人質の朗読会

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 3009
レビュー : 621
  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120041952

感想・レビュー・書評

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  • 8編を読む間、朗読会を盗聴していた特殊部隊の兵士が、あるいはラジオの前の人々が、人質の聴衆が、きっとそうしただろうように、そっと息を詰めて全神経を以って耳を傾けているような心地がした。

    面白みのない8編が、暫しの後に死亡することを知らぬ人質による朗読会の様相を呈して初めて、またそれを特殊部隊のある兵士が聴衆となって耳を傾けていた事実を加味して初めて、緊張感を持って耳を傾けるものとなる。

    息遣いの音も響かせてはならないような小さな緊張感がこの小説の本質のような気がしてならない。読後は、暗がりから躊躇いがちな拍手を聞くような心地がする。

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    内容

    地球の裏側でゲリラに襲撃され誘拐された遺跡観光ツアー参加者7人と添乗員。救出作戦の手抜かりがあったか、人質は全て死亡した。
    ゲリラグループを盗聴していた兵士の自己判断から遺族の元にわたったテープが、2年を経て、ラジオ電波に乗った。
    人質たちが退屈な時間を紛らわすために、一人ずつなにか一つ思い出を書いて朗読し合おうと始めた、朗読会がラジオから流れ出す。

    面白みも、ヤマもオチもない、感動できず、何の感想も覚えない。人質たちがかつて経験し、彼等を構成する元となった、それでもただの思い出話。
    それが人質にとってはどんなに大切な思い出であろうと目の前で語られたとしたら、つまらなくその場を去ってしまうような、ただの小さなドラマ。

    最後に付け足されたのは盗聴していた兵士の思い出話。
    ふっと優しく現実世界に揺り戻される。

    第1夜 「杖」
    第2夜 「やまびこビスケット」
    第3夜 「B談話室」
    第4夜 「冬眠中のヤマネ」
    第6夜 「槍投げの青年」
    第7夜 「死んだおばあさん」
    第8夜 「花束」
    第9夜 「ハキリアリ」 

  • 日本語って素敵、日本人で嬉しい。そう思わせてくれるお話。

    プロローグは、テロリストによって拉致された8人の日本人のニュースから始まる。そして、読者はその8人の日本人が、長い拘留の末、地元の軍、警察、特殊部隊の突入の折、爆弾により全員が死亡するという結末を知らされる。

    この作品は、8人の拘留された日本人が、自分のことを語る「朗読会」の内容を本にしたものである。

    物語はどれもとっつきやすいし読みやすい。小川洋子さんらしい優しかったり美しかったりする描写もいつも通りで、尚且つ人を選ばない「素敵な短編」が収められている。
    しかし、その作品の1つ1つを読み終わるたびに、「この物語を語った人は、死んだんだ」という現実に胸が痛む。ただの良質な短篇集にしないところが、面白いというか、構成の妙というか、すごいなぁと感心した。

    短編の端々に、日本人らしさや暖かさ、肉体の不思議、生きることの不思議さ、人の縁、いろいろなことに触れられるように感じてホワホワする。「拉致監禁されている人が今語っている話なのだ」ということが、ずっしりのしかかってくるからだと思う。

  • 異国の地で人質になった人達の朗読会。
    冒頭で 人質の救出には失敗した、とあるのでこの人達は皆、死んでしまったのか・・と思いながら読んでいるとなんだかせつなくなる。

    一つ一つのお話の最後に、朗読した人の肩書きと年齢が書かれていることで、その人達の人生の尊さを、より深く表しているように思う。
    フィクションでありながら、もしかして実話??と錯覚してしまう。

  • 読み終えた後、哀しみと幸福感が同時に胸に込み上げてきました。
    遠い異国の地で拉致された8人の日本人。人質となった彼らはやがて互いに自らの記憶を語り合う「朗読会」をするようになる。これはそんな彼らの在りし日の思い出が綴られた物語。

    悲劇的なプロローグにはどきっとさせられたが、後に続く人質たちの物語はどれも優しさと温かさに満ちた不思議な味わいです。
    彼らの語るその言葉は、何気ない出来事を語っているのに、どこまでも優しく、謙虚で、あたたかい。
    人質たちの在りし日の記憶の物語を読んでいる間はその不思議な空気に浸っていることができるのですが、最後の行の語り部のプロフィールを読むと、一気に現実に引き戻され、やりきれないような切ない気持ちになります。
    と同時にだからこそ、彼らの物語がいっそう美しいもののように感じられるのかもしれません。

    『猫を抱いて象と泳ぐ』を読んだときにも思いましたが、小川さんは「死」というものに悲劇性を持たせない描き方をしているような気がします。この作品からは「死」の悲しさも感じますが、それよりも「生」の美しさのほうを強く感じました。
    哀しい物語ではありますが、作品全体に漂う空気はすごくあたたかみのあるものであり、この雰囲気は小川作品ならではのものだと思います。
    個人的には『B談話室』が好きでした。

  • 外国で人質となった8人の日本人が、自分の人生を物語に書き起こし、順番に朗読する。
    皆殺されてしまうが、その朗読会は人質奪回作戦の過程で盗聴録音されていて、後日遺族へ渡され公開される。

    最初は想像し難い設定に戸惑ったが、物語ひとつひとつに、不思議な魅力があって、途中これが人質となった人が語っている事を忘れてしまうほどだ。
    それぞれの物語の底に、一貫して流れているのは、「記憶」のように思った。
    人質の年齢は様々で、その長かったあるいは短かった人生の忘れがたい一コマが、切り取られている。
    最後、盗聴録音に関わった特殊部隊の兵士の物語が加わり、八つの物語がひとつに輪に繋がれる。
    「ハキリアリ」と人質が重なる瞬間、静かな感動が訪れた。

  • タイトルから、
    人質がつかまっている間に
    一人ずつ持ちネタを話す話なのかなと思いました。
    千夜一夜物語のように。

    で、そのうち、秘密が暴かれたりして、
    なんだかんだで最後は皆助かったりして、
    あんなこともあったなと回想シーンで終わるのかな・・・

    などといった素人の安っぽい想像を裏切る始まり。
    人質は全員殺された。
    その殺される以前に語った物語。

    一つ一つの話は不思議が秘められているが、
    決して非現実的なわけでもない。
    悲壮な感じもまったく感じられない。
    それが逆に生々しい。

  • 「今自分たちに必要なのはじっと考えることと、耳を澄ませることだ。しかも考えるのは、いつになったら解放されるのかという未来じゃない。自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去だ。」(11 ページ)

    8人の人質が、自分の過去から一つの思い出を書き出して、朗読し合う。

    もし私がその8人目だったら、
    どの思い出を書き出して、どんな声で朗読するだろう。

    過去の思い出は誰にも邪魔されない。

  • 冒頭から、これはもう面白いなと思わせる展開。小川さんの作品はあまり数多く読んでないけれど、8人が8人とも「そんなレアな体験を」と思う事を語り合う。不思議だったり、悲しかったり、少し怖かったり。淡々と語られたであろう人質達の声が聞こえてくるようで、夜に読みたくないな、とちょっと思ったり。私の経験もどこかを取り上げて話せばこんな風に不思議で、他人が聞くに耐えうる事になるのかなぁ・・・。最後にさりげなくそれぞれの年齢や職業、そこにいた理由が書かれていて、それが何とも言えない残酷さと悲しさを強調していました。

  • 日本人の人質は皆、今日を精一杯大切に生きる事が遠い未来に繋がると願い、信じていたのだろうと思いたい。何気ない日常こそが幸せで、そしてまたそんな日が戻って来るのだと希望を抱いて。

    「槍投げの青年」は共感出来て好き。

  • 静かに進んで行く「誰かの人生」を追体験していくうち、読書会に参加しているような気分になった。夜寝る前に一章ずつ読んでいきたい、「噛みしめる」本。

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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