人質の朗読会

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 3009
レビュー : 621
  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120041952

感想・レビュー・書評

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  • それぞれ何気ないような話。
    それでいて語り手たちの置かれた状況が物語を特別にしている。
    まっすぐに静かな話だと思う。

  • 何かの雑誌で見たんだよな。すごく良かった。小川洋子の最高傑作じゃないか。表紙の子鹿も素敵。地球の裏側の村で、反政府ゲリラにより拉致された日本人8名。長期間の拘束の中、一人ずつ朗読を行う。自分の経験を物語にして。プラスして、それを聞いていた現地の特殊部隊の人の物語も入れ、9話の短編集。何か、物語っていいなぁ、って改めて思う。その朗読が流れたラジオを私も聞いてみたい。もしかして、ほんとにラジオ番組として実現しているんじゃなかろうか。自分がこの人質だったら、何を語るだろうか。9話どれも良かった。何か。ほんと静かな、淡々とした感じというか、この表紙のイメージとほんとぴったりなんだよな。すごく、何度も何度も読み返したくなる感じ。

    2013.3.16
    再読。この静かな、淡々とした感じがたまらない。私だったらどんな物語を選ぶだろうか、と思う。犯人による爆発で人質全員が死んでしまうというのも切ない。最後に現地の人の話が入ってるのもいい。この表紙とすごく合うんだよな。と、今前の感想を読み返して、全く同じことを書いてると思う。まぁ1年経ってないしね。

  • 救出作戦に失敗し、全員爆死してしまった人質達。
    その人質たちが、拘束される日々が日常と化した時に、お互いに退屈を慰めるために、何でもよいから思い出を一つ書いて朗読しあおうということになった。
    いつになったら解放されるかという未来ではなく、自分の中にしまわれている過去をそっと取り出し、手のひらであたため、言葉の舟に乗せ、朗読する。
    語る、のではなく、朗読する、というところに、この短編集の深さがあるような気がします。

    はじめに死ありき、のこの短編集は、その章の終わりに語り手達のプロフィールと年齢が表記されているのですが、それが短編一遍ごとにずしりと生の重みを感じさせます。

    拙い語り、せつない話、なんでもない日常の思い出、などさまざまな朗読が、そこに確かにあった生というものを生き生きと描いていて、短篇集の構成としては、斬新で、深みを感じました。

    死を根底に置いたのなら、自分のこのなんの変哲もない日常が、深みと重みを増すのだろうか、と考えさせられた作品です。
    これは、短篇集の形をした、一種のメメント・モリなのかもしれませんね。

  • 厳かでしんとした感じ。単なる短編集として読むのと、もうこの世にはいない人たちが語った物語として読むのとでは、印象が違ってくるのだろうと思われて、そのことが興味深い。
    「B談話室」「死んだおばあさん」「花束」が好き。

  • 物語は、海外ツアーに参加していた日本人観光客8人が、旅先の山岳地帯をバスで移動中に反政府ゲリラに拉致されたニュースから始まる。100日以上も膠着状態だった間に、人質となった日本人8名はそれぞれが人生で出会った印象深い人との不思議なエピソードを朗読していたことが明らかになり、その内容が綴られるストーリーです。
     
    11歳の少女が家の前の鉄工所で働く大人の男性と公園で出会った話「杖」や、洋菓子メーカーの工場でアルファベットのビスケットの欠品を探す仕事をする女性とアパートの大家さん(おばあさん)との話「やまびこビスケット」、公民館の「B談話室」で行われる会合に参加するようになった男性の話、中学男子と縫いぐるみ売りの老人との出会いを語った「冬眠中のヤマネ」ほか、「コンソメスープの達人」「槍投げの青年」「死んだおばあさん」「花束」、そして、「ハキアリ」。
     
    人の死と関わる話が多かったので、どこか物悲しく、でも、読んだことがない設定と内容の物語の数々でした。

  • この本は東日本の震災前に書かれた本。
    なのに、今の日本の状況を見通しているかのようだ。

    人質にされた人々が、その状況下で順番に話を書いてそれを朗読する。
    そして犯人監視用の録音を書き起こしたという設定。
    人質たちは、最後には死んでしまうのは本の最初に述べられている。

    まじかに、死が迫っているという局面で、
    どのような話を語るか。
    自分の人生の中で大きな転機となった、そのエピソード。
    他人にとっては、なんでもないような事柄から
    個性的に惹起されていく物語が語られる。

    物語の中の人物が生き生きしている。
    各短編の中から気になる人物や言葉をあげてみる。

    第一夜 「杖」 作業に洗練された溶接の工員さん
    第二夜 「やまびこビスケット」 整理整頓好きの大家と同じ場所に跡がある象
    第三夜 「B談話室」 公民館 自己との対話 運針倶楽部
    第四夜 「冬眠中のヤマネ」 目を病んだ老人と縫いぐるみ
    第五夜 「コンソメスープ名人」 料理の精密さ
    第六夜 「槍投げの青年」 飛翔のラインに飛び乗る心
    第七夜 「死んだおばあさん」 
          偽ヴァイオリニストのおばあさん他、魅力的なおばあさんいろいろ
    第八夜 「花束」 死者への新品の背広の重さ
    第九夜 「ハキリアリ」 懸命なアリと日本人

    作者はどうやら言葉、外国語へ興味があるようだ。
    また、修行や熟練、整理整頓をベースにした職人技へのあこがれと尊敬も深い。

    それに反して、無口で猫背で目つきが悪く、
    何かしらの思い入れをももっていない職場の人々
    つまりは、いわゆる”B層”の存在なのか、記述もやけにそっけない。

    死に望んで何を話すか、
    人の思考は、金太郎飴を輪切りにしたように、同じ構造が現れる。
    そしてそれこそが、その人の思考であり、その人そのものなのだ。

  • プロローグがあるからこそ、ひとつひとつの話しがただの昔話ではなく、その人自身を表すような不思議な魅力に変貌していました。

  • 日本から遠く離れた地球の裏側の国で、ゲリラに誘拐された8人。
    3ヶ月以上の拘束の末、全員爆殺され事件は終わる。
    2年後、8人が監禁されていた小屋の盗聴テープが公にされ、人質たちは小屋の中で一人ずつ自分の人生の物語を朗読していたことがわかる。
    その朗読は人質たちが生きた証として、一夜に一話ずつ、ラジオ番組で放送される。

    事件の概要について前段のあと、8人の人質と、朗読会を盗聴していた兵士の短編という構成。
    それぞれの物語は短い。
    今に至る人生の、キーになったエピソードを語っている。
    少しファンタジックな話が多い。

    夫を突然亡くして子供もなく、漫然と働いている主人公が通勤途中に見かけた青年を追いかけ、仕事をサボって彼の槍投げの練習を眺める『槍投げの青年』。
    槍投げを見るだけ、という非常に地味な話しながら、描写が秀逸。小川洋子の筆力を実感する作品で、物語もとても深い。

    小川さんは何かの動作を丁寧に描く人だという印象がある。
    『コンソメスープ名人』では隣の家のお嬢さんがコンソメスープを作る様子を詳しすぎるくらい詳細につづっている。
    くどいくらいの描写が、ちゃんと生きているという感じがして好き。

    公民館のB談話室で開かれる様々な会合に主人公が入り込む『B談話室』が一番好きだった。

    そして最後の夜に流されるのは、人質たちの監禁生活を盗聴していた兵士の物語。
    彼の話の中でちらほらと出てくる人質たちの話題に、
    これはあの人のことかなと思い浮かべながら、それまでの話を振り返ってみたりした。


    朗読という形にしたのが面白いなと思う。
    声は聞こえないけれど言葉にして紡がれる声や温かな拍手が聞こえてくるような気がする。
    一部で指摘があるように、中身は完全に普通の小説の形態であり、話者ごとに語り口を大きく変えていない。完全に小川洋子の文章である、当然ながら。
    その点で面白くないという批評もわかるが、
    私的にはデフォルメの逆というか、物語に集中するために必要な表現の抑制なのかと解釈した。
    あくまで紡がれるのは個人的な話だけど、語り口の差異を小さくして個人を希釈化することで、読み手との間にいい意味で曖昧さと距離感が生まれている気がする。
    なので、途中からは好意的に受け止められた。
    おしまいには、これでよかったと思った。

    作中、人質たちがどのような状況に置かれ、どんなことを考えていたのか、
    その恐怖や絶望、拘束が長引くに連れての心の動きなどはまったく書かれていない。
    残された家族についても、途中で絶たれた人生の切れ端がどんなものだったかも語られず、
    あくまで朗読中の過去の姿だけを描いている。
    各話のラストに職業と年齢・性別・ツアーの参加動機が記されているだけで、名前すら定かではない。
    語られたエピソードと、最後の一行の間に流れた月日を思い、更に感慨が深くなる物語。

  • 地球の裏側のある異国の村で、日本人の観光客ら8人が乗ったバスが反政府ゲリラに襲撃され、拉致される。
    膠着状態のまま、発生から100日以上が経過したころ、軍と警察の特殊部隊がアジトに強行突入し、ゲリラ側との銃撃戦となる。そして、人質たちは、犯人のしかけたダイナマイトの爆発により、全員が死亡する――

    衝撃を与えた結末から2年、犯人グループの動きを探るため、アジトで録音された盗聴テープが公開された。
    そこには、人質たち8人が自ら書いた話を朗読する声が残っていた。
    「自分の中にしまわれている過去」、「未来がどうあろうと決して損なわれない過去」を。
    観客は人質ほほか、見張り役の犯人と、作戦本部でヘッドフォンを耳に当てる男だった。

    最初に結末が語られるという手法。
    自らの過去を物語として朗読する彼らは、もうなくなっている人たちなのだ。
    それだけに、しみじみと切ないのだけど、ひとつひとつの話は溶けるように心に染み入る。
    新聞やニュースでは、「人質8人死亡」とひとくくりにされてしまう彼らが、ひとりひとり、自分だけの生を歩んできたという証を語る。

    両親の留守の間に、隣のおねえさんがやってきて、台所を貸してほしいと頼む。彼女は、老母のためにコンソメスープをつくるという。「コンソメスープ名人」

    「ちょっと失礼ですが・・・」。自分は、なぜかたくさんの人の「死んだおばあさん」に似ているらしい。「死んだおばあさん」

    強欲で口うるさい大家さんと、自分の勤務先でもらったアルファベットのビスケットを食べる。「やまびこビスケット」

    この本を読んだ誰もが思うだろう。
    自分なら、何を語るのだろうか、ということを。

  • プロローグで泣いて、各章毎にまた泣いて、最終章は二頁目から号泣、最後に表紙の「子鹿」の儚く可憐な佇まいにまた泣いて。。。

    多分相性なんだろうなぁ。やたらと泣かされた一冊。

    図書館で借りて読んで、やっぱり買い直しました。中身も装丁もいいと手に入れたくなる!

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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