ミーナの行進

著者 :
制作 : 寺田 順三 
  • 中央公論新社
3.85
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  • (17)
  • (7)
本棚登録 : 1738
レビュー : 361
  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120037214

感想・レビュー・書評

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  • 10年以上変わらなかった、大好きな本ベスト3に割って入った1冊。

    死や喪失の匂いにむせ返るような小川洋子さんの作品の中では異彩を放つ物語です。

    他の小川さん作品に登場していたら、絶対に途中で儚く亡くなってしまいそうな病弱なミーナ、学校まで歩いて通えずに、コビトカバのポチ子に乗って登校していたお嬢様の彼女が、いろんなものを喪いながらも、自分の選んだ道を生き生きとしっかり歩ける女性に成長しているラストに感動!

    表紙をはじめ、中のイラストも、本の背表紙からマッチの意匠に至るまで、お話にちゃんとリンクしていてすばらしいので、これから読まれる方はハードカバーで読むことをおすすめします!

  • 従兄弟のミーナの住む芦屋の家に、居候することになった主人公の朋子。10代の女の子2人の交流と成長を描いているのですが、芦屋の家に住む人たちの、お互いを思いやる温かい空気に包まれた物語です。

    ミーナと朋子の2人がはまる、男子バレーボール。舞台は1972年ミュンヘンオリンピックです。
    喘息もちで身体の弱いミーナの、空想バレーでは、憧れのセッター猫田選手の美しくて謙虚な動き、バレーボールの奥深い魅力が、小川さんならでは、美しく表現されています。
    そしてドイツ人のローザおばあさんが、主人公朋子の名前に使われている「朋」の漢字について語る台詞が印象的。
    「同じ大きさで、上と下じゃない。横に並んでる。そこがいいのね。平等なの。一人ぼっちじゃないの」

    芦屋の家で暮らす人たちの、お互いを思いやる優しさやあたたかさが、静かに心に響く一冊です。

  • これは私の生まれる2年前、1972年に、
    事情があって芦屋の叔母の家に預けられた
    中学生の女の子朋子が経験した1年間のお話。

    そこには、自分より一つ年下の病弱の美少女ミーナ、
    ドイツ人のおばあちゃん、
    ハンサムな叔父様にどこか寂しげな叔母さん、
    ごはんの支度をしてくれる米田さん、
    木の手入れをしてくれる小林さん、
    と、名前からして仕事がイメージしやすい
    お手伝いのおばさんおじさん。
    そしてコビトカバのポチ子がいた。

    物語の始まりで、大人になった朋子は、
    「もうこの家は跡形もないし、
    大分様子は変わってしまっているけれど・・・。」と
    読者に向かって語りかける。
    「でも、だからこそ私の心の中には
    このお屋敷で愛しい人達と過ごした一年間の思い出は
    いつまでも生き続けているのよ。」と。

    大切な思い出ってきっとそんなものだ。
    現在、その当時の面影は全く失われてしまったとしても、
    大切な人達と過ごした時間は永遠に生き続けている。

    その思い出の中に入っていった時、
    そこにいる人達はいつだって、
    何事もなかったかのように、
    「あら?そこにいたの?」
    と温かく自分を受け入れてくれる。

    現在の時間の中で、
    懸命に前へ前へと進む事も大切だから、
    いつもそこに行こうとはしないけれど、
    ふと懐かしさが胸をいっぱいに満たした瞬間、
    気がつけば、自分はその思い出を訪問している。
    そんな思い出の一時、
    愛しい人達と過ごした時間は、
    短くても長くても自分にとっては宝物なのである。

    寺田順三氏の、「ヨーロッパの子供達が暖炉の前で聞く、
    アンデルセン童話」などをイメージさせるような、
    温かみ溢れる挿画も大変素晴らしく、
    小川洋子さんの創り出した
    愛らしい二人の少女の心の中の世界を
    更に膨らましてくれる。

    そうそう、この「ミーナの行進」は、
    子供の頃読んだアンデルセン童話集のような物語。
    単純なハッピーエンドでは終わらない、
    時にちょっと哀しかったり切なかったりする、
    いくつものエピソードがまとまって
    1冊の本が出来たような感じ。

    全てを読み終えた時、この物語は、
    既に遠い時の彼方にある「喪われた楽園の物語」で、
    懐かしさと共に少しの寂しさも感じる。
    しかし、この物語で描かれる思い出達は、
    少女ミーナが灯したマッチの火のように、
    いつまでもこの物語の登場人物と私達読者の心を
    優しく照らし、ぽかぽかと温めているような、
    そんな気持ちにしてくれるのである。

  • 密やかで慎ましい優しさが全編を通して漂っていた。朋子の憧れと労りの視線で描かれる物語だからこそ、温かくて切ない語り口になっているのだと思います。この作品を読むにはやっぱりコビトカバのポチ子がキーワードです。ミーナや家族の心の支えであるのは勿論なんだけれど、もう少し深く掘り下げられそうな気がする。そして小川作品の全体を通してのキーは「修復」かな。割に修復というモチーフが多用されている気がする。「猫を抱いて象と泳ぐ」でもおじいちゃんが家具の修復をしていた。あと瓶に入った飲み物も!「薬指の標本」でもサイダーが印象的に用いられていました。

  • 小川さんって回想の描き方がすごくいい。
    主人公が少女時代にすごした親戚の芦屋のお屋敷での一年の物語。
    登場人物たちは現在はもう老いたり死んでしまったりしていることが最初に明らかにされているので、描かれている一年がとても濃密に、貴重なものに感じられる。
    みんなが深く愛しあっていて、お互いを思いやりながらしずかに暮らしている。
    大会社の社長であるお父さんには大人の事情もあって不在がちだったりするんだけど、そして中学生の主人公はそれがどういうことがうすうす気づいていたりもするんだけど。
    それでもこの家族のしあわせは大きくは崩れない。
    あたたかくて、愛にみちていて、安心できる場所。
    読んでいると、一緒にそこにいるようなしあわせな気持ちになります。
    時間とともにさまざまなものが失われ、そのかわりにまた得るものもあったり、確実にうつろっていくんだけど、記憶のなかの幸福な時間というのは一生そこなわれることはなく。
    カバに乗って登校していた病弱なミーナは、やがて勇ましく世界にはばたいていく。
    守られたままではいられないけど、完璧に守られているしあわせな子ども時代があってこそ時がくればはばたけるのかもしれないなあ。

    それにしてもフレッシー、ってすごくいい名前。
    なんだか味が想像できてしまう。おいしそうだなあ。

  • マッチ箱の箱、図書館の貸し出しカード、庭で撮影した記念写真、
    今でも手元にあるそれらがあるだけで自分が、過去の時間によって守られていると、感じることができる。

    経済的な理由で伯母の家に一年間住むことになった朋子。
    伯父さんに伯母さん、ローザおばあさん、小林さん米田さんにコビトカバのぽち子に、従兄のミーナ。

    見るもの触れるもの感じるもの、すべてが初めてで新鮮でキラキラと輝いていた、
    傍には家族と、隣にはいつもミーナがいた。

    オトナになっても忘れはしない子供の頃の大切な思い出。
    今はもう、ふと思い出してそれに浸ることしかできないけれど、愛しくていつまでも胸の奥にしまっておきたいあのとき。

    愛しい話。
    何年か前に途中まで読んでたんだけど、
    いまさらになって読み返して最後まで読んだ。

    ほんとに愛しい。あー、好きだなあ、と思った)^o^(

  • (2006.10.23読了)(拝借)
    読売新聞に週一回(土曜日に)連載したものです。カラーの挿絵がついていました。単行本にもカラーの挿絵が入っています。挿絵は、寺田順三さんの作品です。
    主人公は、12歳、中学生になったばかりの朋子さん、と従姉妹のミーナこと美奈子さん。ミーナは小学6年生。時代は、1972年。著者とほぼ同年代です。
    朋子は、岡山で育ったのですが、父親が死亡し、母親が働きながら朋子を育てないといけないので、洋裁の技術をアップさせるために、東京の専門学校で1年学ぶことにした。
    その間、兵庫県芦屋に住む伯母夫婦のもとに預けられることになった。
    伯父さんは、飲料水会社の社長、おばあさんはドイツ人なので、伯父さんやミーナには、ドイツ人の血が混じっている。叔母夫婦には二人の子どもがいるが、18歳の兄(龍一)は、スイスの学校に留学中。妹は11歳の小学6年生、ミーナ。
    叔母夫婦の家は、部屋が17もある洋館です。屋敷には、住み込みのお手伝いさんの米田さん、通いの庭師、小林さん、それとコビトカバのポチ子がいます。
    コビトカバのポチ子は、おじいちゃまが西アフリカのリベリアから買ってきた。みんなが珍しがって、見に来るので、孔雀、台湾ザル、山羊、オオトガゲを買い足して庭を動物園にしてしまったという。今はポチ子しかいないので、動物園はやっていない。
    ミーナは喘息の持病があるために、小学校へ行くときは、ポチ子に乗ってゆく。小林さんも一緒についてゆく。
    ミーナの趣味は、読書とマッチ箱の収集。読む本は、朋子が図書館に借りに行く。図書館の係員のお兄さんには、自分で読む本のような形でかりてくるのだが実際に読むのは、ミーナである。ミーナの希望をお兄さん(とっくりのセーターさん)に伝え、アドバイスしてもらいながら借りてくる。返す時に読んだ感想を聞かれたら、ミーナの感想をあたかも自分の感想であるかのように伝える。手元に残っている貸出カードには、「眠れる美女」「アーサー王と円卓の騎士」「アクロイド殺人事件」「園遊会」「フラニーとゾーイー」「はつ恋」「変身」「阿Q正伝」「彗星の秘密」・・・。
    マッチ箱の入手先は、週一回、伯父さんの会社の清涼飲料水フレッシーを配達してくれる若い運転手。ミーナはその青年に恋心を抱いているらしい。
    ミーナはマッチ箱のラベルに相応しいお話を作り、マッチ箱に入れている。朋子はそれを読んでもらうのが楽しみだ。シーソーに乗って、楽しそうに遊んでいる子供達を見て、自分もシーソーに乗って同じように遊んでみたい象の話などがあります。
    持病の喘息が悪化して、病院に入院していたミーナは、退院してきたら突然、バレーボールファンになっていました。ミュンヘンオリッピックを目指す男子バレーボールの応援が始まります。
    ミュンヘンオリンピックでも男子バレーボールの応援に熱を上げます。決勝リーグが始まる矢先に、アラブ・ゲリラによるオリンピック選手村のイスラエル宿舎への侵入事件が起きてしまいます。事件は悲惨な結末で終結し、決勝リーグが始まります。
    思いでいっぱいの1年は終わってしまいます。

    中学生前後の少女が読めば、夢中になること請け合いの本です。「赤毛のアン」「若草物語」「ハイジ」などと並ぶ名作といえるかもしれません。
    ☆小川洋子の本(既読)
    「シュガータイム」小川洋子著、中央公論社、1991.02.25
    「妊娠カレンダー」小川洋子著、文春文庫、1994.02.10
    「薬指の標本」小川洋子著、新潮社、1994.10.30
    「博士の愛した数式」小川洋子著、新潮社、2003.08.30
    「偶然の祝福」小川洋子著、角川文庫、2004.01.25
    「ブラフマンの埋葬」小川洋子著、講談社、2004.04.15

    著者 小川 洋子
    1962年3月 岡山市生まれ
    早稲田大学第一文学部文芸科卒業
    1988年 『揚羽蝶が壊れる時』で第7回海燕新人文学賞受賞
    1991年 『妊娠カレンダー』で第104回芥川賞受賞
    2004年 『博士の愛した数式』で第55回読売文学賞受賞
    『ブラフマンの埋葬』で第32回泉鏡花文学賞受賞
    2006年 『ミーナの行進』で第42回谷崎潤一郎賞受賞

    第42回(2006年) 谷崎潤一郎賞受賞
    内容(「BOOK」データベースより)amazon
    美しくて、か弱くて、本を愛したミーナ あなたとの思い出は、損なわれることがない―懐かしい時代に育まれたふたりの少女と、家族の物語。

    • まろんさん
      はじめまして。フォローしていただいて、ありがとうございます!まろんです。

      数ある小川洋子さんの作品の中でも、この『ミーナの行進』が、飛びぬ...
      はじめまして。フォローしていただいて、ありがとうございます!まろんです。

      数ある小川洋子さんの作品の中でも、この『ミーナの行進』が、飛びぬけて好きです。
      小川さんといえば、死や喪失の気配が漂う独特の世界観をまっ先にイメージしてしまいますが、
      この作品では、いつもの小川さん作品なら
      少女のうちに儚くこの世を去ってしまいそうなミーナが
      病弱な身体にも、家族の事情にも、たくさんの別れにも屈せず
      ラストでは、溌剌と生きる女性へと成長した姿を見せてくれるのが、とてもうれしくて。

      あらゆるジャンルを網羅していて、その博学ぶりが眩しいnakaizawaさんの本棚とレビューを
      これからも楽しみにしています。
      どうぞよろしくお願いします(*^_^*)
      2012/12/28
  • 小川さんの小説はどれも脆さと暖かさが交じり合って読み終わった後に「ものすごい感動」とは違った種類の感動を感じる。この作品もまさにそんな感じだった。
    すごく危なげな雰囲気を感じるのに決して崩れないところがこの小説の要だと思う。

  • 一年間の、親戚の家で過ごした少女朋子の物語。
    カバと、喘息の美少女ミーナと、その家族、ハイソな暮らし、本、淡い恋。
    淡々と、でもじんわりとあたたかく、少し切ない記憶。
    大人の事情を垣間見たり、永遠の別れもありつつ、成長する。

  • 先生の既読作においてはどこかドキュメンタリーの感触があった。モデル、もしくは原体験がもとになっているのだろうか。描かれる1972年の出来事は現実であり、自分と同年代であるため、いっそう書かれている芦屋の屋敷内での世界観が幻想的に感じられた。足長おじさん、赤毛のアン、アルプスの少女など、いわゆる少女文学が基調ではあるが、好きではあるのだ。

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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