや不安がどういうものなのか。今がどういう時代なのか。自分が社会の中でどんな位置にいて、転職をしたらどうなるのか。この本に書いてある詳細なデータと具体的な事例は、そういう問題を考える上で、実際に大きなヒントになった。本気で会社を辞めたいなら、この本を読んでからにしてほしい。これを読んで辞める気が失せる人もいるだろうし、本当に辞める人は読まないよりはすっきりと辞表を出せると思う。
     この本のテーマの一つである「自分で自分のボスになる」という言葉は、会社員として生きる人にこそ必要なのではないだろうか。私は今もその言葉に支えられて、毎日会社員を続けているような気がしている。

全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1964年生まれ。88年、東京大学経済学部卒業。ハーバード大、オックスフォード大各客員研究員、学習院大学教授等を経て現職。博士(経済学)。
主著
 『仕事のなかの曖昧な不安』(中央公論新社、2001年、日経・経済図書文
 化賞、サントリー学芸賞)
 『ジョブ・クリエイション』(日本経済新聞社、2004年、エコノミスト
 賞、労働関係図書優秀賞)
 『孤立無業』(日本経済新聞出版社、2013年)
 『危機と雇用』(岩波書店、2015年、沖永賞)
 『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(慶應義塾大学出版会、
 2017年、編著)
 ほか多数。

「2022年 『仕事から見た「2020 年」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

玄田有史の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×