- Amazon.co.jp ・本 (136ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120039379
感想・レビュー・書評
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本書は、タイトルと装丁と帯に惹かれて手に取った。
まえがきを立ち読みして、お持ち帰り決定。
まえがきラストで著者は「白を感知する感度が上がった分だけ、世界は陰翳の度をも増すはず」と述べており、
大好きな谷崎の「陰翳礼讃」を思い起こさせたからだ。
自宅でいそいそと本を開く。
本編冒頭の「白があるのではない。白いと感じる感受性があるのだ。」に、しびれた。
ワクワクしかない。
そして読み始めて直ぐ、まえがきで受けた印象に納得することとなった。
早々に「陰翳礼讃」を例に挙げていたのだ。
著者の原研哉さんは、白を追求するデザイナーとして知られ、無印良品のアートディレクションを手掛けている。
長野オリンピックの開会式・閉会式プログラムを手がけ、
2020年東京オリンピックの公式エンブレムにおいても、入選3作品まで残った方だ。
本書の半分は同じ内容が英文で書かれたものなので、実質80ページ程。
うーん、短い。
白についての考察をもう少し聞いていたかったなーという印象。
それでも、英文部分が逆開きであるのとか、邦文との境目にモノクロの写真が挟まれているのとか、美しい装丁とか、タイトル「白」が"表"表紙から"背"表紙にかかっているところとか、
「白」を語るために用意されたそれらの美しさも一緒に味わい深く受け取った。
なんだか哲学書のようだった。
熱力学におけるエントロピーの概念を用いて、全ての色が混じりあった「グレー」を「=混沌」と表現しているのは面白かった。
始めは「白は、混沌の中から発生する生命あるいは情報の原像である。白はあらゆる混沌からのがれきろうとする負のエントロピーの極みである。」との言葉が少々突飛に思えた。
でもその後に続く、「"死"のそばにある骨」と「"生"のそばにある乳や卵」が「白い」という話、
あるいは第二章で、「白には、ことが始まる前の無垢な静謐さや、膨大な成就を呼び込む未発のときめきがたたえられている。」などを読むうちに、
突飛と思えたエントロピーの概念からのお話が、次第にすーっと着地していくのを感じた。
それに、「無垢な静謐さ」と「膨大な成就を呼び込む未発のときめき」がたたえられているとの表現には心が震えた。
他にも素敵な表現が幾つもあった。
「切実な材料だけを俎上に置く」であるとか、
「むしろ透明感や不透明感、重みや軽さが吟味され、それらが共鳴して白のオーケストレーションが達成されている…」だとか。
「現実社会の白は必ず汚れている」との言葉にも、なるほどと納得する。
白はこの世に生まれた瞬間に何かに晒され、触れて、真白でなくなっている。
本当の真白は精神世界の意識の中にある。
だからこその冒頭、白は感受性であると言えるのだ。
そして白は、人をその気にさせる。
着色したい、書きたい、描きたい。
原さんは白い紙を例に挙げて、その触感を自分のデザインと照らし合わせながら掘り下げている。
機能性を意識して色を用い、情緒や細やかな感覚の差異に目を凝らしているうちに、特に魅力を感じるようになったと。
やっぱり面白いな。
デザインするという職について、私は、パッケージやシンボルマーク等の「もの」を作っている人だと漠然と認識していた。
けれど原さんは「もの」ではなく「こと」を作っていると、まえがきの時点で言いきっている。
人々の記憶にいかに鮮烈なイメージを屹立させられるか、どうすれば人々の意識の中に特別な結び目を作ることが出来るかを考えながら仕事をしてきたという。
中盤、文字というものについて語られるが、
「ひとつひとつの文字は言語でありながら、同時にそれは美的なイメージを担う造形物でもあった」に始まり、
「文字は今、紙の上に座っている」との結びに、ちょっとした感動も覚えた。
後半、色という色彩の話が二次元から三次元へと立体化し、まさかの神社へと移る。
「神と人間との媒介である神社は、ひたすらエンプティネスであり続けることで、その役割を果たす」のだという。
確かに、そうかもしれない。
境内という空間だけでなく、柏手を打ったときの響きや、神々しい社の作り出す空間。
それら物理的には何も無い空白の間に満ちた空気感に、私達は神を感じる。
そして話題は更に移り、阿吽の呼吸なるコミュニケーションの話にまで至る。
そして最後は国旗へ。
驚きの展開だったが、国旗はシンボルマーク。
シンボルマークと言えば、デザイナーである原さんのお仕事ではないか。
なんだか狐につままれたような感覚だが、ぐるりと回ってちゃんと着地。
その後の椀子蕎麦の例えも楽しく、分かりやすく、本書全体を通しても興味深く読み進めることができた。
ぐるりと回った分だけ、「第四章 白へ」は感慨深い。
雪を取り上げたあとがきも美しい。
読み終えた今。
母は長いこと書道を嗜んでいるが、私には魅力が全く分からない。
分からないけど、気持ちは分かるような気がしてきた 笑
自分の中の、白の捉え方が変わるかもしれないと思っている。
例えば白いお皿に色鮮やかな食事が盛られていたとする。
季節のサラダでもいい、美味しそうに焼けたステーキでもいい。
今まではその盛られた料理を見て、美味しそう!綺麗!と思うだけだったかもしれないが、
これからはその食材の色味を引き立ててくれている周りの白色を意識的に見るかもしれない。
母の書いた掛け軸を眺め、素晴らしい文字だけでなく半紙の余白も美しいと感じるかもしれない。
あるいは白いレースのカーテンを通して部屋に注がれる日射しに、
原さんの言う白のオーケストレーションを感じるかもしれない。
白=何も無いという負の捉え方ではなく、白には可能性が満ちており、白いからこそ見るものにイメージの生成を促す。
私は美術館巡りも神社仏閣巡りも好きなので、次に訪れる場所で、白色或いは空白を目にした時に、自分がどのようにそれらを見つめることになるのかが楽しみだ。
なかなか感じることが出来なかった水墨画も、これまでとは違った感性を持って向き合うことが出来るような気がする。
それから短歌も。
私は歌集を読むのも好きだが、遠い平安の時代、短冊に墨で書かれた歌は、どんなに趣ある美しさだっただろう。
本作には、これまで閉じられていた視点を開眼させて貰ったような、
感性を豊かにして貰ったような、そんな感じがしている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
グラフィックデザイナーの原研哉さんによる「白」の捉え方の話。
すごく哲学的で自分には難しい部分もあったけど、新しい価値観の発見に驚いた部分もあった。
右開きにすると日本語、左開きにすると英語で読めるようになっている。
・日本語の「いろ」の語源は「恋人」のことでもあり広範囲の意味を内蔵していた。
・色は本来視覚的なものだけでなく、味や匂いとの関係も深い全感覚的なもの。
・古代万葉の時代には色の形容は「赤い/黒い/白い/青い」の四つしかなかった。
・「白い紙の誕生」が人類にもたらしたイマジネーションは計り知れないものがあるはず。
・物理的に白い色が必ずしも白い印象を呼び起こすわけではない。対比によって輝きを増したり、くすんだりする。
・書き文字は「造形物」としての美を成熟させてきた。発話される言語とは異なる独自の進化。
・何もないということは何かを受け入れる可能性があることでもある。負の意味にとらず、潜在力と見る。→神社の屋代の成り立ちの話がとても興味深い。エンプティネスが様々なイマジネーションを包容し求心力・コミュニケーションを生む。それが日本風ともいえる。
・西洋においてシンプルなものに美や価値を見出されたのは、絶対権力が瓦解し市民社会が訪れてからのわずか150年前から。
・白い紙に記されたものは不可逆であり完結した仕上がり。達成には感動が生まれる。「推敲」という行為はこうした不可逆性が生み出した営み・美意識で、この意識を誘う推進力が、紙を中心としたひとつの文化を作り上げてきたのでは。
・インターネットのように無限の更新を続ける情報には「清書」「仕上がる」という価値観がない。情報は常に途上。
・美しさは創造して得るものではなく、清掃による維持によって生まれるのでは。 -
美しい本だと思った。装丁や、ページの余白、そして中程に収録されている写真。グラフィックデザイナーである著者自身が自ら作ったという本ならば、それは当然なのかもしれない。
そして、言葉も美しい。冒頭の『白があるのではない。白いと感じる感受性があるのだ。』という文からすでに引き込まれ、一気に読んだ。
白という色は特殊な色であると著者は言う。「色の不在」を表現している点で特異だと言う。そして、紙の白さによって人々は表現したい欲求を触発されている。そういう意味では不思議な魅力のある色とも言える。
白は時に「空白」を示すこともある。日本人は特にこの空白に美しさを見いだし、可能性を見いだしていると著者は言う。日本画の中に残された余白に、私たちは緊張感やその絵の奥行きを見る。そして、空白はそこに何かが満たされる予兆であり、その空白に神が宿るとして信仰をしている。なるほどと思った。
本文は80ページほどで、本の後半部分には本文を英訳したものが収録されている。日本人が白という色とどう関わってきたのかを書いているものなので、外国の方が読めば日本の文化について知れると思う。 -
空としての問いを表現
空白があるから、そこに入ってこれるものがある。
空白としての問いを用意することで、それに応じた答えも入ってこれる。
でも答えはなくてもいい。
この本の作りがおもしろい。
右からページをめくって読んでいくと普通の日本語の本だけど、ページを残して中途半端なところで終わってしまう。
左からページをめくって読むと英語訳の本になっている。 -
原さんの本第2弾。
白と紙、印刷の文化が人間の完成度や推敲という意識に影響を与えてきたっていう議論が面白かった。誰でも情報を書き込み、編集できるネット社会においてはそれが変わりつつあり、平均された総合知ができると。
デザイナーの本は装丁がしゃれてる。-
おうおう、なつかしいねぇ。
覚えてないかもしれない(やってない!?)けど東大現代文2009年の第一問で使われた文章だよ。
本のチョイスに...おうおう、なつかしいねぇ。
覚えてないかもしれない(やってない!?)けど東大現代文2009年の第一問で使われた文章だよ。
本のチョイスにキラリと光るセンスがある。すこ2019/10/30 -
2019/10/30
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白は色ではなく感性である、というのは斬新なことを言っているようで非常に説得力のある話だった。とともに、「デザイナーというのは作る人である以前に気付く人なのだ」と、わかったのが、私のとってとても大切なことだった。造詣人間学・文化学といったような目線で社会を見ている原さん、こういう人が日本のグラフィックデザインの一線にいることが嬉しい。
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神道の代なにもない空間が囲われてでき人々の思いを受け入れる器となる 神が宿るかもしれない可能性としての屋代
空白について
茶道 見立て簡潔さ、プレーンな作りに美を見いだす日本の感性
エンプティだからこそイメージを招きいれることができる
利休の茶室の対極はオペラやミュージカルの舞台かも
半透明な時代軽く浮遊する言葉 にたいして白 白の摂理は存在する
神道スタイルを思う -
おりにふれてよみかえしたい。
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白の捉え方の幅が広がった
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“日本文化の核心 / 松岡正剛” を読んでいるときに信頼筋からオススメされたもので、上述の日本文化の核心と重なる部分、補完し合う部分を持ちつつ、“白” という “概念” を語る。 日本文化の核心とセットで是非。