人質の朗読会

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 3015
レビュー : 622
  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120041952

感想・レビュー・書評

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  • 普通の短編集として読んでもよさそうなお話たちが
    遠い異国の人里離れた森の奥の小屋の中で、
    ゲリラに拉致され監禁されている人質たちの自分語りとして聞くと
    何とも不思議で切ない告白に思えます。
    どことなく百物語のようで、ろうそくの火を吹き消すように
    彼らの無残で非業な最期へのカウントダウンのようで、背筋がヒヤリとします。

    淡々としすぎてよく分からない話もありましたが
    どれも意味深長な気がして落ち着かない気持ちになります。
    文章は美しいのだけど、なかなか入りづらい話ではあった。

    「やまびこビスケット」「死んだおばあさん」「花束」
    あたりが印象深い。

  • 地球の裏側で人質になった8人の日本人旅行者に物語を語らせると言うちょっとひねった構成。一編一編の内容は小川洋子ならではの独特の世界観で満ちている。
    エピローグのハキリアリの描写は面白かったな~。

  • 次は何を読もうかと、「本屋大賞」のノミネート作品を過去にさかのぼって見ていて、「じゃ、コレにすっか」というくらいの感覚で本書を選びました。

    でも数年前に読んだ「博士の愛した数式」で、その内容だけでなく、その文章そのものに、彼女のファンの一人となったからというのも選んだ理由の一つです。

    2012年の本屋大賞ノミネート5位の作品。

    日本人観光客8人がツアーの途上、南米の反政府軍ゲリラに人質として監禁され、ついには爆破により全員が死亡してしまうというシチュエーションでの、それぞれの人質が生存時に語り合った話で構成されている。

    読後記録として、目次をとりあえず記しておこう。
    ※観光客の人数より数が一つ多いのは、この人質事件に派遣され犯人の盗聴などの任務に就いて特殊部隊通信班員の話も加わっているから。

    第一夜 杖
    第二夜 やまびこビスケット
    第三夜 B談話室
    第四夜 冬眠中のヤマネ
    第五夜 コンソメスープ名人
    第六夜 槍投げの青年
    第七夜 死んだおばあさん
    第八夜 花束
    第九夜 ハキリアリ

    タイトルをずらり眺めただけでも、著者の発想のユニークさが伺えるような気がする。実際、それぞれの人質は偶然に同じツアーに参加しただけであり、そのバックボーンはそれぞれまったく違うので、一人ひとりが語る内容が全く違うというのは自然だし、話の角度が違っているからこそ読み物としては面白い。

    だがふと考えてみる。
    こういうシチュエーションに自身が巻き込まれたとき、いったいどんなことを自分なら語るだろうか?

    もちろん朗読会という設定なので、非常に緊迫した状況下ではないだろう。ある程度冷静を保ちながら、しかし生命のリスクの中に放り込まれた状況下という感じだろうか。

    これが遺言的な話ではなく、それぞれの人生経験のなかにおいてもっともインパクトの強かった出来事を語っているという感じ。

    彼女の作品は、とても描写が細やかで、体の動き、背景の動き、心の動きが絶妙に表現されている(と私は思う)。そんな文体が好きなのだと思う。

    第六話の「槍投げの青年」はこの中では、一番いい作品だなと自分は感じた。会社をさぼるシーンが出てくるが、思い当たる節があるだけに、その描写に思わず「うまいなぁ」と胸中でうなずきましたね。

    ただ、全体的に少し「明るさ」がない。・・・それもそうか、人質が語る話だからね。

  • 反政府ゲリラの襲撃を受けて、人質となった8人。
    結局助け出されなかった彼らの、後に渡された記録の中身。

    時間を緊張以外で潰すための朗読会。
    確かに考える時間、読む時間、聴く時間
    すべてそこに集中する事ができます。
    心穏やか(?)になれる瞬間です。
    とはいえ、人質になった事がないので、そう思うだけ、ですが。

    その人の記録、なので人質生活とは関係のない話。
    そして何がどうして死ななければならなかったのか、という
    説明も一切なし。
    最初から最後まで思い出話で、最後にそれを盗聴していた人の
    記憶がおまけについてくるだけ。

    どれもこれも、少しずつ奇妙な不思議な話でした。
    一番不思議だったのは公民館の話。
    それほど紛れ込んでも分からないものなのか、というのもですが
    その場の雰囲気に染まってしまうというか、なりきるというか。
    小説家になったのは間違いではない選択だったかと。
    コンソメスープもちょっと飲んでみたかったです。
    そこまで手の込んだものとはつゆ知らず…。

    ある意味短編集な感じもします。
    まったく関係のない話で、日常にある話、なので。
    最後だけ、全部読んでから、というのが付きますが。

  • 異国の地で人質になった人達の朗読会。
    冒頭で 人質の救出には失敗した、とあるのでこの人達は皆、死んでしまったのか・・と思いながら読んでいるとなんだかせつなくなる。

    一つ一つのお話の最後に、朗読した人の肩書きと年齢が書かれていることで、その人達の人生の尊さを、より深く表しているように思う。
    フィクションでありながら、もしかして実話??と錯覚してしまう。

  • 読み終えた後、哀しみと幸福感が同時に胸に込み上げてきました。
    遠い異国の地で拉致された8人の日本人。人質となった彼らはやがて互いに自らの記憶を語り合う「朗読会」をするようになる。これはそんな彼らの在りし日の思い出が綴られた物語。

    悲劇的なプロローグにはどきっとさせられたが、後に続く人質たちの物語はどれも優しさと温かさに満ちた不思議な味わいです。
    彼らの語るその言葉は、何気ない出来事を語っているのに、どこまでも優しく、謙虚で、あたたかい。
    人質たちの在りし日の記憶の物語を読んでいる間はその不思議な空気に浸っていることができるのですが、最後の行の語り部のプロフィールを読むと、一気に現実に引き戻され、やりきれないような切ない気持ちになります。
    と同時にだからこそ、彼らの物語がいっそう美しいもののように感じられるのかもしれません。

    『猫を抱いて象と泳ぐ』を読んだときにも思いましたが、小川さんは「死」というものに悲劇性を持たせない描き方をしているような気がします。この作品からは「死」の悲しさも感じますが、それよりも「生」の美しさのほうを強く感じました。
    哀しい物語ではありますが、作品全体に漂う空気はすごくあたたかみのあるものであり、この雰囲気は小川作品ならではのものだと思います。
    個人的には『B談話室』が好きでした。

  • 外国で人質となった8人の日本人が、自分の人生を物語に書き起こし、順番に朗読する。
    皆殺されてしまうが、その朗読会は人質奪回作戦の過程で盗聴録音されていて、後日遺族へ渡され公開される。

    最初は想像し難い設定に戸惑ったが、物語ひとつひとつに、不思議な魅力があって、途中これが人質となった人が語っている事を忘れてしまうほどだ。
    それぞれの物語の底に、一貫して流れているのは、「記憶」のように思った。
    人質の年齢は様々で、その長かったあるいは短かった人生の忘れがたい一コマが、切り取られている。
    最後、盗聴録音に関わった特殊部隊の兵士の物語が加わり、八つの物語がひとつに輪に繋がれる。
    「ハキリアリ」と人質が重なる瞬間、静かな感動が訪れた。

  • 冒頭から、これはもう面白いなと思わせる展開。小川さんの作品はあまり数多く読んでないけれど、8人が8人とも「そんなレアな体験を」と思う事を語り合う。不思議だったり、悲しかったり、少し怖かったり。淡々と語られたであろう人質達の声が聞こえてくるようで、夜に読みたくないな、とちょっと思ったり。私の経験もどこかを取り上げて話せばこんな風に不思議で、他人が聞くに耐えうる事になるのかなぁ・・・。最後にさりげなくそれぞれの年齢や職業、そこにいた理由が書かれていて、それが何とも言えない残酷さと悲しさを強調していました。

  • 最初の第一夜に入る前の数ページのあらすじを読んで、この物語の構成の上手さに鳥肌がたちました。
    人質として拘束された7人が、一人一人自分の物語を朗読したテープが、事件後に見つかり、それを公開したという形。
    あまりにもリアルで、まるで本当にこの事件が起こったように感じました。

    ただドラマチックな冒頭と違い、人質達が語る本編は平凡で静かな日常に起こった、ほんの少し風変わりな出来事だったのが、読んでて少し中弛みを感じました。
    死ぬかもしれないという場面で、こんな風な小さな繊細な出来事を語らせるあたりが、小川さんぽいし、そこがまた魅力なんだろうとは思います。まあ、ただ単に私には合わないお話が多かっただけだと思いますが。

    第八夜のスーツ会社に務めていた男性が、唯一のお得意様から貰った花束のお話と、第九夜の朗読会を発表される前から聞いていた捜査官の初めてみた、外国人(日本人)のお話は凄く好きでした。
    第八夜は登場人物が自分に近い大学生の頃の話で、第九夜は端から見てる側の話だったからだろうなあ……!

    第一夜 杖
    第二夜 やまびこビスケット
    第三夜 B談話室
    第四夜 冬眠中のやまね
    第五夜 コンソメスープ名人
    第六夜 槍投げの青年
    第七夜 死んだおばあさん
    第八夜 花束
    第九夜 ハキリアリ

  • 人質たちが語る内容はどれも面白かったです。8人とも記憶に刻みこまれた深い思い出と共に生きてきたんだなあと感じました。で、この後、二転、三転すると勝手に思っていたので、あの結末に拍子抜けとまでは言いませんが、え?って感じでした。作者がなぜ敢えてこういう設定にしたのかが分かりません。表紙の子ヤギ?は可愛くて好き。

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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