静子の日常

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120040467

作品紹介・あらすじ

何かが過剰で、何かが足りないこの世の中今日も出くわす"ばかげた"事象を宇陀川静子・七十五歳は見過ごさない-チャーミングで痛快!直木賞作家の最新長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 静子さんは大人の女性だなぁ。
    まぁ、七十五歳なんだから当たり前なのだけど。
    フィットネスクラブで週二回泳ぎ、周りからも慕われているのに決して群れない。
    同居している息子夫婦の仲がおかしいと思えば、いつの間にかうまいこと取り持ってるし、孫娘の微妙な気持ちの動きにもいち早く気付く。
    でも、誰からも鬱陶しがられていなくて一目置かれていて、素敵な大人女子だなぁ、と思う。
    亡き夫との関係や、密かに想いを寄せていた人の存在を知れば知るほど、あー大人女子だなぁ‥‥と思う。
    女、静子、七十五歳、色々ありました!
    これからも楽しく生きていきます!
    そんな一冊でした。

  • 「75歳、静子さん」のエレガントで しなやかな生き方 に魅了されます。

    夫が亡くなったあと、息子夫婦と同居することになった静子さん。
    彼女の自然な振る舞いが、まわりを爽やかな空気で包んでいきます。

    嫁の薫子は、義母と暮らすようになってからお茶の美味しさを知ることに。
    「ぬるめのお湯でゆっくり淹れた煎茶には、ほのかな甘みがあるのよね」
    そして、お正月のちょっとした決まり事。
    玄関のお花や、新年のための下着や晴れ着の用意。
    薫子は、これを「暮らしの余白に描き込んでいく」という
    素敵な感触だと受け止めます。

    息子の浮気性をさりげなく、しかし周到に解決に導き
    孫娘の恋をそっと見守り
    人を中傷する卑しい心には憤然と立ち向かい
    常に自分を見失わず、背筋を伸ばして立っている人。
    人との距離の取り方も絶妙です。

    亡くなった夫に対しては、ちょっとした恨み事もある様子。                      
    「記憶はほつれた糸みたいで、
    うっかり引っ張ると、どんどんほどけてきてしまう」のだとか…。
    一方、自らの “心に秘めた道ならぬ恋心” に揺れる乙女な側面も。
    そして、それを永遠に美しく保つ術をちゃんと心得ていて、
    もう、あっぱれ、拍手しかないです、静子さん。

    最後に、単行本のこの表紙、絵が可愛い!
    真ん中を泳いでいるのは、静子さん、あなたですよね。

  • ほわっとあたたかくて、思いがけずじんわり深い。
    この感じとても好きです。読後感良くて、なんだか引きずりました。おばあちゃんは、あなどれない。
    孫の、るかから見ればおばあちゃん。しかし、静子さんと呼びたい。バスへ乗ればたいていのところへ行ける、いや、たいていではないどこへだって行ける。
    75歳にしてスミレ色の水着でさっそうと泳ぐ。カッコよすぎる。そこには、自分の体を鍛え健康に留意しなるべく自立しようとの意思がみえる。
    夫と死別し、息子家族と一緒に暮らす。夫とはざわめく過去もあった。静子は決心したのだ。夫の死とともに、妻であることをやめるのだと。夫婦の関係は色々あれど、そうか、そういう考え、ありか、とても勉強になった。そんな静子さんにも淡い秘め事もあり、その思いに涙をみせる場面もある。そこがたまらなくせつない。人生の哀愁、女心というものは幾つになっても健在。
    一番は夫の存在。支え合ってきたのだ。まごうことなき素晴らしい思い出とまでは言えなくても、悪くない思い出。おっとりに見える静子さんの苦労があるからこそ、今が清々しくいられるのだ。
    女たらしを交わしたところは愉快だった。静子さんは可愛くて知性に溢れ、魅力的な女性なのだろう。
    家族がとてもいい。小さな波風も吹くが、雨降って地固まる感じ。誰でも心に迷いや他所に反れることもあるから、多少のことは仕方がない、そう思う。
    最近、自分のマイブームの曲がサザンなのですが、驚きました。静子さんの好きな曲が、いとしのエリーだという。若くはないけど、新しい歌を知ることはできる、と。こういうの読書あるあるというのでしょうか。気になっているものがストーリーに関連してくる。
    歌詞をかみしめて聴く。しばらく頭の中で流れてそう。いとしのエリー聴いて泣けました。
    女性がいつまでも逞しく生きてゆくため。
    おっとり、さっぱり、よけいなことを言わず、好奇心を旺盛に、そして自由であるためには心強くあらねばならない。
    行ってみたい、と思っても、まあいいか、と諦めることが多かった私です。いくつになっても行ってみればいい、行ってみれば、それがたんなるつまらない道だとわかるものだから。そうそれでもいつか行ってみればいい。

  • まず、さわやかなブルーの装丁に魅せられてしまった
    そして、ようく見ると、中央にすみれ色の水着を着て、バタフライをする静子さん。 別によく見なくても、分かるんだろうけれど、見つけた時は、うれしくなった

    夫十三の死とともに、妻であることをやめる決心をし、下戸の夫に合わせるかのように結婚以来飲まなかった酒を通夜で口にする
    私は、どこへだって行けるのよと

    夫の死を嘆き悲しむ姿も妻として美しいが、静子さんもカッコいい。潔く、凛々しい

    おん年75歳の静子さん
    おっとりしていて、さっぱりしていて、余計なことを言わない
    嫁をいびることも煩わせることもなく、悠々と一人でフィットネスクラブに通い、セカンドライフを楽しんでいる

    しかし、しっかりとアンテナを張り巡らせ、家族の異変やフィットネスクラブの中のザワザワ落ち着かない空気をいち早くキャッチし動く
    何かが過剰で、何かが欠落しているその空気を変えるために
    静かな闘いの決心を胸に秘めてー

    嫁の薫子は、静子さんを評して.「 何だかあの義母は、宇宙人が何かの目的で私たちの元へ遣わした生物みたいな気がする」と言い
    孫のるかは、「 おばあちゃんは、あなどれない。すべてお見通しだ」と言う

    こんなふうに、さりげなく家族のことも見守りながら、自立して
    生きたいものだ

    私が一番気に入った所は、姑の静子さんと同居するようになってからのお正月の迎え方の変化を嫁の薫子さんが語るところ

    松と梅の小枝を綾部の菓子鉢に上手にアレンジし、下駄箱に飾ることとか、家族一人一人の新年の晴れ着を下ろしたての下着と一緒に、きちんとたたんで、大晦日に枕元に置いておくなど

    子供の頃、お正月用の服を新調してもらったことや姑が存命中の新年の準備を思い出して、ホロリとしてしまった








  • 久しぶりの再読。
    やっぱり静子さん、好きだなぁ。

    こういう食えないおばあちゃん、大好き。
    一見穏やかでどんなこともおおらかに受けとめて、でも実は息子の浮気未遂を裏工作で食い止めたり、通っているフィットネスクラブに撒かれる中傷ビラをカゴに変えたり、夫亡き後『妻』であることを止めたり。

    端から見れば正に食えないおばあちゃんなのだが、その実、おばあちゃん視点になると言葉に表せないモヤモヤやハラハラやドキドキとどう向き合えば良いのか悩んだり迷ったりしながら自分らしい答えに行き着いていることが分かる。
    亡くなった夫のかつての浮気も飄々と受け流してきたわけじゃない。
    長く生きてきても迷うことも間違うことも不安を抱くこともある。そうした自分を受け入れる静子さんが素敵だ。

    また息子の嫁の薫子もまた端から見れば食えないタイプかも知れない。だが彼女もまた色々思い悩んでいるし、どうしようもない夫の愛一郎も面白いくらい哀しい。二人の娘るかもまた高校生らしい悩みを抱えつつもがいている。

    何ということのない日常のようで何かは起こり、少しずつ人は家族は変化していく。

    井上さんにはこれからもこの手の作品を書いて欲しい。

  • タイトル通り、日常のお話しだけど、じんわり、いろいろ考えさせる…こういうの、好きです。押し付けがましさがないのがいいです。
     人物そのものを書くのでなく、周りや行動を書くことによって、人物が浮かび上がるっていう感じもいい。

  • 75歳の静子さんの日常は一見ありふれているけれど、常に胸の奥がざわざわしている。
    亡き夫は生前、静子さんに言った一言
    「行ってみればいいじゃないか。行ってみれば、それが単なるつまらない道だということが分かるんだから」
    静子さんを見くびってもらっては困る。
    静子さんはそんなつまらない女ではない。
    行きたいところには自分の意思でどこへだって行く女なのだから。
    夫の葬儀の日に「妻」をやめる決意をした静子さんはとても清々しく凛々しい。

    自分で決めたことは最後まで貫くことを信条としている。
    自分はもう若くはないことを自覚し、けれど新しい歌を知ることはまだできる、と前向きな静子さん。
    とても潔くチャーミングで、将来こんな風に歳を重ねていきたいと思った。

    この作品をもし映画化するなら、静子さん役は宮本信子さん以外考えられない!

  • 静子さん素敵。
    あんな風に歳をとりたいものだ。

    宇陀川家のほんとに取るに足らない日常なんだけど、それでも色々あるものなのだ。

    家族だからこそ分かる微妙な空気感の違い。
    だけど、そんなちょっとした噛み合わせの悪さも、家族で過ごしているうちにいつの間にか元に戻ってる。
    なんだか不思議。

    75歳の静子さん、決して平穏な人生を歩んできた訳ではないけれど、彼女のマイペースで芯の強い性格でどんな問題も大した事ないって風に感じてしまう。

    改めてかっこいい。

  • 75歳の静子さん、おっとりあっさりしているけれど柱がしっかりしている。こんなジイサン バアサンになれれば本人も周りもハッピーに違いないだろうに♪ なんだか気持ちいい作品でした。出てくる人々がみんないいのでホントは辛い悲しいシーンもあるけど、それらもホンノリ包んでくれました。

  • 老齢の女性、静子さん。
    息子家族と暮らしている。

    スイミングの仲間からは「可愛いおばあちゃん」と言われているけど、静子さんの心の中では小さな炎が燃えているんだなぁ。
    静子さんが、家族のために様々な工作活動をするのは、読んでて爽快で楽しかった。

    また、静子さんが昔好きだった(憧れていた?)男性との関係も、すごく素敵に感じた。
    静子さんの、自分で決めたことは貫くという考え方も、すごく強い人だと思ったよ。
    たとえそれが悲しい決断でも、自分が決めたことは貫く。自分との約束を守る。それができる人って、実はなかなかいない。

    私の祖母は、普段会う機会の少ない私にとっては優しいおばあちゃんなんだけど、もっと近くにいる、よく会う人にとっては、ワガママで卑屈な態度らしい…。
    みんな、静子さんみたいに、健康で可愛く歳をとって、周囲とうまく関わっていきたいと願っているのだろうが、なかなかうまく行かないんだろうな。。。

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著者プロフィール

井上荒野
一九六一年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。八九年「わたしのヌレエフ」で第一回フェミナ賞受賞。二〇〇四年『潤一』で第一一回島清恋愛文学賞、〇八年『切羽へ』で第一三九回直木賞、一一年『そこへ行くな』で第六回中央公論文芸賞、一六年『赤へ』で第二九回柴田錬三郎賞を受賞。その他の著書に『もう切るわ』『誰よりも美しい妻』『キャベツ炒めに捧ぐ』『結婚』『それを愛とまちがえるから』『悪い恋人』『ママがやった』『あちらにいる鬼』『よその島』など多数。

「2023年 『よその島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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